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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
セレブ生と一般生の溝の原因の1つ。でも彼らのお陰で有名になってんだよ一応。
しおりを挟む「昨日のあの件、河辺さんは身に覚えがないそうですわ」
「河辺……あぁあの掲示板の? …でもあの発言はいただけないよね。幹さんて人はどうなの?」
「…あれが幹さんの耳にも入ってしまったようで…今日学校にいらしていないそうですわ」
あの掲示板見せしめ事件の翌日のお昼、タルタルソースたっぷりエビフライを頬張る私に阿南さんがその話題を持ち出してきた。
社交には情報収集が大事ですからというのが口癖の阿南さんは情報通だ。だから彼女と一緒にいることの多い私の耳にも、自然とあちこちの情報が入ってくる。まぁセレブもセレブなりに大変だよね。
私? 何もしないよ。だって私セレブじゃないし。それはエリカちゃんがすることでしょ。
…それはそうと河辺には身に覚えがないとな。
そして被害者の幹さんのお休みか……
「…なりすましってこと?」
「そうですね。それしか考えられないですわ。ですが幹さんもSNS上のメッセージだけで信じてしまったので、彼女にも落ち度はありますね…顔の見えないネット上の言葉を真に受けることほど危険なことはありませんもの」
「……人に恨まれるような人なわけ?」
「いいえ。おとなしく真面目で、成績優秀者のため特待生になられた方です。ほぼ毎回学年1位に入っていらっしゃいます。…そう言えばもうすぐ期末テストですね」
「………」
阿南さんはにこやかに残酷な単語を出してきた。いやっテストなんて言葉私聞きたくない…!
私は黙って耳を塞ぐ。
「エリカ、そろそろ勉強はじめないとね」
「前回二階堂様が上位50位に入っていらっしゃらなかったから私、ビックリしましたのよ」
ぴかりんの圧力と、阿南さんの純粋な瞳に耐えきれなかった。私はガガガッと早食いをしてその場から逃走した。ちゃんと忘れずに学食のおばちゃんには媚を売っておいたから大丈夫。
学食と言えばさぁ、漫画などの架空の世界でのセレブが通う学校のお話だとシェフとかウェイターがいるけど、英の食堂は一般的な高校のシステムと似てる。メニューは他所にはなさそうな高級志向なものも取り揃えてあるけどね。
英学院が中流層と馴染むためにというスタンスで学校を設立したらしいから、チョイチョイ庶民臭いんだよね。私は懐かしいから助かるけど。
学食のおばちゃんに貰った飴ちゃんを口の中で転がしながら、私はひとり教室までの道を歩いていた。
…そうだ牛乳を飲んでなかったから売店にいこう。
往生際が悪いとか言わないで。私はまだ身長を諦めていないんだ。きっと伸びる! 信じていればいつかきっと伸びるのさ!!
「あれってさ…玉井さん達の仕業だよね」
「滅多なこと言わないほうがいいよ…目をつけられるかもしれないのに」
「絶対そうだよ。幹さんの成績がいいのを妬んで、ターゲットにしたんだって! 中等部まで玉井さんトップ10入りだったじゃん!」
方向転換して売店までの道を歩いていた私だったが、すれ違った生徒達の言葉に立ち止まった。
今…幹さんって言った?
それに……玉井? …だれ?
「仕方ないでしょ? この学校じゃセレブ生のほうが力があるんだから…」
「自分たちの親が多く寄付金出しているからって…威張ってさ…」
「ねぇ、今の話さ」
「ひっ! 二階堂エリカ!!」
詳しく聞きたくて声を掛けたら、お化けを見たかのような反応されてしまった。彼女たちは可哀想なくらい青ざめて怯えている。
私は何もしないよ。失礼な。
「しっ、失礼します!」
「えっ」
脱兎のごとく彼女たちは逃げていった。なにかするわけじゃないんだからそんな怖がらんでも。
同じ1年だけど違うクラスの子達…口振りからして一般生なのだろう。
特待生が学費その他諸々無料で通えるのは、セレブ生の親やOG/OBの寄付金があってからこそ。それを鼻にかけている一部のセレブ生がいるというわけか。
なんとなくそういうのがいるのは知っていたけど…結構陰湿なことするんだね。
とはいえ、あくまで噂。でもなーんか気になる。
確かに被害者の危機管理も欠落してたかもしれないけど…やりすぎじゃない? 学校側もなにか対処しているわけでもないし…
他人事だというのはわかっていた。だけど何だかモヤモヤしてしまって…
「…笑さん? こんな所で突っ立って何してるんだ?」
廊下のど真ん中でボーッとしていた私の事が目についたのか、慎悟が訝しげな表情で声を掛けてきた。慎悟の手には飲み物が握られており、彼は売店帰りだったのだろうか。
「あ、慎悟。ねぇ昨日の掲示板の見せしめ事件知ってる?」
「…スポーツ特待生の河辺の話なら聞いたけど」
「玉井って生徒がやったんじゃって噂が聞こえたんだけど」
私の問いかけに慎悟は不可解そうな表情で首をかしげる。確かに疑問に思うだろうが…気になるんだよ。
「…笑さん、他人のことどころじゃないんじゃないかあんた。もうすぐテストが」
「やめろっその単語を出すな!」
咄嗟に私は耳をふさいだ。
あんた私が勉強嫌いだって気づいているだろうが! なんでその話を持ち出してくるかね!
