42 / 209
Day's Eye 森に捨てられたデイジー
変化薬と三つ編み
しおりを挟む
私の定位置となっている村の外れにある丘の上でもくもくと薬作りをしていた。別の生き物に擬態できるという“変化薬”。王立図書館の本に書いてた古の薬に今回私は挑戦してみた。
本に書かれていた手順通り、決まった分量で作られた薬剤を作ると、煮沸消毒した熊の毛を入れる。ゴポゴポと音を立てて溶けて消えた熊の毛。私はその薬剤を見下ろす。少しだけ躊躇ったものの、意を決して呷った。
ごくごくっと喉を鳴らして飲み込んだ変化薬。薬なので決して美味しくはない。口直しの水を続けて飲み干した。効果はすぐに現れると文献には書かれていたが。
……ムズムズッと頭の上に異変が現れたのはその直後であった。
私は薬の失敗に凹んでトボトボと家に帰ってきた。手順通り分量守って作ったのに…変化薬の材料費高かったのになぁ…
私が家にたどり着くと、ちょうど仕事から帰ってきたリック兄さんと遭遇したのだが、彼は私の頭の上を見て笑っていた。
「俺らとお揃いだな!」
「…間違ってないはずなのになぁ…予定では獣の熊になるはずだったのに…」
私は頭上でピコピコ動く熊耳を撫でた。
変化は現れた。だけど現れたのは熊獣人のような耳と、小さすぎて隠れて見えない尻尾である。
熊になると思っていたのに、ただの獣人もどきになってしまった。
「人間の耳は消えたのか?」
「うん。今は熊耳に変わってる。聞こえ方は変わらないから問題はないけど…薬作り失敗した。はぁぁ…」
「いいじゃねーか。似合ってんぞ。髪色と合ってて」
うん、別に兄さんたちとおそろいが嫌なわけじゃないの、ただ自分の期待と違ったのでがっかりしたと言うか…あの毛、熊獣人の毛をむしっただけだったんじゃ…じゃなきゃおかしいでしょ…
こうして話している間にもピコピコと耳が動く。その感覚が人間である私には新鮮でどうにも落ち着かない。
「何、カチューシャ付けてんだよお前」
クイッ、と軽く引っ張られた熊耳。ただそれだけなのに耳の付け根がまるで弱点のように感じて私は身震いしてしまった。
「ひゃん!」
私は変な声を漏らしてしまった。頭を庇って後退りすると、そこにいたのは仕事帰りらしいテオの姿。
いきなり何するんだこいつ。背後から急に人の耳触るなよ!
「…な、なんだよ、大げさな…これオモチャなにかだろ?」
私の反応に戸惑いつつも疑っている様子のテオは私から熊耳を引っこ抜こうとする。やめろ、今は私の耳なんだ! もごうとするんじゃない!
「やっ! やめてよ、今は私から生えてる耳なんだからぁ…! ひぅっ…」
ビリビリと脳天にしびれるような感覚が伝わってくる。耳は獣人の弱点でもあるって聞くけど、こんな風になるの!?
私は自分で自分の反応が恥ずかしくなって、必死になってテオの手を振り払った。身体がじんじんしびれて、体中の熱が一気に上がった。
なにこれ、こわい…! 私の身体は火照ってしまったかのようだ。
おかしくなってしまった私を呆然と見下ろしていたテオは、一拍遅れた後になにかに反応したかのようにピクリと肩を揺らした。奴の頬にカッと赤みが差す。
「…お、前ぇ! このバカッ」
「!?」
何をトチ狂ったのかテオは私を俵抱きにした。私は目をぎょっとさせて固まる。
歯を食い縛っておっかない顔で私を睨みつけるもんだから、大人しくされるがまま抱え上げられると、何故かそのまま家の中に押し込められた。バタンと閉じられた扉の音が虚しく響く。私は今何をされたのか、一瞬理解が出来なくて呆然としていたが、そう時間を置かずに正気に戻った。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「うるせぇ! お前はその耳治るまで出てくんな!」
ドア越しに文句を言ったら、怒鳴り返された。
「なんで!? 獣人と同じものがついているだけでしょ!」
「他の男が見るだろ!」
はぁぁ!? 獣人と同じもんがついているだけなのになんだそれ! 耳は恥ずかしいものじゃないでしょうが!
