＝＝＝とある乞食の少女が謳う幸福論＝＝＝

【九】

　エルは、自室のベッドの上で、胸にナイフを突き立てられ死んでいた。

「エルッ――――！？」

　――これには、男も取り乱した。
　ナスリアと、明らかに違う態度で狼狽し、死体であるエルの傍に駆け寄ろうとした。

　それを、老人と若い男、複数人の使用人に止められる。

「坊ちゃん、駄目です！」
「何故だッ！？」
「坊ちゃん、もう無理です――！　警官を呼びましょう、これで二人目ですじゃ……！」

「…………」

　主人の男は脱力し、項垂れた。

「私らが、荒らすわけには……」
「…………」

　男はしばらく、無言で佇み続けていたが――。

「いや」

　やがて、それを口にした。
　使用人たちの顔が、驚愕に染まる。

「エルを殺した犯人は、私が暴き出す」

　言うと――男は使用人たちの手を退け、妻の死体に歩み寄った。

　脈の無い手を取り――赤く染まった胸を見つめ、小さく、呟いた。

「エル、見ててくれ、君を殺めた者を、私は必ず見つけ出す。――見ててくれ……！」

　跪き、静かに涙を流す男の後ろ姿を――。
　使用人たちは、痛ましい表情で見つめていた。