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番外編
橘家クリスマス計画! 私はあなたのサンタです。【前編】
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あやめ大学1年のクリスマスです。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『…ばぁちゃん、お父さんとお母さんは?』
とある家庭の食卓にはご馳走が並んでいた。その中でひときわ目立っていたのが真っ白いクリームの上に真っ赤なイチゴとサンタの砂糖菓子が鎮座したクリスマスケーキだ。
『…2人共お仕事なんだって。4人だけでケーキ食べちゃおうか』
『…また約束破った…』
気まずそうに告げる祖母の言葉に、少年は失望と諦めの表情を浮かべていた。
『…仕方がないだろ。仕事なんだから』
『分かってるよ…』
お兄ちゃんになだめられるも、少年はしばらく拗ねていた。
約束を破られるたびに少年は両親に不満を訴えてきた。その時は両親も謝罪して今度は絶対と約束をするものの、結局その約束も破られてばかりだった。
…少年は自分がいくら訴えても無駄であること、自分が不満を訴えることで周りを困らせていることを察するようになっていき、不満を言うのを止めてしまった。
そして歳を重ねる毎に両親と会話をすることが少なくなっていったのだ。
☆★☆
12月に入ると街中がクリスマス一色に変わった。
街の商店街もクリスマスモードになっている。さっき買い物をしたら福引きの回数券を貰ったので、今からチャレンジしに行く予定だ。なにか当たればいいな。
「せんぱーい、もうすぐクリスマスですねぇ」
「…そうだけど…お前ちゃんと勉強はしてるのか? 来月後期試験があるんだからな。…成績が悪かったら」
「わかってますよー! スキー旅行はお預けなんでしょー」
もうムードがないなぁ。去年は私が受験ノイローゼ起こして倒れたせいでクリスマスパーティできなかったから、今年こそリベンジしたいのに…先輩の堅物。
そういえばクリスマスといえば、先輩の実家ではクリスマスにみんなでご馳走食べたりするのかな? 私の家はクリスマスケーキやチキンを購入してささやかなご馳走を食べたりしてるよ。
「先輩の家ってクリスマスパーティーとかしないんですか?」
「しないな」
橘家は男性が多いし、子どももいない。だからクリスマスにそこまではしゃがないのかな。
「…小さい頃はケーキを囲んだりしていたが…両親は毎年不在だったし……中学に上がる前にはもうそういうことはしなくなったな」
「あー…」
そっちか。
警察忙しそうだもんね…橘父の担当管轄は知らないけど、クリスマスだけでなく年末年始って何かとはっちゃける人間がいるから、自動的に警察の仕事は忙しくなりそうだ…全てははっちゃける市民のせいなのね。そうなのね。
…つまり、あんまり両親とクリスマスを過ごしたことがないのか…
先輩はキリシタンじゃないから別にクリスマスにこだわらなくてもいいけど…周りの友達が家族と過ごしている中でそれだと寂しい思いをしてきたのかもしれない。
商店街の奥の方に歩いていくと、福引きのブースが見えてきた。福引き客が数人並んでいるがそこまで大人数ではない。この人数だったらすぐに順番が回ってくるだろう。
「えーと…1等がケーキ屋さんの5000円クーポンで、2等が…七面鳥?」
福引きの賞品は時期的なものもあってクリスマスカラーの強いものばかりだ。七面鳥とか…ご家庭に大きなオーブンがなかったらどうしたらいいんだろうか…
「次の方どうぞ~。はい、二回回してくださいねー」
商店街の人に福引き回数券を手渡すと、私は先輩と1回ずつくじを引くことにした。はじめに先輩がガラガラ回すタイプの抽選機を回したら、出てきたのは白い玉。残念賞の飴玉だった。そう簡単に当たるわけ無いか。
私も期待せずにクジを勢いよく回した。
カツン、と音を立てて出てきたのは赤い玉だった。
「ん…?」
「おぉ! おめでとうございます! 3等のオリーブオイルセットが当たりましたー!」
ガランガランと鐘が鳴らされる。当たらないと思っていたのに当たっちゃったよ。オリーブオイルだって。やったね。
「先輩1つあげますよ」
「うちにはまだサラダ油があるから大丈夫」
「んー…なら先輩のご実家に持っていきましょうか!」
「…え?」
「オリーブオイルは身体にも優しいんですよ。英恵さんの身体のために使ってもらいましょうよ」
