姫様、国を買う〜亡国の姫は己の拳で金を稼ぐ〜

アジカンナイト

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第三十八話 力の解放

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 カルファス城最上階、謁見の間。
 かつて王の権威を象徴していた豪華な広間は、今や二人の怪物がぶつかり合う戦場と化しており、見るも無惨に崩壊していた。
 紅い結晶によって理性を失い、赤黒い瘴気を体に纏ったグルードの暴力は、もはや人の域を超えており、カリーナはその圧倒的な暴力に、防戦を強いられていた。
 
「くっ……!」
 カリーナは両腕を顔の前で交差させ、グルードの放った剛拳を真っ向から受け止める。
 
(重いっ……!)

 衝撃波がカリーナの骨を軋ませ、防御の姿勢を維持できなくなった彼女の体は、大理石の床を削りながら後方へと弾き飛ばされた。
 
 ガッ! ゴン! ドォォォォォン!!!

 柱に激突し、壁を突き破り、カリーナの体は瓦礫の山へと埋もれた。
 静まり返った謁見の間に、野獣と化したグルードの荒々しい咆哮だけが響く。
 
 少し経ち、瓦礫の山が内側から弾け飛ぶ。
 
「ふぅ……。やっぱり、楽には勝たせてくれないわね」
 立ち上がったカリーナは、額を流れる血を無造作に拭うと、大きく深呼吸をした。

 カリーナは、拳に固く巻き付けられていたボロボロの包帯を、一つ、また一つと解いていった。その包帯は、彼女の力を抑えるための枷であった。布が床に落ちると同時に、カリーナの全身から立ち昇る蒸気が、静かに、そして激しく周囲を囲い出す。
 
 カリーナは両手の拳を、胸の前で勢いよく打ち合わせた。
 
「【解放】(リリース)」
 
 ゴォォォォォッ!!

 その瞬間、彼女を中心に鮮烈な青いオーラが噴き出した。やがて青いオーラは拳に集まっていき、青いグローブを作り出す。リミッターを外した彼女の体は、魔力そのものが肉体を強化する『魔強化状態』となった。
 
「さぁ、終わらせるわよ。……救いようのない小悪党さん」
 咆哮と共に、グルードが地を割って跳躍する。
 破壊の権化となったグルードの両腕が、カリーナを押し潰そうとしたその瞬間、カリーナの姿は彼の目の前から消えた。
 
 グルードが気づいた時には、カリーナは既に彼の死角である背後を取っていた。
 
 ドシュゥゥゥッ!!

 無駄のない、鋭い右ストレート。
 青い光を纏った一撃がグルードの背中を捉えると、ミスリルの鎧に覆われた彼の巨体が、紙風船のように前方へと殴り飛ばされた。
 
 しかしカリーナの追撃はこれで終わらない。

 彼女は空中で姿勢を崩したグルードよりも速く、さらなる加速で先回りすると、衝撃で吹き飛ぶグルードの軌道の先に一瞬で現れる。
 
「もう一発!」
 逆方向からの強烈な左ストレート。
 轟音と共にグルードの体は再び軌道を変え、後方へ玉座のある方向へと弾き飛ばされた。

 空中を飛び回るグルードの周りを、青い光の筋が縦横無尽に駆け巡る。
 カリーナは壁や崩れた柱を足場に、目にも止まらぬ速さで空中を跳ね回っていた。一撃一撃が爆発的な音を立て、グルードの肉体に絶望的なダメージを刻み込んでいく。
 
「グルード! あなたが奪おうとした国の怒りを、この拳でしっかり味わいなさい!」
 かつての自分には力がなく、祖国を救うことは出来なかったが、今の自分には救えるだけの力がある。そのカリーナの覚悟が拳に乗る。

「青海撃(ブルーインパクト)!!!」
 
 カリーナの素早い拳は青い閃光の如く、理性を失ったグルードに振り下ろされる。その衝撃で、グルードの体内から赤黒い瘴気が溢れ、グルードは地面に倒れた。

 カリーナは『魔強化状態』を解くと、部屋の端で身を寄せ、縮こまる国王夫妻の下へ駆け寄り、その拘束を解いていった。

「もう大丈夫です……助けに来ました」
 カリーナは国王夫妻に優しく伝える。

「ありがとう……この国を救ってくれて」
 王は憔悴しきった顔に涙を浮かべながら、差し出されたカリーナの手を強く握りしめた。

「あなたは一体……」
 王妃はカリーナの顔を覗き込む。

「カリーナ・マネニット。エルダ王国の王女です」

「王女!?……エルダ王国?」

「小さくも強い私の祖国です」
 カリーナは屈託のない笑顔で答えると、王妃の手を取って立ち上がらせた。

「安全なところに行きましょう!」
 カリーナは両脇に夫妻を抱えるとゆっくりと歩き出す。

 瓦礫の山を抜けて廊下に出ると、ブルー、サラマンダーの二人と出くわした。

「カリーナ!探したぞ!……誰だ?その二人は?」

「王様と王妃様よ」

「……終わったようだな」
 サラマンダーは、カリーナの背後、謁見の間で倒れている男の姿を見つけ、呟いた。

「ええ、終わったわ。そっちは?ブレイブはいないようだけど」

「こっちも片付いたぞ。ブレイブは街に向かった」
 ブルーはそういうと、歩きづらそうにしているカリーナから王様をひょいと剥ぎ取ると、まるでこれから攫うかのように肩に担いだ。
 突然の出来事に声を上げた王様を無視すると、ブルーは来た道を戻ろうと歩き始めた。

「どうしてブレイブは街に行ったの?」

「そうだ、カリーナ。実は……」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴゴゴゴゴコゴゴゴゴ!!!!

 サラマンダーが目的を言いかけたその時、激しい爆発音とともに城全体が激しく揺れた。

「な、なによ、この揺れ」

「この城はまもなく崩れる。それを伝えに来たんだが……遅かったみたいだ」
 サラマンダーは、申し訳なさそうに頭を掻いた。

「なに、ぼさっとしているのよ。だったら一刻も早く逃げるわよ」
 カリーナはサラマンダーのケツを蹴り上がると、廊下を歩き出そうとした――だが

 (あれ?……視界が。全力を出しすぎたのかも)

 ぐるぐると視界が歪んだカリーナはゆっくりと体勢を崩して倒れた。『魔強化状態』で酷使した体が悲鳴をあげたのだ。

「おい、カリーナ。どうした」
 ブルーがカリーナの体をさするが、カリーナはうーんと唸るだけで立ち上がる気配はなかった。

 ガラガラ……ガラガラ

 立ち往生している間にも、廊下の至る所に亀裂が走り、足場がなくなろうとし始めていた。

「俺がカリーナと王を担ぐ!」
 ブルーは腫れた右腕の痛みを抑えながらカリーナも担いだ。

「ここから飛び降りるか?」
 ブルーの提案にサラマンダーは首を横に振る。

「彼らの無事は保証できない」
 サラマンダーは、王妃と王様を交互に見た。

「くそ……走るぞ!」
 
 残された時間は少なかった。

 

 

 

 

 
 

 
 
 
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