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「……そうか。いや、苦労をかけた」
私の話を、額に幾本もの青筋を立てて聞いていたお父様は――。
「――シルヴァ様は、ロレディを育て間違えたか……」
話を聞き終えると手で顔を覆い、重い声を吐き出しました。
「分かった、話は付けておく。心配はしないでくれ」
――ええ、私、その心配は大いにしていました。
――婚約破棄の申し出を執事から聞いたロレディは、顔を真っ青にして、私の前にすっ飛んできました。
「――アイリス、どういうことだ!?」
「……どういうこと、とは?」
私は表情を変えずに聞き返しました。
ロレディは慌てふためき、息を乱して何やら捲し立てました。
「こ、婚約破棄とは――? き、君がいなくなったら、私は――」
「ロレディ、私は再三忠告してきました」
ロレディに視線をやり、ピシャリと言い渡しました。
「……しかし、貴方は一度でもそのことを真摯に考えようとしなかった。限界です、残念ながら貴方とは――ここでお別れです」
「ロ、ローズが原因だと……いうのか……?」
――それ以外に何があるのだろう?
逆に教えてほしい。
「し、しかしローズは病弱で……幼馴染なんだ! とても見捨てることなどできなかった!」
「では、ローズと添い遂げればよいでしょう」
「し、しかし、金が――! 君も知っているだろう……!? 私の家の財政では、残念ながら懐事情に限りが――」
「理由になっていません」
「人の命がかかっているんだッ!」
ロレディは叫ぶと――膝を地に付け、頭を下げてきました。
「頼む、ローズに気を回すことで、君が気を悪くしたのなら謝る! 誓って、一人の女性と認めた愛慕は、君だけのものなんだ。今も君だけに注いでいる! ローズは……生まれたすぐから私の隣にいた人間……ただ、死んでほしくないだけなんだ……。だから……」
「でしたら、ご自分で働きになって、稼ぎを作ってください」
歯の浮くような台詞に絆されず。
手を払うように私が言うと――彼は悲壮を浮かべて私を見上げました。
その表情に、私は内心、頭を抱えました。
――ロレディ、私はべつに、意地悪で言っているのではないんですよ。
ただね、ロレディ――貴方は、毎日のようにローズの顔を窺いに行くとき、自分がどのような表情を浮かべていたか、自覚が無かったのですか?
私はべつに、貴方がローズに恋心を向けているだなんて思っていないんですよ。
貴方はね、ロレディ。
ローズの元へ出向くそのとき、優越感のような――ある種快楽的な興奮を露わにした表情を浮かべていたのですよ。
部屋を出る、まさにそのときに。
毎回、毎度。
一度の例外もなく。
だから貴方は気付かなかった。
忠告しても、耳を貸そうともしなかった。
幼馴染に寄り添う、自分に酔っていたから。
……慈善ごっこがやりたいのなら、自分のお金でやってください。
貴方が正気を取り戻す可能性も考え、すぐには婚約破棄を言い渡しませんでしたが――限界です。
お好きに、続きをどうぞ。
――あと、その悲壮の表情も。
お金が離れていく絶望にしか見えません。
さようなら。
「婚約破棄の話は、両家の承諾を得た決まり事です。今更どうにもなりませんよ」
「そんな……」
「さようなら」
言葉でもそれを伝えると、私は立ち上がり、部屋を――屋敷を、後にしました。
後には、萎びたような有様で膝をつくロレディが一人、全てが瓦解したその場所に残されました。
私の話を、額に幾本もの青筋を立てて聞いていたお父様は――。
「――シルヴァ様は、ロレディを育て間違えたか……」
話を聞き終えると手で顔を覆い、重い声を吐き出しました。
「分かった、話は付けておく。心配はしないでくれ」
――ええ、私、その心配は大いにしていました。
――婚約破棄の申し出を執事から聞いたロレディは、顔を真っ青にして、私の前にすっ飛んできました。
「――アイリス、どういうことだ!?」
「……どういうこと、とは?」
私は表情を変えずに聞き返しました。
ロレディは慌てふためき、息を乱して何やら捲し立てました。
「こ、婚約破棄とは――? き、君がいなくなったら、私は――」
「ロレディ、私は再三忠告してきました」
ロレディに視線をやり、ピシャリと言い渡しました。
「……しかし、貴方は一度でもそのことを真摯に考えようとしなかった。限界です、残念ながら貴方とは――ここでお別れです」
「ロ、ローズが原因だと……いうのか……?」
――それ以外に何があるのだろう?
逆に教えてほしい。
「し、しかしローズは病弱で……幼馴染なんだ! とても見捨てることなどできなかった!」
「では、ローズと添い遂げればよいでしょう」
「し、しかし、金が――! 君も知っているだろう……!? 私の家の財政では、残念ながら懐事情に限りが――」
「理由になっていません」
「人の命がかかっているんだッ!」
ロレディは叫ぶと――膝を地に付け、頭を下げてきました。
「頼む、ローズに気を回すことで、君が気を悪くしたのなら謝る! 誓って、一人の女性と認めた愛慕は、君だけのものなんだ。今も君だけに注いでいる! ローズは……生まれたすぐから私の隣にいた人間……ただ、死んでほしくないだけなんだ……。だから……」
「でしたら、ご自分で働きになって、稼ぎを作ってください」
歯の浮くような台詞に絆されず。
手を払うように私が言うと――彼は悲壮を浮かべて私を見上げました。
その表情に、私は内心、頭を抱えました。
――ロレディ、私はべつに、意地悪で言っているのではないんですよ。
ただね、ロレディ――貴方は、毎日のようにローズの顔を窺いに行くとき、自分がどのような表情を浮かべていたか、自覚が無かったのですか?
私はべつに、貴方がローズに恋心を向けているだなんて思っていないんですよ。
貴方はね、ロレディ。
ローズの元へ出向くそのとき、優越感のような――ある種快楽的な興奮を露わにした表情を浮かべていたのですよ。
部屋を出る、まさにそのときに。
毎回、毎度。
一度の例外もなく。
だから貴方は気付かなかった。
忠告しても、耳を貸そうともしなかった。
幼馴染に寄り添う、自分に酔っていたから。
……慈善ごっこがやりたいのなら、自分のお金でやってください。
貴方が正気を取り戻す可能性も考え、すぐには婚約破棄を言い渡しませんでしたが――限界です。
お好きに、続きをどうぞ。
――あと、その悲壮の表情も。
お金が離れていく絶望にしか見えません。
さようなら。
「婚約破棄の話は、両家の承諾を得た決まり事です。今更どうにもなりませんよ」
「そんな……」
「さようなら」
言葉でもそれを伝えると、私は立ち上がり、部屋を――屋敷を、後にしました。
後には、萎びたような有様で膝をつくロレディが一人、全てが瓦解したその場所に残されました。
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