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普通科の彼女と特進科の彼。
疑問と森宮家の秘宝
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この間の芸術鑑賞会の時に私は確信した。
私と悠木君が食事をしていたところに声をかけてきた彼女…桐生礼奈はきっと……私に牽制を仕掛けてきたのだろうと。あの時は反射的に逃げたけど、私の判断は間違っていなかったと思う。
正直私は、悠木君とどうこうなりたいと考えているんじゃないから誤解されるのは困るなぁ。
「ねぇ、森宮さん、だっけ?」
下駄箱で靴を履き替えていると、知らない女子生徒に声をかけられた。……ネクタイの色からして同じ学年だけど…普通科の違うクラスの人だな。
彼女は馴れ馴れしく私に話しかけると、私の都合などお構いなしに話し始めた。
「生徒会役選のときも悠木君を弁護したりしてたけど、芸術鑑賞会でも一緒にいたよね?」
「…たまたまかな。あと鑑賞会のときは別に示し合わせたわけじゃなくて…」
一緒に行動しているみたいになったのは午後の博物館見学のときだ。ボッチ悠木君は一人になるのが嫌みたいで私についてきたんだよ。
私は人混みが好きじゃないので、人が少ない展示室をぐるぐる回っていたんだけど、勝手に後ろからついてきたのは悠木君だ。休憩スペースに座って余っていたパンを食べながら休憩しているときも、彼は隣でコーヒーとか飲んでくつろいでいた。
一緒に行動しようと誘ったわけでも、誘われたわけでもない。そこを勘違いしないでほしい。
「いや、偶然にしては親しそうに見えるし。あの悠木君だよ? …下心とかあるんでしょ?」
「ないよ」
私にもわからんよ。本命の桐生礼奈のことを放置しててもいいのかって聞いても、彼は曖昧な返事しか返さないし。
集合時間に各々のバスに戻るときも、ふつーにメガネと桐生礼奈と合流していたし。そん時彼女からガン見された私の気持ちがわかるかね。美人に探るような興味津々の目で見られてみなさいよ。とても怖いよ。
「どうやったら親しくなれるの?」
私としては別に普通にしているつもりだし……多分エンカウント率が高いせいかな。この女子にしてみたら悠木君はレアモンスター扱いなんだろう。
「うーん、私が物珍しいんじゃないかな。あっちで私は少し名前が広まってるみたいでね」
変な噂になってるんだ。と言うと彼女はにぱっと笑顔になる。
「え、じゃあさ紹介してよ、別に好きとかそんなんじゃないんでしょ?」
紹介ねぇ。
紹介以前に問題があるぞ。
「ていうか桐生さんって存在がいるでしょ? 悠木君と少し会話しただけで牽制されたもん」
同じクラスじゃないから一日一回遭遇するかしないかなんだけど、すれ違うと彼女の視線を感じるんだ。私めちゃくちゃ観察されてるのよ。
悠木君に近づこうとしたら間違いなく目をつけられるぞ。それでもいいのか?
「やっぱりあのふたり付き合ってるんだ!」
「付き合うっていうか……両片思いとかそんなんじゃない? 悠木君のそばに彼女がいる限り、難しいと思うなぁ」
それに面倒くさいので人の恋愛ごとには関わりたくない…とは言わない。
「そっかーマドンナじゃ勝ち目ないよねー」
その人はそれであっさり諦めてくれた。相手が悪いと悟ったのであろう。
みんなライバルがあの美女となると腰が引けちゃうんだろうなぁ。どんな着飾っても天然物の美女には勝てないってことよね。
□■□
もうすぐ2学期中間テストが行われるということで、学校中がピリ付き始めた。図書室や自習室は満員で、廊下を行き交う生徒らもなにか生き急いでいる風に見えた。
皆がテスト勉強に勤しんでいるところだが、私は今日もバイトである。今日はお弁当屋さんだ。今日のまかない弁当はなんだろうな。少しウキウキ気分で下駄箱に向かっていると、「森宮さん」と呼び止められた。
なんだ、また悠木君との関係性を疑う女子か? 面倒くさいけど呼ばれたので振り返ると、特進科の女子が3名ほどそこに立っていた。あぁ……私達特進科の王子様に近づかないで的なこと言われちゃうの?