私の事をまた馬鹿にしたような目で見下ろしてきた慎悟だったが、諦めた様子でこう告げた。
「……玉井は5組の生徒だ。いじめは…この学校じゃそう珍しいことじゃない」
「…だろうね。誠心だっていじめは多かったよ。実力主義ではあったけど、その分嫉妬に渦巻いていたし」
ちょっと質は違うけど。
誠心は体育会系で良くも悪くも直情的な生徒が多い。だから結構わかりやすいいじめが多かった。あと手が出る確率が高い。血気盛んだからいじめというか足の引っ張り合いの泥試合になることが多かったかも。
だけど英は内面を傷つける形が多いかな。暴力は少なめな印象だ。立場の弱い人を抑えつけて優越感に浸ると言うか。それでも上昇志向の人は負けん気を発しているが、弱い人は息を潜めている感じ。
そんでもって、逆に気の弱いセレブ生が同じセレブ生にパシられたり、不良気質の一般生にカツアゲされたりとかすることもあるらしい。
いじめってどこでもあるよね。大人の世界でもあるんだから、この世から無くなることなんて絶対にない。いじめをするほうが悪いのは分かりきっているけど、そんな事訴えてもいじめをする人はやめない。なら被害者が強くならざるを得ないのだ。
この件は幹さんって人がどれだけ耐えられるかが問題だよ。あんな見せしめなんてされたらたまったもんじゃないよね。
最悪な選択をするくらいなら、今は逃げてもいい。
しかしその次、大人になっても逃げていたら人生どん詰まりになってしまう。逃げてもいいけどその次の道を探し出さなくては。酷なことを言ってしまうけども、辛くても自分で道を模索しなくては、また躓いてしまう。
大人なら転職するとかで環境を変えることが出来るけど、学生はそう簡単に転校とか出来ないもんな…
いじめっ子って注意しても中々やめないし、質悪いからなぁ……幹さんのクラス配置を変えるとか?
「あいつら言って聞くような人間じゃないから放っておいたほうがいい。…幹は災難だったとは思うが、残念ながらここはそういう事がまかり通る学校なんだよ」
「…ホント、エリカちゃんが馴染めなかったのがよくわかる」
慎悟の諦め半分の言葉に私は眉をひそめた。
エリカちゃんの生まれがセレブだから、憑依したからにはこれを耐えきれないといけないのかもしれないが…やっぱり私の性格にこの学校合わないなぁ。
私はどっちかと言えば単細胞な性格だから同じことされたら手が出そう…だめだ、手を出したら負けだから……暴力はダメ…
私は無意識に拳を握っていたらしい。慎悟がじっとそれを見ていたので慌てて手を引っ込める。
「…幹は主席をキープしている優秀な生徒だから……ここで志折れるのはもったいない気がする」
「……そうなんだ」
「一般生は基本的に根性があるからな。将来使えそうな優秀な人材がいれば、学生のうちに交流を深めておいて、会社の社員としてスカウトするんだ」
「生々しい」
幹さんを高評価しているのかと思ったら、会社にスカウト出来るか見極めていたみたいな発言が返ってきた。人材の発掘の話かよ。
なにそれ。一般生のこと褒めててちょっと感動したのに、がっかりしたわ。
「直接関わる機会の多い学校で人材を見つけるほうが有力だと思わないか? 人となりもわかるし」
「………」
あんた16だよね? 私そんなんじゃなかったよ!? 考えていることが異次元だわ。…将来を見据えているという意味では悪くないけど、話についていけないんだよ。
「…幹さんはいい人材なの?」
ここで黙っていたら年上のプライドが揺らぎそうなので、それとなく話を振ってみる。すると慎悟はちょっと考え込んでいた。
「…この後の彼女の動き次第だな、ここで開き直って玉井たちの嫌がらせに見向きもしないで耐えきったら、彼女はきっとこの先も上昇できる。…だけど駄目なら…」
「………」
だよね。ここで耐えきれば、大人になって同じことに遭遇した時対処できるはずだ。
幹さん、喋ったことないけど頑張れ。その玉井って人たちは貴女を妬んでいるだけのはず。貴女には優秀な頭脳という勝てる実力があるのだ。
失恋? は辛いし、恥をかかされたことは耐えきれないだろうけど、貴女は悪くないんだから堂々としていて良いはず。負けないで。
私は喋ったこともない、顔も知らない幹さんに向けて、そう念じてみた。
何とか彼女が復活できたら良いけど。
私はその場で慎悟と別れると、売店に駆け込んだ。売店のおば…お姉さんに「いつものちょうだい!」と声を掛けたのであった。
…ここのおばちゃん、おばちゃんって言うと顔しかめるんだよね。お姉さんって言ったらめっちゃ笑顔になる。わかりやすい人だから逆に楽だけども。
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