攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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本編

私は本人からの謝罪しか受け取らない。だって本人が反省してないと意味がないのだもの。

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「コロは意外とお転婆だよなー…よし終わったぞ。頭の異常はここじゃわからないから、違和感があったら病院行きなさい」
「はーい」
「…コロってなんだ?」
「ありがとーございましたー」

 山ぴょんによって保健室に連れてかれた私は眞田先生に手当してもらった。
 自分が気づかなかっただけであちこち擦りむいていて、場所にとっては打撲していたようだ。
 擦りむいたおでこには透明の絆創膏、コケた時に擦過して皮がズル剥けてた肘には液体の消毒液を塗布。打撲は軽度なので様子見ということだった。

 手当してくれた先生に頭を下げて退出した。
 「コロって何?」という山ぴょんの問いに私は返答を拒否した。ついでに手を貸そうかと言われたのもお断りした。


 閉会式が始まる頃だろうからと山ぴょんとグラウンドに戻ると既に生徒たちが集まっていた。
 私達は自分のクラスの最後尾にさり気なく並ぶ。
 実際に生徒達の試合を見ていたのかわからない校長先生の挨拶を聞き流し、球技四種目の成績発表がなされた。 

 バスケットボールはなんと3-Cが1位。やっぱり橘先輩の存在が大きかったのだろうか。元生徒会長・間先輩のクラス3-Aと決勝でぶつかったんだって。
 バレーは2-D。和真のクラスもいい線いってたんだけど2位だった。一年生で決勝まで勝ち進むって中々強いと思うんだけど。
 ソフトボールは3-A。こっちは見に行っていないからどんな感じだったのかはわからないけど、元副会長・伊達先輩の率いるチームが勝利した。あの人頭回るらしいから作戦勝ちなのかな。

 そしてドッジボールは我が2-Aだ。

「優勝杯、あやめが貰ってこいよ」
「え!? やだよ! キャプテンが行ってよね」
「いいから行ってこいよ」
「なんでよ!!」

 私は山ぴょんにグイグイと背中を押されていた。そしてそのまま校長先生のところまで押し出されて、山ぴょんに「ほら受け取れって」と促され、ドッジボール部門の優勝杯を恐る恐る受け取った。

 前で優勝杯を受け取った優勝クラスへと大きな拍手が送られたが私は恥ずかしくて俯いていた。横から山ぴょんが「顔上げろ」と肘で肩をツンツンしてくるのがとってもうざいので脇腹を突き返しておいた。

「逆転勝ちの英雄を胴上げしようぜ!」

 そんな事言いだしたのはクラスのお調子もの。
 私はデジャブを感じたので、「私体打撲してるから山ぴょんにしてあげて」と声をかけた。
 すると「山浦はデカすぎて無理」と向こうから拒否され、胴上げがなくなったのにホッとした。
 そもそも私女だから英雄という言い方は間違ってると思うんだ。


(あー疲れた…)

「田端」
「!?」

 今日は早めに休もうと考えていると、気配なく目の前に橘先輩が現れて私は肩をビクッとさせた。
 いつ来た!? びっくりするなぁもう!

 私が驚きに固まっていると、橘先輩がいきなり頭を下げた。

「…すまん」
「は?」

 いきなり謝られたので私は気の抜けた返事を返した。なんで私謝られた?
 私が状況を理解していないと気づいた橘先輩は、「うちのクラスの奴が済まなかった」と言葉を変えて謝ってきた。

 うちのクラスの奴? …あぁドッジボールの決勝の相手か。でもなんで当事者でもない先輩が謝るんだか。

「…先輩に謝られても困ります。前にも言いましたよね」 
「だがお前は」
「他の人がやったことを橘先輩が謝ることじゃないですよ。私は本人からの謝罪しか受け取りません」
「………」

 私が謝罪を受け取らないとわかると橘先輩は沈黙した。何かを考えているようだが、私は何だか気まずくて早くこの場から離れたくなった。

「…でもお前は怒っているだろう。先程、目を逸らした」
「!?」
「不満があるなら言って欲しい。言われないとわからないから」

 あれか!! 
 いやあれは違う。なんというかその…
 
 私は正直に話すにもどう説明すればいいのかわからなくて、適当に誤魔化そうとした。
 その間も橘先輩は私をじっと見つめて返答を待っている。私は言葉に詰まって目を泳がせていた。

「えっとーあのー」
「なんだ」
「そのー…あっ! ほら私ついついムキになって三年生に対して暴言吐いてたじゃないですかー。だからそれ橘先輩に聞かれてたっぽいし? なんか気まずくなってー」
「……それは、それで俺が怒ると思ったと?」
「あは、あははは…?」
「…お前、俺がそんな狭量な男だと思っていたのか」
「えっ」
「…悪いのはクラスの奴らだ。そんなちっぽけなことで怒るわけ無いだろ」 
「あ、左様ですか…」

 橘先輩はむっすりして私から目を逸らした。

 …あれ、もしかして拗ねてる?
 橘先輩が拗ねてる顔が小さな男の子がする表情に似ていて私はつい笑ってしまった。

「…笑うな」
「だって子供みたいに拗ねるから」
「うるさい。……お前その髪の色」
「ちょっとちょっとせんぱーい。先輩はもう風紀委員じゃないんですよー? それ以上は言わせませーん」
「だがな」
「アプリコットオレンジ色なんですよ。可愛いと思いませーん?」

 良かったいつものように会話できてる。
 私はホッとした。ようやく彼の前で笑えたから。
 もう何だったんだろう。なんであんなに気まずいと思ってたんだろう。何がそんなに怖かったんだろう。
 いつもどおりの先輩なのに。