ドアを開けようとするが、表から押さえつけられており外に出られない。テオめ、私を閉じ込めるつもりか…!
「余裕ねぇなお前」
「るせぇ!」
一連の流れを観ていたリック兄さんが低く笑う声が漏れ聞こえてきた。それに対してテオが反発している。
ちょっとリック兄さんどうにかしてよ、なんで私がこんな扱いを受けなきゃならないの!
後で兄さんになぜテオを注意しないのかって言ったら、「まぁ雄の本能というか…気持ちはわからんでもないからなぁ」と意味深なことを返され、余計に納得できなかったのであった。
■□■
「デイジー・マックさんに郵便だよ、カンナ・サンドエッジさんから」
カンナから届いた手紙には、毎日下の兄弟たちが暴れまくって大変だと書かれていた。カンナは5人兄弟の真ん中で、まだ幼い兄弟が2人いるのだそうだ。その兄弟もカンナのように魔法魔術学校に通いたいとわがままを言っているそうだ。カンナのマネをして呪文を唱えるが、魔法は何も起きずに癇癪を起こして困っているんだって。
日々の日記を見せられている気分になるカンナの手紙だが、それが彼女らしいなと思える。
その日は朝からずっと丘の上で読書をしていた。休憩がてらカンナからの手紙を読んでいたら肩の力が抜けたので、手紙の返事を書くことにした。
本を下敷きに便箋を敷くと羽ペンを動かす。親愛なるカンナへ、のその後、何を書けばいいだろう。私も日々のことを書き連ねて近況報告でもしておけばいいのであろうか。
この間薬作り失敗して獣人もどきになりました…ってか?
「誰から?」
何を書くか考え込んでいると、フッと目の前が陰り、傍らにおいていた手紙を誰かに取られた。
「人の手紙読まないで」
「カンナ…って女か。学校の友達か?」
差出人の名前を勝手に確認したテオは中身を読まずに元にあった場所に戻していた。
なんだってこいつは私の居場所をすぐに特定するんだ……匂いか、やっぱり私は臭いのか…そういえば、自分の匂いを消す香水のレシピが王立図書館の薬学の本に書かれていた……今度それ試してみようか……
「…お前が友達と文通とか珍しい」
その言葉に私は苦笑いしてしまった。
村の学校では友達らしい友達のいなかった私のことだ。テオには奇妙に見えているに違いない。
だけど私は今も昔もそう変わらない。ただカンナは特別枠なだけだ。
「カンナは特別なの。…勇気があって心優しい子なんだ」
今から思えば、カンナは色々気にかけてくれた。
始めはそれが鬱陶しかったけど、私が同級生から嫌がらせを受けていた時も自分のことのように憤ってくれたし、学年が変わっても気にせずあちこちで声を掛けてきた。
変な風に目立ってしまった私のことを色眼鏡で見なかったのはカンナくらいだ。あんな事件に巻き込まれても以前と変わらずに接してくれる。
友達がいなかった私は、友達って存在がよく分からなかった。だけどカンナと出会ってから、これが友達って存在なのかなってようやく理解できた気がする。
今までは素っ気なくしてきたけど、少しくらいはその気持ちを返してあげなきゃね。
デイジーデイジーと私を呼びながら笑顔で駆け寄ってくるカンナの姿を思い出すと、私は思い出し笑いを浮かべてしまった。──そんな私を、テオは眩しそうに目を細めて見つめてきた。
「…王都の学校、楽しそうだな」
その声音はどこか安堵が含まれていた。
しかし素直に頷くほど、学校が楽しいわけでもない私は肩をすくめる。
「そう見える? 結構面倒なことが多いよ。…私は勉強だけがしたいのに、事件や妨害が多くて」
「それで?」
珍しいな。私が王都の学校に進学することあれだけ反対していたくせに。話を聞きたがるとか。学生が羨ましくなっちゃったか。
だけど初等学校以上に勉強しなきゃいけない環境だから、勉強嫌いのテオには向いてないぞ。
