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番外編
つながるSNS【橘亮介視点】
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あやめが大学1年、亮介が大学2年の冬のお話。全4話。
ーーーーーーーーーーーーーー
「亮介はいい加減にSNSはじめたらどうだ?」
きっかけは学友である湊からの誘いだった。
俺はSNSの類を一切しない。そのせいで連絡を回すのが面倒くさいと言われることもあったが、それでも頑なにSNSをすることはなかった。
なんでやらないのかって……あの監視されてる感じと匿名ってのがどうにも気持ち悪いからである。既読スルーとか未読スルーで縛られるのも嫌なのだ。
連絡なら電話とメールで事足りる。
大学に入ってから、更に周りからSNSはじめろと圧力をかけられるようになった。それでも俺はのらりくらりと避けていた。
使い始めたら最後、今以上にサークルの先輩から呼び出される頻度が上がるのがわかっていたから絶対に使いたくなかったのだ。
「情報収集目的で使えばいいんだって。無理に知らない人間と交流する必要はないよ。先輩たちも就活に役立てるために活用してるんだぞ」
通知がうざいなら消しておけばいい、繋がりたくない相手にはアカウントを教えなければいいと説明され、俺は眉間にシワを寄せた。
面倒なものは面倒なのだが、就活……自分は公務員…警察官を目指しているので、SNSを活用する場面が見つかるか不明だったが、情報収集で使えと言われると…色々考えてしまう。
「お前が苦手にしているのは多分アレだろ、メッセージアプリ系だろ。あれ便利だけど急かされる気分になるもんな。つぶやき系なら大丈夫だって」
そう言われて友人にすすめられるがまま、俺はそのSNSアプリを落とした。簡単な流れは湊に教えてもらった。いまいち活用の仕方がわからず、起動させては眺める。たまに気になった呟きをリツイートする程度に活用していた。
アカウントは友人や彼女にしか教えていない。発言したいこともないので、基本的に見る専門だった。
アイコン設定は彼女と水族館デートしたときにあやめから渡されたぬいぐるみウミガメの写真にした。それに特に深い意味はない。カメラ目線にして撮影しておいた。
ちなみにアカウント名は単純に自分の名字をアルファベット表記にしただけである。
SNSを始めてみたはいいが、面白さが見いだせない。これが本当に役に立つのか。
その時の俺はSNSの本当の危険性について全く気づいていなかったのだ。
■□■
後期試験が終わり、あとは春休みが始まるのを待つだけだ。結果はまだ出ていないが、今回もいい感じの成績を修められたと思う。
「亮介はあやめちゃんとスキー旅行行くの? いいなぁー。俺はだめだ、彼女の親がそういうの厳しいんだ」
「こっちも色々大変だったけど、あやめのお母さんが口添えしてくれたんだ」
大学の食堂で同じ学部の友人達と食事をとりながら、春休みの予定を話していた。
俺は去年から約束していたスキー旅行に彼女と出かける予定だ。もちろん旅費その他諸々は自分たちで稼いだ給料で賄っているし、親たちにも連絡済みだ。
田端家のおじさんが「スキー!? ずるいっ! だめっ」と当初反対していたが、おばさんの口添えでなんとか許可してもらえたんだ。地味に大変だったんだぞ。
「俺の彼女はそういうスポーツ系嫌いなんだよなぁ。出かけてもSNS映えするどこどこ行こうって……」
「そういえばお前の彼女って誕生日どうだったん? ブランドもの買ったんだろ。プレゼント喜んだ?」
「……それな、全然使ってるところ見えないんだけど。写真撮って終わりだよ…欲しいって言ったくせに!」
春休みの話から友人の彼女への不満に移り変わり、俺はいつものことだなと苦笑い気味に聞き役に回った。
「亮介、写真撮ったら送れよ。俺に旅行の思い出を分けてくれ」
湊がこそっと耳打ちしてきた。
写真か。
そうだな、いつもとは違う場所にいる彼女も新鮮だ。たくさん写真を撮ろう。
俺は風景を撮影するのが好きだ。今では写真フォルダにあやめとの写真が増えたが、その半分を占めるは風景写真だ。
自宅のアパート付近で空を見上げた時に見つけた面白い雲の形だったり、アパートの共有廊下に野良猫が日向ぼっこしていたり。それらを撮影すると誰かに共有してほしくてつぶやき系SNSにてアップする。フォローしてくれている友人や彼女が反応してくれるので、それを少し楽しみにしていた。
