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続編
優しい男には要注意。下心があって近づいているに決まっている。
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「田端先輩!!」
「ん?」
「好きです! あたしと付き合って下さい!」
名前を呼ばれて振り返ると、華やかな外見をした一年女子に告白された。
弟が。
兄弟で同じ学校だと紛らわしいよね。同じ名字の人がいるのも判別に時間がかかるけど。
あーびっくりした。
「興味ない」
相変わらずおモテになりますこと。と他人事のごとく傍観していたら和真が冷たく振っている声が聞こえた。
入学式から2日しか経ってないというのに目をつけられるのが早すぎるだろう。
流石我が弟である。
順調に空手バカへと進化している和真は今や硬派イケメンになっていた。
姉としては「彼女とかほしくないの? それでいいのか?」と弟が心配になるところだが、弟が幸せならそれでいいと思う。
振られた女子はまさか振られるとは思っていなかったのか、すごい顔で固まっていた。
この子は外国の血が流れているのかな? 日本人にしては彫りが深く目鼻立ちのはっきりした派手な顔立ちだ。それに栗色した髪も天然のようである。
…綺麗な子だ。きっとモテるのであろう。
だがしがし和真はよく知らない女子と付き合うタイプではない。彼女になりたいなら…地道に頑張るしかないよ…
遠目から同情の眼差しを送っていると、和真が私の存在に気づいて声をかけてきた。
「姉ちゃん覗くなよ。趣味わりぃ」
「たまたま通りかかったんだよ。田端先輩って呼ばれたかと思ったらあんたがお呼ばれだったんだから仕方ないでしょ」
「あ、そ…ふぁ…」
見られた事自体そんなに気にしていないようである。和真はあくびを噛み殺し、目尻に涙が滲んでいた。
「…成長痛そんなにひどいの?」
「骨がめっちゃ痛くて眠れねー」
ここ最近和真の身長はぐんぐん伸びている。一年の時は172くらいだったらしいが、ここに来て勢いついて伸び始めたそうな。
私も小さい頃身長が著しく伸びた時に足の骨が痛んで眠れないって経験をしたけど、男の子のそれはもっと深刻みたいだ。
睡眠不足な和真の目元には薄っすらクマが出来てるが、それでも損なわれない美貌に私は少し嫉妬した。
「田端先輩! 納得いきません! あたしの何処がいけないんですか?!」
すっかり忘れていたが、まだこの子がいたんだった。
振られてショックを受けていた華やか女子が和真に問い詰めた。納得がいかないと言う。
和真は胡乱げな目を彼女に向けた。
「…よくも知らない相手と付き合うとか無理」
「つ、付き合ってればお互いの事を知ることができると思います!」
「だから興味ないんだって。それに俺、忙しいから本当に無理」
「なんで!」
なかなかガッツのある子みたいだけど和真は慣れたようにすっぱり振っていた。変に期待させるよりは余程誠実だけども、告白してる人からしたら冷たく聞こえるのかもしれない。
「うぅっ…」
「「!?」」
「ひどい…あたし、あたしが告白したのにぃ! なんでダメなの?!」
彼女の気の強そうなその瞳から大粒の涙が溢れた。それには私だけでなく和真もぎょっとした。
