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本編
保健室でのやり取り【三人称視点】
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「眞田先生、ご在室でしょうか」
扉の向こうから男子生徒の声がかかり、この高校の養護教諭をしている眞田達彦は訝しげにした。
「なんだ。開いてるんだから入ってくればいいじゃないか」
「急病人を連れてきたんですが両手が塞がっておりまして」
出入り口に近づきながら相手とやり取りしていた眞田だったが、扉の向こうに元風紀副委員長の橘亮介が立っており、彼の腕の中にいる女子生徒の姿をみて目を丸くした。
彼女の顔は高熱で真っ赤になっており、苦しそうに息をしているが意識が無いようである。
「コロ!? どうしたお前!」
「………」
「熱を出してるようで意識がないんです。昨晩学校に閉じ込められてたらしくて…」
「教頭先生が朝話してた資料室で閉じ込められてた生徒ってコロだったのか! 橘、コロをベッドに寝かせてくれ」
眞田は慣れた様子で冷凍庫からアイスノン、器具置場から体温計を取り出す。
亮介は眞田の指示に従いつつも訝しげな表情をしていた。
「…先生、田端の名前はコロという名前ではありませんが…」
「細かいことはいいんだよ。コロ、体温測るからボタン開けるぞ」
「!? 何してるんですか先生!?」
眞田が病人であるあやめの体温を測定しようと、制服のリボンの留め具を外してカッターシャツのボタンを外す作業をしていると、一連の流れを眺めていた亮介がギョッとした。
眞田は胡乱げな表情で振り返る。
「…体温測るだけだよ。俺は養護教諭なんだぞ。大体ぶっ倒れてる婦女子に手を出すほど落ちぶれちゃいないぞ俺は。…ていうかお前はこっちを見るな。カーテンの外に出てろ」
「……!」
眞田の指摘に亮介はほのかに頬を赤くしてバッとカーテンの仕切りの外に出た。
それからしばらくして測定が終わった音が聞こえ、体温計を確認した眞田が「うわぁこりゃひどいな」と声を漏らしていた。
「先生…」
「橘、今からコロの保護者呼ぶから、お前はもう教室戻ってろ。もしかしたらインフルエンザの可能性もあるし、お前受験生だろ。ここ出たらうがいと手洗いしておけよ」
「ですが」
「お前に風邪がうつったらコロが気に病むだろうが」
眞田は亮介にそう指示すると、デスクの上のノートパソコンから連絡網データを引っ張り出して、何処かへと電話をかけ始めた。
「…あ、田端さんのお宅でしょうか。私、田端あやめさんの通う高校の養護教諭をしております眞田と申します…」
あやめが高熱で倒れたので、迎えに来てほしいこと、病院に連れて行ったほうがいいことなどを伝えて、眞田は電話を切った。
そして着ていた白衣を脱ぎ、パソコンとか機材とか色々片付け始めた。
「…先生、」
「橘まだいたのか。コロのお母さんが迎えに来てくれる。俺はコロを運ぶ係で出てくるから心配すんな」
眞田の言葉に亮介は安心した顔に…ならなかった。ムッスリした顔で眞田を凝視している。
「…眞田先生と、田端は親しいのでしょうか」
「ん? …なんだお前、ヤキモチか」
「…違いますけど。何だか親しげなのが気になっただけです」
教師と生徒の禁断の恋の心配でもしているのだろうか、彼の表情は強張ったままである。
眞田はそんな彼を見てフフ、と笑いを漏らした。
それには亮介は余計に顔を顰める。
「何がおかしいんですか」
「コロっていうのは昔飼ってた飼い犬の名前だ。よく似てんだよコイツと」
「い、犬…ですか…」
亮介は引きつった顔をしていた。
まさかの犬。犬に似ているって。
「コイツなんか犬っぽくね? 見た目もだけど性格が。一途というか真っ直ぐというか」
「…確かに……じゃなくて!」
ついつい納得してしまった亮介は我に返る。
眞田は苦笑いしながら亮介の肩を叩いた。
「心配しなさんな。俺は今ん所コロにそういう目を向けてないから」
「………」
「ほれ、さっさと出た出た。お前が居てもコロの熱は下がらないんだから。今のコロに必要なのは医者だよ」
グイグイと保健室の外に追い出すと、眞田は亮介に再度念押しした。
「いいな? すぐにうがい手洗いだ。お前は自分の事を心配しろ。コロは大丈夫だから」
「……わかりました」
「よし。じゃ、俺はすぐに出るからな。…あ、白根先生? 田端あやめが高熱出したんで。…あぁはい。お母さんが来られるんで私は引率で病院まで。…そうですね彼女の鞄を持ってきてもらってもいいですか?」
あやめの担任に携帯電話で連絡を取り始めた眞田は保健室内に戻っていく。
亮介はそれを見送りながら、ギュウと手を握りしめて悔しそうに顔を歪めていたが、眞田の言うとおりだということも分かっていたので振り切るように保健室に背を向けて歩き出した。
翌日、廊下ですれ違いざまに眞田から「コロは病院でただの風邪だと診断受けたけど、今日も熱が下がらないから休みだとよ」と教えられた亮介は心配そうな表情をした。
眞田はそんな亮介の肩を叩いて苦笑いする。
「熱が出たほうが風邪は治りやすいからあんまり心配すんなよ。じゃ、勉強頑張れ」
「…ありがとうございます」
亮介のお礼に対して眞田は後ろ手に手を振って応えた。
結局あやめは三日間学校を休んだ。
扉の向こうから男子生徒の声がかかり、この高校の養護教諭をしている眞田達彦は訝しげにした。
「なんだ。開いてるんだから入ってくればいいじゃないか」
「急病人を連れてきたんですが両手が塞がっておりまして」
出入り口に近づきながら相手とやり取りしていた眞田だったが、扉の向こうに元風紀副委員長の橘亮介が立っており、彼の腕の中にいる女子生徒の姿をみて目を丸くした。
彼女の顔は高熱で真っ赤になっており、苦しそうに息をしているが意識が無いようである。
「コロ!? どうしたお前!」
「………」
「熱を出してるようで意識がないんです。昨晩学校に閉じ込められてたらしくて…」
「教頭先生が朝話してた資料室で閉じ込められてた生徒ってコロだったのか! 橘、コロをベッドに寝かせてくれ」
眞田は慣れた様子で冷凍庫からアイスノン、器具置場から体温計を取り出す。
亮介は眞田の指示に従いつつも訝しげな表情をしていた。
「…先生、田端の名前はコロという名前ではありませんが…」
「細かいことはいいんだよ。コロ、体温測るからボタン開けるぞ」
「!? 何してるんですか先生!?」
眞田が病人であるあやめの体温を測定しようと、制服のリボンの留め具を外してカッターシャツのボタンを外す作業をしていると、一連の流れを眺めていた亮介がギョッとした。
眞田は胡乱げな表情で振り返る。
「…体温測るだけだよ。俺は養護教諭なんだぞ。大体ぶっ倒れてる婦女子に手を出すほど落ちぶれちゃいないぞ俺は。…ていうかお前はこっちを見るな。カーテンの外に出てろ」
「……!」
眞田の指摘に亮介はほのかに頬を赤くしてバッとカーテンの仕切りの外に出た。
それからしばらくして測定が終わった音が聞こえ、体温計を確認した眞田が「うわぁこりゃひどいな」と声を漏らしていた。
「先生…」
「橘、今からコロの保護者呼ぶから、お前はもう教室戻ってろ。もしかしたらインフルエンザの可能性もあるし、お前受験生だろ。ここ出たらうがいと手洗いしておけよ」
「ですが」
「お前に風邪がうつったらコロが気に病むだろうが」
眞田は亮介にそう指示すると、デスクの上のノートパソコンから連絡網データを引っ張り出して、何処かへと電話をかけ始めた。
「…あ、田端さんのお宅でしょうか。私、田端あやめさんの通う高校の養護教諭をしております眞田と申します…」
あやめが高熱で倒れたので、迎えに来てほしいこと、病院に連れて行ったほうがいいことなどを伝えて、眞田は電話を切った。
そして着ていた白衣を脱ぎ、パソコンとか機材とか色々片付け始めた。
「…先生、」
「橘まだいたのか。コロのお母さんが迎えに来てくれる。俺はコロを運ぶ係で出てくるから心配すんな」
眞田の言葉に亮介は安心した顔に…ならなかった。ムッスリした顔で眞田を凝視している。
「…眞田先生と、田端は親しいのでしょうか」
「ん? …なんだお前、ヤキモチか」
「…違いますけど。何だか親しげなのが気になっただけです」
教師と生徒の禁断の恋の心配でもしているのだろうか、彼の表情は強張ったままである。
眞田はそんな彼を見てフフ、と笑いを漏らした。
それには亮介は余計に顔を顰める。
「何がおかしいんですか」
「コロっていうのは昔飼ってた飼い犬の名前だ。よく似てんだよコイツと」
「い、犬…ですか…」
亮介は引きつった顔をしていた。
まさかの犬。犬に似ているって。
「コイツなんか犬っぽくね? 見た目もだけど性格が。一途というか真っ直ぐというか」
「…確かに……じゃなくて!」
ついつい納得してしまった亮介は我に返る。
眞田は苦笑いしながら亮介の肩を叩いた。
「心配しなさんな。俺は今ん所コロにそういう目を向けてないから」
「………」
「ほれ、さっさと出た出た。お前が居てもコロの熱は下がらないんだから。今のコロに必要なのは医者だよ」
グイグイと保健室の外に追い出すと、眞田は亮介に再度念押しした。
「いいな? すぐにうがい手洗いだ。お前は自分の事を心配しろ。コロは大丈夫だから」
「……わかりました」
「よし。じゃ、俺はすぐに出るからな。…あ、白根先生? 田端あやめが高熱出したんで。…あぁはい。お母さんが来られるんで私は引率で病院まで。…そうですね彼女の鞄を持ってきてもらってもいいですか?」
あやめの担任に携帯電話で連絡を取り始めた眞田は保健室内に戻っていく。
亮介はそれを見送りながら、ギュウと手を握りしめて悔しそうに顔を歪めていたが、眞田の言うとおりだということも分かっていたので振り切るように保健室に背を向けて歩き出した。
翌日、廊下ですれ違いざまに眞田から「コロは病院でただの風邪だと診断受けたけど、今日も熱が下がらないから休みだとよ」と教えられた亮介は心配そうな表情をした。
眞田はそんな亮介の肩を叩いて苦笑いする。
「熱が出たほうが風邪は治りやすいからあんまり心配すんなよ。じゃ、勉強頑張れ」
「…ありがとうございます」
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結局あやめは三日間学校を休んだ。
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