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本編
私は屈しない。勝ち負けとかそんなんじゃなくて単なる意地なんだけど。
しおりを挟む「いいか。すぐに突入するからお前は何もするんじゃないぞ」
「どんだけ私信用がないんですか。とにかく行ってきますよ」
打ち合わせなんて簡単な話し合いしかしていない。
私が呼び出された場所に現れたら相手も出てくるだろうからそれを捕縛、和真を探し出して救出するというだけだ。
警察に通報するべきという意見もあったが、多分初動が遅いだろうからまず自分たちで行こうという話になった。
私は和真を救出するために風紀の面々と南町駅近くの裏路地にいた。
例のゲームセンターがここから見えるが、風紀と来てることがバレないように建物の影に隠れて待機している。反対側の路地裏の建物の裏にも風紀委員が待機しているらしい。
ゲームセンターに入ろうとする私に橘先輩が何度も念押ししてくる。私はそれにハイハイと頷いて歩を進めた。
ゲームセンターの前に立つとフゥと一呼吸おき扉を開ける。
ーーグイッ
開けた途端、何者かに腕を掴まれて私は中に引き込まれた。そう来るとは思わなかった私は勢いよくゲームセンター内に飛び込んだ。
たたらを踏んで転倒を避けると状況を判断しようと顔を上げた。
そこには、ガラの悪い男たちがたむろっており、ニヤニヤといやらしい笑みで出迎えていた。
私もさすがにこの状況には身の危険を感じ、後ずさった。
震える足を叱咤して、私は目の前にいるタカギを睨みつける。
「…来たけど。弟を返してもらえる?」
「そんな急いで帰ることないだろ? 遊んでけよ」
「そーだよ楽しもうぜ~」
「! 離して!」
タカギ1人を警戒していたせいか、背後を取られてしまい、私の体は羽交い締めにされた。
「約束が違うでしょ!? 私一人で来たんだから」
「約束ぅ? そんなのしたっけなぁ?」
「和真は!? 和真をどこにやったの!?」
「おいその女ヤッちまっていいぞ。和真に見せてやれ。大事な姉貴が犯される姿を」
「!?」
なんて奴だ。はじめからそのつもりだったのか。
私は自由に動く首を動かして弟の姿を探していたが、視界内にはいない。
「なら俺いちばーん」
「おいおい俺が先だっつの。おいこの女裏に連れてけ」
そうこうしている間にも私は男たちに引きずられるようにして奥の方へと連れて行かれそうになっていた。抵抗なんて男数人に拘束されてしまったら無駄なものらしく、私は連れて行かれるままである。
「……なにが一番だって?」
「あ?」
その声に振り返ると橘先輩がコメカミに血管を浮き上がらせて不良たちを睥睨していた。
また気配消してたのね。
先輩、こっちまでチビリそうな位怖いです。
「前回は警察沙汰にはならなかったのに…高木、お前馬鹿なことしたな。…でももう遅いぞ? 警察は呼んだ」
「な、なんで風紀が…おい!クソ女! てめぇ1人で来いっつったろ!!」
橘先輩の後ろから現れた大久保先輩がニヒルに笑んで携帯電話をチラつかせて高木にそう告げると、奴は私がひとりじゃないと気づいたようだ。
タカギが私にそう怒鳴ってきた時私を拘束していた腕が解けた。
いや、助けてもらったのだ。他でもない突入した風紀委員の面々に。
「ぐわっ!」
「うぁっ」
思ったけど風紀委員って武道できないとなれないのかね。
月並みな感想になるが、喧嘩慣れしてる不良相手にちぎっては投げちぎっては投げである。
とどのつまり超強い。
助けてもらった私はそこでぼーっと突っ立っているわけでもなく、連れ込まれそうになっていた奥の方に足を向けた。
「あっ! コラ田端!」
不良と格闘している風紀委員+αをそこに残して私は事務所がありそうな場所を探して奥へと進んでいく。周りに人がいないか確認しつつだが、念の為鞄を顔の横に構えている。
(大体トイレとかの側にあるけど…)
私の読みは当たっていたらしい。トイレ奥にシンプルな扉があってダメ元でそこを開けてみた。
「…和真!?」
扉を開けるとそこには和真がいた。
だけど弟はひどく暴行を受けたようで顔は痣だらけで口の端は切れている。
制服も所々汚れておりそのあまりな惨状に私は悲鳴のような声を上げてしまった。
「……な、で来るんだよ…」
「待っててすぐに助けるから」
和真の意識はあるらしい。だが苦しそうに息をしてる。
弟に駆け寄って手首を拘束している赤いネクタイを解こうとしゃがんだ。
固く縛られているそれに私は悪戦苦闘しながらも早く弟を連れて逃げ出そうと焦っていた。
「…てめぇ…ただじゃ置かねーぞ」
「!」
何処からか聞こえた声に私はバッと振り返る。いつの間にか私の背後にいたらしい。
タカギは私を憎々しげに見下ろし、私に手を伸ばす。
「ぐっ!」
「女だからって優しくしてやったら…舐めた真似しやがって…!」
「ど、どこがよ…」
「最初からお前を拉致してしまえばよかったな。そうすれば今頃…ハハッ」
タカギは私の制服のカッターシャツにリボンを巻き込む形で胸ぐらを掴む。息が詰まる感じがして私は苦しい表情をしたが向こうにはどうだって良いようだ。
「何もかもお前のせいだ…お前さえいなければ…」
「…じぶんの、責任じゃないの…自分がやらかしたのが原因よ」
「……」
バシッ!