「お、おい…」
「男の子はみんなあたしのこと好きっていうのに、ありえないんだけど!」
「………」
「わーん!」
まさかのギャン泣きをして彼女は立ち去っていった。
「……なんだあれ」
「ニュータイプだね。どうする?」
「…いやどうもしねぇけど」
歴戦(違う)の和真でさえ動揺を見せていたが、ここで追いかけても無駄に拗れそうなので放置で行くらしい。
微妙な空気になったが、私達はそれぞれの教室に戻った。
戻った後に私はそういえばあの子は誰だったんだろうと思ったけども、うちのクラスの男子が可愛い新入生の噂話をしていたのでそれで彼女の正体は判明した。
イタリア人の血が流れたハーフの女子生徒の名は植草紅愛。日本人離れした美貌とそのメリハリついた健康美な体つきでスケベな男子共だけでなく、女子にも注目されていた。
一年だから誕生日を迎えてなければ15歳のはずなんだけど、大人っぽく見えた彼女は早くも色々な男子生徒からアプローチを受けていた。
彼女も満更では無さそうで彼らと連絡先を交換したり、スキンシップを図ったりしていて……
…なんだか、奴を彷彿させるのだけど…
私は二階の廊下の窓から、彼女が複数の男子生徒と中庭でキャッキャウフフしているのをぼんやりと眺めていた。
いかがわしいことはしていないけども、親密な雰囲気なのは見て取れる。
「アーヤーメーちゃーん? 何見てるのー?」
「……久松ーあんたあの子には遊んでくださいって頼まないわけー?」
隣のクラスの下半身節操なしが私を見かけて声を掛けてきたので警戒しつつ、窓の下を指して質問してみた。
久松はなになに?? と窓の下を見て「あぁ」と頷く
「アヤメちゃーん俺のこと見くびりすぎでしょー? 俺は誰でもいいわけじゃないんだよー?」
「それはすいませんね」
「美人だけどー…なんか違うんだよねー」
「…同族だからかな」
「え?」
以前語ったことがあるかもしれないが、この久松翔が下半身節操なしなのは寂しがりだからだ。
…ここ数日彼女の噂を聞いたり見かけたりして思ったのは、もしかしたらあの子も同じタイプなのかなと。
「結局、和真のことも顔で選んだってことなんだね」
「なにが?」
「こっちの話…ドサクサに紛れて私の腰を撫でないでくれる?」
「イッタ! ちょ、アヤメちゃん痛いんだけど!?」
ナチュラルにセクハラしてくる奴の足の甲に思いっきり踵落としをすると私は自分の教室に戻った。
★☆★
「あぁ、やっぱりティラミス食べたかった…」
「我慢せずに食べればいいものを」
「ダメなんです! 太るから!」
とある土曜日。
亮介先輩とのデートの途中、リーズナブルなイタリアンレストランで私はサイドメニューのデザートを食べるか食べまいか迷った挙げ句食べずに食事だけにした。
ミートドリア大変美味しゅうございましたよええ。
受験生になった私は最近勉強に力を入れるようになって日課のランニングを止めてしまった。
そしたらお肉が体に出戻ってきてしまったのだ。
炭水化物や油分、間食を減らそうとはしてるけど勉強してるとどうしても糖分や炭水化物を必要としてしまう。つまり減らせていない。
こんなぷにぷにわがままボディでは先輩に幻滅されてしまうじゃないの! 見せる予定はないけども!
