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番外編
シャルリエ騎士爵夫人の昔話・前編【?視点】
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ルネ・デュラン。
それは平民だった私の名前だ。
今はシャルリエ騎士爵夫人と呼ばれている。
貴族の私生児だった私は、政略結婚の道具として母から引き離された。
引き取られた屋敷には父の正妻と腹違いの兄がいたが、彼らは私をいないものとして扱った。
そして父も私のことを道具としかみなしておらず、使用人に雑な扱いをされているのを見て見ぬふりしていた。貴族としての教育もろくに受けず、屋敷から追い出されるかのように王侯貴族が通う学園に入れられたのだ。
私が庶子であることは学園中の人間が知っていた。
貴族の世界は平民のそれよりも狭く、醜聞であれば尚、暇な彼らの格好の話題になるのだそうだ。
全寮制のこの学園には私の居場所はなかった。だからといって母のところにはもう戻れない。戻れば母に迷惑をかけてしまうというのはわかっていたから。
なるべく目立たぬよう、おとなしく学園生活を送っていた私だったが、立場の弱い私は格好のいじめ対象になった。いじめない人間もいたけど、そういう人は見て見ぬふり。私からしたら同じに見えた。
その中に、なぜか私を警戒している令嬢がいた。
キャロライン・サザランド伯爵令嬢。
なぜか彼女は初対面時から私を敵視しているというか、恐れているというか、負の感情を向けられている気がした。別に何もしていないというのにだ。
表立っていじめてはこないので害はないと思うけど、だからと言って友好的というわけではないので油断はできない。
──それと彼女からは妙なことを尋ねられた。
『サザランドのスラム街近くで淡い金髪の美しい少年と接触しなかった?』
それに何のことだろうと疑問に思ったけど、思い当たる節がないので私は首を横に振る。
確かに以前はサザランド領内に住んでいたけど、領民に課せられる重税では生活が厳しくなったので、途中で別の領へ引っ越したもの。その後すぐに父に拉致されるように母と離れ離れになったので、ここ一年はサザランド領に足を踏み入れていない。
その人が私と何か? と聞き返すも、会っていないならそれでいいと言って話を終了された。
なんかすっきりしなかったけど、引き留めてまで話したいわけじゃなかったので、その話は忘れることにした。
私は学園で友人がいなかった。所詮強力な後ろ盾のない庶子だ。誰が私と親しくしようと考えるものか。
私の一挙一動に平民臭さがにじみ出て、自分たちの品位が落ちるとこれ見よがしに言われることなんて日常茶飯事で。不馴れな私のやることをちくちく指摘しては笑いものにされた。
孤立するのは自然なことで、私は息をひそめて目立たぬよう過ごしていた。
そんな中でもいろんな会話が耳に入ってきた。
新作のドレスの話、化粧品の話、異性の話……興味がなくてもいろんな話が聞こえてきた。
『あ……見てごらんなさいよ。まるで女王様ね』
それは嫉妬なのか。
庶子な私も軽蔑の対象だったけど、彼女も同様の視線を女子生徒に向けられていた。
もっとも彼女は婚約者がいるにも関わらず、複数の美麗な男性と親しくしている姿が目撃されたからである。
男性を侍らせて、彼らのお姫様みたいに扱われていた。はたから見れば男性陣はサザランド伯令嬢に特別な感情を抱いているように見えた。それを周りの女性たちから眉をひそめられていたのだ。
しかし私はそんなのに興味がなく、すぐに視線を外した。
今の私にはそんなことに興味を持てるほど余裕がなかったのだ。
◇◆◇
それは学園に入学して半年くらい経過した頃だろうか。
出来ないならそれなりに努力して、必死に詰め込む毎日を送っていた私のもとに一通の手紙が届いた。
差出人は父ではなく、腹違いのお兄様からだった。
内容は、父の住まう屋敷に出向いた母が「私の娘を返してくれ」と訴えていたそうだ。追い返されそうになった直後、その場で喀血して現在危篤状態だと書かれていた。
喀血……? お母さんが危篤?
