196 / 312
番外編
小話・そのまた未来!【ヒロインになりたい少女】
しおりを挟む子世代の十数年後のお話です。
ヒロインになりたい女の子はとある記憶を持って、この高校へと入学した。
ーーーーーーーーーーーー
「…いよいよ舞台が始まるのね…」
桜が散りゆくこの風景を私は何度も見てきた。ここでヒロインは沢山のイケメンたちとラブハプニングを起こしながら恋をするのである。
そう、何を隠そうここは乙女ゲームの世界なのだ!
「確か…そう、この桜吹雪の下で不良系イケメンに声をかけられるんだよね……」
推しキャラは何人かいるが、本命は風紀副委員長だ。だが彼は中々難易度が高いのでGET出来るかどうか…なんとか頑張るけども!
でもっ! それを置いておいても、この世界に生まれ変われるなんて、私超ついてる! ヒロインには悪いけどこのチャンスいただきだ!
そうと決まれば不良系攻略対象の姿を探さなくては…と思って私は辺りをキョロキョロして探すと私がいる場所から50m位離れた位置にひとりの男子生徒が立っていた。上背があって姿勢のいい彼は桜吹雪をぼんやりと眺めていた。
いた…! 彼だ!
ゲームとは少し流れが違うけど、私は彼を逃すまいと声を出そうとした。
「あ…」
「睦生お兄ちゃん!」
「…愛美? 入学生は早く体育館に行けよ」
「はぁい、ごめんなさい先輩」
私が声をかけようとした相手はとびっきりの美少女に声を掛けられていた。彼女は青年の腕に抱きついてニコニコしている。
声をかけようとしたその体制で固まった私は眉間にシワを寄せた。
…むつき…
……人違いだ。間違える前で良かった。
彼らが立ち去った後、桜吹雪の中捜しに捜しまくったが、不良系イケメンはどこにもおらず。
私は入学式初日から遅刻してしまって恥をかいてしまった。
☆☆☆
「あの綺麗な子…あの子が橘さんでしょ。中学の時県大会で上位に食い込んだ剣道有段者」
「あの子のお兄さんも全国大会に出場したのよ去年」
凛とした美少女が、その黒く艷やかなロングヘアを靡かせて颯爽と通り過ぎていくと、周りにいた生徒がうわさ話をしていた。
…何かがおかしい。
乙女ゲームの攻略対象に似た名前はいた。
但し、不良系イケメンと同じ名字の生徒は1年と2年の女子生徒のみ。二人は再従姉妹(はとこ)らしい。
風紀副委員長と同じ名字は3年と1年の兄妹。…しかし兄の名前は睦生。全然名前が違う。
…私の知っている乙女ゲームと違う…!
ヒロインの同級生キャラであるスポーツ万能のイケメンは、2年生であるはずなのに3年生だしこっちも名前が違う。風紀委員長に生徒会長や副会長、会計、保健室の先生に至っては同じ名字がこの学校に存在すらしない。
なにこれ、私の知っている乙女ゲームはどこに行ったの?
夢抱いて入学した舞台であるのに、私は既に後悔していた。勉強難しくてついていくのがやっとだし、私このままやっていけるのだろうか…
それに、時折思うことがあるのだ。
「いいじゃん遊びにいこうよ」
「やめて下さい」
うちの高校は進学校なのだが、学校の勉強についていけずに自暴自棄になってグレてしまい、道を踏み外す生徒が一定数いるらしい。だからこの高校にも不良タイプの生徒がいる。
今現在私の目の前で、不良二人組はある美少女を強引に遊びに誘っていたが、素気無くフラレていた。
「なんだよ…勿体ぶってんじゃねーぞ」
「女は愛嬌っていうだろー?」
不良たちはそれで諦めるような性格はしておらず、彼女を壁へと追い詰めて脅し始めていた。
その美少女はこの学校でも有名な剣道有段者の文武両道を貫く、橘すみれという少女だ。
…彼女を見ているとまるであのゲームの風紀副委員長を思い出すのだが…でも女の子だし違うんだよなぁ。
それはそうとこれは危ない。私は先生か風紀委員を呼ぼうと踵を返したのだが、背後で「うげっ」「ぐえっ」とカエルが潰れたような声が聞こえてきた。
「!?」
振り向いた先には仁王立ちする橘さんと、地面とキスをしている不良二人組。
私は一体何が起きたのか理解できなかった。目を大きく見開いて目の前の光景を呆然と見ていると、橘さんと目がぱっちり合う。
彼女は「見られちゃった」とばかりに肩をすくめてはにかんだ。
そして「内緒にしててね?」と微笑む。
クールな美少女なのだけど、その笑った顔はとてもかわいくて……
はっ! いかんいかん、何で私は女の子にときめいているんだ!
「なにが、内緒にしててだ?」
「げっ兄さん。…見てたの?」
「上からな。だけど遅かったな…すみれ、いつも父さんが言ってるだろ? 危険が及びそうになったら戦わずに逃げることを優先にしろって」
「はいはい」
橘さんのお兄さんが登場した。彼は妹に小言を発していたが、橘さんはいつものことのようにスルーしている。てことはいつもこんな目に遭っているのか。どんな世紀末な世界に生きているんだろうこの子は。
橘兄妹をぼんやり眺めていると、お兄さんの方と目が合った。
…あれ、意外とこの人顔が整っている…?