写真なら写真特化のSNSがあるぞと湊に言われたが、たくさんSNSを掛け持ちするのは面倒なのでこのままでいい。どうせ友人や彼女しか見ないだろうって…
──スマホに通知が上がってきた。
知らない人からコメントである。
【綺麗な写真だネ!^_^】
多分たまたま写真が目に止まったのだろう。
知らない人間からのコメントに少し警戒しつつも、当たり障りなく【ありがとうございます】と返信しておいた。
SNSはその習性故に不特定多数の人間の目に触れることになる。なので知らない人間からいきなり接触されるということもあるとわかっていた。
赤の他人との距離感が近すぎる。……俺はそういうのが少々苦手だった。なら、SNSやらなきゃいいって話なのだが、友人にすすめられた手前やめづらいってのがあった。
だけど純粋に写真を評価してくれたのは嬉しい。褒めてもらえたんだ、プラスに考えよう。
スマホをポケットに収めようとすると、手に伝わる振動。再度通知が入ってきた。
【Tachibanaちゃんは、写真撮るのが好きなのかナ?】
…………。
なんだ、この人。
なんだかゾッとした。
馴れ馴れしいな…と思ったが、これがSNSの距離感の近さなんだよな…と少々うんざりしながらも、失礼のないように返す。
【そうですね、風景写真を撮るのが好きです】
返信してから間もなく更に相手から返事が返ってくる。
【他に写真ないノ? もっとみたいナ!(^^)】
なんだろうこの人。
過去のつぶやきを見た感じ男性…恐らく中年の男性なのだが……男子大学生とメッセージのやり取りをして楽しいのだろうか……
俺は返事に困った。なんて返事を返せば失礼に当たらないのかと考えていたらだんだん疲れてしまった。
【どこに住んでるノ?(⌒▽⌒)】
【今度一緒にご飯に行こうョ!(^_-)美味しいものご馳走してアゲル☆その後はTachibanaちゃんと…ナンチャッテ!冗談だヨ!】
【付き合ってる子はいる? おじさん、立候補しちゃおうカナ♪(#^^#)包容力には自信アルゾ☆】
ここまで来るともう怖い。何なんだ一体。
俺は何も見なかったふりをして通知を消した。
なに、大事な連絡はメールや電話で済ませたら良いだけだ。…俺は何も見なかった…何も見ていない。関わらないのが身の為だと思ったのだ。
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「亮介はいい加減にSNSはじめたらどうだ?」
きっかけは学友である湊からの誘いだった。
俺はSNSの類を一切しない。そのせいで連絡を回すのが面倒くさいと言われることもあったが、それでも頑なにSNSをすることはなかった。
なんでやらないのかって……あの監視されてる感じと匿名ってのがどうにも気持ち悪いからである。既読スルーとか未読スルーで縛られるのも嫌なのだ。
連絡なら電話とメールで事足りる。
大学に入ってから、更に周りからSNSはじめろと圧力をかけられるようになった。それでも俺はのらりくらりと避けていた。
使い始めたら最後、今以上にサークルの先輩から呼び出される頻度が上がるのがわかっていたから絶対に使いたくなかったのだ。
「情報収集目的で使えばいいんだって。無理に知らない人間と交流する必要はないよ。先輩たちも就活に役立てるために活用してるんだぞ」
通知がうざいなら消しておけばいい、繋がりたくない相手にはアカウントを教えなければいいと説明され、俺は眉間にシワを寄せた。
面倒なものは面倒なのだが、就活……自分は公務員…警察官を目指しているので、SNSを活用する場面が見つかるか不明だったが、情報収集で使えと言われると…色々考えてしまう。
「お前が苦手にしているのは多分アレだろ、メッセージアプリ系だろ。あれ便利だけど急かされる気分になるもんな。つぶやき系なら大丈夫だって」
そう言われて友人にすすめられるがまま、俺はそのSNSアプリを落とした。簡単な流れは湊に教えてもらった。いまいち活用の仕方がわからず、起動させては眺める。たまに気になった呟きをリツイートする程度に活用していた。
アカウントは友人や彼女にしか教えていない。発言したいこともないので、基本的に見る専門だった。
アイコン設定は彼女と水族館デートしたときにあやめから渡されたぬいぐるみウミガメの写真にした。それに特に深い意味はない。カメラ目線にして撮影しておいた。
