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第三十六話 総力戦
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馬に跨ったアイとアリスが民衆の先頭を駆けていた。
「姫様に続けー! 国を取り戻すのだ!!」
アリスの背後には、かつて圧政に怯えていたはずの民衆たちが、炸裂玉を手に咆哮を上げ、ついてきている。この民衆の勢いは、またたく間に燃え広がるように王都全域へと波及していった。
窓からは石材や家具が正規兵へと投げ落とされ、裏路地では負傷した反乱軍の戦士たちが老婆や子供たちの手によって介抱される。街全体が、アリスを中心としてクラリオの支配に牙を剥き始めていた。
「姫様! !兵長様を助けてください!」
突然血にまみれた一人の男がやってくると、アリスの馬に縋り付くように懇願する。
「兵長……レオンハート様は、今どこに!?」
「三番通りです! 副兵長と殺し合いを……!」
「行きましょう、アイ! 私たちの騎士を死なせはしません!」
アリスの凛とした声に呼応し、民衆の隊列は海風の吹く三番通りへと急行した。
◆◇◆◇
三番通り。そこには、静寂が支配する凄惨な光景が広がっていた。
道で力尽き横たわる赤髪の男――スタークス。そして、その傍らには、剣を杖代わりに辛うじて立ち尽くす満身創痍のレオンハートと、横たわる反乱軍の兵士たちの姿である。
そんなレオンハートの周囲を黒い鎧を纏った正規兵の集団が取り囲む。
「はぁ……はぁ……。どうした、お前ら。……俺を、刺すのが怖いのか?」
レオンハートの言葉は、血に濡れていてもなお鋭かった。実力者であるスタークスが倒れ、その後もボロボロの体で敵兵士を退け続けたレオンハートの威圧感に、兵士たちはただ取り囲むことしかできずにいたのである。
だが、レオンハートの限界はとうに越えていた。指先は感覚を失い、握り続けた剣の柄が今にも滑り落ちそうに震えているのである。
敵の隊長に部下が近寄り、何やら報告をすると、その報告を聞いた隊長はニヤリと口角を上げた。
「……反逆者レオンハート。貴様に良い知らせを教えてやろう」
そう言うと隊長は嘲笑と共に水平線の彼方を指し示した。レオンハートが重い首を右へ向けると、そこには海を塗りつぶさんばかりの、漆黒の艦隊が迫ってきていた。
「あれらすべてが、『赤蛇』の援軍だ。貴様らの負けだ、大人しく捕らわれろ」
(まさか……そんなことが)
その絶望的な光景に、レオンハートの心の中で何かが音を立てて折れた。
カランカランと音を立てて剣が手から離れると、膝が折れ、両手が地面につき、首が力なく垂れた。
「……すまない……ここまでのようだ」
「捕らえろ! 引きずってでもクラリオ様の前に連れて行くのだ!」
兵士たちが一斉に踏み込んだ、その瞬間だった。
ドオオォォォォン!!!
突如として爆風が吹き荒れる。
◆◇◆◇
「兵長様を守れ!!」
アリス率いる反乱軍と民衆が、間一髪のところで戦場に乱入したのだ。投げ込まれた炸裂玉の爆風に巻き込まれ、レオンハートの体は後方へと吹き飛ぶ。
何が起きたか理解できぬまま、意識を失ったレオンハートは、駆けつけた反乱軍の手によって安全な場所へと担ぎ出されていった。
「愚民どもが……! 構わん、まとめて始末しろ!」
爆風から立ち上がった敵隊長が怒号を上げ、部下に指示を飛ばす。アイは即座に次の一弾を投げ、迫りくる集団を爆散させたたが、その表情は暗く険しいものだった。
「アリス様……炸裂玉のストックが、もうありません」
アイが囁いたその言葉は、アリスにとっても予想していた最悪の宣告であった。
アリスは馬を止め、自分を信じてついてきた民衆を振り返る。
「……皆さん、聞いてください。もうすぐ、私たちの武器(炸裂玉)が切れてしまいます。今のうちに、残った分を使ってここから逃げてください」
民衆の命を守るための、王女としての苦渋の選択だった。それは逃げることが負けに繋がる可能性があるからである。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉であぬた。
「姫様! 俺たちを逃がそうなんて言わないでくれ! 武器なら、まだこれがある!」
一人の農夫が、鍬を高く掲げた。
「そうだ! 逃げて生き延びても、ここは俺たちの国じゃなくなる! ここで戦わせてくれ!!」
民衆は、鍬や錆びたナイフ、ただの石塊を手に、再び立ち上がろうとする敵兵を見据えた。
その瞳に宿る不屈の光に、アリスは決心した。
「アリス様、後ろに。ここは私が……」
アイがアリスを庇うように馬を前に出そうとしたが、アリスはその手を力強く握りしめた。
「アイ様……私も、皆さんと共に戦います。もう、守られるだけの子供ではありません」
アリスは覚悟を決めた目でアイを見つめ返すと、再び手綱を握り直し、民衆の前で声を張り上げた。
「私は逃げません! 最後まで、皆さんと共にあります! カルファス王国の勝利のために!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
数に勝る正規兵に迫りくる巨大な艦隊。そんな絶望を嘲笑うような、民衆の咆哮が木霊した。