私の提案に先輩は変な顔をしていたが、私は先輩を急かした。橘家へ電話でアポイントを取ってもらうと、彼の腕を引っ張って橘家を訪ねた。
「あらあら! あやめちゃん久しぶりね! 亮介も…全くうちに帰ってこないから心配してたのよ?」
急な来訪だと言うのに橘家のお祖母さんは歓迎してくれた。
長居するつもりはなかった。オリーブオイルを渡す事が目的だったんだけど、寒いから中に入ってと言われたので、お言葉に甘えてお邪魔することにした。
「さっき福引きで当てたんです。良かったら一本どうぞ」
「いいの? じゃあありがたく頂戴するわね。…それにしてもすごい荷物ね、あやめちゃん」
「もうすぐクリスマスだから家用に菓子パンのシュトーレンを作ってみようと思って。その材料です」
ドライフルーツの量り売りしている店が商店街にあるんだ。その流れで別のものも追加購入して…ちょっと買いすぎたけど…まぁまぁ…
「あやめちゃんは何でも作れるのねぇ、今度私にもお菓子の作り方を教えてね」
「はい、一緒に作りましょ! …本当はシュトーレンもおすそ分けしたいんですけど、砂糖を沢山使うから……あ!」
その瞬間、私はひらめいた。
「あの! 橘家ではクリスマスケーキを用意するご予定はございますか!?」
「え…? もうしばらく購入してないわねぇ。私達はそんなに沢山食べられないし、この子達はそこまで甘いものが好きじゃないし…英恵さんが残った分を食べてくれるけど…たくさん食べるのは体に良くないからねぇ…」
それだ。
だから橘家からクリスマスケーキが消えたのか。そして英恵さんがたくさん食べてしまう恐れがあるから購入しないのか…
「ならお祖母さん、今年は私と一緒にクリスマスケーキを作りませんか!? 甘さ控えめのケーキを!」
私の提案にお祖母さんだけでなく、隣に座っていた先輩もポカンとしている様子だった。
「…おい、あやめ?」
「それいいわねぇ! ケーキ作るなんて私初めてだわ!」
橘家にクリスマスを。
先輩が実家に帰る理由も出来るし、橘家の距離を縮める切っ掛けにもなるはずだ。クリスマスは元々、家族でお祝いする行事なんだ。いいじゃないか!
話についていけない先輩を置いて、私はお祖母さんとクリスマスケーキを作る計画を立てた。
よしよし、そうと決まれば早速甘さ控えめのクリスマスケーキの試作品づくりをしようかな!
☆★☆
流木に見立てた茶色のケーキの完成は間近だ。最後の仕上げはお祖母さんにお願いした。クッキーとチョコレートで作られた小さなログハウスの飾り。
「そのログハウスの飾りを乗せたら…完成です」
「まぁまぁ可愛いケーキ。食べるのが勿体無いわぁ」
クリスマス当日、私は昼すぎに橘家にお邪魔して、お祖母さんと一緒にケーキ作りに勤しんだ。
ケーキはブッシュドノエルだ。インスタントコーヒーを活用して、糖分控えめのケーキになった。そんなに大きいケーキではないから、橘家一同で食べ切れると思う。今回サンタの砂糖飾りは省略した。糖分控えめをテーマにしているからね。
「食べるまでは冷蔵庫で冷やしておいたほうがいいかもしれませんね。…あとこれ、家で作ってきたので皆さんで召し上がって下さい」
オリーブオイルをふんだんに使って揚げた唐揚げと和風ローストチキン、砂糖不使用のジンジャークッキーだ。夕飯の足しになるかどうかわからないけど、足りない分は補充して下さい。
「…そんなに気を使わずとも」
ケーキが完成したタイミングで声を掛けてきたのは、ちょっと疲れた様子の橘兄だった。
「甘さ控えめなんで、甘いものが苦手なお兄さんの口にも合うと思いますよ」
橘兄は朝からずっと家で勉強していたようだ。何度か飲み物を取りに台所に下りてきたが、それ以外はずっと2階の自室で学習していたようだ。
「それにしても先輩遅いですね。17時に上がりだって言っていたのに」
「バイトが長引いてるんじゃないか?」
アルバイト先であるガソリンスタンドのスタッフに急病人が出た為、先輩は本日早朝から働いている。だけど18時には帰ってこれると言っていたから夕飯には間に合うと思ったのに…もうすぐ19時になっちゃうよ…
と思っていたら、玄関が開く音が聞こえた。先輩だと思った私は彼をお出迎えをしようと、ウキウキ気分で玄関へ向かった。
「おかえりなさーい! メリークリスマース!」
私が元気よくお出迎えしたらそこには…
「…ただいま」
「…お、お父様、お久しぶりです…お邪魔しております…」
なんと、帰りが遅くなるであろうと言われていた橘父がそこにいたのだ。