華やかさはそう無いから一見地味だけど、目鼻立ちが整っていて…この人も結構イケメンだ……
つい相手をガン見をしてしまっていた私は正気に戻ると、2人に頭を下げてその場から立ち去った。
入学して数ヶ月。私の耳には色んな情報が入ってきていた。
先程の橘睦生という人は美麗な少女達に囲まれたリアルハーレム野郎だと言うこと、しかも本人もスペックが高く、質実剛健という言葉の似合う剣道有段者で、全国大会に出るほどの実力の持ち主。成績優秀、運動神経抜群、そして性格も良くて人望も厚い。現在風紀委員会の委員長を任されているらしい。
しかし、彼には欠点があった。
築いているリアルハーレムの影響なのか、好意を抱く女子生徒のアプローチに全く気づかないという難聴男だという。
今どき難聴キャラとか流行ってないよと思いながら、この人も地味なようで結構面白いキャラだなと感じていた。
なんか、思っていたような乙女ゲームの舞台とは違うけど……案外面白くなりそうな気がしないでもない。
ていうかもしかしてここ橘先輩を主人公にしたギャルゲーの世界なのかな?
妹と従妹と再従妹、はたまたお嬢様学校に通う和風美少女な幼馴染がいたりするし……加えて影ながら想っている女子生徒も沢山いる。
あの人一体何者なの?
私がとある事実を知ったのは入学して2ヶ月ほど経過した頃だ。
その日は梅雨の中日で、高校入学して初めての体育祭が行われていた。
「むっくん! お弁当作ってきたから一緒に食べよ♪」
「風花あのな、俺よりもクラスの友達と食べなさいって」
「大丈夫だよ。お昼一緒にしないくらいでハブるような友達じゃないもん」
「ていうかウチの親が作ってくれてるし…わざわざ観に来てくれてるから」
「もーっ! むっくんいい加減お母さん離れしてよ!!」
「人をマザコンみたいに…」
お弁当を持参していた私は教室で友人と昼食を摂ろうとお昼休みになるなり、移動をしていたのだが、途中でそんな会話が聞こえてきた。
…あの人、2年の田端風花先輩………すっごい美少女なんだよなぁ…まるであのゲームのヒロインみたいな……
「睦生」
「あ、父さん。母さんは?」
「向こうですみれと一緒に待ってる」
「亮介おじさんこんにちは」
「こんにちは」
………へ?
…いま、なんて言った?
……亮介って、風紀副委員長のお名前では……では、あの渋イケメンなおじさまは…攻略対象の風紀副委員長だった人? というと橘兄妹は、彼のお子様…?
…私が転生したのは…あの乙女ゲームが終わった後の世界ってこと…?
私はクラリとめまいがした。
悪いが私はおじさま趣味ではないし、略奪愛にも興味がない。
…神よ、私が一体何をしたというのだ…
私は顔を抑えて唸った。唸らずにはいられない。この世界に転生したヒャッホウ! ヒロインの座奪ってやるわ☆とイキっていた当初の私を捕まえて、目を覚ませとぶっ叩いてやりたい。
最近冷静になってきたので、以前の自分がちょっと恥ずかしいな、馬鹿だなって思い始めたところでのトドメ。私…前世でなにかやらかしたのかな。ゲームのことしか覚えてないけど、何かやらかしたから神様がこんな残酷なことしたのかな?
「大丈夫? 気分悪いのか?」
「え…」
「保健室行くか? 今の時間保健の先生そっちにいるだろうから」
私の様子がおかしいと思ったのか、橘先輩が声をかけてきた。
私は体調が悪いのではなくて、心の調子が悪いだけです。お気になさらず…
「だ、大丈夫です。そのうち楽になります…」
そう、時間が解決してくれるに違いない…
後ろで私を睨んでくる田端先輩が怖いからお構いは結構です。私は乙女ゲームの存在を忘れて、JK生活を謳歌します。スクールカースト上位なお方に関わるのは勘弁願いたい。
私はやんわりとお断りした。
なのだが、橘先輩は何を思ったのか…
ヒョイッ
「!?」
「遠慮するな。気分が悪いことは何も恥ずかしいことじゃない、誰でもあり得ることなんだから」
「あのっ!? おおお下ろして下さい! 私重いから!」
「まぁ、羽根のように軽いとは言い難いけど、筋トレと思えばいけるから」
「そこは嘘でも軽いって言って下さいよ!」
正直に言わなくてよろしい!
ひぇぇぇ! お姫様抱っこされたァァァ! 何これ何これぇぇー!
推しキャラ(但し妻子持ちの渋イケメン)の前でその息子に姫抱っこされるってそれ誰得なわけ!?
「父さん、先に食べてて。この子送ったら行くから」
「分かった」
橘先輩は平然として私を保健室まで送り届けると、ご丁寧にベッドの上に下ろして肌掛け布団まで掛けてくれた。
いや本当身体はなんともないんですけど…
「お大事に。あまり無茶するなよ」
仕上げにお腹ぽんぽんされた。何でお腹ぽんぽんよ。私は幼児か。
彼は私にそう言い残すと保健室を後にした。
何あの人、お節介。
…何あの人……! ズルい!
何で私が夢見た行動をさらりとしてくれちゃってんの!? ドキドキしちゃうじゃないの!
私は恥ずかしかったり、ショックだったりいろんな感情に襲われて、肌掛け布団に包まるとその中で唸った。
ヒロインになることを諦め、大人しく女子高生生活を送る私であったが、その後も半強制的に色々なことに巻き込まれ、橘兄妹と関わることも増えることになる。
とあるキッカケで妹のすみれちゃんと仲良くなり、その繋がりで彼と関わるうちに私は彼に惹かれていった。
そして無意識に彼を目で追うようになって恋心を自覚したり、周りの美少女ハーレムの鉄壁に心折れたり、浮上したりすることになって…
私は、あの人のヒロインになりたいと思うようになった。
10
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる