バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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意識し始めた彼女と積極的に動く彼。

お化け屋敷の案には断固反対する!

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「じゃあうちのクラスでは大正浪漫風カフェと言うことで」
「なんか去年も似たような店出した気がする」
「飲食店は安定なんだよ。座れる場所があると助かるって客も居るんだって。年配のお客さんとかな。外からやってくる来賓客をターゲットにするぞ!」

 黒板の前では商売っ気の強い学級委員が拳を高く振り上げていた。
 今年のクラスの出し物は和風で行くらしい。文化祭を歩き回ったお客さんは座れる場所を求める。そんなときに強いのが、カフェなどのくつろぎスペースだ。確かに去年は台湾風カフェでいい売上を上げたものね。
 一部お化け屋敷とかの提案もあったけど、私は断固反対した。手を上げてデメリットをあげつらってやったら見事廃案になった。やったね。

「そんじゃそういう事で……森宮、バイトはいいけど準備は手伝えよ」
「わかってるよー」

 私がバイト命な女だとみんなが認識しているからか名指しで念押しされた。
 人聞きの悪い。去年もちゃんと手伝ったというのに失礼なことである。バイトもするけども。

 実行委員会で出し物の許可が降りたら本格的な準備に入るとして、この場ではシフト決めだけをしてその日は解散となった。


「森宮!」

 ひとり自転車置き場に向かっていると、後ろから悠木君が追いかけてきた。
 かばんも何もなく、手ぶらで駆け寄ってきた悠木君。特進科の彼にはこれからまた授業があるのに一体どうしたんだろう。

「あのさ、文化祭一緒に回らない?」

 文化祭のお誘いに私はポッと顔が熱くなった。ただ一緒に文化祭を回ろうと言われただけなのに、なんでこんなにむずがゆい気持ちになるのだろう。

「う、うん…シフトは決まってるの?」
「初日も2日目も早番」
「じゃあ初日にしよう。2日目は遅番なんだ」

 悠木君と私は文化祭初日が午前シフト組だったので、その日一緒にまわることを約束した。これは…デート、になるんだよね?
 ……なんか今から緊張してきたぞ。

「あ、ごめん。今からバイト行くんだよな。直接誘いたかったもんだから呼び止めちまった」

 確かにメッセージアプリ越しでも誘えるけど、実際に面と向かって誘われたほうが嬉しいから全然いいよ。

「大丈夫。今日のシフトは6時からだからまだ時間に余裕が……それよりも悠木君こそ、授業大丈夫?」
「緊急の職員会議とかで夕課外は自習になったから多少遅れても平気」
「そっか」

 私と悠木君はわけもなくへらりと笑い合ってお互いニコニコしあっていた。
 そう言えば文化祭、悠木君のクラスって何するのかな。また数独パズルみたいに手抜きの出し物になったのだろうか。

「ところで悠木君のクラスの出し物って」
「夏生せんぱーい!!」

 ドスッと思いっきり背中を押されたのは私が質問している途中だった。身構えていない状態で突っ込まれた私は前のめりに倒れそうになり、無意味に腕をブンブン振って地面に向かって体が傾いていった。

「あぶねっ!」

 あわや地面に転倒すると覚悟したところをすかさず庇ってくれたのは悠木君である。腕を伸ばして私を支えてくれた彼は私を抱き寄せると、私の背後からぶつかってきた人物を睨んでいた。

「何してんだよ、あぶねぇな。森宮に謝れ」

 悠木君に叱られた人物……雨宮さんは一瞬つまらなそうな顔をしたと思えば、がらりと一変して満面の笑顔を浮かべた。怒られているにも関わらずだ。
 自分の魅力を最大級に引き出したその笑顔はその辺にいる男子であればひと目で恋に落ちることであろう。──しかしここにいる悠木君は彼女の笑顔を前にして眉間のシワをさらに増やしただけだった。