「ちょっといい? 聞きたいことがあるの」
その「ちょっと」がちょっとじゃないのが女子の呼び出しなんだよね。ちょっとと言ったからには5分程度で終わらせてほしいな。
「…この後バイトだから手短にお願いしてもいいかな」
「バイト!?」
試験前なのに!? と誰かが恐怖におののいていた。大丈夫、勉強は普段からきちんとしてるから点数を落とすことはないさ。
「それで用件って何?」
「え、あ…えっと……森宮さん、普通科でいつもトップで、9月の学力テストでは1学年の中でも10位以内だったでしょ?」
てっきり悠木君のことかなと思ったら違った。試験のことか。
「…そうだけど、それがなにか?」
生意気だから点数落とせ! 特進科に華を持たせろ! とでも言いたいのだろうか。
「…たくさんバイト掛け持ちしてるのに……どうして成績維持できるのかなぁって」
「塾に通ってるの? どこの塾?」
「教科ごとの時間配分はどうしてる?」
あ、そっち……学年主任からの刺客ではないよね? 私の秘密を暴いてこいって命令されたってオチじゃないよね?
私は彼女たちの勢いに腰が引けつつも、別に隠していることじゃないので教えてあげる。
「塾には通ってないよ、自力で勉強してる」
「!?」
3人のうちの1人が口元を抑えてよろけている。顔色が悪いが大丈夫だろうか。
でも嘘じゃないよ。塾に行く暇なんてないもの。
「私のお姉ちゃんがここの特進科の卒業生なんだ」
私のお姉ちゃんは高校時代、学校の勉強とは別にいろんな勉強をしていた。学校の勉強も大事だけど、医者を志す彼女には学びたいことがたくさんありすぎた。
勉強時間を節約するために、彼女はある手段に出た。
「お姉ちゃん、当時の先輩たちから過去問もらってテストの出題傾向研究して対策を練ってから試験を受けてたの」
お姉ちゃんは私がバイトをする理由を理解しているので、その過去問や出題傾向を研究したノートを快くプレゼントしてくれた。特進科だけでなく、普通科のテスト範囲まで研究した資料はものすごい情報量なのだ。それを当てにして毎回勉強している。
「それを私にも伝授してくれて…」
今でもかなり重宝してるよ。
先生なりに毎年の出題範囲を変えてはいるだろうけど、やっぱりワンパターンと言うかね、先生の癖が出てくるんだなこれが。
……これはカンニングじゃない。勉強で得た結果なのでずるじゃないぞ。
これで疑問には答えられたかな、と思って彼女たちの顔を見比べると、彼女たちはハイパーバイブレーションタイムに移行したようだ。ガクガク震えて何事だろうかと私は後ずさる。
「もっ、もっ…森宮さん!!」
「ひぃ!」
ガッと手を握られた私はらしくもなく悲鳴を上げた。
だって彼女たちの顔が必死過ぎて怖かったんだもん。
「お願い! それを私達に伝授して!」
その言葉に私は口をへの字にした。
私のそれを悪い方に受け取ったのか、彼女たちは慌てて気を取り直す。
「もちろん、お姉さんの血と涙の結晶だもの、タダとは言わない!」
「コピー一部1000円でどうだ!」
「うーん…」
そんな事言われてもなぁ。
お姉ちゃんに聞かなきゃわかんないし、それが広まったら後々テスト対策が練りにくくなるかもしれないし……できれば黙っていてほしいし、大げさにしないでほしい。
「困る。それとバイト遅れるからもういい?」
「そこをなんとかぁ」
「森宮家の秘宝のことは誰にも言いませんからぁ」
「お情けを」
秘宝とは大げさな。
相当勉強に行き詰まっているらしい彼女らはそのまま泣いてしまいそうであった。もしかしたら成績が停滞して先生になんか言われたとかそんな感じなんだろうか。
私はワシワシと後頭部をかいてうーんと唸る。
「…普通科にランク下がっても別に死ぬわけじゃないよ?」
「嫌だー怒られるー!」
