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■第四章 橋を架ける
第四話 問題
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僕がボックスホームの村で新しい家を建てていると、バドが難しい顔をしてやってきた。
「領主、道のことで問題が発生した」
「何があったんですか?」
「川だ。炭鉱への道の途中に川があった。前に通ったときは川の水が凍っていたから、気にも留めなかったが、あれでは通れないぞ」
「なるほど……氷が溶けたんですね」
春の日差しが暖かくなったことで、この土地にも変化があったようだ。
「どうする? 道路はいったん諦めて、炭鉱へは冬だけ石炭を取りに行くようにするか?」
「いえ、それだと何かと不便ですし、ここは橋を作りましょう」
「橋だと? いや、無理だ。あの場所はかなり川幅が大きい。吊り橋では強風に煽られてとても渡れるものではあるまい」
「ええ、吊り橋は風が強いこの地域では無理でしょう。だから、土台からきちんとした橋を作ります」
「ぬぅ、まあ、領主がやると決めたなら、それに従おう。だが、何十年かかることやら」
「大丈夫、今年の夏の間に完了させますよ」
「おお……そう言うからには何か良い方法があるのだな?」
「もちろん。こう見えても木工職人ですからね。ラピュドーラ領の橋を何度か手がけたこともありますし、橋となればお手の物です」
「そういえば、本職の大工だったな。失礼した」
「いえいえ。じゃ、まずは現場を見てみましょう。その後で図面を書かないと。案内して下さい」
「承知した」
僕は測量器具とペンと数枚の板を背負い袋に入れ、道路造りをしていたウッドゴーレムを呼び戻して
その川へと向かった。
「ここだ」
雪解け水の綺麗なせせらぎを予想していた僕だったが、川は茶色く濁っており、川幅も広いところで百メートル近くあるようだ。
「まず、川幅が一番狭いところを探して下さい。橋を架けるにしても、労力は少ないほうがいいですから」
「そうだな。聞いたとおりだ。上流と下流に分かれて探すぞ」
「「「了解」」」
バドの部下が三人、それぞれ二組に分かれて、川幅の一番狭いところを探す。
「領主、ここが一番狭そうだ」
「分かりました。道路の予定からも近いですし、ここにしましょう。『一式』、向こう岸に渡って、目印を立ててくれ」
「了解シマシタ」
僕はリュックから測量の道具を出し、組み立てる。
板の両端に、それぞれ出っ張りの木を打ち付けたものだ。板には目盛りが付いている。
これで『銃の照準』のように、目印と真ん中の凸出っ張りを、凹出っ張りの間に収めると方向や距離が分かる仕組みだ。もっとも、『銃』というのは祖父から聞いたもので、僕は現物を見たことはないのだけれど。
「ふむ、だいたい、80メートルくらいかな。ええと、アーチの一辺の長さを30メートルでやると……土台はギリギリ2つで済むか」
「2つの土台か。川に石を投げて、沈めていくのか?」
「いえいえ、それでは上手く精度が出ないですし、川の水が氾濫したら、すぐ土台が押し流されてしまいますよ。川底からきちんと基礎を組み立てていかないと」
「バカな、この川底は私が見るところ、深さ2メートルは優にあるぞ。川に潜って組み立てるのか?」
「いえ、そんなやり方では溺れますからね。大丈夫、川底は水を抜いてやりますから」
「ぬう……上流を堰き止めるのか?」
「いえ、それも大がかりになりすぎるので。必要なところだけ抜きます」
「まるで魔法のような話だが……良かろう。神匠の腕前、見せてもらうとしよう」
「ええ。じゃ、材料を集めて下さい。土台に使う大きめの石と大量の木材ですね」
「承知した」「「「了解です!」」」
バド達に石や木材を集めてもらい、僕はまず、作業用の渡し船を作り始めた。ウッドゴーレムは使わない。『一式』なら水の中に潜れと命令すれば何時間でも潜って作業できるが、彼の体も木材なのであまり水には浸けたくない。腐ったり、脆くなったところにムーンベアが襲ってきたら事だし。
「よし、船ができた!」
「見事だ。釘をほとんど使わずに組み立てるとは……見ろ、きちんとハマっている」
強度を触って確かめるバドに、僕は笑う。
「当然ですよ。水に浮かべて木材を運んでるときに水漏れで沈んでもらっちゃ困りますからね」
くさびを打ち付け、さらにそのくさびを別方向からも固定させる『ほぞ継ぎ』工法だから、緩む心配はしなくていい。
次にその船に用意してもらった木材を積み込み、川の土台予定地点へ運ぶ。
「いいぞ『一式』、川底に木を打ち込んでくれ」
人間の手でやれないことはないが、大変なのでここはウッドゴーレムの出番だ。
「了解シマシタ」
「船が揺れるから、みんなつかまっていてください」
「分かった」「「「了解です」」」
ドン、ドン、ドンと、派手に水しぶきを上げるほどの勢いで、『一式』が次々と木材を川底に向かって杭のように垂直に打ち込んでいく。
「な、なるほど、こうやって、木の柱をぴっちり並べて、水を堰き止める壁を作るのだな?」
バドがいち早く理解してくれたが、そう、これが橋の作り方だ。
(川を真上から見た図)
木木木木
木 木
木 土台 木
木 木
木木木木
まず土台の周囲の水をどうにかしないと、川底で作業などできない。
「ええ。だから、大量に木材が必要です」
