攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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番外編

小話・そのまた未来!【ヒロインになりたい少女】

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子世代の十数年後のお話です。
ヒロインになりたい女の子はとある記憶を持って、この高校へと入学した。

ーーーーーーーーーーーー


「…いよいよ舞台が始まるのね…」

 桜が散りゆくこの風景を私は何度も見てきた。ここでヒロインは沢山のイケメンたちとラブハプニングを起こしながら恋をするのである。
 そう、何を隠そうここは乙女ゲームの世界なのだ!

「確か…そう、この桜吹雪の下で不良系イケメンに声をかけられるんだよね……」

 推しキャラは何人かいるが、本命は風紀副委員長だ。だが彼は中々難易度が高いのでGET出来るかどうか…なんとか頑張るけども!
 でもっ! それを置いておいても、この世界に生まれ変われるなんて、私超ついてる! ヒロインには悪いけどこのチャンスいただきだ!

 そうと決まれば不良系攻略対象の姿を探さなくては…と思って私は辺りをキョロキョロして探すと私がいる場所から50m位離れた位置にひとりの男子生徒が立っていた。上背があって姿勢のいい彼は桜吹雪をぼんやりと眺めていた。

 いた…! 彼だ!
 ゲームとは少し流れが違うけど、私は彼を逃すまいと声を出そうとした。

「あ…」
「睦生お兄ちゃん!」
「…愛美? 入学生は早く体育館に行けよ」
「はぁい、ごめんなさい先輩」

 私が声をかけようとした相手はとびっきりの美少女に声を掛けられていた。彼女は青年の腕に抱きついてニコニコしている。
 声をかけようとしたその体制で固まった私は眉間にシワを寄せた。
 …むつき…
 ……人違いだ。間違える前で良かった。

 


 彼らが立ち去った後、桜吹雪の中捜しに捜しまくったが、不良系イケメンはどこにもおらず。
 私は入学式初日から遅刻してしまって恥をかいてしまった。



☆☆☆


「あの綺麗な子…あの子が橘さんでしょ。中学の時県大会で上位に食い込んだ剣道有段者」
「あの子のお兄さんも全国大会に出場したのよ去年」
 
 凛とした美少女が、その黒く艷やかなロングヘアを靡かせて颯爽と通り過ぎていくと、周りにいた生徒がうわさ話をしていた。

 …何かがおかしい。

 乙女ゲームの攻略対象に似た名前はいた。

 但し、不良系イケメンと同じ名字の生徒は1年と2年の女子生徒のみ。二人は再従姉妹(はとこ)らしい。
 風紀副委員長と同じ名字は3年と1年の兄妹。…しかし兄の名前は睦生。全然名前が違う。

 …私の知っている乙女ゲームと違う…!

 ヒロインの同級生キャラであるスポーツ万能のイケメンは、2年生であるはずなのに3年生だしこっちも名前が違う。風紀委員長に生徒会長や副会長、会計、保健室の先生に至っては同じ名字がこの学校に存在すらしない。

 なにこれ、私の知っている乙女ゲームはどこに行ったの?

 夢抱いて入学した舞台であるのに、私は既に後悔していた。勉強難しくてついていくのがやっとだし、私このままやっていけるのだろうか…

 それに、時折思うことがあるのだ。


「いいじゃん遊びにいこうよ」
「やめて下さい」

 うちの高校は進学校なのだが、学校の勉強についていけずに自暴自棄になってグレてしまい、道を踏み外す生徒が一定数いるらしい。だからこの高校にも不良タイプの生徒がいる。
 今現在私の目の前で、不良二人組はある美少女を強引に遊びに誘っていたが、素気無くフラレていた。

「なんだよ…勿体ぶってんじゃねーぞ」
「女は愛嬌っていうだろー?」

 不良たちはそれで諦めるような性格はしておらず、彼女を壁へと追い詰めて脅し始めていた。
 その美少女はこの学校でも有名な剣道有段者の文武両道を貫く、橘すみれという少女だ。
 …彼女を見ているとまるであのゲームの風紀副委員長を思い出すのだが…でも女の子だし違うんだよなぁ。
 それはそうとこれは危ない。私は先生か風紀委員を呼ぼうと踵を返したのだが、背後で「うげっ」「ぐえっ」とカエルが潰れたような声が聞こえてきた。

「!?」

 振り向いた先には仁王立ちする橘さんと、地面とキスをしている不良二人組。
 私は一体何が起きたのか理解できなかった。目を大きく見開いて目の前の光景を呆然と見ていると、橘さんと目がぱっちり合う。
 彼女は「見られちゃった」とばかりに肩をすくめてはにかんだ。
 そして「内緒にしててね?」と微笑む。

 クールな美少女なのだけど、その笑った顔はとてもかわいくて……
 はっ! いかんいかん、何で私は女の子にときめいているんだ!

「なにが、内緒にしててだ?」
「げっ兄さん。…見てたの?」
「上からな。だけど遅かったな…すみれ、いつも父さんが言ってるだろ? 危険が及びそうになったら戦わずに逃げることを優先にしろって」
「はいはい」

 橘さんのお兄さんが登場した。彼は妹に小言を発していたが、橘さんはいつものことのようにスルーしている。てことはいつもこんな目に遭っているのか。どんな世紀末な世界に生きているんだろうこの子は。

 橘兄妹をぼんやり眺めていると、お兄さんの方と目が合った。
 …あれ、意外とこの人顔が整っている…?
 華やかさはそう無いから一見地味だけど、目鼻立ちが整っていて…この人も結構イケメンだ……

