辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰

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【三】

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 災厄が取り除かれたその地には、王都による整備が敷かれ、あの荒れ狂いようが嘘のような平穏がもたらされた。
 その地には、村を真っ先に捨てた者たちが戻り、その後も王都の開発により整備が進み、ついに高度な交通路が敷かれるまでになった。

「リーラ、お前はここに残れ」

 少女の肩を掴み、透き通った瞳を真っ直ぐに向けて、ミュルヘンはリーラに言った。

「女神の力が楔になる。お前がここにいる限り、この地に魔物を寄せ付けぬであろう。【調停団】に戻る必要はない、お前はもう戦わなくていい。王都は、楔よりも戦力としてお前を利用しようとするだろう。だからもう、名すら変えて別の人生を歩むのだ」

 ――ミュルヘンの話をただじっと聞いているリーラの肩は、震えていた。

「レイラと名乗れ。あまりに別の名であると、慣れぬうち、咄嗟の時に不自然が出るだろう――だから、その名を名乗るのだ。分かったな?」

 ミュルヘンの言葉に。
 リーラは、か細い声を返した。

「――もう、会えないの……?」
「……ああ。魂だけを、ここに置いてゆく」

 肩を掴む手に力を込めたミュルヘンの胸元に。
 リーラ――レイラは、そっと身を寄せ、嗚咽を上げた。

 ――ミュルヘンはただ寡黙に、レイラの肩を抱き続けた。





「家を建てよう。お前の住まう家だ」

 ミュルヘンは最後に、レイラに住まうための家を残そうとした。
 だが――。

「……これは」

 出来上ったそれを見て、ミュルヘンは途方に暮れた声を上げた。

 簡易の砦としてすら機能するほど頑丈な造りではあったが――無骨なそれはどう見ても、家というより『小屋』であった。

「こういった技術も、学んでいたのだが……」

 彼にしては珍しい、感情を表に出したミュルヘンの表情に――。

「フっ……ふふふふっ」

 レイラは思わず、愉快そうに、笑ってしまった。
 レイラのおかしそうな声に、ミュルヘンはバツが悪そうな表情を浮かべるのだった。

「私、これでいい」
「……いいのか? もう少し、マシにもできると思うのだが……」
「いいの」

 無骨な小屋を見つめて、レイラは日の光のように柔らかく、微笑んだ。

「ミュルヘンを表したような、無骨だけれど優しいこのお家が、いいの」

 レイラの言葉に――ミュルヘンはレイラから背けるように小屋に視線をやり、頬を掻いた。


 ――それから。
 レイラはその小屋の中で、女神の力をその地に広げるため、祈りを捧げる日々を続けた。
 寂しくはなかった。ミュルヘンが去った後も、この小屋にミュルヘンの魂を見つけることができたから。

 街の誰もが、昔からそこにいるはずのレイラに違和感を持たなかった。
 女神の力――より詳細に言うなら、女神の力を繋ぎ留めるため土地が発揮した理の力のおかげで、どんなに時間が経とうと姿すら変わらないレイラを、そのような意味で不審に思う者はなかった。

 理にすら触発を及ぼし神意を宿すその力のおかげで、その地は平穏であり続けた。

 女神の力の不自然が露見するような時期になった頃には、すでに【王都】の権力は縮小し、【調停団】も歴史に名を刻むだけのものへと変わり果てていた。

 彼女は祈り続ける。
 ミュルヘンの魂の一端が宿る、その小屋で。

 彼女が祈り続ける限りは、女神の力の外側から街を見据え続ける魔物の魔手からその地は守られ、悠久の平穏がもたらされることだろう――。
 ミュルヘンの魂が――そこに在り続ける限り。

 
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