「女は多少太っても問題ないだろう」
「複雑な乙女心なんですよ! そんなこと言って私が力士みたいになったらどうするんですか!」
「例えが極端すぎる」
亮介先輩に呆れた顔をされたけども、私にとっては死活問題である。
私は見えもしないお腹を腕で隠しながら先輩を見上げた。
「それより先輩、最近大学はどうですか?」
「大学? …最近漸く慣れてきたかな。高校とは全く違うからはじめは戸惑ったけども」
私は半分現実逃避気味に、先輩のキャンパスライフについて質問攻めにした。
この後特に行く宛もなかったのでおしゃべりしながらお店を冷やかしつつ街をぐるぐる回っていたのだけど、建物の壁に大きく貼られた水族館のポスターが私の目が止まり、今度行きましょうよと先輩を誘おうとしていた私の耳に「ねぇねぇいいじゃんいこうよ~」という男の下心満載の声が入ってきた。
なんだ? と思って振り返るとそこにはあの植草紅愛が柄の悪そうな男数人に囲まれていた。
植草さんはウエーブのかかった栗色の髪を指でクルクル弄び「えーどうしようかなぁ」と勿体振っていたけども、どうみても危険な匂いしかしない。
あの子は何を考えているのか。
和真に告白して振られてギャン泣きしたかと思えば、来る者は拒まずで男の子とつるんでるし。
……そう言えばあの子が女友達といる姿を見たことがない。
「…あやめ、どうした?」
「…あの子新一年生なんですよね。久松にちょっと気質が似てると言うか……ちょっと危なそうだから救出してきていいですか?」
急に立ち止まった私へ声を掛けてきた先輩にそうお伺いを立てると彼は顔を顰めた。
ですよね。
ていうか無言で私の腕をがっしり掴まないで下さい。特攻しませんから。
先輩は私に「ここで待ってろ」と告げると、その集団に近づいて話を付けていた。
チンピラ風の男にイチャモンをつけられていたが冷静にあしらって植草さんの背中を押してこっちに戻ってきた。
隙のない華麗な救出である。流石だ。
「え、なに? だれ!?」
植草さんは知らない男性に連行されているのに混乱しているようだった。私のことは知らないかもだから自己紹介をしておこうかな。
「私、田端和真の姉だけど。こんにちは植草さん」
「えっ…田端先輩の…?」
「あのさ、植草さんは女の子なんだから不特定多数の男と遊ぶマネはしないほうがいいよ」
「……」
私の指摘に彼女は口を閉ざし、構えてこちらを伺ってくる。
余計なお節介かも知れないけど、見捨てるのも目覚めが悪いので私はお説教をさせてもらう。
「女の子は力も弱いし、男には敵わないんだから。…傷つけられたら一生その傷を引き摺らないといけないんだよ。色んな人と遊ぶよりも自分を大事にしてくれる恋人作ったほうがいいと思う」
「……なんであんたにそんな事言われなきゃいけない訳?」
「そんな事してたら誰にも大切にしてもらえなくなるよ。あなたは利用されて軽い女として見られるだけなんだから」
「だって! みんなあたしのこと綺麗だって褒めてくれるもん! 仲良くして何が悪いの!?」
彼女は反論してきたがその理由に私は閉口した。
確かにあなたはとても美人だとも。
だけど彼女がしてる行動は言い方が悪いけど、尻軽な行いと取られても仕方がない。
「そういう風に言ってくる人は下心があるって分かってる?」
「…優しくしてくれるもん。女の子はみんなあたしに冷たいけど男の子は優しくしてくれるもん!」
逆ハー築いてる女子に好感持つって余程その人がコミュニケーション能力高いんだと思う。
大体は妬み嫉み買うよ。うん。
なんかもう対話にならないので私は諦めることにした。
「……あなたがそれでいいなら私はもうこれ以上言わないけどさ……もっと自分を大事にしなよ」
私はため息を吐いて、側で口を挟まないで待機していた亮介先輩に「すいません行きましょう」と声を掛けた。
「…いいのか?」
「いいですもう」
スッキリしないなぁ…
私は彼の腕に抱きついて甘えてみた。歩きにくいだろうに先輩はそのままにしてくれた。
