攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
169 / 312
続編

私まで英恵さん化しているのは否めない。だって頭使いすぎたら糖分欲しくなるんだもん。

しおりを挟む

【落ち着いて頑張れ】

 私は先輩からのメールを確認すると、頬を叩いて自分に喝を入れた。
 遠足などのイベントごとでは早めに眠る私だが、昨晩は緊張でなかなか寝付けずにいた。だからちょっと睡眠不足気味だが、気合で乗り切るしかない。
 
「……よしっ」

 いよいよ共通テスト当日を迎えた。これから2日間に渡って試験を受けることとなる。
 亮介先輩は自分の後期試験を前にも関わらず、最後まで私を元気づけてくれた。…感謝してもしきれない。
 …後は自分の力を信じて頑張るだけ。

 私は忘れ物がないかを確認し終えると、念の為早めに家を出た。今のところ交通情報には特に異常はないようだが、アクシデントはいつ起きるかわからないから念のために。

 電車と徒歩で移動の後、試験会場に到着すると、会場は受験生達の緊張感に溢れていた。私はそれに感化されそうだったが、鞄に付けた学業守を見て深呼吸して一旦心を落ち着けた。
 マークシート用の鉛筆はOK、消しゴムOK、腕時計もOK、スマホの電源も切ったし、受験票も机の上に置いてある。準備は万端だ。   
 …この日まで頑張ってきたんだ。きっと私は大丈夫!

 前方で試験監督による試験の諸注意が始まったのでそちらに耳を傾けた。…まだ試験問題を見ていないというのに、私の手にはもう既に汗が滲んでいた。
 問題用紙が全員に行き渡ったのが確認されると、試験開始の合図がされた。

 受験生全員が解答に取り掛かる音が一斉に響き渡った。



☆★☆


 2日間の試験自体は何のトラブルもなく無事に終了した。
 私が燃え尽きたこと以外は。

ザッ、ザッ…
 私は死んだ目をして、目の前にある黒い液体の中に白い砂状の物体をスプーンですくって投入していた。
 ここはショッピングモールのコーヒーショップ。試験が終わってヘロヘロの私は少し休憩してから、帰宅することにしたのだ。
 脳が疲れたので無性に糖分を求めている。
 だから砂糖を入れていた。…何杯入れたか覚えてない。

「…砂糖を入れすぎじゃないのか?」
「……これはこれはお久しぶりです…お先に抜け駆け…受験を終えたお兄さん…大学院合格おめでとうございます…」

 妬みかと言われたら否定できない。受験が終わっている彼が羨ましい…。
 私は一次試験でクリアできるか出来ないかの瀬戸際だ。クリアしたらしたで二次試験が待っている。油断できない立場なのだ。
 …クリアできなかったら…ということは考えないようにしてるが、もしそうなれば後期の試験を受験するしかないよね。

 橘兄は去年もこの時期にここで会った気がする。気のせいかな?
 …なんでここにいるのだろうか。

「ノートパソコンなんて持って…意識高い系でも始めたんですか? その割にリンゴマークのパソコンじゃないんですね」
「…何だその意識高い系とは。俺は卒論をまとめる為に来たんだ」

 あぁそうか橘兄も卒業を控えているんだ。
 話を聞くには今月末が卒論提出期限らしい。今日はそのチェックをするために気分転換も兼ねてここに来たんだって。

 日曜だからか、カフェの席は埋まっていた。橘兄は空いている席を探していたところで、コーヒーに砂糖を投入し続ける私を見つけたらしい。
 ここの席に座っていいかと聞かれたのでどうぞと促すと橘兄はそこに荷物をおいたまま、カウンターに注文しに行った。

 …疲れたなぁ。緊張で熟睡した試しがないし…
 甘いコーヒーが脳に沁みてる気がする。あーあまい…

「ほら」
「…どうしたんですか。私誕生日じゃないですけど」

 目をつぶってコーヒーの甘さに浸っていると、橘兄が私の前に何かを置いた。目を開いたその先にはガトーショコラが置かれていた。

「労いの気持ちだ。試験最終日なんだろう今日は」
 
 労いとな。

「…ありがとうございます。いただきます…」

 頂いたものはありがたくいただく主義なので橘兄にお礼を伝えると、私はケーキを食べた。

「あぁチョコレートが沁みる」
「それでどうだったんだ? 試験は」
「…現実に引き戻さないでくださいよお兄さん」
「どうせ明日自己採点するんだろう? 手応えはどうなんだ」
「………五分五分です。80%はクリアしたいんですけど…不安ですね」