矢が降り注ぎ、魔法が炸裂し、鉄と鉄がぶつかり合い、王国の命運を賭けた、最後の総力戦が幕を開ける。
「姫様に続けー! 国を取り戻すのだ!!」
アリスの背後には、かつて圧政に怯えていたはずの民衆たちが、炸裂玉を手に咆哮を上げ、ついてきている。この民衆の勢いは、またたく間に燃え広がるように王都全域へと波及していった。
窓からは石材や家具が正規兵へと投げ落とされ、裏路地では負傷した反乱軍の戦士たちが老婆や子供たちの手によって介抱される。街全体が、アリスを中心としてクラリオの支配に牙を剥き始めていた。
「姫様! !兵長様を助けてください!」
突然血にまみれた一人の男がやってくると、アリスの馬に縋り付くように懇願する。
「兵長……レオンハート様は、今どこに!?」
「三番通りです! 副兵長と殺し合いを……!」
「行きましょう、アイ! 私たちの騎士を死なせはしません!」
アリスの凛とした声に呼応し、民衆の隊列は海風の吹く三番通りへと急行した。
◆◇◆◇
三番通り。そこには、静寂が支配する凄惨な光景が広がっていた。
道で力尽き横たわる赤髪の男――スタークス。そして、その傍らには、剣を杖代わりに辛うじて立ち尽くす満身創痍のレオンハートと、横たわる反乱軍の兵士たちの姿である。
そんなレオンハートの周囲を黒い鎧を纏った正規兵の集団が取り囲む。
「はぁ……はぁ……。どうした、お前ら。……俺を、刺すのが怖いのか?」
レオンハートの言葉は、血に濡れていてもなお鋭かった。実力者であるスタークスが倒れ、その後もボロボロの体で敵兵士を退け続けたレオンハートの威圧感に、兵士たちはただ取り囲むことしかできずにいたのである。
だが、レオンハートの限界はとうに越えていた。指先は感覚を失い、握り続けた剣の柄が今にも滑り落ちそうに震えているのである。
敵の隊長に部下が近寄り、何やら報告をすると、その報告を聞いた隊長はニヤリと口角を上げた。
「……反逆者レオンハート。貴様に良い知らせを教えてやろう」
そう言うと隊長は嘲笑と共に水平線の彼方を指し示した。レオンハートが重い首を右へ向けると、そこには海を塗りつぶさんばかりの、漆黒の艦隊が迫ってきていた。
「あれらすべてが、『赤蛇』の援軍だ。貴様らの負けだ、大人しく捕らわれろ」
(まさか……そんなことが)
その絶望的な光景に、レオンハートの心の中で何かが音を立てて折れた。
カランカランと音を立てて剣が手から離れると、膝が折れ、両手が地面につき、首が力なく垂れた。
「……すまない……ここまでのようだ」
「捕らえろ! 引きずってでもクラリオ様の前に連れて行くのだ!」
兵士たちが一斉に踏み込んだ、その瞬間だった。
ドオオォォォォン!!!
突如として爆風が吹き荒れる。
◆◇◆◇
「兵長様を守れ!!」
アリス率いる反乱軍と民衆が、間一髪のところで戦場に乱入したのだ。投げ込まれた炸裂玉の爆風に巻き込まれ、レオンハートの体は後方へと吹き飛ぶ。
何が起きたか理解できぬまま、意識を失ったレオンハートは、駆けつけた反乱軍の手によって安全な場所へと担ぎ出されていった。
「愚民どもが……! 構わん、まとめて始末しろ!」
爆風から立ち上がった敵隊長が怒号を上げ、部下に指示を飛ばす。アイは即座に次の一弾を投げ、迫りくる集団を爆散させたたが、その表情は暗く険しいものだった。
「アリス様……炸裂玉のストックが、もうありません」
アイが囁いたその言葉は、アリスにとっても予想していた最悪の宣告であった。
アリスは馬を止め、自分を信じてついてきた民衆を振り返る。
「……皆さん、聞いてください。もうすぐ、私たちの武器(炸裂玉)が切れてしまいます。今のうちに、残った分を使ってここから逃げてください」
民衆の命を守るための、王女としての苦渋の選択だった。それは逃げることが負けに繋がる可能性があるからである。
しかし、返ってきたのは予想外の言葉であぬた。
「姫様! 俺たちを逃がそうなんて言わないでくれ! 武器なら、まだこれがある!」
一人の農夫が、鍬を高く掲げた。
「そうだ! 逃げて生き延びても、ここは俺たちの国じゃなくなる! ここで戦わせてくれ!!」
民衆は、鍬や錆びたナイフ、ただの石塊を手に、再び立ち上がろうとする敵兵を見据えた。
その瞳に宿る不屈の光に、アリスは決心した。
「アリス様、後ろに。ここは私が……」
アイがアリスを庇うように馬を前に出そうとしたが、アリスはその手を力強く握りしめた。
「アイ様……私も、皆さんと共に戦います。もう、守られるだけの子供ではありません」
アリスは覚悟を決めた目でアイを見つめ返すと、再び手綱を握り直し、民衆の前で声を張り上げた。
「私は逃げません! 最後まで、皆さんと共にあります! カルファス王国の勝利のために!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
数に勝る正規兵に迫りくる巨大な艦隊。そんな絶望を嘲笑うような、民衆の咆哮が木霊した。
矢が降り注ぎ、魔法が炸裂し、鉄と鉄がぶつかり合い、王国の命運を賭けた、最後の総力戦が幕を開ける。
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