気を取り直して先輩に「暑くなったら水族館に行こう」と誘いながらデートを再開したのである。
★☆★
「田端先輩っ!」
「ん? …あぁ和真か」
また名前を呼ばれたけどもそれが植草さんだったので、呼ばれたのは自分じゃないと判断して私は昇降口を出た。
「ちょ!? ちょっとちょっと! 待ってくださいよ田端先輩!」
植草さんにガシッと腕を掴まれて、自分が呼ばれていたと気づいた私は訝しげに彼女を見上げる。
一昨日の土曜の事で苦情でもあるのだろうか。
……だけどその割には彼女の目はキラキラ輝いていた。
「あのーあたしとプリ撮りに行きません?」
「……………あ?」
予想範囲外のセリフに私は気の抜けた返事を返していた。
「あたしー女の子とプリ撮ったことないんですよぉ。あっメッセージアプリのIDも交換してくれません?」
「………なんで?」
私の疑問はもっともだと思う。
どうしてあれからこうなるのか理解できないんですけど。
イソイソとスマホを取り出す植草さんを見上げながら私は異様なものを見るかのような目で彼女を見た。
それに気づいた植草さんは、照れくさそうにはにかんだ。
「あたし…あんなこと言われたの初めてだった…」
「……あんなこと?」
「…自分を大事にしろって…誰もそんな事言ってくれなかったもん…」
ポッと頬を赤らめる美少女。あらかわいい。
だけど、なんだろう。そんなに心に響く言葉ではない気がするんだけど。
私の疑問に答えるかのように聞いてもないのに植草さんは語りだした。
「ほら、あたしハーフでしょ? 今でこそハーフ芸能人のお陰で楽になったけど、昔は仲間はずれとかされていじめられてたんです…」
「…そうだったんだ…」
最近は外国人がいても珍しくなくなっているというのにハーフだからと差別を受けていたのか。
子供って残酷だなぁ…いや、もしかしたら大人のせいでそんな事したのかもしれないけど。
「だから…中学生になってから男の子に優しくされて嬉しかった。あたし、いつもひとりぼっちだったから」
「…そう」
「でも田端先輩の言葉で目が覚めました。あんなの間違ってるって! あたし本当は女の子と遊びに行ったりしたかったんだって」
「うん…」
「だからプリ撮りに行きましょ? そんでクレープとかアイス食べに行きましょ?」
キラキラキラキラ…
めっちゃ期待の眼差しを向けられてるー!
そんなつもりじゃなかったんだけど。
おい、もう乙女ゲームは終わったぞ。そんでもって私はギャルゲーの主人公でもないぞ。
美少女に囲まれても私は女なんだからな。
…だけど私には断るなんて出来なかった。
恋愛偏差値は高いであろう植草さんは友情偏差値は底辺だ。
私という実績を作ればこれから女友達が出来ていくはずだろう。
先輩として…先輩としてだな…
彼女の希望通り、街のゲームセンターでプリクラを撮った。その後クレープ屋にも行ったんだけど食事制限ダイエット中(出来ていない)のくせに甘いものを食べてしまった私は食べた後に自己嫌悪に陥ったのである。
…植草さん。先輩は受験生だからメッセージ連打は勘弁してくれ。
「ん?」
「好きです! あたしと付き合って下さい!」
名前を呼ばれて振り返ると、華やかな外見をした一年女子に告白された。
弟が。
兄弟で同じ学校だと紛らわしいよね。同じ名字の人がいるのも判別に時間がかかるけど。
あーびっくりした。
「興味ない」
相変わらずおモテになりますこと。と他人事のごとく傍観していたら和真が冷たく振っている声が聞こえた。
入学式から2日しか経ってないというのに目をつけられるのが早すぎるだろう。
流石我が弟である。
順調に空手バカへと進化している和真は今や硬派イケメンになっていた。
姉としては「彼女とかほしくないの? それでいいのか?」と弟が心配になるところだが、弟が幸せならそれでいいと思う。
振られた女子はまさか振られるとは思っていなかったのか、すごい顔で固まっていた。
この子は外国の血が流れているのかな? 日本人にしては彫りが深く目鼻立ちのはっきりした派手な顔立ちだ。それに栗色した髪も天然のようである。
…綺麗な子だ。きっとモテるのであろう。
だがしがし和真はよく知らない女子と付き合うタイプではない。彼女になりたいなら…地道に頑張るしかないよ…
遠目から同情の眼差しを送っていると、和真が私の存在に気づいて声をかけてきた。
「姉ちゃん覗くなよ。趣味わりぃ」
「たまたま通りかかったんだよ。田端先輩って呼ばれたかと思ったらあんたがお呼ばれだったんだから仕方ないでしょ」
「あ、そ…ふぁ…」
見られた事自体そんなに気にしていないようである。和真はあくびを噛み殺し、目尻に涙が滲んでいた。
「…成長痛そんなにひどいの?」
「骨がめっちゃ痛くて眠れねー」
ここ最近和真の身長はぐんぐん伸びている。一年の時は172くらいだったらしいが、ここに来て勢いついて伸び始めたそうな。
私も小さい頃身長が著しく伸びた時に足の骨が痛んで眠れないって経験をしたけど、男の子のそれはもっと深刻みたいだ。
睡眠不足な和真の目元には薄っすらクマが出来てるが、それでも損なわれない美貌に私は少し嫉妬した。
「田端先輩! 納得いきません! あたしの何処がいけないんですか?!」
すっかり忘れていたが、まだこの子がいたんだった。
振られてショックを受けていた華やか女子が和真に問い詰めた。納得がいかないと言う。
和真は胡乱げな目を彼女に向けた。
「…よくも知らない相手と付き合うとか無理」
「つ、付き合ってればお互いの事を知ることができると思います!」
「だから興味ないんだって。それに俺、忙しいから本当に無理」
「なんで!」
なかなかガッツのある子みたいだけど和真は慣れたようにすっぱり振っていた。変に期待させるよりは余程誠実だけども、告白してる人からしたら冷たく聞こえるのかもしれない。
「うぅっ…」
「「!?」」
「ひどい…あたし、あたしが告白したのにぃ! なんでダメなの?!」
彼女の気の強そうなその瞳から大粒の涙が溢れた。それには私だけでなく和真もぎょっとした。
「お、おい…」
「男の子はみんなあたしのこと好きっていうのに、ありえないんだけど!」
「………」
「わーん!」
まさかのギャン泣きをして彼女は立ち去っていった。
「……なんだあれ」
「ニュータイプだね。どうする?」
「…いやどうもしねぇけど」
歴戦(違う)の和真でさえ動揺を見せていたが、ここで追いかけても無駄に拗れそうなので放置で行くらしい。
微妙な空気になったが、私達はそれぞれの教室に戻った。
戻った後に私はそういえばあの子は誰だったんだろうと思ったけども、うちのクラスの男子が可愛い新入生の噂話をしていたのでそれで彼女の正体は判明した。
イタリア人の血が流れたハーフの女子生徒の名は植草紅愛。日本人離れした美貌とそのメリハリついた健康美な体つきでスケベな男子共だけでなく、女子にも注目されていた。
一年だから誕生日を迎えてなければ15歳のはずなんだけど、大人っぽく見えた彼女は早くも色々な男子生徒からアプローチを受けていた。
彼女も満更では無さそうで彼らと連絡先を交換したり、スキンシップを図ったりしていて……
…なんだか、奴を彷彿させるのだけど…
私は二階の廊下の窓から、彼女が複数の男子生徒と中庭でキャッキャウフフしているのをぼんやりと眺めていた。
いかがわしいことはしていないけども、親密な雰囲気なのは見て取れる。
「アーヤーメーちゃーん? 何見てるのー?」
「……久松ーあんたあの子には遊んでくださいって頼まないわけー?」
隣のクラスの下半身節操なしが私を見かけて声を掛けてきたので警戒しつつ、窓の下を指して質問してみた。
久松はなになに?? と窓の下を見て「あぁ」と頷く
「アヤメちゃーん俺のこと見くびりすぎでしょー? 俺は誰でもいいわけじゃないんだよー?」
「それはすいませんね」
「美人だけどー…なんか違うんだよねー」
「…同族だからかな」
「え?」
以前語ったことがあるかもしれないが、この久松翔が下半身節操なしなのは寂しがりだからだ。