「姉ちゃん!」
私はタカギから平手打ちされた。
グーじゃない辺り女扱いされているのかもしれないが、男の平手打ちは力が強い。勢いよく叩かれて頭がグラッとした。
ビリッとした痛みの後に頬にじんじんと熱がこもる。口の中を切ったようで血の味が広がった。
自分の思い通りに行かないなら暴力に走る。
なんて自己中なやつなんだろうか。
胸ぐらを掴まれた手は解けない。それ以前に男女の力の差が立ちはだかっており、私は自分の力が足りないことに悔しく思う。
だけどそれでこいつに屈するのは嫌だ。
私はタカギを睨みつける。私の睨みなんてそんな威圧感はないだろうが、私は気持ちだけでも負けたくなかった。
「大勢にならないとなんにもできない弱虫が偉そうに言ってんじゃないよ! 何でもかんでも人のせいにして! 全部自分がしてきたことのツケが回ってきたんだっつの!」
「このアマ…」
「凄んで暴力振るえばこっちが折れるとでも思った? こっちは腸煮えくり返ってるのよ! 私の弟になんてことすんだ!」
「うるせー! 元はといえば」
「ていうか悪ぶってる俺かっけーとか思ってるんだろうけど全然カッコよくないし? 大体の女の子怖がってるからね? マジだっせーし」
「なっ」
「私はあんたみたいな弱虫な卑怯者に屈する気はない!」
止まらなかった。
こんな状況下で私の脳内にアドレナリンが満ちているのか興奮状態だった。つまり好戦的になっているということ。
タカギを睨みつけて私は言いたいことを言ってやる。
こいつ今はやって行けてるだろうけど将来どうするつもりなんだろ。私が心配することじゃないんだけど。
「このっ…!」
第二弾の平手打ちがやってくると思って私はギュッと目をつぶった。
だがいつまで経ってもそれはやってこない。
そぉっと片目を開けると、タカギの腕を誰かが掴んで阻止していた。
「他の奴らはもう捕まえた。お前らは警察に引き渡すからな」
「…く、くそっ」
橘先輩だった。
急いで来てくれたのか息を切らせていた。いつもきっちりきれいに整えている髪型も制服も乱れているが怪我はなさそうで私はホッとした。
だけど気になったのは私を見てなんだか悔しそうな表情をしていたこと。
どうしたんだろう。私の左頬が赤く腫れてることを気にしてるのだろうか。
先輩の注意を無視した私が勝手に仕出かしたことだから気にすることないのに。
タカギ以下数人はやってきた警察官に連れて行かれた。拉致・暴行で立件されるだろうが、裁判とか取り調べをする警察や裁判官の判断に委ねることになるだろう。
前回は校内での暴力事件だったが、今回は校外、しかも退学したタカギは生徒じゃない。
前回よりも厳しい沙汰が降りてくれることを祈る。そんでもって反省もして欲しい。
和真はひどい怪我だったので事情聴取するより先に治療をと言われ、警察車両に乗せてもらって近くの病院まで連れてってもらうことに。
それに付き添うために一緒に乗り込んだ私だが、それを見送る橘先輩は私を見てなにか言いたげだった。
車が発進してから思い出したが、彼らにお礼を言い損ねた。
橘先輩も大久保先輩も風紀委員会を引退した身の上。しかも受験前の貴重な時期をこんな事で妨害してしまった。
…今度学校に行った時先輩二人と助けてくれた風紀委員らにお礼と謝罪をしないとな。
しんどそうに私の肩に頭を預ける和真の右手を両手でギュウと握りながら、自己嫌悪した。
なんで私はいつも彼に迷惑をかけてしまうのだろう。
がっかりされたんじゃないかな。
迷惑かけたくないのに。だけど彼は優しい人だから助けてくれる。
…先輩、手のかかる後輩でごめんなさい。心配して止めてくれたのに。
私の頬を伝う涙は、恐怖から解放された安堵の涙なのか。
ただ私はこう思った。
先輩に嫌われたくないって。
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