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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
亡者と生者【三人称視点】
しおりを挟む【んん? …おかしい…背格好も違う、魂の色も違う…まさかこの娘、生者か?】
【…この娘、今までの裁判でも一言も話さなかったそうですよ…いかが致しますか?】
【…うーん】
顔を真っ赤にさせた男の前には、陰鬱な表情をした一人の少女が居た。少女は質問には一切答えず、ただずっとそこに立っていた。何を質問してもずっとこの態度で、困り果てた他の裁判官がここに丸投げしてきたとも言う。
【…問いかけても応えもせん。…おい、あれを】
男が何かを指示すると、男の部下が何処からか何かを持ち出してきた。現れたのは大きな鏡だ。一見、ただの大きな鏡のようなそれ。突然現れた鏡を少女は不思議そうに見上げていた。
その鏡は自分たちを映していたはずなのだが、チャンネルを切り替えるかのように別のものを映し始めた。鏡のようなつるりとした表面が現世にあるテレビのように、見慣れた町並みの映像を映し始めたのだ。
【これは浄玻璃の鏡。現世の様子を映し出す事ができる。本来亡者の死後の裁判での現世の行いを証拠として映し出すものなのだが…そなたが何も言わぬのなら仕方がない】
鏡に映し出されたのは、少女と同じ容姿をした別の人物の姿。それは不思議な感覚だった。鏡で見た自分と同じ顔なのに全く自分とは違う。彼女は自分が絶対にしないような行動をとっていた。それは眩しくて…何処か妬ましく。
彼女は、あの独特な学校で昔から続く確執……一般生とセレブ生の垣根を超えた友人たちに囲まれていた。部活動で生き生きとバレーボールをして、更に上を目指していた。
それだけでない。自分から突っ込んでいって周りに変化を与えていた。彼女は明るく笑っていた。名前も知らない彼女はとても楽しそうに見えた。私の身体なのに…と複雑な心境になりつつも少女は、彼女のことをどこか羨ましくも思っていた。
……そこでずっと現世の様子を眺めていた。浄玻璃の鏡が映す現世では目まぐるしく時間が流れていっているのに、少女はずっとその場で観察していた。
ただ、ずっとぼんやりしていただけじゃない。少女が羨ましいと思った彼女をずっと観ていて発見したこともある。少女が善意で身体を与えたことによって、彼女自身が苦しんでいる事までわかった。
そうだ、彼女はいま私として生きているのだ。どんなに明るく振る舞ってもそれは私と認識されているのだ。……少女はそれを想像してゾッとした。自分が自分と認められない恐怖を。
私の代わりに裁判に出廷して、堂々と証言をしている姿まで見たが、どれだけ怖かっただろうか。私だって怖いのに、殺された本人が犯人と合間見えるなんて……私なら逃げていた。
何でこの人は出来るの? 何でこんなに強いの? 私には出来ない……!
少女は震えた。
自分だったら、自分が彼女の立場なら……同じ様にできるだろうかと、恐怖を感じたのだ。
【…本来、このようなことはあってはならない】
男が重々しく口を開いたのに、少女はビクリと肩を揺らした。
【何の咎もなく、命を落とした彼女は優先的に輪廻転生の輪に入れることができたのだが……これでは、人の体を乗っ取った罪が加算され、地獄で呵責を受ける義務が待ち構えることになる】
【違う! これは私が望んでしたことです!】
ここへ来て、初めて口を開いた少女の言葉に男はため息を吐いた。
【そなたが望んだ望まなかったは、この際関係のないこと。…このまま放っておけばあの者の魂が完全に定着してしまい、そなたが戻れなくなる】
【私はそれでも構わない! …倫也さんが私を要らないなら、私は生きていても仕方がない…】
少女は弱々しく呟くと啜り泣き始めた。
現世では少女がいない間に色々変わっていた。だけど少女はずっとこの場にいて、あの事件の時のまま、何も変わらない状態のまま取り残されていたのだ。
【…おい、この娘を連れて行け】
何処からともなく鬼たちがぞろぞろと集まってきた。屈強な鬼たちに囲まれた少女は恐怖を感じたのか口を閉ざしておとなしく連行されていった。
少女が連行されていくのを見送った男は、傍にいた部下に向かって「すぐに入れ替えの手続きを進めるように」と指示を飛ばしていた。
男には何やら秘策があるらしい。二人の少女の魂を入れ替えて元通りにする権利がこの男にはあるらしい…
【…呵責なんて嘘ついて…閻魔様が嘘ついてはいけないでしょう】
傍で見ていた側近が嗜めるような視線を向けて来たが、男…死者の裁判を行う閻魔大王はそれを聞こえないふりして、浄玻璃の鏡に映る、先程の少女と同じ姿をした別の少女を観察した。
【…玉遊びが好きなのか。彼女がここに来たら、また来世でも玉遊びができる恵まれた環境に転生できるように頼んでおこう】
【…あれはバレーボールっていうのですよ。…全くあなたは…本当に甘いんですから】
鏡の中では先程の少女と同じ顔で、雰囲気の異なる少女が高く跳んで、ネットの向こう側にボールを叩きつけて攻撃している様子が映っていた。
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