…ここ数日彼女の噂を聞いたり見かけたりして思ったのは、もしかしたらあの子も同じタイプなのかなと。
「結局、和真のことも顔で選んだってことなんだね」
「なにが?」
「こっちの話…ドサクサに紛れて私の腰を撫でないでくれる?」
「イッタ! ちょ、アヤメちゃん痛いんだけど!?」
ナチュラルにセクハラしてくる奴の足の甲に思いっきり踵落としをすると私は自分の教室に戻った。
★☆★
「あぁ、やっぱりティラミス食べたかった…」
「我慢せずに食べればいいものを」
「ダメなんです! 太るから!」
とある土曜日。
亮介先輩とのデートの途中、リーズナブルなイタリアンレストランで私はサイドメニューのデザートを食べるか食べまいか迷った挙げ句食べずに食事だけにした。
ミートドリア大変美味しゅうございましたよええ。
受験生になった私は最近勉強に力を入れるようになって日課のランニングを止めてしまった。
そしたらお肉が体に出戻ってきてしまったのだ。
炭水化物や油分、間食を減らそうとはしてるけど勉強してるとどうしても糖分や炭水化物を必要としてしまう。つまり減らせていない。
こんなぷにぷにわがままボディでは先輩に幻滅されてしまうじゃないの! 見せる予定はないけども!
「女は多少太っても問題ないだろう」
「複雑な乙女心なんですよ! そんなこと言って私が力士みたいになったらどうするんですか!」
「例えが極端すぎる」
亮介先輩に呆れた顔をされたけども、私にとっては死活問題である。
私は見えもしないお腹を腕で隠しながら先輩を見上げた。
「それより先輩、最近大学はどうですか?」
「大学? …最近漸く慣れてきたかな。高校とは全く違うからはじめは戸惑ったけども」
私は半分現実逃避気味に、先輩のキャンパスライフについて質問攻めにした。
この後特に行く宛もなかったのでおしゃべりしながらお店を冷やかしつつ街をぐるぐる回っていたのだけど、建物の壁に大きく貼られた水族館のポスターが私の目が止まり、今度行きましょうよと先輩を誘おうとしていた私の耳に「ねぇねぇいいじゃんいこうよ~」という男の下心満載の声が入ってきた。
なんだ? と思って振り返るとそこにはあの植草紅愛が柄の悪そうな男数人に囲まれていた。
植草さんはウエーブのかかった栗色の髪を指でクルクル弄び「えーどうしようかなぁ」と勿体振っていたけども、どうみても危険な匂いしかしない。
あの子は何を考えているのか。
和真に告白して振られてギャン泣きしたかと思えば、来る者は拒まずで男の子とつるんでるし。
……そう言えばあの子が女友達といる姿を見たことがない。
「…あやめ、どうした?」
「…あの子新一年生なんですよね。久松にちょっと気質が似てると言うか……ちょっと危なそうだから救出してきていいですか?」
急に立ち止まった私へ声を掛けてきた先輩にそうお伺いを立てると彼は顔を顰めた。
ですよね。
ていうか無言で私の腕をがっしり掴まないで下さい。特攻しませんから。
先輩は私に「ここで待ってろ」と告げると、その集団に近づいて話を付けていた。
チンピラ風の男にイチャモンをつけられていたが冷静にあしらって植草さんの背中を押してこっちに戻ってきた。
隙のない華麗な救出である。流石だ。
「え、なに? だれ!?」
植草さんは知らない男性に連行されているのに混乱しているようだった。私のことは知らないかもだから自己紹介をしておこうかな。
「私、田端和真の姉だけど。こんにちは植草さん」
「えっ…田端先輩の…?」
「あのさ、植草さんは女の子なんだから不特定多数の男と遊ぶマネはしないほうがいいよ」
「……」
私の指摘に彼女は口を閉ざし、構えてこちらを伺ってくる。
余計なお節介かも知れないけど、見捨てるのも目覚めが悪いので私はお説教をさせてもらう。
「女の子は力も弱いし、男には敵わないんだから。…傷つけられたら一生その傷を引き摺らないといけないんだよ。色んな人と遊ぶよりも自分を大事にしてくれる恋人作ったほうがいいと思う」
