婚約破棄された聖女がモフモフな相棒と辺境地で自堕落生活! ~いまさら国に戻れと言われても遅いのです~

銀灰

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【五】

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 聖女の力とはなんぞなものかと問われれば、それは土地の力を十全に“循環させる”ものです。

 本来土地の力は、【龍脈】と呼ばれる“見えぬ地中の川”に多く偏り、それこそ川のように流れております。
 少し違いますが、血管みたいなものですね。
 そしてその主流から細かに枝分かれした支流が、あまねく大地を満たしているのです。【】と呼ばれるものですね。

 土地の力は、大地へ恵みとなり現れます。
 もちろん【龍脈】に近ければ近いほど栄えが約束されるわけですが、しかし大地の多くを満たしているのが【】である以上、重要なのもまた、その細い支流のほうです。

 しかしこの支流である【【】】なるものは、川というにはあまりにも頼りなく、例えるならまるで途切れがちな血管のようなものなのです。

 頻繁に血の通いが悪くなれば深刻な影響が出るように、【【】】の流れが悪ければ土地にも悪い影響が出るわけで、困ってしまいます。

 そこで聖女の力の出番です。

 聖女の力は土地の力を十全に循環させる――つまり【【】】に強い流れを与えることができるのです。

 主流の如きに力強い流れを実現し、その満ち足りた力を借りて、災厄避け、豊穣、活力の与えなどの様々な奇跡を発現させる、それが聖女の力です。

 ――話が長くなりました。

 つまり何が言いたいかといえば、私の力は一所ひとところに留まってこそ発揮される奇跡だということです。

「作物を育てるに適した地とはとても言えませんが――ルールゥ、貴方の力があれば、それも解決できる問題の一つでしょう」
「で、できるかな……」
「今までさんざ国の土地に豊饒をもたらしてきて、今更に何を言いますか。自身の力を信ずるのです」

 そうは言っても……ここには、食物に適した実りなど一つとして無いように見受けられます。
 民に教えを説く立場として、知識は教養として持っていますが……。

「いいえ、よく探してごらんなさい。見渡せば、意外と己の助けになるものはそこにあるものですよ」
「そ、そんなわけが……――アレ? こ、これは……クコ? こ、こっちにはセリに……あっ、マミズナにリズの花……ヤ、ヤマノイモも……!」
「目を凝らさずに、感覚に頼りなさい。【【】】の流れ、植物が土地の力を吸い上げるその流動を見つめれば、自ずと自らの必要に導かれる。その機微を感じ取れる貴方であれば、それが可能です」
「こ、こんな辺境の地に、人が必要とする食物が自然に茂っているなんて……」
「……お国を追われた事情はさておいても、今回の旅路は貴方にとって、よい機会だったのかもしれませんね……」

 数十分後、一食に十分な量の食物を両腕に抱えて、私は素晴らしい気分に浸っていました。
 未知なる彼方から来た新たな風が、体の中に吹き込まれたかのような感覚。
 その感傷は今まで感じたことのない、細胞が再生ような心地すらある新鮮で――私は今であれば、何でもできるような気分でした。

「ではルールゥ、それを頂いたら、次は住まいを仕度したくしましょうか。いつまでも屋根の無い場所で眠るわけにもいかないでしょう」

 ――なんでもできる気分が瞬時に吹き飛びました。
 束の間の全能感でした……。

「い、家なんて……作れるわけがないよ……。無理……。こればっかりはどう考えても……」
「うだうだ言っても、やる他ないでしょう。――食事前につまらないことを言いましたね。では、ひとまずのとりあえず――まずはゆっくり、お食事にしましょうか」
「うぅ……うん……」

 うだうだ言っても仕方ない。
 その通りでした。やるしかありません。

 お食事を頂き、ほんの少しだけ休憩をしてから、私たちは途方もない作業に取り掛かろうと腰を上げました。相当重い腰でしたが、なんとか上がりました……。

「……ん?」

 しかし。
 その腰に付けた幸先を思う不安の重圧は、ふとした気付きにより、途端に雲よりも軽くなりました。

「ミハク……。――お家、わざわざ木を切り倒したりしなくても、作れちゃうかも」
「うん? ――何か思いつきましたか?」
「うん。ほら、例えばこの木々とかさ」

 私は、密集という程ではない間隔を空けて空へ背を伸ばす木々を指差して、思い付きを口にしました。

「土地の力を少しだけ歪めて、背を伸ばす向き、成長する方向を変えちゃえば――空で交わって、天井みたいにならないかな?」

 まるで天然の組木くみきみたいに。

「……なるほど。考えましたね」

 ミハクは感心した声を上げて、木々の背の高さを見上げました。

「確かに。少しだけ隙間は空くでしょうが、それはどうにでもできる範囲でしょうし……いいのではないでしょうか」

 ミハクの肯定に――私は救われたような気分になりました。
 家を造るだなんて途方もない無謀に挑戦することにならなくて、本当によかったです……。

「時間は……それほど掛からないでしょうね。――では、良さそうな木立ちを探してみましょうか」
「うん!」

 衣食住の食と住が会計できそうという吉報に、体からどっと力の抜けるような安堵を覚えました……。

「ルールゥ、その感覚はとても大切なものですよ?」
「その感覚……? なんのことでしょう……?」
「楽できるところは楽をすべき、という、生き方の感覚ですよ」
「…………?」

 ミハクの言うことがいまいち理解できないままに、私はとりあえず、屋根になりそうな木立ちの並びを探すのでした。

 
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