「分かった。では、また木を切ってくるとしよう」
「お願いします」
木を切っては川底に打ち込み、それを何度も繰り返す。
「領主、道のことで問題が発生した」
「何があったんですか?」
「川だ。炭鉱への道の途中に川があった。前に通ったときは川の水が凍っていたから、気にも留めなかったが、あれでは通れないぞ」
「なるほど……氷が溶けたんですね」
春の日差しが暖かくなったことで、この土地にも変化があったようだ。
「どうする? 道路はいったん諦めて、炭鉱へは冬だけ石炭を取りに行くようにするか?」
「いえ、それだと何かと不便ですし、ここは橋を作りましょう」
「橋だと? いや、無理だ。あの場所はかなり川幅が大きい。吊り橋では強風に煽られてとても渡れるものではあるまい」
「ええ、吊り橋は風が強いこの地域では無理でしょう。だから、土台からきちんとした橋を作ります」
「ぬぅ、まあ、領主がやると決めたなら、それに従おう。だが、何十年かかることやら」
「大丈夫、今年の夏の間に完了させますよ」
「おお……そう言うからには何か良い方法があるのだな?」
「もちろん。こう見えても木工職人ですからね。ラピュドーラ領の橋を何度か手がけたこともありますし、橋となればお手の物です」
「そういえば、本職の大工だったな。失礼した」
「いえいえ。じゃ、まずは現場を見てみましょう。その後で図面を書かないと。案内して下さい」
「承知した」
僕は測量器具とペンと数枚の板を背負い袋に入れ、道路造りをしていたウッドゴーレムを呼び戻して
その川へと向かった。
「ここだ」
雪解け水の綺麗なせせらぎを予想していた僕だったが、川は茶色く濁っており、川幅も広いところで百メートル近くあるようだ。
「まず、川幅が一番狭いところを探して下さい。橋を架けるにしても、労力は少ないほうがいいですから」
「そうだな。聞いたとおりだ。上流と下流に分かれて探すぞ」
「「「了解」」」
バドの部下が三人、それぞれ二組に分かれて、川幅の一番狭いところを探す。
「領主、ここが一番狭そうだ」
「分かりました。道路の予定からも近いですし、ここにしましょう。『一式』、向こう岸に渡って、目印を立ててくれ」
「了解シマシタ」
僕はリュックから測量の道具を出し、組み立てる。
板の両端に、それぞれ出っ張りの木を打ち付けたものだ。板には目盛りが付いている。
これで『銃の照準』のように、目印と真ん中の凸出っ張りを、凹出っ張りの間に収めると方向や距離が分かる仕組みだ。もっとも、『銃』というのは祖父から聞いたもので、僕は現物を見たことはないのだけれど。
「ふむ、だいたい、80メートルくらいかな。ええと、アーチの一辺の長さを30メートルでやると……土台はギリギリ2つで済むか」
「2つの土台か。川に石を投げて、沈めていくのか?」
「いえいえ、それでは上手く精度が出ないですし、川の水が氾濫したら、すぐ土台が押し流されてしまいますよ。川底からきちんと基礎を組み立てていかないと」
「バカな、この川底は私が見るところ、深さ2メートルは優にあるぞ。川に潜って組み立てるのか?」
「いえ、そんなやり方では溺れますからね。大丈夫、川底は水を抜いてやりますから」
「ぬう……上流を堰き止めるのか?」
「いえ、それも大がかりになりすぎるので。必要なところだけ抜きます」
「まるで魔法のような話だが……良かろう。神匠の腕前、見せてもらうとしよう」
「ええ。じゃ、材料を集めて下さい。土台に使う大きめの石と大量の木材ですね」
「承知した」「「「了解です!」」」
バド達に石や木材を集めてもらい、僕はまず、作業用の渡し船を作り始めた。ウッドゴーレムは使わない。『一式』なら水の中に潜れと命令すれば何時間でも潜って作業できるが、彼の体も木材なのであまり水には浸けたくない。腐ったり、脆くなったところにムーンベアが襲ってきたら事だし。
「よし、船ができた!」
「見事だ。釘をほとんど使わずに組み立てるとは……見ろ、きちんとハマっている」
強度を触って確かめるバドに、僕は笑う。
「当然ですよ。水に浮かべて木材を運んでるときに水漏れで沈んでもらっちゃ困りますからね」
くさびを打ち付け、さらにそのくさびを別方向からも固定させる『ほぞ継ぎ』工法だから、緩む心配はしなくていい。
次にその船に用意してもらった木材を積み込み、川の土台予定地点へ運ぶ。
「いいぞ『一式』、川底に木を打ち込んでくれ」
人間の手でやれないことはないが、大変なのでここはウッドゴーレムの出番だ。
「了解シマシタ」
「船が揺れるから、みんなつかまっていてください」
「分かった」「「「了解です」」」
ドン、ドン、ドンと、派手に水しぶきを上げるほどの勢いで、『一式』が次々と木材を川底に向かって杭のように垂直に打ち込んでいく。
「な、なるほど、こうやって、木の柱をぴっちり並べて、水を堰き止める壁を作るのだな?」
バドがいち早く理解してくれたが、そう、これが橋の作り方だ。
(川を真上から見た図)
木木木木
木 木
木 土台 木
木 木
木木木木
まず土台の周囲の水をどうにかしないと、川底で作業などできない。
「ええ。だから、大量に木材が必要です」
「分かった。では、また木を切ってくるとしよう」
「お願いします」
木を切っては川底に打ち込み、それを何度も繰り返す。
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