亮介先輩が帰って来たと勘違いしてフライングしちゃったわ。なんだよメリークリスマースって…。
私は両手を広げたお出迎えスタイルのまま、玄関でぴしりと固まっていた。
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『…ばぁちゃん、お父さんとお母さんは?』
とある家庭の食卓にはご馳走が並んでいた。その中でひときわ目立っていたのが真っ白いクリームの上に真っ赤なイチゴとサンタの砂糖菓子が鎮座したクリスマスケーキだ。
『…2人共お仕事なんだって。4人だけでケーキ食べちゃおうか』
『…また約束破った…』
気まずそうに告げる祖母の言葉に、少年は失望と諦めの表情を浮かべていた。
『…仕方がないだろ。仕事なんだから』
『分かってるよ…』
お兄ちゃんになだめられるも、少年はしばらく拗ねていた。
約束を破られるたびに少年は両親に不満を訴えてきた。その時は両親も謝罪して今度は絶対と約束をするものの、結局その約束も破られてばかりだった。
…少年は自分がいくら訴えても無駄であること、自分が不満を訴えることで周りを困らせていることを察するようになっていき、不満を言うのを止めてしまった。
そして歳を重ねる毎に両親と会話をすることが少なくなっていったのだ。
☆★☆
12月に入ると街中がクリスマス一色に変わった。
街の商店街もクリスマスモードになっている。さっき買い物をしたら福引きの回数券を貰ったので、今からチャレンジしに行く予定だ。なにか当たればいいな。
「せんぱーい、もうすぐクリスマスですねぇ」
「…そうだけど…お前ちゃんと勉強はしてるのか? 来月後期試験があるんだからな。…成績が悪かったら」
「わかってますよー! スキー旅行はお預けなんでしょー」
もうムードがないなぁ。去年は私が受験ノイローゼ起こして倒れたせいでクリスマスパーティできなかったから、今年こそリベンジしたいのに…先輩の堅物。
そういえばクリスマスといえば、先輩の実家ではクリスマスにみんなでご馳走食べたりするのかな? 私の家はクリスマスケーキやチキンを購入してささやかなご馳走を食べたりしてるよ。
「先輩の家ってクリスマスパーティーとかしないんですか?」
「しないな」
橘家は男性が多いし、子どももいない。だからクリスマスにそこまではしゃがないのかな。
「…小さい頃はケーキを囲んだりしていたが…両親は毎年不在だったし……中学に上がる前にはもうそういうことはしなくなったな」
「あー…」
そっちか。
警察忙しそうだもんね…橘父の担当管轄は知らないけど、クリスマスだけでなく年末年始って何かとはっちゃける人間がいるから、自動的に警察の仕事は忙しくなりそうだ…全てははっちゃける市民のせいなのね。そうなのね。
…つまり、あんまり両親とクリスマスを過ごしたことがないのか…
先輩はキリシタンじゃないから別にクリスマスにこだわらなくてもいいけど…周りの友達が家族と過ごしている中でそれだと寂しい思いをしてきたのかもしれない。
商店街の奥の方に歩いていくと、福引きのブースが見えてきた。福引き客が数人並んでいるがそこまで大人数ではない。この人数だったらすぐに順番が回ってくるだろう。
「えーと…1等がケーキ屋さんの5000円クーポンで、2等が…七面鳥?」
福引きの賞品は時期的なものもあってクリスマスカラーの強いものばかりだ。七面鳥とか…ご家庭に大きなオーブンがなかったらどうしたらいいんだろうか…
「次の方どうぞ~。はい、二回回してくださいねー」
商店街の人に福引き回数券を手渡すと、私は先輩と1回ずつくじを引くことにした。はじめに先輩がガラガラ回すタイプの抽選機を回したら、出てきたのは白い玉。残念賞の飴玉だった。そう簡単に当たるわけ無いか。
私も期待せずにクジを勢いよく回した。
カツン、と音を立てて出てきたのは赤い玉だった。
「ん…?」
「おぉ! おめでとうございます! 3等のオリーブオイルセットが当たりましたー!」
ガランガランと鐘が鳴らされる。当たらないと思っていたのに当たっちゃったよ。オリーブオイルだって。やったね。
「先輩1つあげますよ」
「うちにはまだサラダ油があるから大丈夫」
「んー…なら先輩のご実家に持っていきましょうか!」
「…え?」
「オリーブオイルは身体にも優しいんですよ。英恵さんの身体のために使ってもらいましょうよ」
私の提案に先輩は変な顔をしていたが、私は先輩を急かした。橘家へ電話でアポイントを取ってもらうと、彼の腕を引っ張って橘家を訪ねた。
