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第三十七話 腐れ縁
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「アイツは、俺のことを舐めてやがるな」
男は揺れる甲板の上で、手紙をぐしゃぐしゃに握りつぶした。
舐められていることは百も承知ではあったが、癪に触る書き方であった。それでも手紙の内容に従い、船に乗ってここまで来たのは、自分に利があったからである。
手紙の差出人は、嘘ばかりつくどうしようもない奴ではあったが、長い付き合いから、その内容が嘘かどうかの判別はついていた。
「船長!見えました、アイツらです」
望遠鏡を手に持った船員が、視線の先にうっすらと映る船の姿を発見した。
「攻撃して沈めろ!奴らの金品財宝は全て俺たちのものだ!」
「野郎共!祭りの始まりだ!」
腰に差した剣を引き抜くと、前を呑気に航海する獲物に切っ先を向けた。
「「「ウオオオオオオオオオオオオ」」」
◆◇◆◇
ズドオオオオン、ズドオオオオン。
「気が早い奴らだ。ここからでは届かんぞ、ドワーフ製の大砲といえど射程外だ」
ルナドゥーイは船長室の椅子から、外で鳴り響く砲撃音を聞いていた。自軍の勝利を確信していたルナドゥーイは、自軍の先鋒が早まったのだと鼻で笑い、優雅に髪を整えている。
バタン!
「どうした?焦っているようだな」
ルナドゥーイの船長室に血相を変えた部下が入ってきた。
カルファス王国近海。ルナドゥーイの耳に信じられない報告が伝えられた。
「ルナドゥーイ様に急ぎご報告を!」
部下は地面に片膝をついて伝えた。
「申してみよ」
ルナドゥーイは椅子の背もたれに体重をかけながら、面倒くさそうに耳を傾ける。
「族です!海賊ジャドウィンの船団に背後を取られました!」
「なんだと!?」
ルナドゥーイは椅子から勢いよく立ち上がった。
「ただいま、我が艦隊は敵の攻撃に晒されています!」
ルナドゥーイは急いで甲板に向かった。外で目にしたのは、燃え盛る『赤蛇』の艦隊と、艦隊に船を横付けし、次々と飛び移る海賊の姿であった。
ルナドゥーイは髪を掻きむしると、サーベルを鞘から抜き、飛び移ってきた族の一人を斬り伏せる。
「我々は『赤蛇』だ!小物に負けてはならんぞ!」
「しまっ――」
ドオオオオオオオオオン
ドオオオオオオオオオン
ドオオオオオオオオオン
ルナドゥーイの乗る船に砲弾がいくつも着弾する。木片が舞い、炎が吹き荒れ、沈み始めた船で、ルナドゥーイは砲弾の衝撃で激しく体を船体に打ちつけた。
「その高価そうな剣を寄越んだな」
それは、意識が朦朧としていたルナドゥーイが聞いた最後の言葉であった。
海賊は砲弾にも怯まず、沈みゆく船に飛び移り、金品財宝を掻っ攫っていき、無惨にも『赤蛇』の艦隊は次々と沈められていく。
海戦を生業とするプロの前では、豪華な装備も豪華な艦隊もただ豪華なだけであった。
◆◇◆◇
ジャドウィンは一人、海での戦いも知らないヒヨッコの艦隊の沈みゆく様を見届けながら、手紙の送り主――ブレイブの事を考えていた。
『たんまりある報酬のいくつかを渡すつもりなんだが、それを横取りしようとする盗賊団がいて困っているんだ。これは本当だ。だから手を貸して欲しい、場所はカルファス王国。盗賊団の金品はお前にやる』
随分と自分勝手なお願いではあったが、ブレイブから頼まれたことがこれまで嘘だったことは一つたりともなかった。だからジャドウィンはそれを信じたのである。
「船長!奴ら、かなりの物を持っていますぜ」
船員の一人が首からジャラジャラと金のネックレスを下げながら、ジャドウィンの部屋に入ってきた。
「根こそぎ奪ってこい、まだあるはずだ」
ジャドウィンは、これが美味い話だと確信すると、ブレイブに感謝した。
◆◇◆◇
王都の戦いでは、正規兵達が、突然響いた海からの爆音に衝撃を受けていた。
「艦隊が燃えてる……」
劣勢な状況を覆すだけの援軍の姿が見えたから、炸裂玉の地獄から立ち直っていたものの、まさかその援軍が負けるとは思ってはおらず、士気が急激に落ち始めていたのだ。
「お前ら!戦え!何を逃げている!」
隊長が敵に背後を向けて逃げ始める兵士たちに向かって叫ぶ。
「今だ!かかれー!!王国を救うんだ!」
「アリス様に続けー!」
隊長の指示を無視された。剣を捨て、我先にと四散する正規兵は、王国を救うという大義のもと意志統一されているアリス率いる軍勢の勢いに押されて、みるみるうちにその数を減らしていく。
「王国の勝利は目前です!」
◆◇◆◇
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
カルファス城一階。瓦礫に埋もれ、壊れた二足歩行の兵器の内部の連絡装置から報告が響く。
「ジジ……ジジ……クラリオ様に……報告です……突如現れた……海賊により……ルナドゥーイ様……の艦隊が……壊滅……繰り返し――
(ふふふふ……今度は海賊……また野蛮なものたちです……ね)
クラリオは暗闇の視界で、その報告に静かに耳を傾け、ゆっくりと意識を手放した。
男は揺れる甲板の上で、手紙をぐしゃぐしゃに握りつぶした。
舐められていることは百も承知ではあったが、癪に触る書き方であった。それでも手紙の内容に従い、船に乗ってここまで来たのは、自分に利があったからである。
手紙の差出人は、嘘ばかりつくどうしようもない奴ではあったが、長い付き合いから、その内容が嘘かどうかの判別はついていた。
「船長!見えました、アイツらです」
望遠鏡を手に持った船員が、視線の先にうっすらと映る船の姿を発見した。
「攻撃して沈めろ!奴らの金品財宝は全て俺たちのものだ!」
「野郎共!祭りの始まりだ!」
腰に差した剣を引き抜くと、前を呑気に航海する獲物に切っ先を向けた。
「「「ウオオオオオオオオオオオオ」」」
◆◇◆◇
ズドオオオオン、ズドオオオオン。
「気が早い奴らだ。ここからでは届かんぞ、ドワーフ製の大砲といえど射程外だ」
ルナドゥーイは船長室の椅子から、外で鳴り響く砲撃音を聞いていた。自軍の勝利を確信していたルナドゥーイは、自軍の先鋒が早まったのだと鼻で笑い、優雅に髪を整えている。
バタン!