「うちの親にまたネチネチ言われる!」
「私は一生懸命にやってるのにー!」
特進科の生徒の成績が水準以下まで落ちたら、普通科に編入させられることになるが、別に普通科は怖い場所じゃないぞ。そう教えたけど、彼女たちが恐れているのはそれじゃないらしい。
…親に怒られる…だと。
勉強に関しては放任な両親に育てられた私には考えられない、スパルタな家庭で育ったらしい彼女たちは、親のお怒りに触れたくないがために意を決して私に救いを求めてきたようだ。
私は腕を組んでう~んと唸り、そして答えた。
「……明日の朝、返事する。まずはお姉ちゃんに許可もらわないと」
「! ホント!?」
「だめな場合もあるから期待はしないで。それと、この研究は外部に漏らしたくないからここだけの話にしてね。噂が広まったら先生に目をつけられて今後のテスト対策が取れなくなっちゃう」
私の言葉に彼女たちは赤べこのようにブンブン首を振っていた。
人の数だけドラマがある……目的があって勉強するのと、親に怒られるから死にもの狂いで勉強をする……やることは同じだけどなんとも切ないことである。
私と悠木君が食事をしていたところに声をかけてきた彼女…桐生礼奈はきっと……私に牽制を仕掛けてきたのだろうと。あの時は反射的に逃げたけど、私の判断は間違っていなかったと思う。
正直私は、悠木君とどうこうなりたいと考えているんじゃないから誤解されるのは困るなぁ。
「ねぇ、森宮さん、だっけ?」
下駄箱で靴を履き替えていると、知らない女子生徒に声をかけられた。……ネクタイの色からして同じ学年だけど…普通科の違うクラスの人だな。
彼女は馴れ馴れしく私に話しかけると、私の都合などお構いなしに話し始めた。
「生徒会役選のときも悠木君を弁護したりしてたけど、芸術鑑賞会でも一緒にいたよね?」
「…たまたまかな。あと鑑賞会のときは別に示し合わせたわけじゃなくて…」
一緒に行動しているみたいになったのは午後の博物館見学のときだ。ボッチ悠木君は一人になるのが嫌みたいで私についてきたんだよ。
私は人混みが好きじゃないので、人が少ない展示室をぐるぐる回っていたんだけど、勝手に後ろからついてきたのは悠木君だ。休憩スペースに座って余っていたパンを食べながら休憩しているときも、彼は隣でコーヒーとか飲んでくつろいでいた。
一緒に行動しようと誘ったわけでも、誘われたわけでもない。そこを勘違いしないでほしい。
「いや、偶然にしては親しそうに見えるし。あの悠木君だよ? …下心とかあるんでしょ?」
「ないよ」
私にもわからんよ。本命の桐生礼奈のことを放置しててもいいのかって聞いても、彼は曖昧な返事しか返さないし。
集合時間に各々のバスに戻るときも、ふつーにメガネと桐生礼奈と合流していたし。そん時彼女からガン見された私の気持ちがわかるかね。美人に探るような興味津々の目で見られてみなさいよ。とても怖いよ。
「どうやったら親しくなれるの?」
私としては別に普通にしているつもりだし……多分エンカウント率が高いせいかな。この女子にしてみたら悠木君はレアモンスター扱いなんだろう。
「うーん、私が物珍しいんじゃないかな。あっちで私は少し名前が広まってるみたいでね」
変な噂になってるんだ。と言うと彼女はにぱっと笑顔になる。
「え、じゃあさ紹介してよ、別に好きとかそんなんじゃないんでしょ?」
紹介ねぇ。
紹介以前に問題があるぞ。
「ていうか桐生さんって存在がいるでしょ? 悠木君と少し会話しただけで牽制されたもん」
同じクラスじゃないから一日一回遭遇するかしないかなんだけど、すれ違うと彼女の視線を感じるんだ。私めちゃくちゃ観察されてるのよ。
悠木君に近づこうとしたら間違いなく目をつけられるぞ。それでもいいのか?