「あらあら! あやめちゃん久しぶりね! 亮介も…全くうちに帰ってこないから心配してたのよ?」
急な来訪だと言うのに橘家のお祖母さんは歓迎してくれた。
長居するつもりはなかった。オリーブオイルを渡す事が目的だったんだけど、寒いから中に入ってと言われたので、お言葉に甘えてお邪魔することにした。
「さっき福引きで当てたんです。良かったら一本どうぞ」
「いいの? じゃあありがたく頂戴するわね。…それにしてもすごい荷物ね、あやめちゃん」
「もうすぐクリスマスだから家用に菓子パンのシュトーレンを作ってみようと思って。その材料です」
ドライフルーツの量り売りしている店が商店街にあるんだ。その流れで別のものも追加購入して…ちょっと買いすぎたけど…まぁまぁ…
「あやめちゃんは何でも作れるのねぇ、今度私にもお菓子の作り方を教えてね」
「はい、一緒に作りましょ! …本当はシュトーレンもおすそ分けしたいんですけど、砂糖を沢山使うから……あ!」
その瞬間、私はひらめいた。
「あの! 橘家ではクリスマスケーキを用意するご予定はございますか!?」
「え…? もうしばらく購入してないわねぇ。私達はそんなに沢山食べられないし、この子達はそこまで甘いものが好きじゃないし…英恵さんが残った分を食べてくれるけど…たくさん食べるのは体に良くないからねぇ…」
それだ。
だから橘家からクリスマスケーキが消えたのか。そして英恵さんがたくさん食べてしまう恐れがあるから購入しないのか…
「ならお祖母さん、今年は私と一緒にクリスマスケーキを作りませんか!? 甘さ控えめのケーキを!」
私の提案にお祖母さんだけでなく、隣に座っていた先輩もポカンとしている様子だった。
「…おい、あやめ?」
「それいいわねぇ! ケーキ作るなんて私初めてだわ!」
橘家にクリスマスを。
先輩が実家に帰る理由も出来るし、橘家の距離を縮める切っ掛けにもなるはずだ。クリスマスは元々、家族でお祝いする行事なんだ。いいじゃないか!
話についていけない先輩を置いて、私はお祖母さんとクリスマスケーキを作る計画を立てた。
よしよし、そうと決まれば早速甘さ控えめのクリスマスケーキの試作品づくりをしようかな!
☆★☆
流木に見立てた茶色のケーキの完成は間近だ。最後の仕上げはお祖母さんにお願いした。クッキーとチョコレートで作られた小さなログハウスの飾り。
「そのログハウスの飾りを乗せたら…完成です」
「まぁまぁ可愛いケーキ。食べるのが勿体無いわぁ」
クリスマス当日、私は昼すぎに橘家にお邪魔して、お祖母さんと一緒にケーキ作りに勤しんだ。
ケーキはブッシュドノエルだ。インスタントコーヒーを活用して、糖分控えめのケーキになった。そんなに大きいケーキではないから、橘家一同で食べ切れると思う。今回サンタの砂糖飾りは省略した。糖分控えめをテーマにしているからね。
「食べるまでは冷蔵庫で冷やしておいたほうがいいかもしれませんね。…あとこれ、家で作ってきたので皆さんで召し上がって下さい」
オリーブオイルをふんだんに使って揚げた唐揚げと和風ローストチキン、砂糖不使用のジンジャークッキーだ。夕飯の足しになるかどうかわからないけど、足りない分は補充して下さい。
「…そんなに気を使わずとも」
ケーキが完成したタイミングで声を掛けてきたのは、ちょっと疲れた様子の橘兄だった。
「甘さ控えめなんで、甘いものが苦手なお兄さんの口にも合うと思いますよ」
橘兄は朝からずっと家で勉強していたようだ。何度か飲み物を取りに台所に下りてきたが、それ以外はずっと2階の自室で学習していたようだ。
「それにしても先輩遅いですね。17時に上がりだって言っていたのに」
「バイトが長引いてるんじゃないか?」
アルバイト先であるガソリンスタンドのスタッフに急病人が出た為、先輩は本日早朝から働いている。だけど18時には帰ってこれると言っていたから夕飯には間に合うと思ったのに…もうすぐ19時になっちゃうよ…
と思っていたら、玄関が開く音が聞こえた。先輩だと思った私は彼をお出迎えをしようと、ウキウキ気分で玄関へ向かった。
「おかえりなさーい! メリークリスマース!」
私が元気よくお出迎えしたらそこには…
「…ただいま」
「…お、お父様、お久しぶりです…お邪魔しております…」
なんと、帰りが遅くなるであろうと言われていた橘父がそこにいたのだ。
亮介先輩が帰って来たと勘違いしてフライングしちゃったわ。なんだよメリークリスマースって…。
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