「カンナは…今は私と学年が違うってのに試験前になると毎回私に泣きついて……私が先に卒業したら留年しちゃうって騒ぐの。自分で勉強する癖をつけろって言ってるのに、いつも私のベッドでゴロゴロして…」
「ふぅん」
「太っちゃうが口癖のくせに、世話焼きおばちゃんみたいにお菓子配ってくるし…」
なんだかカンナの悪口になってしまっているが、本当のことを話しているだけなので大丈夫。
それよりもテオだ。私の話なんか聞きたがって珍しいにもほどがあるだろう。
「…私おしゃべり苦手なんだけど、聞いていて楽しい?」
話が聞きたいなら村の女の子のほうが面白おかしく話してくれるんじゃないかな。
「お前の声は聞いていて飽きない」
「…そうですか」
声が飽きない…。まぁ、褒められているのだと受け取ろう。
なんだか変な空気になったな。どうして声の話になったんだ…あぁそうだテオが学校での話をねだるから……
クイッと後ろでひとつ結びにしていた髪の毛を一房引っ張られた。犯人は隣に座るテオだ。この年齢にもなってまた人の髪の毛引っ張って…私この間言ったよね、女子の髪の毛に触ったら痛い目見るよって。
指先でぎこちなく梳いてくるその手は優しく、粗暴なテオらしくない。私はそれがムズムズして落ち着かない。
「引っ張んないで」
「痛くねーだろ」
痛くはないけど、変な感じがするんだよ。
私の戸惑いを無視して、テオは私の髪の毛で三つ編みを始めた。しかしその出来栄えは下手くそそのものである。飛び飛びになってるじゃないか。
「下手くそ。不器用か」
「しかたねーだろ」
不器用加減に笑うと、テオはもう一度やり直しとばかりに一から三つ編みを始めた。
あの、私の髪の毛はオモチャじゃないんですけど。
真剣な眼差しで三つ編みするその姿は子どもみたいである。……どんなに大人っぽくなっても根っこの方が子どもだな。
私はフッと鼻で笑ってやったのである。
本に書かれていた手順通り、決まった分量で作られた薬剤を作ると、煮沸消毒した熊の毛を入れる。ゴポゴポと音を立てて溶けて消えた熊の毛。私はその薬剤を見下ろす。少しだけ躊躇ったものの、意を決して呷った。
ごくごくっと喉を鳴らして飲み込んだ変化薬。薬なので決して美味しくはない。口直しの水を続けて飲み干した。効果はすぐに現れると文献には書かれていたが。
……ムズムズッと頭の上に異変が現れたのはその直後であった。
私は薬の失敗に凹んでトボトボと家に帰ってきた。手順通り分量守って作ったのに…変化薬の材料費高かったのになぁ…
私が家にたどり着くと、ちょうど仕事から帰ってきたリック兄さんと遭遇したのだが、彼は私の頭の上を見て笑っていた。
「俺らとお揃いだな!」
「…間違ってないはずなのになぁ…予定では獣の熊になるはずだったのに…」
私は頭上でピコピコ動く熊耳を撫でた。
変化は現れた。だけど現れたのは熊獣人のような耳と、小さすぎて隠れて見えない尻尾である。
熊になると思っていたのに、ただの獣人もどきになってしまった。
「人間の耳は消えたのか?」
「うん。今は熊耳に変わってる。聞こえ方は変わらないから問題はないけど…薬作り失敗した。はぁぁ…」
「いいじゃねーか。似合ってんぞ。髪色と合ってて」
うん、別に兄さんたちとおそろいが嫌なわけじゃないの、ただ自分の期待と違ったのでがっかりしたと言うか…あの毛、熊獣人の毛をむしっただけだったんじゃ…じゃなきゃおかしいでしょ…
こうして話している間にもピコピコと耳が動く。その感覚が人間である私には新鮮でどうにも落ち着かない。
「何、カチューシャ付けてんだよお前」
クイッ、と軽く引っ張られた熊耳。ただそれだけなのに耳の付け根がまるで弱点のように感じて私は身震いしてしまった。
「ひゃん!」
私は変な声を漏らしてしまった。頭を庇って後退りすると、そこにいたのは仕事帰りらしいテオの姿。
いきなり何するんだこいつ。背後から急に人の耳触るなよ!
