約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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3章 Side:愛梨

閑話:17 years ago.

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 今日はバレーボールクラブの練習がない日曜なので、愛梨は母と出掛けることになった。朝のアニメが終わって外出の準備をしていると、幼馴染みの雪哉がテレビゲームをしようと訪ねてきた。

「あれ? 愛梨、出掛けるの?」
「うん、でもお昼には帰ってくるから。お昼ご飯食べたら遊ぼうよ」

 別に前もって約束していた訳ではない。だが雪哉が残念そうにしょんぼりとした顔で言うので、午後から遊ぶ代替案をその場で取り付けた。

 頷いた雪哉の顔を見て『にこり』と、いや『にやり』と笑う。そんな愛梨の顔を見て、雪哉も愛梨が悪戯を企んでいることに気付いたらしかった。

 言葉でのやり取りはないが、少し困ったように笑った雪哉は、いつものように愛梨の悪戯に付き合ってくれる態度を示す。








 そして昼食を食べてから再び家を訪ねてきた雪哉は、愛梨の悪戯にものの見事に引っかかった。

 驚きのあまり上田家の玄関先で腰を抜かしてしまった雪哉の前に立つと、愛梨は今朝と同じく『にやり』と微笑む。

「あ、愛梨…!? その頭どうしたの!?」
「えへへ、どう? 似合う?」

 雪哉と別れた後、愛梨は母親と美容室に赴き、背中まであった長い髪を耳の下あたりでバッサリと切ってしまった。

 今朝会った時に確かに長い髪を見ていた雪哉は、清々しい程のショートカットヘアになった愛梨の様子に、心底驚いたような顔をして未だに立ち上がれずにいる。

「ユキと同じぐらいに短いかも」
「……僕より短くない?」

 座り込んだ雪哉の前にしゃがみ込みながら、愛梨はにまにまと笑って呟いた。完全に愛梨の悪戯に負けてしまったように唇を尖らせた雪哉に、愛梨はまたひとり満足する。

「バレーするとき、邪魔だったんだ。いつもお母さんが結んでくれるけど、うちのお母さん不器用だから。すぐ解けて困ってたの」

 愛梨が髪を切った理由を説明すると、雪哉は喉から深い息を洩らした。その反応を見た愛梨は、一転して不安感に襲われてしまう。

「似合わない?」

 恐る恐る訊ねてみる。
 愛梨はただ、それだけが心配だった。

 不器用な母に髪を結ばれる煩わしさはなくなったが、誰が見ても似合わない髪形にしてクラスで笑い者にされるのは嫌だった。

 愛梨と雪哉が通う小学5年生の今のクラスはみんな仲が良く、男子も女子も関係なく毎日バカみたいに活発に転がりまわっている。だがそれ故に集団としての結束意識が強く、おまけに田舎者ばかりなので些細な変化に敏感だ。

 スカスカになって触るところが無くなったので、仕方がなく自分の首の後ろを撫でる。戸惑いながら雪哉に感想を訊ねると、雪哉は間を置かずに首を横に振ってくれた。

「ううん、似合う」
「ほんとに? 男の子みたい?」

 雪哉が感心したように頷くので、不安はすぐに期待に変わり、愛梨はすかさず問いを重ねた。

「えっ、愛梨は男の子になりたいの?」
「そうじゃないけど、どうせならカッコよくなりたいから!」

 愛梨は更に目を輝かせて、雪哉にはにかんだ。けれど雪哉はきょとんとしたまま、首を捻ってしまう。

「かっこよく……?」
「あれ、カッコよくない?」
「うん」

 似合うと言われて舞い上がっていたのに、あっさりと否定した雪哉に、露骨にショックを受けた。えええ!と声が出てしまう。
 今、似合うって言ったばかりなのに!

「可愛い」

 だが雪哉は、愛梨の顔をぼんやりと眺めたまま、心から溢れた言葉をそのまま口に出したように感嘆の言葉を呟いた。

「えー! カッコいい方がよかったー!」

 可愛いと言われたことに驚いて、一瞬照れた。けれど我に返ると、自分がカッコいいバレーボール選手を目指していたことを思い出す。

 愛梨がバレーボールクラブに所属したのは学校の休み時間だけでは動き回る機会が少なく、もっと身体を動かす場所が欲しかったから。理由は安易だが、どうせなら強く凛々しくプレー出来るようになりたいと思っていた。愛梨としては髪を切って身軽になることがその第一歩のつもりだったが、雪哉には違う感想を持たれてしまったようだ。

「でも短い方が、愛梨に似合うよ」

 地団駄を踏んだ愛梨に、雪哉が笑いながら呟いた。愛梨は自分の望みとは違う方向性になってしまったことに釈然としなかったが、雪哉が少し照れながら褒め言葉を連ねるので、素直にその言葉を受けることにした。

「んー。まぁ、ユキが似合うって言ってくれるなら、いっか」

 カッコいいプレイヤーになれるかどうかは、愛梨の頑張り次第だ。もちろんプロ選手を目指している訳ではないが、やるからには一生懸命やりたいし、その為に髪を切ったのは愛梨自身の希望なので文句はない。

 とりあえず学級で浮くほど似合わない、という最悪の事態じゃない事は、雪哉を通して確認できた。それなら、まぁ、よしとしよう。

「似合わないって言われたら、もう1回美容室に行って、髪伸ばしてもらうとこだった」
「美容師さんそんなこと出来ないよ」

 口を尖らせると、ようやく立ち上がった雪哉が、愛梨の冗談を笑ってくれた。

 約束していたゲームをするために家の中に入ろうとすると、雪哉が愛梨の手首を掴まえて、目線を合わせてきた。えっ、と驚いていると、雪哉が大真面目な顔をして、再び同じ誉め言葉を呟いた。

「うん、こっちの方が可愛い」

 ……ユキ。そんなに何回も言われたら、流石に照れるよ。

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