 つい相手をガン見をしてしまっていた私は正気に戻ると、2人に頭を下げてその場から立ち去った。


 入学して数ヶ月。私の耳には色んな情報が入ってきていた。

 先程の橘睦生という人は美麗な少女達に囲まれたリアルハーレム野郎だと言うこと、しかも本人もスペックが高く、質実剛健という言葉の似合う剣道有段者で、全国大会に出るほどの実力の持ち主。成績優秀、運動神経抜群、そして性格も良くて人望も厚い。現在風紀委員会の委員長を任されているらしい。

 しかし、彼には欠点があった。
 築いているリアルハーレムの影響なのか、好意を抱く女子生徒のアプローチに全く気づかないという難聴男だという。
 今どき難聴キャラとか流行ってないよと思いながら、この人も地味なようで結構面白いキャラだなと感じていた。

 なんか、思っていたような乙女ゲームの舞台とは違うけど……案外面白くなりそうな気がしないでもない。 

 ていうかもしかしてここ橘先輩を主人公にしたギャルゲーの世界なのかな?
 妹と従妹と再従妹、はたまたお嬢様学校に通う和風美少女な幼馴染がいたりするし……加えて影ながら想っている女子生徒も沢山いる。
 あの人一体何者なの?
 



 私がとある事実を知ったのは入学して2ヶ月ほど経過した頃だ。

 その日は梅雨の中日で、高校入学して初めての体育祭が行われていた。

「むっくん! お弁当作ってきたから一緒に食べよ♪」
「風花あのな、俺よりもクラスの友達と食べなさいって」
「大丈夫だよ。お昼一緒にしないくらいでハブるような友達じゃないもん」
「ていうかウチの親が作ってくれてるし…わざわざ観に来てくれてるから」
「もーっ! むっくんいい加減お母さん離れしてよ!!」
「人をマザコンみたいに…」


 お弁当を持参していた私は教室で友人と昼食を摂ろうとお昼休みになるなり、移動をしていたのだが、途中でそんな会話が聞こえてきた。

 …あの人、2年の田端風花先輩………すっごい美少女なんだよなぁ…まるであのゲームのヒロインみたいな……

「睦生」
「あ、父さん。母さんは?」
「向こうですみれと一緒に待ってる」
「亮介おじさんこんにちは」
「こんにちは」

 ………へ?
 …いま、なんて言った?


 ……亮介って、風紀副委員長のお名前では……では、あの渋イケメンなおじさまは…攻略対象の風紀副委員長だった人? というと橘兄妹は、彼のお子様…?
 …私が転生したのは…あの乙女ゲームが終わった後の世界ってこと…?

 私はクラリとめまいがした。
 悪いが私はおじさま趣味ではないし、略奪愛にも興味がない。

 …神よ、私が一体何をしたというのだ…

 私は顔を抑えて唸った。唸らずにはいられない。この世界に転生したヒャッホウ! ヒロインの座奪ってやるわ☆とイキっていた当初の私を捕まえて、目を覚ませとぶっ叩いてやりたい。

 最近冷静になってきたので、以前の自分がちょっと恥ずかしいな、馬鹿だなって思い始めたところでのトドメ。私…前世でなにかやらかしたのかな。ゲームのことしか覚えてないけど、何かやらかしたから神様がこんな残酷なことしたのかな?

「大丈夫? 気分悪いのか?」
「え…」
「保健室行くか? 今の時間保健の先生そっちにいるだろうから」

 私の様子がおかしいと思ったのか、橘先輩が声をかけてきた。
 私は体調が悪いのではなくて、心の調子が悪いだけです。お気になさらず…

「だ、大丈夫です。そのうち楽になります…」

 そう、時間が解決してくれるに違いない…
 後ろで私を睨んでくる田端先輩が怖いからお構いは結構です。私は乙女ゲームの存在を忘れて、JK生活を謳歌します。スクールカースト上位なお方に関わるのは勘弁願いたい。 

 私はやんわりとお断りした。
 なのだが、橘先輩は何を思ったのか…

 ヒョイッ
「!?」
「遠慮するな。気分が悪いことは何も恥ずかしいことじゃない、誰でもあり得ることなんだから」
「あのっ!? おおお下ろして下さい! 私重いから!」
「まぁ、羽根のように軽いとは言い難いけど、筋トレと思えばいけるから」
「そこは嘘でも軽いって言って下さいよ!」

 正直に言わなくてよろしい!
 ひぇぇぇ! お姫様抱っこされたァァァ! 何これ何これぇぇー!
 推しキャラ(但し妻子持ちの渋イケメン)の前でその息子に姫抱っこされるってそれ誰得なわけ!?


「父さん、先に食べてて。この子送ったら行くから」
「分かった」


 橘先輩は平然として私を保健室まで送り届けると、ご丁寧にベッドの上に下ろして肌掛け布団まで掛けてくれた。
 いや本当身体はなんともないんですけど…

「お大事に。あまり無茶するなよ」

 仕上げにお腹ぽんぽんされた。何でお腹ぽんぽんよ。私は幼児か。
 彼は私にそう言い残すと保健室を後にした。


 何あの人、お節介。
 …何あの人……! ズルい!
 何で私が夢見た行動をさらりとしてくれちゃってんの!? ドキドキしちゃうじゃないの! 

 私は恥ずかしかったり、ショックだったりいろんな感情に襲われて、肌掛け布団に包まるとその中で唸った。



 ヒロインになることを諦め、大人しく女子高生生活を送る私であったが、その後も半強制的に色々なことに巻き込まれ、橘兄妹と関わることも増えることになる。

 とあるキッカケで妹のすみれちゃんと仲良くなり、その繋がりで彼と関わるうちに私は彼に惹かれていった。
 そして無意識に彼を目で追うようになって恋心を自覚したり、周りの美少女ハーレムの鉄壁に心折れたり、浮上したりすることになって…

 私は、あの人のヒロインになりたいと思うようになった。


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