神匠レベルの木工建築士 ~ケチな領主から、コストを理由に追放された。戻ってと言われたが、もう遅い。フリーダムに職人の王国を作り上げます~

まさな

文字の大きさ
14 / 29
■第二章 試される大地

第五話 家造り――外張り断熱

しおりを挟む
 床下は完成した。
 次は、柱と壁だ。
 
 柱と板は僕がこの地で厳選したヒノキを使う。
 ヒノキは切り出したあとの伸び縮みが少なく、木材の中でも丈夫な種類で、湿気や虫食いにも強い。
 何より、良い香り。それに色合いが素晴らしく、僕が一番好きな木だ。
 
 木に刻まれた成長のあかし――年輪の緩やかなうねりを見ていると、生命の力強さや悠久の時間を感じずにはいられない。年輪は文字通り木の年齢を示すもので、年輪が多いほど長く生きている木ということ。
 これは夏と冬で木の育つスピードが違うため、自然に痕跡が残るのだ。

 その年輪の中心部を『心材』と呼ぶが、木の芯だけあって、硬くて周辺部よりも強い。
 これを柱として使う。

「ああ、この切り出したばかりの木の匂い……スーハー。んん~」

「ちょっとアッシュ! 柱に抱きついてないで、さっさと次の指示を出してよ! 日が暮れちゃうわよ」

「ああ、ごめんごめん、レニア。じゃ、基礎――石の土台だね。それに短い柱『床束ゆかづか』を建てていこう。木は切った面に、樹脂を塗っておくのを忘れないでくれ」

「この樹脂は、虫除けと防腐剤だったわね?」

「ああ。人間の体には良くないから、刷毛から散ったり飛ばないように、ゆっくりね」

「分かった」

 『床束』と床下の通風口には、ヒノキではなく年季の入ったジヅカという木を使う。この木はなぜかネズミが食わない。きっとネズミにとっては美味しくない味なのだろう。
 
 土台の上に短い『床束』を縦軸に置き、その上には『大引おおびき』という横軸の長い柱を置く。これが床板を支えるものとなる。


(横の断面図)

       |   |
     | 管 |
     | 柱 |
 ――――――――――
     大引(柱)
 ――――――――――
     | 床 |
     | 束 |
   ――――――
  |  土台(石) |


 
 柱と柱は凸凹に削って『ほぞ継ぎテトリス』方式で噛み合わせ、さらにその中に木の『くさび』を打ち込んで固定するので、釘は使わない。
 鉄の釘は錆びたり木材を弱くするので、なるべく使わないほうがいいのだ。

 次に普段僕らが目にする縦の柱を立てる。『くだばしら』と言うが、中央の大事な部分には『大極だいこくばしら』という一番太い柱を立てる。
 
 縦軸の次はXの文字のように斜めに『筋交すじかい』という細めの柱を補強としていれる。
 そこからようやく壁になる板を外と内側から釘で打ち付けていく。

 さらに、ノースオーシャン領の特別仕様として、近くで見つけた軽石と樹脂を塗った木くずを交ぜて壁の内側に入れ込んでおく。
 軽石は表面に小さな穴がたくさん開いていて、水に浮く程の軽さだ。中に気泡がたくさんあるため、温度が伝わりにくく断熱材として使えるのだ。
 
 板と板の間は風がそのまま通り抜けないよう、隙間にモルタルも塗り込んだ。

 縦軸の『管柱』も外から隠すように板を打ち付けていく。
 こうしておけば、柱が冷えにくく、建物を支える重要な柱が結露することも防ぐことができる。

「ねえ、アッシュ、家の間取りなんだけど、もっと広い家にしましょうよ。なんか狭くない、この家?」

 レニアが提案するが、僕は首を横に振った。

「いや、間取りは狭くする。天井も低めにしておかないと、寒いよ?」

「ああ、そっか……広いとだんが難しいのね」

「うん」

 兼好けんこう法師曰く『天井の高きは、冬寒く、ともしび暗し』だそうだ。
 兼好法師が誰かは知らないけど。

「ま、土台だけ見ると狭く見えるかもしれないけど、壁も造って、全部建てたら広さはちょうど良くなるよ」

「だといいけど」

 あとは収納で解決だ。家の広さは収納で決まる。
 二階部分も一階と同じように造っていると、熊――の毛皮を着た村長バドが見回りにやってきた。
 
「ああ、バドさん」

「おい、この家はダメだ」

 彼が僕らの家を見るなり言う。

「ちょっと! アッシュとアタシ達がちゃんと考えて造ってるのに、いきなり何を言い出すのよ。こっちは”神匠”なのよ、それを素人が――」

「まあまあ、レニア、待って。理由を聞いてみよう。それはなぜですか、バドさん」

「この地はお前達が思っている以上に雪が高く積もる。家の一階なんぞ、あっという間に埋まるぞ」

「えっ、そんなに降るの!?」
「なるほど……」

 やはり現地にいる人間の情報は大事だ。

「よし、なら、二階にも入口を作ろう。これで大丈夫ですね?」

「ああ」

 そういえばレンガ造りの館も二階に入口のような扉が設置されていた。
 僕は最初、あそこから大型の投擲兵器でも出し入れするのかと誤解していたが、人の出入り口だったようだ。

 雪対策として、屋根の傾斜も鋭くしておく。
 こうすれば、雪が屋根の上に積もっても勝手に滑り落ちるだろう。そんなに積もるなら、雪の重さで家が潰れないようにしておかねばならなかった。
 
 扉や木窓も断熱を考え、中を蜂の巣のようにくりぬくハニカム構造とした。ウッドゴーレムに空気を吸い出させて栓をし、内部に無数の真空部屋を作ることで冷気の伝わりを防ぐのだ。

 ムーンベアは外の柵で防いでやれば、強度の心配はさほどいらないだろう。
 窓は下から上への開き戸とし、開けっぱなしでも雪が入りにくい構造にした。

 さらに動物の毛皮を扉の端に貼り付けて、隙間から風が入らないよう工夫する。
 これも『外張り断熱』の考え方だ。

 そして――職人総出で突貫工事をやり、十日で十棟が完成した。
 ウッドゴーレムがいなければ、さすがにこんな短期間での工期は難しかっただろう。

「さあ、バドさん、入ってください」

 僕は完成した新しい家に、村長を招き入れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...