「そんなことより夏生先輩、文化祭私と回りましょうよ。私、2日目は早番なんです」

 雨宮さんは私を押したことを反省することなく、悠木君にすり寄って上目遣いでおねだりしているではないか。
 えぇ、人のこと押しておいてそんなことってひどくない…? あれ、私先輩なのにな…以前から思っていたけど、私への態度がひどすぎない…? ていうか私を押すことになにか意味はあったのかな…
 文句の一つでも言ってやりたかったけど雨宮さんの行動理由がわからず不気味で、逆に末恐ろしくなって何も言えなかった。

「無理。ていうかお前に構ってる暇ないんだわ」

 雨宮さんからのお誘いに悠木君は即、お断りの返事をした。

「なにそれ! 今この人のこと誘ってたじゃないですか!」
「お前のために空ける時間がないの。わかんないか?」

 悠木君は明らかに迷惑していますという空気を出している。それを隠す気配もない。しかし雨宮さんは諦めなかった。何度袖にされても諦めないそのメンタルはとても強い。

「私と文化祭デートできるんですよ? 嬉しくないんですか!? 自慢できますよ!」
「別に自慢したいわけじゃないし、お前とデートしたいとか思ってないし」

 自分に揺るぎない自信を持った雨宮さんはゴリ押ししようとするが、悠木君はそれを無慈悲に切り捨てる。…美男美女な2人が歩いていたらそれはそれは華になるだろうが、悠木君は女子をアクセサリーのように思うタイプじゃないからそのお誘いは失敗だろうね。
 ゴリ押しすら断られてしまった雨宮さんはぐぅっと悔しそうな顔をすると、未だに悠木君の腕の中にいる私をぎらりと睨みつけてきた。

「この女、夏生先輩の告白保留にしてるらしいじゃないですか! 地味で色気ない、こんな人の何処がいいのか私にはわかんない!」

 あ、私に被弾しちゃうパターンですか。
 やだなぁと私がしょっぱい顔をしていると、悠木君が私を背中に隠した。

「わかんなくて結構だよ。森宮のいいところは俺がたくさん知っているからそれで十分だ」
「…は?」

 雨宮さんの間の抜けた声が彼女の心情を表している。私は自分の頬がボッと火が付いたように熱くなるのを感じていた。

「俺が誰に告白するか、誰を好きになるかはそれは俺が決めることだ。外野になにを言われても俺の心は変わらないよ。好きになったもんはどうしようもないだろ」

 ゆ、悠木君、結構言うようになったね……
 告白した本人が間近にいるのに恥ずかしくないのかね…私は恥ずかしいぞ…

「森宮は可愛いし、一緒にいて楽しい。賢いくせにどこか抜けてる部分もあって見てて飽きない」
「私のほうが可愛いし、先輩を飽きさせませんよ!? こんな人、バイトと勉強だけの鈍感女じゃないですか! 告白されてどれだけ時間経過してると思ってるんですか!? 夏生先輩はいい加減焦れたりしないんですか!?」

 悠木君の言い分に納得行かない様子の雨宮さんが反論する。
 雨宮さんが可愛いのは否定しないし、私がバイトと勉強だけな鈍感女(他称)も否定しきれない。告白の返事だって保留してるし……正直、申し訳なく思っている。
 
「森宮が鈍感で残酷なのは前からだからもう慣れた」

 悠木君は平然と返す。
 私が鈍感で、残酷なのは前から……

「残酷!?」

 そんな、言い方!
 私のどこが残酷なの!? 告白の保留の件で結構イライラしてる感じなの? 悪いとは思っているんだよ!
 私が反応すると、悠木君はくるりと方向転換して私の方へ体を向けた。

「残酷って言われたくないなら、早く俺の気持ちに応えてよ」

 細められた瞳に、ゆるりと弧が描かれた唇。そこはかとなく色気が含まれた笑顔に私の心臓が破裂しそうになった。
 なに、その顔……悠木君そんな笑い方もできちゃうの……?
 どきどきどきとまるで少女漫画のヒロインみたいに胸をときめかせる私は一体何なんだ。ブワッと顔中に熱が集まり落ち着かなくなるんだ。

 今の私は、自分で自分のことがわからない状況に陥っている。主に悠木君のせいで。
 彼から目が離せなくて、マラソンをしているときのように心臓が暴れて仕方がない。
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