「ねぇねぇ、あんたあやめっていうの?」 
「!」

 後ろから声をかけられ、私の肩を抱いてきた人物を見上げて相手の顔を確認すると私はついつい険しい顔になってしまった。
 だってその人はドッジボールの決勝の対戦相手で私の顔面にボールを当て、あまつさえ私を笑い者にした男だったから。

「おい石野、彼女を離せ」 

 橘先輩もその人物を注意してくれたが、石野はニヤニヤ笑ったまま私から離れてくれない。
 少々チャラチャラしているが顔はフツメン。おしゃれして雰囲気イケメンになってる感じの人物。
 私とモブ度はタメ張ってると思う。

「あんた面白いよな。あんたみたいな女、結構好きなんだけど、どう? 俺と付き合わない?」

 何寝ぼけたこと言ってんだろうねこいつ。
 私がそれでいい返事するとでも思ってるんだろうか?
 何処まで人を馬鹿にするのかね。

 私はにこり、と相手に笑い返した。

「そうですね…」
「田端!?」

 側で橘先輩が慌てた声を上げているが心配しないで欲しい。
 私にだって選ぶ権利があるのだから。


「まず顔面にボールを50回位ぶつけさせてくれたら考えます」
「ぷっ、なにそれごめんなさいの返事?」
「その通りです」
「そっか残念。でも気が変わったらいつでも声かけて? あやめ」
「あ、名前呼ぶの止めてくれます?」

 相手の手を振り払い邪険にあしらうと、私は橘先輩を見上げた。

「ほら、当の本人が反省してないから橘先輩に謝られても腹の虫収まんないんですよ。わかります?」
「…そうだな。こいつは俺の方で絞っておく…じゃあまたな」

 真面目な橘先輩は彼の態度を不快に思ったのか、顔をしかめていたかと思えば石野の腕を引いて何処かへと去っていった。
 私にはいつもの冷静な表情だったけど、石野っていう人にはチビリそうなくらい怖い顔をしていた。
 うん、橘先輩を怒らせないようにしないとな。
 
 そう心に刻みつけた出来事であった。






 クラスでは打ち上げモードが漂っていたが私は遠慮させてもらった。本当にしんどいから。

 盛り上がるクラスメイトらに別れの挨拶を告げ、私は教室を出た。

「姉ちゃん」
「? どうしたの和真」
「待ってた。荷物持ってやるよ」

 教室の外で壁にもたれて携帯を触っていた和真は私を見つけるなり近づいてきて手を差し出した。

「大丈夫、そんなに怪我ひどくないから」    
「いいから貸せよ」

 和真は私の鞄を取り上げて先を行く。私は慌てて弟の後をついて行った。
 どうやら私の心配をして待っていたようだ。普段は用がない限り別々で帰るのに。
 階段を降りながら私は弟に今日の試合のことを聞いてみた。
 
「そういや和真決勝まで行ったみたいじゃん」
「負けたけどな」
「何言ってんの一年で決勝まで行けただけで充分よ。去年私は初戦負けだったんだから」
「…そーかよ……姉ちゃん優勝おめでとう」
「ありがと」

 私は和真からの祝福の言葉にくすぐったい気持ちになったが、笑ってお礼を言った。
 いつもは生意気なくせにこういうところが可愛いんだ。
 私は微笑ましい気分になっていたのだが、すぐにその気分は何処かへと吹っ飛んでいった。


「和真くーん!」
「………」
「…なに」
「和真くん惜しかったね! でもすっごくカッコよかったよ! 私ずっと応援してたの。私の声聞こえてた?」

 林道寿々奈が頬を赤くして和真に声をかけてきたのだ。彼女には私が見えてないのか、一生懸命和真にアプローチしていた。

 これ、長くなるのかな…それなら私先に帰りたい…
 
「さぁ。…もういいか? 俺帰りたいんだけど」
「そんなぁもう少しいいでしょ?」
「あんた見えてないの? ウチの姉貴が怪我してんの。だから早く家に帰りたいわけ」
「…あ、あやめちゃん…いたんだ…」

 見えてなかったんかい。
 さすが存在感の薄い姉役である私だ。派手な格好しても見えない存在ってか。
 …ん? でも橘先輩もよく存在感というか気配消すけどあれはどう違うのかな…

 私がそんなくだらないことを考えてるなんて知りもしない和真は林道寿々奈を無感情に見下ろした。
 彼女はそれにビクリと肩を揺らす。

「…早く帰ろうぜ」
「待って和真くん!」

 私の腕を引っ張って和真は足早に廊下を突っ切ると下駄箱へと向かってった。
 校門を出ると和真は後ろを振り向いて彼女が来ていないことを確認すると私の腕から手を離した。

「和真」
「姉ちゃんあの人のこと苦手なんだろ」
「! …バレてた?」
「何年弟やってると思ってんだよ。とっとと帰ろうぜ」
「…うん」


 和真はそれ以上深く彼女の話はしなかった。
 クラスで最近良く話すようになった友達の話をしてくれた。
 不良グループとつるむこともなくなり、髪は派手だけど以前の和真に戻りつつある。
 クラスでも上手くやっているようだし私は安心した。


 球技大会も終わったし、次は期末テストかと私はため息を吐いた。息が白く変わり、冬に近づいているなと実感した。




 そういえば文化祭で問題を起こしたタカギ以下数名の不良は処分が下ったそうだ。
 タカギは別件でも問題を起こしており退学。他の生徒は停学だったり、自主退学などで学校を去っていたりする。



 これで安心。と思っていたのだが…
 そうは行かなかった。


 タカギは退学になったことで、私達を逆恨みしていて、今まさに何かを企んでいたのだ。
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