目の錯覚かと思ってもう一度読み直したけど、やっぱり私のお母さんが危篤と書かれている。
お兄様には屋敷ではほぼ無視をされていたが、わざわざ意地悪なことをする人ではないと思う。
素っ気ない文体だったが、これが嘘とか罠だとは思えなかった。すぐさま学園を抜け出した私は途中乗合馬車に乗り込んで父の屋敷へ……母のもとに駆けつけた。
長く感じた馬車の旅を終えて屋敷に飛び込むと、お母さんは粗末な布を掛けられて庭の隅に置かれていた
母は痩せこけていて、触ると冷たくなっていた。私が到着する前に息を引き取ったのだと教えられた。
死亡を確認した医師からは肺を悪くしていたのだろうって。早めに治療すればもう少し長く生きていられただろうに無理してここまでやってきたのではないかと言われた。
どうして。お金なら父が私を拉致したときに手切れ金として沢山置いていったはずなのに。治療できたはずなのにそんな体で無理するなんて。
だけどそんな小言をお母さんは受け止めてくれない。目の前にあるのは抜け殻なのだから。
こんな寒い場所で放置されて、苦しみながら死んでいったお母さん。
最期の再会がこんな形だなんて。
いきなり母を失った私の目の前が真っ暗になった。
それは平民だった私の名前だ。
今はシャルリエ騎士爵夫人と呼ばれている。
貴族の私生児だった私は、政略結婚の道具として母から引き離された。
引き取られた屋敷には父の正妻と腹違いの兄がいたが、彼らは私をいないものとして扱った。
そして父も私のことを道具としかみなしておらず、使用人に雑な扱いをされているのを見て見ぬふりしていた。貴族としての教育もろくに受けず、屋敷から追い出されるかのように王侯貴族が通う学園に入れられたのだ。
私が庶子であることは学園中の人間が知っていた。
貴族の世界は平民のそれよりも狭く、醜聞であれば尚、暇な彼らの格好の話題になるのだそうだ。
全寮制のこの学園には私の居場所はなかった。だからといって母のところにはもう戻れない。戻れば母に迷惑をかけてしまうというのはわかっていたから。
なるべく目立たぬよう、おとなしく学園生活を送っていた私だったが、立場の弱い私は格好のいじめ対象になった。いじめない人間もいたけど、そういう人は見て見ぬふり。私からしたら同じに見えた。
その中に、なぜか私を警戒している令嬢がいた。
キャロライン・サザランド伯爵令嬢。
なぜか彼女は初対面時から私を敵視しているというか、恐れているというか、負の感情を向けられている気がした。別に何もしていないというのにだ。
表立っていじめてはこないので害はないと思うけど、だからと言って友好的というわけではないので油断はできない。
──それと彼女からは妙なことを尋ねられた。
『サザランドのスラム街近くで淡い金髪の美しい少年と接触しなかった?』
それに何のことだろうと疑問に思ったけど、思い当たる節がないので私は首を横に振る。
確かに以前はサザランド領内に住んでいたけど、領民に課せられる重税では生活が厳しくなったので、途中で別の領へ引っ越したもの。その後すぐに父に拉致されるように母と離れ離れになったので、ここ一年はサザランド領に足を踏み入れていない。
その人が私と何か? と聞き返すも、会っていないならそれでいいと言って話を終了された。
なんかすっきりしなかったけど、引き留めてまで話したいわけじゃなかったので、その話は忘れることにした。
私は学園で友人がいなかった。所詮強力な後ろ盾のない庶子だ。誰が私と親しくしようと考えるものか。
私の一挙一動に平民臭さがにじみ出て、自分たちの品位が落ちるとこれ見よがしに言われることなんて日常茶飯事で。不馴れな私のやることをちくちく指摘しては笑いものにされた。
孤立するのは自然なことで、私は息をひそめて目立たぬよう過ごしていた。
そんな中でもいろんな会話が耳に入ってきた。
新作のドレスの話、化粧品の話、異性の話……興味がなくてもいろんな話が聞こえてきた。
『あ……見てごらんなさいよ。まるで女王様ね』
それは嫉妬なのか。
庶子な私も軽蔑の対象だったけど、彼女も同様の視線を女子生徒に向けられていた。
もっとも彼女は婚約者がいるにも関わらず、複数の美麗な男性と親しくしている姿が目撃されたからである。
男性を侍らせて、彼らのお姫様みたいに扱われていた。はたから見れば男性陣はサザランド伯令嬢に特別な感情を抱いているように見えた。それを周りの女性たちから眉をひそめられていたのだ。
しかし私はそんなのに興味がなく、すぐに視線を外した。
今の私にはそんなことに興味を持てるほど余裕がなかったのだ。
◇◆◇
それは学園に入学して半年くらい経過した頃だろうか。
出来ないならそれなりに努力して、必死に詰め込む毎日を送っていた私のもとに一通の手紙が届いた。
差出人は父ではなく、腹違いのお兄様からだった。
内容は、父の住まう屋敷に出向いた母が「私の娘を返してくれ」と訴えていたそうだ。追い返されそうになった直後、その場で喀血して現在危篤状態だと書かれていた。
喀血……? お母さんが危篤?
目の錯覚かと思ってもう一度読み直したけど、やっぱり私のお母さんが危篤と書かれている。
お兄様には屋敷ではほぼ無視をされていたが、わざわざ意地悪なことをする人ではないと思う。
素っ気ない文体だったが、これが嘘とか罠だとは思えなかった。すぐさま学園を抜け出した私は途中乗合馬車に乗り込んで父の屋敷へ……母のもとに駆けつけた。
長く感じた馬車の旅を終えて屋敷に飛び込むと、お母さんは粗末な布を掛けられて庭の隅に置かれていた
母は痩せこけていて、触ると冷たくなっていた。私が到着する前に息を引き取ったのだと教えられた。
死亡を確認した医師からは肺を悪くしていたのだろうって。早めに治療すればもう少し長く生きていられただろうに無理してここまでやってきたのではないかと言われた。
どうして。お金なら父が私を拉致したときに手切れ金として沢山置いていったはずなのに。治療できたはずなのにそんな体で無理するなんて。
だけどそんな小言をお母さんは受け止めてくれない。目の前にあるのは抜け殻なのだから。
こんな寒い場所で放置されて、苦しみながら死んでいったお母さん。
最期の再会がこんな形だなんて。
いきなり母を失った私の目の前が真っ暗になった。
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