攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
136 / 312
続編

私だって変わったんだ。いつまでも黙っていると思うな。

しおりを挟む


「あれー? そこにいるのってもしかしなくても田端ー?」
「………蛯原…さん」

 まさかの遭遇である。
 久松にしてもこの人にしてもなんで今日海に来るんだよ…タイミング悪いなぁ…

 私はもう表情を取り繕うことはせずに蛯原を睨みつけることにした。
 目の前に居る蛯原は黄色ドット柄のビキニスカート姿で、サーファー風の20代くらいの男性に肩を抱かれていた。…やけに親しげだが…彼氏か?
 ……え、この人彼氏いるのにこの前、亮介先輩に色仕掛けしてきたの?
 私はそれにショックを受けていた。

 蛯原はこちらをまじまじ観察してきた。私のいるパラソルの下に荷物が沢山置いてあることを確認すると、片眉をヒョイと動かして「誰かと来てんの?」と尋ねてきた。

「…友達や彼氏と来たけど」
「ふーん?」
「友達?」
「ううんー元クラスメイトなだけー」

 サーファー風の男性…サーファー兄さんの問いに蛯原は鼻で笑うと、私を見下すような視線を送ってきた。
 …あー同じ空間に居るだけでイライラしてきたぞ。なんだ。何の目的でここに居るんだよ。
 私がイライラしているのに気づいているのかいないのか、蛯原はドヤ顔をしてサーファー兄さんの腕に抱きついた。
 ドヤ顔されても全然羨ましくともなんともないんですけどなんなの? この間の仕返し?

「……ていうかーあんた、その格好可愛いとでも思ってんの? 全然似合ってないんだけど」
「は…?」
「弟と違って地味顔なんだからスク水でも着てろっての。調子のんないでくれる?」

 蛯原は私を貶し始めた。
 …何故そこまで言われないといけないのか。
 ユカとリンにお墨付きをもらった水着だ。高かったけど気に入っているそれを似合ってないと言われて私は悔しくなった。

「…調子乗るとか…言っている意味がよくわからないんだけど」
「は? お勉強は出来るくせにあたしの言ってることわかんないの?」
「…あんたにそこまで貶される謂われはないんだけど。気分悪いからどこかに行って?」

 私が反抗するとは思っていなかったのか蛯原の顔は苛立たしげに歪み始めた。
 昔の私なら黙って耐えていたことであろう。でも、中3の時の私とは違う。私だって成長したんだ。
 こいつの嫌がらせに身を縮めて耐えるだけなんてもう嫌だ。せめて一矢報いたい。

「なによ…イケメンの彼氏がいるからって……あんたなんかそのうち飽きられて捨てられるに決まってるんだから。…ほんっと、田端のくせに生意気…」
「お生憎様。私は先輩に大切にされてるし、超ラブラブですから」
「なっ…!」
「…田端のくせに、ってなに? あのさ私は弟に変な女を紹介したくなかった訳よ。それに私がなんで協力しないといけない訳? 断って何が悪いの? どうしてそれで私は一年間ハブられないといけなかったの?」

 中3の時からずっと表には出さなかった私の不平不満を主犯だった蛯原にぶつけてみた。蛯原は私を睨みつけてくるが、私は負けじと睨み返してやる。
 私と蛯原の間が刺々しいものになっていると気づいたサーファー兄さんは居心地悪そうに、しかし蛯原に腕を掴まれているからここから立ち去れずにいた。
 ……この人蛯原の彼氏じゃないのだろうか?

「うるさいブスのくせに!」
「あんたさ、人のこと言える顔面してるの? 私と同じで化粧で綺麗にしてるだけじゃん。それブーメランだからね?」

 蛯原も私と同じ平凡な容姿の持ち主だ。化粧をして綺麗になっているのは私と同じ。本当は人の容姿のことを悪く言うのは嫌だけど、ムカッときたから言い返してやった。
 仮に私が和真に紹介したとしても絶対に付き合える保証はない。上手く行かなかったら行かなかったで結局同じことをされていたと思う。
 100%付き合える保証なんてないのに、今まで紹介を求めてきた人はそれを考えないわけ? 
 私は和真の姉なんだよ? その姉をいじめるような真似したら和真は悪印象を持つとか考えないの?
 蛯原はいつまで根に持つのか。
   
 蛯原は見るからにイライラしていた。
 蛯原も私と同じように容姿コンプレックスがあるのか。それとも私に言われたのがただ単に腹が立ったのか…

「進学校に通ってて、イケメンの彼氏がいるからっていい気にならないでよ…!」
「……は?」
「あんたみたいな女が一番嫌い! 飄々ひょうひょうとして好いとこ取りしてるあんたみたいなズルい女!」


 …飄々してる? 好いとこ取り?
 ……ズルい女??

 何を言ってんだろうねこの人。
 私が何の努力もなく今の高校に合格して、何もせずに先輩とお付き合いできるようになったって言いたいの?
 何もしなかったら何も変わらないに決まってんじゃん。
 あー今のはムカッときたぞー。

「……あんたが……私に向けて消しゴムのカスやゴミを投げつけて遊んだり、私をハブったり、観察して笑い者にしてた頃、私は勉強をすごく頑張ってたの」
「…は?」
「あんたたちが勉強せずにSNSのグループ内で人を笑い者にして騒いでいる間、私はひたすら勉強してたんだよ! 他でもない、私の居場所を見つけるため。私はやれば出来るんだって証明するために!」

 とうとう私はキレてしまった。
 先輩には相手にするなって言われたけどもうダメだ。この女に言いたいことすべてぶちまけてやる。
 私がキレたことに蛯原は驚いた顔をしているが、あんた本当に私を馬鹿にし過ぎだからね!?