「…な、なんだよ、大げさな…これオモチャなにかだろ?」
私の反応に戸惑いつつも疑っている様子のテオは私から熊耳を引っこ抜こうとする。やめろ、今は私の耳なんだ! もごうとするんじゃない!
「やっ! やめてよ、今は私から生えてる耳なんだからぁ…! ひぅっ…」
ビリビリと脳天にしびれるような感覚が伝わってくる。耳は獣人の弱点でもあるって聞くけど、こんな風になるの!?
私は自分で自分の反応が恥ずかしくなって、必死になってテオの手を振り払った。身体がじんじんしびれて、体中の熱が一気に上がった。
なにこれ、こわい…! 私の身体は火照ってしまったかのようだ。
おかしくなってしまった私を呆然と見下ろしていたテオは、一拍遅れた後になにかに反応したかのようにピクリと肩を揺らした。奴の頬にカッと赤みが差す。
「…お、前ぇ! このバカッ」
「!?」
何をトチ狂ったのかテオは私を俵抱きにした。私は目をぎょっとさせて固まる。
歯を食い縛っておっかない顔で私を睨みつけるもんだから、大人しくされるがまま抱え上げられると、何故かそのまま家の中に押し込められた。バタンと閉じられた扉の音が虚しく響く。私は今何をされたのか、一瞬理解が出来なくて呆然としていたが、そう時間を置かずに正気に戻った。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「うるせぇ! お前はその耳治るまで出てくんな!」
ドア越しに文句を言ったら、怒鳴り返された。
「なんで!? 獣人と同じものがついているだけでしょ!」
「他の男が見るだろ!」
はぁぁ!? 獣人と同じもんがついているだけなのになんだそれ! 耳は恥ずかしいものじゃないでしょうが!
ドアを開けようとするが、表から押さえつけられており外に出られない。テオめ、私を閉じ込めるつもりか…!
「余裕ねぇなお前」
「るせぇ!」
一連の流れを観ていたリック兄さんが低く笑う声が漏れ聞こえてきた。それに対してテオが反発している。
ちょっとリック兄さんどうにかしてよ、なんで私がこんな扱いを受けなきゃならないの!
後で兄さんになぜテオを注意しないのかって言ったら、「まぁ雄の本能というか…気持ちはわからんでもないからなぁ」と意味深なことを返され、余計に納得できなかったのであった。
■□■
「デイジー・マックさんに郵便だよ、カンナ・サンドエッジさんから」
カンナから届いた手紙には、毎日下の兄弟たちが暴れまくって大変だと書かれていた。カンナは5人兄弟の真ん中で、まだ幼い兄弟が2人いるのだそうだ。その兄弟もカンナのように魔法魔術学校に通いたいとわがままを言っているそうだ。カンナのマネをして呪文を唱えるが、魔法は何も起きずに癇癪を起こして困っているんだって。
日々の日記を見せられている気分になるカンナの手紙だが、それが彼女らしいなと思える。
その日は朝からずっと丘の上で読書をしていた。休憩がてらカンナからの手紙を読んでいたら肩の力が抜けたので、手紙の返事を書くことにした。
本を下敷きに便箋を敷くと羽ペンを動かす。親愛なるカンナへ、のその後、何を書けばいいだろう。私も日々のことを書き連ねて近況報告でもしておけばいいのであろうか。
この間薬作り失敗して獣人もどきになりました…ってか?
