攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
107 / 312
続編

冷静に話し合いましょう。仲直りがしたいのです。

しおりを挟む
【ピーンポーン! ピポッポポーン!】

 勢い余ってチャイムを連打してしまった。
 感情に任せて来てしまったけども彼はいるだろうか。
 応答を待つ間が長く感じた。
 走ってきたせいか、それとも緊張なのか私の心臓はバクバクしている。


 ……応答がない。
 やっぱり居ないのだろうか。

 私はがっかりと肩を落とす。
 だけどここに待ち伏せするのもアレなので、今日の所は帰ろうと踵を返した。
 先輩の部屋のドアに背中を向けて三歩くらい歩き始めた時、ガチャリと解錠される音がしてドアが開かれた。
 振り返る間もなく、そこから伸びてきた腕に私は引きずり込まれた。


「!?」
「………」

 私は先輩に抱きしめられていた。
 いきなりのハグにびっくりして固まっていたが、先輩の腕の力はなかなか強く、少々苦しくなってきた。

「…先輩苦しいです。……私、話をしに来たんです」

 そう言うと、先輩の腕がピクリと動いた気がする。
 私は先輩の胸に埋まっていた顔を上げて、先輩と目を合わせると私は真剣な目で言った。

「…先輩、あの人はやばいです。先輩のこと狙ってますけど、あの人…光安さんと付き合ったらブランド品のように扱われ、貢がされてポイされます」
「………は?」
「他の男の腕にも抱きついてたんですよ! サークル荒らしの女王って他の大学でも有名なんですって!!」

 真面目な先輩みたいなタイプが一番引っかかりやすい女だと思うんだ! 

「……話というのはそれなのか?」
「え? …あ、えっと」

 サークル荒らしの女王の話を聞いて慌ててやってきたけども、そう言えば私達喧嘩別れしたんだった。
 だけどあの時言ったことは本音だ。
 謝るというのは…

「…当てつけみたいにお兄さんの腕に抱きついて見せてすいませんでした。だけどああでもしないと先輩は分かってくれないかと思って」
「……俺も、お前の気持ちを推し量ってやれてなくて悪かった。本当にすまない。だけど、ああいうのはもうやめてくれ……兄さんには話すのに、俺には何も話してくれない……俺はお前の一体何なんだ?」

 そう言って私の頬を撫でる先輩。
 大きくて優しい手の感触に私の目にはジワリと涙が浮かぶ。

「ご、ごめんなさい、わたし嫌われたくなくて、」

 泣きたくないのに、涙がこみ上げてきて私の声は震える。

「…私、本当は信じたいんです。だけど不安で仕方がないんです。…嫉妬心をぶつけたら、先輩にうんざりされちゃうんじゃないかって怖いんです」
「…何を言ってるんだ」
「私は地味なんですよ!? 化粧してもそれなりにしかなれない。なんにも魅力がないんです! 先輩の隣にいても釣り合わないんです。だから嫉妬をして先輩にうんざりされて嫌われるのが怖かった…だから我慢してたんです」

 自分のコンプレックスを先輩にぶつけてもどうしようもないのに私は止められずに先輩に向かって吐き出していた。

「私、彼女なのに先輩に何もさせてあげられてない」
「…そんな事ない」
「だって! 光安さんが、先輩と寝てないでしょって、先輩可哀想だって…先輩もらうって言ってたんですもん!」

 私はしゃくり上げ始めた。
 泣いたら私の鎧が取れてしまうというのに。
 決壊し始めた私の涙を先輩の指が拭う。涙で視界が歪んでいるけどもきっといま先輩は困った顔をしていると思う。

「……俺はお前の中身を好きになった。それだけじゃダメか? そりゃあ俺も男だからいずれはお前とそういう行為をしたいとは思っているが……その行為をする為にお前と付き合ってるんじゃない。お前が好きだから一緒にいるんだ」
「でも、でも…」

 先輩の言葉は嬉しい。私を大切にしてくれてるって感じるから。でも他人の言った言葉が深く突き刺さってそれだけじゃ私は安心できなかった。
 不安なのだ。怖いのだ。先輩の言葉だけを信じたいのに、雑音が耳に残っていて言いようのない不安が襲ってくるのだ。

「それに他人の言葉を気にする必要はないと思うんだが?」
「先輩はカッコいいからわからないんです! 私だって、和真みたいにキレイな顔立ちなら、堂々と胸を張って先輩の隣に立てるのに、どうして私はこんななんだろ…」
 
 先輩が私の頬を指で撫でて宥めてきた。
 だがしかし、私の容姿のコンプレックスは相当根深い。
 もしも美形な弟じゃなかったらここまでではなかっただろう。
 田端あやめになる前の前世の記憶がうっすらあるにしても、私は私。田端あやめなのだ。今まで受けてきた心の傷は今でも尚、私の心に巣食っている。

 こんな事を先輩に言っても仕方ないと分かっている。だけどどうもこの間から負の感情が表に出やすくなっていて止まらなくなっていた。

「…お前が色々と不安に思ってるのを知ってたが、ここまで思いつめさせていたとは思わなかった……本当にすまん。俺も行動を改めるよう努力する。だけどすぐには無理だから何か気になることがあったらその都度言って欲しい」
「…でも、重い女っていやでしょ?」

 スンスンと鼻を啜りながら、ポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。
 いつまでも玄関で話していても仕方がないからと先輩に手を引かれて部屋の中に通された。ワンルームの部屋に配置された二人掛けの小さなソファに座らされると、隣に先輩も座った。

