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第10話
改めて考えたら、やっぱり普通はドン引きする状況な気がしてくる。どんなに仲がいい友達にも、今年のクリスマスに何があったのかは上手く説明できないと思う。けれどその状況を喜んでいる自分も確かに存在する。
急いで家に戻り、お風呂場に直行して一日の汗を流して身体を温めると、髪を乾かして部屋に戻る。
もらった段ボール箱を開けると、中には大和のいうように商品の領収書が入っていた。
「うっ……いいお値段……」
公式サイトは隅から隅まで目を通したので、もちろん値段は知っていた。ふつうの大学生カップルがクリスマスプレゼントにいくらほどお金をかけるのかはわからない。
けれどこれは……中々のお値段だ。アルバイトのシフトをすっごく頑張って入れた月じゃないと、自分では手が出せないと思ってしまう。もちろん買えないことはないが、他のアレコレを色々と我慢しなければならない。
とりあえずこの領収書をどうするかは後で考えよう。
領収書の下にあったのは、WHO-LILLの文字が入った不織布の袋。そしてその中に包まれていたのは、想像していたよりも鮮やかな赤いランジェリーのセットだった。
クリスマス限定商品が発表されてから何度もブランドサイトを眺めては感嘆していた高級ランジェリー。ノエルージュという商品名はクリスマスを表す『ノエル』と、赤い色を意味する『ルージュ』からなる造語だと思われる。
「こんな色、はじめて見る」
WHO-LILLはこれまでにも、ルビーレッドやワインレッド、クリムゾンやローズといった赤い色の限定品を発売してきた。けれどこんなにも綺麗な色の赤は見たことがない。
ルージュといえば口紅を連想する。数ある赤い色の中でも、ルージュカラーは女性的で品のある色と言えるだろう。
「わぁっ……レースも刺繍も細かい」
そして至高の逸品だと思わせるのが、刺繍とレースの繊細さだ。細やかな刺繍はもはや芸術品。赤い生地に映える白い絹糸は、大小さまざまな雪の結晶を形作る。
胸のアンダーラインとカップの上縁を辿るように配されたレースもまた、フォルムを引き立てディティールを彩っている。
「はぁ……すごい綺麗……」
思わず感嘆。
している場合ではない。
問題はセットのショーツだ。ノエルージュのブラジャーは一種類しかないが、ショーツはTバックとフルバックの二種類があり、購入の際にどちらか片方を選択することができる。
ちゃんと選択が出来るよう設定されているのだから、WHO-LILL社には一切の不満はない。あるとすれば大和に対して。彼がどちらのショーツを選択をしたのかで、今後のこの下着の使用頻度が決まる。
不織布の袋から取り出したショーツをぴらりと広げてみて、ほっと一安心。
「Tじゃない! よかった……!」
それだけが心配だった。菜帆もTバックショーツを所持していない訳ではないが、あれは危険だ。布地の面積が極端に減る。
けれど大和は今回、フルバックショーツを選択してくれたらしい。でもかなり透け感のあるレースだ。さすがクリスマス限定のランジェリー、魅せ方が男性の目を意識したものなのだと改めて気付かされる。
値札を取ってベッドの上に並べてじっくりと眺めた後、ようやく風呂上がりのタオルを外してショーツから身に着ける。ショーツにもサイズが存在するはずだが、ブラジャーよりはサイズの種類が格段に少ないので大和も間違えなかったようだ。
そしてブラジャー。いつもと同じように腕を通して背中でホックを留めると、身体を前に倒してカップの中に胸を収める。ホックは三段階のうち真ん中で留めてみたが、キツさもゆるさも感じない適度な締め付け感だった。
そのまま姿見の中を覗き込んで、思わず驚く。
「か、可愛い……! 可愛い!」
鮮やかな赤い色と白いスノーフレークのコントラストに、可愛い以外の語彙力がなくなってしまう。でも可愛いだけじゃなく、機能性にも優れている。3/4カップで前かがみになっても上から胸の全体が見えないという防御力の高さなのに、ボディラインはちゃんとキレイに整う。
「触り心地もいい」
生地は合成繊維だと思うが、肌触りはなめらかで心地よい。身に着ける前にもっとちゃんと触り心地を堪能しておけばよかった。この状態で布地を触ると、自分の胸を撫でているだけの変態の絵面だ。
「えっと、この上は何着てけば……ああああ、八時になっちゃう……!」
同じマンションの中での移動だ。共用廊下も屋内なので、そこまで寒くはない。入浴したばかりなので身体は温まっている。だが冷えは万病の元だ。それに相手が大和とはいえ、人の家を訪れるのにあまりに適当な格好もいかがなものだろう。
どうしようどうしよう、と下着姿で部屋の中をぐるぐる歩き回り。
「よし、ニットワンピにしよう! 被るだけ! 悩む必要もなし!」
結局悩むことを放棄する。折角のクリスマスなのに服の決め方があまりに雑すぎる。衣服に対する関心が下着にかける情熱の半分以下であることは自覚していたが、もうあれこれ悩んでいる時間もない。
傍にあったワンピースを頭から被ってヘアゴムで髪を結ぶと、大急ぎで家を出る。大和に指示された三分よりも随分多くの時間を趣味の堪能に費やしてしまったが、最終的に約束の時時に間に合えば問題はないはずだ。
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