神匠レベルの木工建築士 ~ケチな領主から、コストを理由に追放された。戻ってと言われたが、もう遅い。フリーダムに職人の王国を作り上げます~

まさな

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■第二章 試される大地

第六話 家造り――匠のアフターワールド

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「うむ、では拝見いたす」

 元騎士隊長のバドは、家に問題がないか、鋭い目つきで内部を観察しながら扉を開けた。

「ほう、玄関から入って、最初は横廊下か。これはいい。ムーンベアに侵入されても、部屋に入り込まれないよう、次で防ぐのに一人で足りるな」

 バドはモンスター対策を褒めてくれたが、この玄関の造りにはもう一つ理由がある。扉を開けても風が真っ直ぐ吹き込まないようにしているのだ。

 廊下にも引き戸を造っているので、夏場はそこを空けて部屋への直通とし、必要な時の風通しも考えてある。

 ノースオーシャン領はどうか知らないが、ラピュドーラ領は夏は高温多湿で梅雨の時期もある。
 
 祖父が敬愛していたかの兼好法師も

 『家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。
 暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり』

 (夏を基本とすべし、冬は工夫次第でどうにかなるが、暑さは耐えがたい)

 ――と述べていた(らしい)。

 やっぱり暑いときも寒いときも対応できるのが良い家だろう。



「靴はここで脱いでくださいね」

「むむ? 分かった」

 トルキニア王国では寝室でも靴で入る習慣が普通だが、僕の家は脱いで家に上がる決まりだった。祖父も『土足は汚い』と顔をしかめていたし、家は清潔で綺麗な方が良い。

 そして、居間リビングは……

「な、なんだその火はッ! おい、床が燃えているぞ!」

 慌てるバドは囲炉裏いろりを初めて見たようだ。
 伝統的な日本家屋の暖房器具であるが、残念ながら僕自身は祖父の故郷"日本"という国をこの目で見たことはない。造りを教えてもらっただけだ。

「大丈夫です、バドさん。これは火事にならないように設計されていますから」

 僕は笑顔で説明して彼を落ち着かせる。

「なに? わざと床に造ったというのか? しかし、暖炉ならともかく、床のど真ん中に……」

「大丈夫です。灰で周りを囲ってあるので、外側に火は燃え移ったりしませんよ」

 囲炉裏の利点は部屋の中央にあるため、部屋が均等に暖まりやすい。暖炉は壁際なので、どうしても熱が部屋の片側にかたよってしまう。
 
 それに、煙突がある暖炉は上から風が入ってきてやたらと寒いのだ。
 
 石壁で仕切りを造って壁の外に暖炉を造ればいいのだが、それも熱効率が微妙になる。

 囲炉裏も排煙が難しいから、良いことばかりではないが、暖かさや断熱を考えるとやはりこちらが良かった。天井にも『全熱交換器』の管を配置し、必要に応じて外の空気と入れ換えられるようにした。

 燃料の木は外に森があるから、いくらでも薪や枝を持ってこられる。
 
「それよりバドさん、気付いたことはなぁい?」

 ニヤニヤしながらレニアが聞く。

「むむ、そういえば、床がそれほど冷たくないな。入るときは靴なしではどうかと思ったが」

 バドは毛皮の靴下を穿いている。僕らもセバスさんに言われて穿いているが、ノースオーシャンでは必須装備らしい。しかも重ね穿きだ。

「『床断熱』に加え、床下には囲炉裏の周りに『管』を設置して、温かい空気の通り道を造ってみました。名付けて『床暖房』です。でも……思ったほど温かくないな」

 僕は床を足で確かめて言う。

「いや、これなら毛皮一枚でも横になれるし、凍えることもないだろう。オレがここに赴任してきた最初の年は、家の中でも凍死する者がいた。暖炉の火はついていたというのに、だ」

「それは……」
「なんてこと……」

 僕もレニアも、絶句する。

「なあに、心配することはねえよ。なにせここは"神匠"の造った家だからな。レニアがんだ羊毛ウールの下着を付けて、マチルダの作った豚汁を食べてりゃ、大丈夫だ」

 アイゼンさんが自信を持って言った。

「そうね、バドさんも、これ使ってみて。温かいわよ」

「かたじけない。他の者の分ももらえるとありがたいが」

「もちろん! 余分に持ってきてるから、大丈夫よ」

「それと、こいつぁ『懐炉』だ。焼き石をこの中に入れておけば、一晩中、温かいぜ」

 鍛冶職人のアイゼンさんもここに来る前に色々と防寒の方法を考えていたようで、手のひらサイズの入れ物を配った。

「これこれ。もう、アイゼンさんも先週『懐炉』を渡しておいてくれれば、寒くなくて良かったのに」

「いやあ、悪い悪い、囲炉裏を見るまでオレもすっかり忘れてたぜ」

「ええ?」

「じゃ、さっそく石ころを囲炉裏に入れておこう」

「そうね!」

 皆で石を拾おうと外に出る。
 すると執事のセバスさんが、広場に一人立ったまま空を睨んでいた。
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