 現実逃避していたかったのに、ケーキを与えた橘兄が強引に現実へと引き戻した。
 そうだよ明日学校で自己採点するさ。でも今は忘れていたかった。
 めっちゃ憂鬱。担任がまた過剰なプレッシャー掛けてくるんじゃないかと今から戦々恐々しているのさ。

 死んだ目でもそもそとケーキを食べていると、橘兄が何かを思い出したように話し始めた。

「そういえば…うちの父と会ったそうだな」
「え? あ、はい。文化祭とお正月の時にお会いしましたね」
「驚いただろう。まさか君を見に行くために高校の文化祭に行くとは思わなかった。しかもあの父が君の高校のことを褒めていたぞ」
「…高校のこと?」
「決められた予算内であれだけのクオリティの文化祭を創り上げる高校生に感心していた」
「あー…」

 橘父はミステリー研究部が作ったトリックを解くのに熱中していたと聞く。余程面白かったのだろうな。
 それに他の出し物も毎年のことながら、どのクラスも部活も力が入っている。それぞれ個性を出した出し物だから、見応えがあったことであろう。

「…まさかご両親が文化祭に来られるとは思わなくて、ゾンビメイドで初対面をした時は……完全に終わったと思いました」
「父はああ見えて心配性だからな。亮介の付き合っている相手がどんな人間か気になったようだ。…不器用な人なんだよ」
 
 橘兄の言葉から、私が勝手に予想していたことが確信に変わった。もしかして…とずっと考えていたのだが、あながち間違ってはいなかったようだ。

「…私ずっと思っていたんですけど、亮介先輩が高校受験失敗してお父さんたちに叱責された後、橘家全体でギクシャクしたのって……完全にコミュニケーション不足のせいですよね」
「……」
「で、お兄さん自身も周りからの更なる期待がプレッシャーになっていて、弟さんに対して当たりがきつくなった」

 私の指摘に橘兄が気まずそうにしていた。
 別に責めてるんじゃないよ。私は部外者だし、ただ第三者の目から見た橘親子の関係性を予想しただけだから。
 でもその反応なら私の読みは当たっているのだろう。

「…なら、歩み寄りは可能ってことですよね。良かった」
「歩み寄り?」
「はい」

 厳しい人、正義感の強い人と聞いていたお父さんだが、その言葉通りの人だった。だけど息子と向き合おうとする姿勢は見て取れたし、口数が少ない大人しいお母さんだって、息子のことを心配する一般的なお母さんと同じだった。

 二人共仕事が忙しい人だから、子供とのコミュニケーションが取れずにいた。その状態で子供たちの将来のために厳しく接していた。それが子供のためだと信じて。
 …だけどそれが子供たちに過剰にプレッシャーを与える事になっていたのではないだろうか。その辺はご両親も反省しないといけないことなのかもしれない。

 当初は仲が悪い家族なのかなと思っていたけど、そんなことはない。ご両親は先輩を見捨ててなんておらず、口を出すのも、私に会いに来たのも親として心配していただけなんじゃなかろうか。
 
 …百聞は一見にしかずって正にこの事だな。

「橘家は一緒に過ごす時間をもっと増やしたほうがいいですよって話です」
「そんなもう子供じゃあるまいし」
「皆で水族館とか行ってきたらいいじゃないですか」
「親と弟と?」

 橘兄は鼻で笑うと、勘弁してくれと首を横に振っていた。
 後のことは橘家の人々の問題だからこれ以上私が口出しすることじゃない。

 すぐにじゃなくてもいい。
 でもそのうち、5年後とかでもいいから分かり合える時が来たらいいな。きっと橘家は今よりももっと良い家族になれるはずだ。

 私はそれを見守ろうと思う。

「…それじゃごちそうさまでした。卒論制作頑張ってください」
「あぁ。…君は帰ったらすぐに寝たほうがいいな」
「…夢に数式が出てきて熟睡できなかったんですよ」

 私は橘兄にお礼を言って帰ろうとしたのだが、彼から早く寝ろと言われてしまった。目元の化粧を濃いめにしたけどクマができていることがバレていたらしい。
 言われなくても今日は早めに休むよ。


 私はそのまますぐに帰宅すると、お風呂に入ってから即寝た。熟睡して起きたらもう朝で、昨晩は夕飯を食べずに寝ていたらしい。起きた瞬間お腹がぐううと元気に鳴っていた。

 寝すぎて頭が痛いが、今日は学校で自己採点がある。…それを考えると少々胃が重たい。だが行かねばならない。

「…起きよ」

 私は学校に行く準備をするべく、のっそりと布団から起き上がったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

処理中です...