ちなみにアカウント名は単純に自分の名字をアルファベット表記にしただけである。
SNSを始めてみたはいいが、面白さが見いだせない。これが本当に役に立つのか。
その時の俺はSNSの本当の危険性について全く気づいていなかったのだ。
■□■
後期試験が終わり、あとは春休みが始まるのを待つだけだ。結果はまだ出ていないが、今回もいい感じの成績を修められたと思う。
「亮介はあやめちゃんとスキー旅行行くの? いいなぁー。俺はだめだ、彼女の親がそういうの厳しいんだ」
「こっちも色々大変だったけど、あやめのお母さんが口添えしてくれたんだ」
大学の食堂で同じ学部の友人達と食事をとりながら、春休みの予定を話していた。
俺は去年から約束していたスキー旅行に彼女と出かける予定だ。もちろん旅費その他諸々は自分たちで稼いだ給料で賄っているし、親たちにも連絡済みだ。
田端家のおじさんが「スキー!? ずるいっ! だめっ」と当初反対していたが、おばさんの口添えでなんとか許可してもらえたんだ。地味に大変だったんだぞ。
「俺の彼女はそういうスポーツ系嫌いなんだよなぁ。出かけてもSNS映えするどこどこ行こうって……」
「そういえばお前の彼女って誕生日どうだったん? ブランドもの買ったんだろ。プレゼント喜んだ?」
「……それな、全然使ってるところ見えないんだけど。写真撮って終わりだよ…欲しいって言ったくせに!」
春休みの話から友人の彼女への不満に移り変わり、俺はいつものことだなと苦笑い気味に聞き役に回った。
「亮介、写真撮ったら送れよ。俺に旅行の思い出を分けてくれ」
湊がこそっと耳打ちしてきた。
写真か。
そうだな、いつもとは違う場所にいる彼女も新鮮だ。たくさん写真を撮ろう。
俺は風景を撮影するのが好きだ。今では写真フォルダにあやめとの写真が増えたが、その半分を占めるは風景写真だ。
自宅のアパート付近で空を見上げた時に見つけた面白い雲の形だったり、アパートの共有廊下に野良猫が日向ぼっこしていたり。それらを撮影すると誰かに共有してほしくてつぶやき系SNSにてアップする。フォローしてくれている友人や彼女が反応してくれるので、それを少し楽しみにしていた。
写真なら写真特化のSNSがあるぞと湊に言われたが、たくさんSNSを掛け持ちするのは面倒なのでこのままでいい。どうせ友人や彼女しか見ないだろうって…
──スマホに通知が上がってきた。
知らない人からコメントである。
【綺麗な写真だネ!^_^】
多分たまたま写真が目に止まったのだろう。
知らない人間からのコメントに少し警戒しつつも、当たり障りなく【ありがとうございます】と返信しておいた。
SNSはその習性故に不特定多数の人間の目に触れることになる。なので知らない人間からいきなり接触されるということもあるとわかっていた。
赤の他人との距離感が近すぎる。……俺はそういうのが少々苦手だった。なら、SNSやらなきゃいいって話なのだが、友人にすすめられた手前やめづらいってのがあった。
だけど純粋に写真を評価してくれたのは嬉しい。褒めてもらえたんだ、プラスに考えよう。
スマホをポケットに収めようとすると、手に伝わる振動。再度通知が入ってきた。
【Tachibanaちゃんは、写真撮るのが好きなのかナ?】
…………。
なんだ、この人。
なんだかゾッとした。
馴れ馴れしいな…と思ったが、これがSNSの距離感の近さなんだよな…と少々うんざりしながらも、失礼のないように返す。
【そうですね、風景写真を撮るのが好きです】
返信してから間もなく更に相手から返事が返ってくる。
【他に写真ないノ? もっとみたいナ!(^^)】
なんだろうこの人。
過去のつぶやきを見た感じ男性…恐らく中年の男性なのだが……男子大学生とメッセージのやり取りをして楽しいのだろうか……
俺は返事に困った。なんて返事を返せば失礼に当たらないのかと考えていたらだんだん疲れてしまった。
【どこに住んでるノ?(⌒▽⌒)】
【今度一緒にご飯に行こうョ!(^_-)美味しいものご馳走してアゲル☆その後はTachibanaちゃんと…ナンチャッテ!冗談だヨ!】
【付き合ってる子はいる? おじさん、立候補しちゃおうカナ♪(#^^#)包容力には自信アルゾ☆】
ここまで来るともう怖い。何なんだ一体。
俺は何も見なかったふりをして通知を消した。
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