「…程度によるけど、お前のそれはそこまで負担に思わない。…俺達はお互いのことを全ては分かっていない。俺もお前に話していないことがあるし、俺だってお前の過去に何があったかも知らない。話したくないことは話す必要はないけど、今回みたいなことで我慢するのはやめろ」
「…でも私、うんざりされて嫌われたくないんです」

 こんなにも気分が落ち込むのは梅雨のせいなのだろうか。光合成しないと調子が出ない植物と同じなのか私は。
 大体、何でもかんでも話すっていうのは今は良くても、そのうち愛想つかされそうで怖い。

 自分のこの言いたいことを押し殺す姿勢は良くないとは自分でもわかっている。だけど好きだからこそ臆病になってしまうのだ。
 暗い方に考え込んでいた私は俯きがちになっていた。
 すると何を思ったのか、いつまでもうじうじジメジメしている私の鼻を先輩がぶにっと摘んだ。

「ふぐっ!?」
「お前は何でもかんでも我慢しすぎだ。今度からグダグダ考えてないでちゃんと言え。交際は二人でするものだとお前が言ったんだろうが」
「でも」
「でももしかしもない」

 先輩に鼻を摘まれて目を白黒させていた私だったが、先輩の腕に引き寄せられて彼の胸に収まった。
 先輩の大きな手が私の頭を撫でる。

「ごめんなさい…」
「もう泣くな。分かったから」

 溢れてくる涙が先輩のシャツに染み込んでいく。
 マスカラなのかアイライナーなのかわからないが、先輩のシャツに涙と共に染み込む黒い染料。

 あ、私完璧アイメイク落ちてるわ。

「先輩、ちょっと…化粧直ししてもいいですか?」
「今ここで言うか?」

 顔を見られないように下を向いていたのだけど、先輩に顔を上に向けられてしまった。
 先輩と目が合った私は自分の裸を見られたような気分になり、顔を逸らそうとしたが、先輩は何を思ったか私の化粧が落ちてぐちゃぐちゃの顔のあちこちに口付けを落とし始めた。

「や、ちょ…すっぴんだから見ないで!」
「大丈夫、可愛い」
「え…」
 
 その言葉に私はぽかんとする。
 だって先輩が私を可愛いと言ったのは初めてだったから。
 この流れで言われるのは慰めなのかもしれないと私は疑ってかかってていたけども、そんな私の内心を読み取ったのか先輩が眉をしかめた。

「…お前、今お世辞だとか思ってるだろう」
「…なんでわかったんですか?」
「顔に出てる。……健一郎に言われた時はヘラヘラ笑っていたくせに…」
「いつの話してるんですか」

 拗ねてしまった。
 だいぶ前のこと引っ張ってきたぞこの人。

「…俺は気の利いた言葉を言うのが下手くそなんだ。知っているだろう」
「…先輩、拗ねても可愛いだけですよ」
「……男に可愛いとか言うな」

 ムッスリした先輩が私の唇に噛み付くようなキスを落とした。
 私はそれを受け入れていたのだが、なんだか先輩に体重をかけられているようで、後ろに倒れそうになるのをなんとか踏ん張った。
 だがしかし、先輩は尚も体重をかけてくる。その重みに耐えきれずに私の体はソファに倒れ込んだ。
 
 ソファに寝転んだ私の上に乗り上がった先輩と目が合った。

「先輩、」
「…あやめ」

 頬を撫でられ、先輩の唇が私の唇をなぞるように触れて重なった。それと同時進行で彼の手が私の胸の上に乗っかっていた。

 ここまで来て何もわからないほど私もおこちゃまではない。目標体重にはまだ到達していないが、このまま先輩に抱かれても構わないと思っていた。

 私の制服のリボンの留め具を外され、カッターシャツのボタンに手がかかる。
 部屋が静かすぎて、心臓がドキドキしているのが自分の耳に大きく聞こえてくる。この音が先輩にバレているかもしれない。
 シャツの一番下のボタンまで外されると、下着の上に着用しているキャミソールが現れる。その上から大きな手が私の身体を撫でてきた。

 そんなにマジマジと見ないで欲しい。恥ずかしいから。
 あとお腹は触るなとあれほど言っているのになんで触るかな。ポンポンは撫でなくていいです。

 先輩の熱い手が私の首から鎖骨を撫で、キャミソールに指をかける。私はドキッとして先輩の手を掴んで止めようとしたが、その動きを読んだらしい先輩は私の鼻の頭に宥めるようにキスを落とす。
 好奇心の裏に隠れた未知の恐怖をごまかすために、先輩の首に抱きついて自分からキスをした。


【♪……】

 そのタイミングで着信音は流れた。
 私達の動きはピタリと止まり、私の鞄に目が行く。

 私は手の届く距離に置いてあった鞄に手を伸ばしてスマホを取り出して見ると、液晶画面には【母さん】と表示されていた。
 それを見ていた先輩も出ていいと頷いていたので私は母からの電話に出た。

「…もしもし…?」

 訝しげな声が出ていた気がする。
 だけど電話口で言われた母の言葉に私はハッとした。

「ご、ごめん。すぐ帰る。うん、じゃあね」

 電話を切ると、開かれたカッターシャツの前を手で抑えながら私は先輩に頭を下げた。

「門限が迫ってるんで…その、すいません……」
「………わかった。送っていく」

 20時近くになっているなんて気づかなかった。
 私は慌ててカッターシャツのボタンを締めていたのだけど、ソファから立ち上がった先輩が背中を向けた状態で深い溜め息を吐いているのが聞こえて、何だかとても申し訳ない気持ちになったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...