「どうした?焦っているようだな」
ルナドゥーイの船長室に血相を変えた部下が入ってきた。
カルファス王国近海。ルナドゥーイの耳に信じられない報告が伝えられた。
「ルナドゥーイ様に急ぎご報告を!」
部下は地面に片膝をついて伝えた。
「申してみよ」
ルナドゥーイは椅子の背もたれに体重をかけながら、面倒くさそうに耳を傾ける。
「族です!海賊ジャドウィンの船団に背後を取られました!」
「なんだと!?」
ルナドゥーイは椅子から勢いよく立ち上がった。
「ただいま、我が艦隊は敵の攻撃に晒されています!」
ルナドゥーイは急いで甲板に向かった。外で目にしたのは、燃え盛る『赤蛇』の艦隊と、艦隊に船を横付けし、次々と飛び移る海賊の姿であった。
ルナドゥーイは髪を掻きむしると、サーベルを鞘から抜き、飛び移ってきた族の一人を斬り伏せる。
「我々は『赤蛇』だ!小物に負けてはならんぞ!」
「しまっ――」
ドオオオオオオオオオン
ドオオオオオオオオオン
ドオオオオオオオオオン
ルナドゥーイの乗る船に砲弾がいくつも着弾する。木片が舞い、炎が吹き荒れ、沈み始めた船で、ルナドゥーイは砲弾の衝撃で激しく体を船体に打ちつけた。
「その高価そうな剣を寄越んだな」
それは、意識が朦朧としていたルナドゥーイが聞いた最後の言葉であった。
海賊は砲弾にも怯まず、沈みゆく船に飛び移り、金品財宝を掻っ攫っていき、無惨にも『赤蛇』の艦隊は次々と沈められていく。
海戦を生業とするプロの前では、豪華な装備も豪華な艦隊もただ豪華なだけであった。
◆◇◆◇
ジャドウィンは一人、海での戦いも知らないヒヨッコの艦隊の沈みゆく様を見届けながら、手紙の送り主――ブレイブの事を考えていた。
『たんまりある報酬のいくつかを渡すつもりなんだが、それを横取りしようとする盗賊団がいて困っているんだ。これは本当だ。だから手を貸して欲しい、場所はカルファス王国。盗賊団の金品はお前にやる』
随分と自分勝手なお願いではあったが、ブレイブから頼まれたことがこれまで嘘だったことは一つたりともなかった。だからジャドウィンはそれを信じたのである。
「船長!奴ら、かなりの物を持っていますぜ」
船員の一人が首からジャラジャラと金のネックレスを下げながら、ジャドウィンの部屋に入ってきた。
「根こそぎ奪ってこい、まだあるはずだ」
ジャドウィンは、これが美味い話だと確信すると、ブレイブに感謝した。
◆◇◆◇
王都の戦いでは、正規兵達が、突然響いた海からの爆音に衝撃を受けていた。
「艦隊が燃えてる……」
劣勢な状況を覆すだけの援軍の姿が見えたから、炸裂玉の地獄から立ち直っていたものの、まさかその援軍が負けるとは思ってはおらず、士気が急激に落ち始めていたのだ。
「お前ら!戦え!何を逃げている!」
隊長が敵に背後を向けて逃げ始める兵士たちに向かって叫ぶ。
「今だ!かかれー!!王国を救うんだ!」
「アリス様に続けー!」
隊長の指示を無視された。剣を捨て、我先にと四散する正規兵は、王国を救うという大義のもと意志統一されているアリス率いる軍勢の勢いに押されて、みるみるうちにその数を減らしていく。
「王国の勝利は目前です!」
◆◇◆◇
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。
カルファス城一階。瓦礫に埋もれ、壊れた二足歩行の兵器の内部の連絡装置から報告が響く。
「ジジ……ジジ……クラリオ様に……報告です……突如現れた……海賊により……ルナドゥーイ様……の艦隊が……壊滅……繰り返し――
(ふふふふ……今度は海賊……また野蛮なものたちです……ね)
クラリオは暗闇の視界で、その報告に静かに耳を傾け、ゆっくりと意識を手放した。
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