「誰から?」
何を書くか考え込んでいると、フッと目の前が陰り、傍らにおいていた手紙を誰かに取られた。
「人の手紙読まないで」
「カンナ…って女か。学校の友達か?」
差出人の名前を勝手に確認したテオは中身を読まずに元にあった場所に戻していた。
なんだってこいつは私の居場所をすぐに特定するんだ……匂いか、やっぱり私は臭いのか…そういえば、自分の匂いを消す香水のレシピが王立図書館の薬学の本に書かれていた……今度それ試してみようか……
「…お前が友達と文通とか珍しい」
その言葉に私は苦笑いしてしまった。
村の学校では友達らしい友達のいなかった私のことだ。テオには奇妙に見えているに違いない。
だけど私は今も昔もそう変わらない。ただカンナは特別枠なだけだ。
「カンナは特別なの。…勇気があって心優しい子なんだ」
今から思えば、カンナは色々気にかけてくれた。
始めはそれが鬱陶しかったけど、私が同級生から嫌がらせを受けていた時も自分のことのように憤ってくれたし、学年が変わっても気にせずあちこちで声を掛けてきた。
変な風に目立ってしまった私のことを色眼鏡で見なかったのはカンナくらいだ。あんな事件に巻き込まれても以前と変わらずに接してくれる。
友達がいなかった私は、友達って存在がよく分からなかった。だけどカンナと出会ってから、これが友達って存在なのかなってようやく理解できた気がする。
今までは素っ気なくしてきたけど、少しくらいはその気持ちを返してあげなきゃね。
デイジーデイジーと私を呼びながら笑顔で駆け寄ってくるカンナの姿を思い出すと、私は思い出し笑いを浮かべてしまった。──そんな私を、テオは眩しそうに目を細めて見つめてきた。
「…王都の学校、楽しそうだな」
その声音はどこか安堵が含まれていた。
しかし素直に頷くほど、学校が楽しいわけでもない私は肩をすくめる。
「そう見える? 結構面倒なことが多いよ。…私は勉強だけがしたいのに、事件や妨害が多くて」
「それで?」
珍しいな。私が王都の学校に進学することあれだけ反対していたくせに。話を聞きたがるとか。学生が羨ましくなっちゃったか。
だけど初等学校以上に勉強しなきゃいけない環境だから、勉強嫌いのテオには向いてないぞ。
「カンナは…今は私と学年が違うってのに試験前になると毎回私に泣きついて……私が先に卒業したら留年しちゃうって騒ぐの。自分で勉強する癖をつけろって言ってるのに、いつも私のベッドでゴロゴロして…」
「ふぅん」
「太っちゃうが口癖のくせに、世話焼きおばちゃんみたいにお菓子配ってくるし…」
なんだかカンナの悪口になってしまっているが、本当のことを話しているだけなので大丈夫。
それよりもテオだ。私の話なんか聞きたがって珍しいにもほどがあるだろう。
「…私おしゃべり苦手なんだけど、聞いていて楽しい?」
話が聞きたいなら村の女の子のほうが面白おかしく話してくれるんじゃないかな。
「お前の声は聞いていて飽きない」
「…そうですか」
声が飽きない…。まぁ、褒められているのだと受け取ろう。
なんだか変な空気になったな。どうして声の話になったんだ…あぁそうだテオが学校での話をねだるから……
クイッと後ろでひとつ結びにしていた髪の毛を一房引っ張られた。犯人は隣に座るテオだ。この年齢にもなってまた人の髪の毛引っ張って…私この間言ったよね、女子の髪の毛に触ったら痛い目見るよって。
指先でぎこちなく梳いてくるその手は優しく、粗暴なテオらしくない。私はそれがムズムズして落ち着かない。
「引っ張んないで」
「痛くねーだろ」
痛くはないけど、変な感じがするんだよ。
私の戸惑いを無視して、テオは私の髪の毛で三つ編みを始めた。しかしその出来栄えは下手くそそのものである。飛び飛びになってるじゃないか。
「下手くそ。不器用か」
「しかたねーだろ」
不器用加減に笑うと、テオはもう一度やり直しとばかりに一から三つ編みを始めた。
あの、私の髪の毛はオモチャじゃないんですけど。
真剣な眼差しで三つ編みするその姿は子どもみたいである。……どんなに大人っぽくなっても根っこの方が子どもだな。
私はフッと鼻で笑ってやったのである。
30
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる