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■第二章 試される大地
第四話 家造り――床下断熱
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翌朝、僕は興奮してろくに寝ていなかったけれど、村長の家――レンガ造りの大きな赤い館だ――から外に出た。
「ううっ、寒っ!」
雪でも首に突っ込まれたのかと思うほど、冷たく凍った風が懐に入り込んでくる。僕はガチガチと歯を噛み合わせながら身震いした。
村長の家の中に戻りたくなったけれど、建築予定の家が気になって仕方ないのだ。
なので僕は両肩をさすりながら、薄暗い中で一つ一つ現場を確認する。
まだどれも家は土台だけで柱も何も立っていない。
だけど、僕の頭の中には完成形の家の想像図ありありと浮かんでいた。
断熱の家――。
とにかく、まだ秋だというのにこの寒さだ。この冷気に対抗できる家でなくては、みんなが凍え死んでしまう。凍死なんて絶対にさせるものか。
領民を守るのが領主の務めなのだから。
「まずは床下の通風口から工夫しなくっちゃ。そのまま風を通していてはダメだ。かといって完全に塞いで密閉してしまっても、内側が温度差で結露してしまうだろうし……」
結露とは、壁に水の滴ができることをいう。
それができてしまうと、家はとたんに脆くなってしまう。
他にも、染みになって見栄えが悪くなるし、カビが生えれば病気のもとだ。
結露させないためにはどうしても風通しを良くする必要があった。
何か、風は通すが、温度は通さない――そんな工夫がないものか。
考えろ。
そんなのはできっこないと常識が言っていたとしても、方法は必ずある。
あると信じろ。
祖父も言っていた。
『アッシュ、できないと思ったらそこで負けじゃ。すぐに思いつかなくたっていいんじゃよ。”石の上にも三年”ということわざがある。石の上は最初は冷たくとも、じっと待っていればだんだん温まるじゃろう?』
だけど、さすがに三年も待ってられないよ、じっちゃん。
村長の家は断熱があまりよくなく、みんなも震えながら昨日は集まって寝ていたし……
「あっ、そうか! 外の冷気を通さないためには、密閉じゃない。空気を温めてから通せばいいんだ!」
ひらめいた。
思いついてみれば、なんのことはない、簡単な話。
もちろん、外に暖炉を造るとか、魔法に頼るなんてのは無しだ。
すべて自律型の全自動、それが僕の理想なのだから。
『アッシュ、エンジンはいいぞぉ』
祖父が目を細めて言っていた”エンジン”という動力源。
燃料さえあれば勝手に動き、魔力も必要としない素晴らしいモノ、らしい。
僕は一度も現物を見たことがないので、いつかは造ってみたいと思っている。
そのエンジンを冷却する装置があり、名を『ラジエーター』という。
細い何本もの管に水を通す事によって、エンジンの『熱』を伝わりやすくしたもの、だそうだ。
それと似たような物を家の床下に造ってやれば――『熱』を――温度を操れる。
いける!
僕はその場の石の上に座り込むと、一心不乱に木をノミで削り始めた。
「おはよう、アッシュ! 早いわね。何を造ってるの?」
「『全熱交換器』、かな? 床下の通風口にこれをはめ込んで、風は通すけど、熱を通さない装置を作るんだ」
「は? いやいや、そんなのできっこないでしょ。この冷たい風の通り道を塞がなくちゃ、意味ないわ。だから通風口なんていらないって」
「いや、レニア、それだと内側に結露ができて、カビたり柱が腐るから」
家だって、木だって、人間だって、新鮮な空気を入れないと、病気になる。
木は、柱や板になっても生きているのだ。
「ああ、そんな話も昨日してたわね。うーん……」
「大丈夫、もうアイディアはできてる。ほら、こうやって細い管のようにして何本も空気の通り道を造るでしょ?」
僕は管が何本も集まって蜂の巣のようになっている木の装置を見せた。
「うん、相変わらず器用ねえ……」
「レニアだって器用じゃないか。こうしてさ、入口と出口の間を長くした管を隣り合わせに平行に重ねていって、温度が周りに伝わりやすくしておけば、風が中を通り終わる頃には空気も温まっている寸法さ」
(横から見た図)
――――――――――
暖かい空気 →
――――――――――
← 冷たい空気
――――――――――
暖かい空気 →
――――――――――
← 冷たい空気
――――――――――
「な、なるほど……でも、本当かなあ?」
「やってみないとね。さて、できた! レニア、僕がこちらから息を吹き込むから、温かいかどうか、そっちで確かめてみて」
「いいわよ?」
「じゃ、行くよ……フー!」
僕はパイプになっている入口に息を思い切り吹き込む。たくさんの管に枝分かれしていたので、思ったほど力を入れなくても空気を送り込めた。
「あっ、つ、冷たいんだけど!」
「よし、じゃあ、成功だ」
「ええ? いいの? 冷たい風が出てきたらマズいと思うけど……」
「いいんだ。熱がきちんと入れ替わって遮断できてるからね。その証拠に――今度は逆にして、もう一度やってみるよ?」
「うん」
もう一度反対側から息を吹き込む。すると――
「あっ、今度は温かい!」
そう。ラジエーターのように枝分かれした管が、隣の管に熱を伝えてその空気を温めていたせいだ。
『全熱交換器』、完成!
「ううっ、寒っ!」
雪でも首に突っ込まれたのかと思うほど、冷たく凍った風が懐に入り込んでくる。僕はガチガチと歯を噛み合わせながら身震いした。
村長の家の中に戻りたくなったけれど、建築予定の家が気になって仕方ないのだ。
なので僕は両肩をさすりながら、薄暗い中で一つ一つ現場を確認する。
まだどれも家は土台だけで柱も何も立っていない。
だけど、僕の頭の中には完成形の家の想像図ありありと浮かんでいた。
断熱の家――。
とにかく、まだ秋だというのにこの寒さだ。この冷気に対抗できる家でなくては、みんなが凍え死んでしまう。凍死なんて絶対にさせるものか。
領民を守るのが領主の務めなのだから。
「まずは床下の通風口から工夫しなくっちゃ。そのまま風を通していてはダメだ。かといって完全に塞いで密閉してしまっても、内側が温度差で結露してしまうだろうし……」
結露とは、壁に水の滴ができることをいう。
それができてしまうと、家はとたんに脆くなってしまう。
他にも、染みになって見栄えが悪くなるし、カビが生えれば病気のもとだ。
結露させないためにはどうしても風通しを良くする必要があった。
何か、風は通すが、温度は通さない――そんな工夫がないものか。
考えろ。
そんなのはできっこないと常識が言っていたとしても、方法は必ずある。
あると信じろ。
祖父も言っていた。
『アッシュ、できないと思ったらそこで負けじゃ。すぐに思いつかなくたっていいんじゃよ。”石の上にも三年”ということわざがある。石の上は最初は冷たくとも、じっと待っていればだんだん温まるじゃろう?』
だけど、さすがに三年も待ってられないよ、じっちゃん。
村長の家は断熱があまりよくなく、みんなも震えながら昨日は集まって寝ていたし……
「あっ、そうか! 外の冷気を通さないためには、密閉じゃない。空気を温めてから通せばいいんだ!」
ひらめいた。
思いついてみれば、なんのことはない、簡単な話。
もちろん、外に暖炉を造るとか、魔法に頼るなんてのは無しだ。
すべて自律型の全自動、それが僕の理想なのだから。
『アッシュ、エンジンはいいぞぉ』
祖父が目を細めて言っていた”エンジン”という動力源。
燃料さえあれば勝手に動き、魔力も必要としない素晴らしいモノ、らしい。
僕は一度も現物を見たことがないので、いつかは造ってみたいと思っている。
そのエンジンを冷却する装置があり、名を『ラジエーター』という。
細い何本もの管に水を通す事によって、エンジンの『熱』を伝わりやすくしたもの、だそうだ。
それと似たような物を家の床下に造ってやれば――『熱』を――温度を操れる。
いける!
僕はその場の石の上に座り込むと、一心不乱に木をノミで削り始めた。
「おはよう、アッシュ! 早いわね。何を造ってるの?」
「『全熱交換器』、かな? 床下の通風口にこれをはめ込んで、風は通すけど、熱を通さない装置を作るんだ」
「は? いやいや、そんなのできっこないでしょ。この冷たい風の通り道を塞がなくちゃ、意味ないわ。だから通風口なんていらないって」
「いや、レニア、それだと内側に結露ができて、カビたり柱が腐るから」
家だって、木だって、人間だって、新鮮な空気を入れないと、病気になる。
木は、柱や板になっても生きているのだ。
「ああ、そんな話も昨日してたわね。うーん……」
「大丈夫、もうアイディアはできてる。ほら、こうやって細い管のようにして何本も空気の通り道を造るでしょ?」
僕は管が何本も集まって蜂の巣のようになっている木の装置を見せた。
「うん、相変わらず器用ねえ……」
「レニアだって器用じゃないか。こうしてさ、入口と出口の間を長くした管を隣り合わせに平行に重ねていって、温度が周りに伝わりやすくしておけば、風が中を通り終わる頃には空気も温まっている寸法さ」
(横から見た図)
――――――――――
暖かい空気 →
――――――――――
← 冷たい空気
――――――――――
暖かい空気 →
――――――――――
← 冷たい空気
――――――――――
「な、なるほど……でも、本当かなあ?」
「やってみないとね。さて、できた! レニア、僕がこちらから息を吹き込むから、温かいかどうか、そっちで確かめてみて」
「いいわよ?」
「じゃ、行くよ……フー!」
僕はパイプになっている入口に息を思い切り吹き込む。たくさんの管に枝分かれしていたので、思ったほど力を入れなくても空気を送り込めた。
「あっ、つ、冷たいんだけど!」
「よし、じゃあ、成功だ」
「ええ? いいの? 冷たい風が出てきたらマズいと思うけど……」
「いいんだ。熱がきちんと入れ替わって遮断できてるからね。その証拠に――今度は逆にして、もう一度やってみるよ?」
「うん」
もう一度反対側から息を吹き込む。すると――
「あっ、今度は温かい!」
そう。ラジエーターのように枝分かれした管が、隣の管に熱を伝えてその空気を温めていたせいだ。
『全熱交換器』、完成!
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