「……なんであんたにそんな事言われなきゃいけない訳?」
「そんな事してたら誰にも大切にしてもらえなくなるよ。あなたは利用されて軽い女として見られるだけなんだから」
「だって! みんなあたしのこと綺麗だって褒めてくれるもん! 仲良くして何が悪いの!?」
彼女は反論してきたがその理由に私は閉口した。
確かにあなたはとても美人だとも。
だけど彼女がしてる行動は言い方が悪いけど、尻軽な行いと取られても仕方がない。
「そういう風に言ってくる人は下心があるって分かってる?」
「…優しくしてくれるもん。女の子はみんなあたしに冷たいけど男の子は優しくしてくれるもん!」
逆ハー築いてる女子に好感持つって余程その人がコミュニケーション能力高いんだと思う。
大体は妬み嫉み買うよ。うん。
なんかもう対話にならないので私は諦めることにした。
「……あなたがそれでいいなら私はもうこれ以上言わないけどさ……もっと自分を大事にしなよ」
私はため息を吐いて、側で口を挟まないで待機していた亮介先輩に「すいません行きましょう」と声を掛けた。
「…いいのか?」
「いいですもう」
スッキリしないなぁ…
私は彼の腕に抱きついて甘えてみた。歩きにくいだろうに先輩はそのままにしてくれた。
気を取り直して先輩に「暑くなったら水族館に行こう」と誘いながらデートを再開したのである。
★☆★
「田端先輩っ!」
「ん? …あぁ和真か」
また名前を呼ばれたけどもそれが植草さんだったので、呼ばれたのは自分じゃないと判断して私は昇降口を出た。
「ちょ!? ちょっとちょっと! 待ってくださいよ田端先輩!」
植草さんにガシッと腕を掴まれて、自分が呼ばれていたと気づいた私は訝しげに彼女を見上げる。
一昨日の土曜の事で苦情でもあるのだろうか。
……だけどその割には彼女の目はキラキラ輝いていた。
「あのーあたしとプリ撮りに行きません?」
「……………あ?」
予想範囲外のセリフに私は気の抜けた返事を返していた。
「あたしー女の子とプリ撮ったことないんですよぉ。あっメッセージアプリのIDも交換してくれません?」
「………なんで?」
私の疑問はもっともだと思う。
どうしてあれからこうなるのか理解できないんですけど。
イソイソとスマホを取り出す植草さんを見上げながら私は異様なものを見るかのような目で彼女を見た。
それに気づいた植草さんは、照れくさそうにはにかんだ。
「あたし…あんなこと言われたの初めてだった…」
「……あんなこと?」
「…自分を大事にしろって…誰もそんな事言ってくれなかったもん…」
ポッと頬を赤らめる美少女。あらかわいい。
だけど、なんだろう。そんなに心に響く言葉ではない気がするんだけど。
私の疑問に答えるかのように聞いてもないのに植草さんは語りだした。
「ほら、あたしハーフでしょ? 今でこそハーフ芸能人のお陰で楽になったけど、昔は仲間はずれとかされていじめられてたんです…」
「…そうだったんだ…」
最近は外国人がいても珍しくなくなっているというのにハーフだからと差別を受けていたのか。
子供って残酷だなぁ…いや、もしかしたら大人のせいでそんな事したのかもしれないけど。
「だから…中学生になってから男の子に優しくされて嬉しかった。あたし、いつもひとりぼっちだったから」
「…そう」
「でも田端先輩の言葉で目が覚めました。あんなの間違ってるって! あたし本当は女の子と遊びに行ったりしたかったんだって」
「うん…」
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…だけど私には断るなんて出来なかった。
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…植草さん。先輩は受験生だからメッセージ連打は勘弁してくれ。
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