「やっぱりあのふたり付き合ってるんだ!」
「付き合うっていうか……両片思いとかそんなんじゃない? 悠木君のそばに彼女がいる限り、難しいと思うなぁ」
それに面倒くさいので人の恋愛ごとには関わりたくない…とは言わない。
「そっかーマドンナじゃ勝ち目ないよねー」
その人はそれであっさり諦めてくれた。相手が悪いと悟ったのであろう。
みんなライバルがあの美女となると腰が引けちゃうんだろうなぁ。どんな着飾っても天然物の美女には勝てないってことよね。
□■□
もうすぐ2学期中間テストが行われるということで、学校中がピリ付き始めた。図書室や自習室は満員で、廊下を行き交う生徒らもなにか生き急いでいる風に見えた。
皆がテスト勉強に勤しんでいるところだが、私は今日もバイトである。今日はお弁当屋さんだ。今日のまかない弁当はなんだろうな。少しウキウキ気分で下駄箱に向かっていると、「森宮さん」と呼び止められた。
なんだ、また悠木君との関係性を疑う女子か? 面倒くさいけど呼ばれたので振り返ると、特進科の女子が3名ほどそこに立っていた。あぁ……私達特進科の王子様に近づかないで的なこと言われちゃうの?
「ちょっといい? 聞きたいことがあるの」
その「ちょっと」がちょっとじゃないのが女子の呼び出しなんだよね。ちょっとと言ったからには5分程度で終わらせてほしいな。
「…この後バイトだから手短にお願いしてもいいかな」
「バイト!?」
試験前なのに!? と誰かが恐怖におののいていた。大丈夫、勉強は普段からきちんとしてるから点数を落とすことはないさ。
「それで用件って何?」
「え、あ…えっと……森宮さん、普通科でいつもトップで、9月の学力テストでは1学年の中でも10位以内だったでしょ?」
てっきり悠木君のことかなと思ったら違った。試験のことか。
「…そうだけど、それがなにか?」
生意気だから点数落とせ! 特進科に華を持たせろ! とでも言いたいのだろうか。
「…たくさんバイト掛け持ちしてるのに……どうして成績維持できるのかなぁって」
「塾に通ってるの? どこの塾?」
「教科ごとの時間配分はどうしてる?」
あ、そっち……学年主任からの刺客ではないよね? 私の秘密を暴いてこいって命令されたってオチじゃないよね?
私は彼女たちの勢いに腰が引けつつも、別に隠していることじゃないので教えてあげる。
「塾には通ってないよ、自力で勉強してる」
「!?」
3人のうちの1人が口元を抑えてよろけている。顔色が悪いが大丈夫だろうか。
でも嘘じゃないよ。塾に行く暇なんてないもの。
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私のお姉ちゃんは高校時代、学校の勉強とは別にいろんな勉強をしていた。学校の勉強も大事だけど、医者を志す彼女には学びたいことがたくさんありすぎた。
勉強時間を節約するために、彼女はある手段に出た。
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お姉ちゃんは私がバイトをする理由を理解しているので、その過去問や出題傾向を研究したノートを快くプレゼントしてくれた。特進科だけでなく、普通科のテスト範囲まで研究した資料はものすごい情報量なのだ。それを当てにして毎回勉強している。
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「もっ、もっ…森宮さん!!」
「ひぃ!」
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「もちろん、お姉さんの血と涙の結晶だもの、タダとは言わない!」
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私はワシワシと後頭部をかいてうーんと唸る。
「…普通科にランク下がっても別に死ぬわけじゃないよ?」
「嫌だー怒られるー!」
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「私は一生懸命にやってるのにー!」
特進科の生徒の成績が水準以下まで落ちたら、普通科に編入させられることになるが、別に普通科は怖い場所じゃないぞ。そう教えたけど、彼女たちが恐れているのはそれじゃないらしい。
…親に怒られる…だと。
勉強に関しては放任な両親に育てられた私には考えられない、スパルタな家庭で育ったらしい彼女たちは、親のお怒りに触れたくないがために意を決して私に救いを求めてきたようだ。
私は腕を組んでう~んと唸り、そして答えた。
「……明日の朝、返事する。まずはお姉ちゃんに許可もらわないと」
「! ホント!?」
「だめな場合もあるから期待はしないで。それと、この研究は外部に漏らしたくないからここだけの話にしてね。噂が広まったら先生に目をつけられて今後のテスト対策が取れなくなっちゃう」
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