「私みたいな地味な女が何もせずにぼーっとしてるだけで先輩と付き合えると思う? 先輩はモテるんだよ! 何もしなかったら私のことなんて知らずに終わったような高嶺の花なの! それをズルしたみたいな言い方すんな!」

 お行儀悪いけど、蛯原にビシッと指をさす。親には人に指差すなと躾けられたが、指ささずにはいられない。
 私は努力したんだ! あんたは努力をしてないじゃないか。そんな奴に理不尽に罵倒される謂われはない! 
 努力した結果で僻むならわかるけど…何もしてない人が何を勝手に僻んでるんだか!

「それと! あんたみたいな女、私の彼氏は嫌いなんだからね!!」
「…っムカつくんだよてめぇ!」

 私の反撃にカッとなった蛯原が私の腕をつかもうとしたので私はサッと避けた。

ドンッ

「ん?」

 避けた先に熱い壁があり、私はそれにぶつかった。見上げた先には先輩の姿があり、彼は凍りつきそうな視線を蛯原に向けていた。
 先輩の睨みに怖気づいたのか、蛯原は先程までの勢いがなくなって大人しくなった。
 …先輩の睨みすごい。

「……自分の不出来を八つ当たりして…馬鹿じゃないのか」
「先輩…」
「学歴を気にしていると言うならいつまでも中学生みたいなことしてないで受験に集中したらどうだ」

 先輩の腕が私の肩に回ってきて、私は軽くハグされる体制になった。それに私の頬はボッと熱くなった。
 だって、半裸だよ!? めっちゃ密着してるんだよ…? 洋服越しとはやっぱり違います……
 夏の暑さと先輩の体温で溶けそうです私…

「だがな……学歴があろうとなかろうと、友人や恋人に恵まれていようとなかろうとな…人を見下すような人間は結局その程度の人間にしかなれない」

 蛯原は先輩の睨みに負けてるのか、二の句が継げないようだ。ただ悔しそうにこちらを睨みつけている。
 私も睨み返してやったけど。先輩に抱きつきながらな!

「ここで気づけなかったら一生そのままだ。……まぁ君がどうなろうと俺には関係ないが…今後一切、あやめに近づくな。あやめは大事な時期なんだ。君にあやめの人生を狂わせる権利なんてない。くだらない僻みで煩わせるな……わかったな」

 蛯原は唇を噛み締め、両手を握りしめて沈黙していた。
 先輩の睨みに気圧されたサーファー兄さんはそそくさとこの場を去って行った。それに気づいた蛯原は彼の後を追いかけて口論になっていたけど、ようやくどっかに行ってくれたので私はホッとした。


「……全くお前は…」
「あ、すいません、つい腹が立ってしまって」
「…こうなるというのはなんとなく予想はしてたがな」
「うぅ…」

 先輩に呆れた目を向けられて私はしょんぼりする。
 こんなはずじゃなかった。この場で蛯原と会わなきゃ、あの人が喧嘩を売ってこなければ私だってね……

「でもよく立ち向かえたな」
「……多分、亮介先輩の影響ですかね?」
「…そうか?」

 先輩は私の言葉に意外そうな顔をしていたが、そうなのだ。
 私にはコンプレックスがあった。それこそあの【乙女ゲームの田端あやめ】と同様に。周りの人の言葉、クラスメイトの仕打ちに人知れずに自信を失っていた。
 表には出さないようにはしていたけども、私の心の根深い所で根付いていたコンプレックス。それを受け止め、失っていた自信をちょっとずつ取り戻せるようになってきたのはきっと先輩のおかげだと思うんだ。
 先輩とぶつかり、先輩に守られ、先輩の影響を受けて私は変わった。

 少なくとも、先輩と出会っていなければ今の私はいない。


「…先輩…ありがとうございます」
「よく頑張ったな」
「……ぎゅってしてください」
「はいはい」

 呆れ顔だけどハグしてくれる先輩…好き。
 甘えるように先輩の胸にグリグリ顔を押し付けていると、何処からかピロリーンと明るいシャッター音が聞こえてきた。

「いやーん、もーお二人さん熱すぎ! だから今年猛暑なんじゃない!?」
「…井上、お前な」
「仲良くていいねー。ユカ、俺らもいちゃついとく?」
「嫌だ暑いもん」

 いつの間にか同行者達が寄ってきていたらしい。
 ハグし合う私達を激写したユカとケンジさんが悪戯げな笑みを向けて来ていた。

「お腹すいたからそろそろご飯食べよ~」
「俺なんか買ってきましょうか?」

 リンと彼氏くんもやって来たのでこの辺りで昼食にしようという話になった。
 私はクーラーボックスに入れておいた大きなお弁当箱を取り出してここぞとばかりに女子力を披露したのである。

 
 本当なら夕焼け見たりしたいけど帰宅の時間とか渋滞のことも考えて夕方前には撤収した。
 人が多いからあんまりイチャイチャできなかったし、遠泳したせいで疲れたのか、帰りの車の中で私は先輩に寄りかかってすやすやと寝入っていた。

 帰ってからユカが海の写真をスマホに送ってくれたけど、私がマヌケ面で居眠りしてる隣で先輩も眠っている写真があって私は奇声を上げてしまった。
 やだぁ! 先輩の寝顔幼い! 可愛いぃ!!!
 ありがとうユカ様。先輩の所拡大して待ち受けにするわ。

 明日からまた灰色受験生に戻るけども…充電しっかり出来たし、また頑張ろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...