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Day‘s Eye 魔術師になったデイジー
人を呪わば穴二つ
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依頼主のエドヴァルド氏が戻ってきたとの知らせを聞いた私は使用人に案内されて大広間に向かった。
「お早かったですね…」
「はい。お先にお茶とお菓子を頂いてました。おいしかったです。…それで、早速患者を診たいのですが」
依頼主が戻るまでは診察はしないほうがいいかなと思って待っていたんだ。私の言葉にエドヴァルド氏は旅疲れもあるだろうに、すぐに案内してくれた。
このお屋敷は本邸と別邸に別れていて、この本邸にはエドヴァルド氏とお母さん、そして使用人が住んでいるそうだ。別邸に、父と愛人とその息子が住んでいて、滅多な事とがなければこちらには寄り付いてこないそう。
奥まった場所にある部屋の扉を使用人がそっと開くと、そこは真っ暗だった。カーテンはきっちり閉められ、明かりもつけずに空気もこもっている。患者にとって最悪の環境である。こんな場所じゃ病気になっても仕方ないぞ。
「──母上、魔術師様をお連れしました」
エドヴァルド氏の優しい声に、ベッドの上の住人が身じろぎする物音が聞こえた。シャウマン伯爵夫人であるその女性は頑張って起き上がろうとしているが、衰弱しきってその力すら出せないようである。
暗くて見えないので許可をとってカーテンを開けてもらうと、その姿が外から漏れ入る光でその姿は晒された。
エドヴァルド氏がそっと背中に腕を差し入れて起こした女性は老婆のようにやせ細っていた。
「隣国エスメラルダの高等魔術師のお嬢さんですよ。とても優秀な方との評判を聞いてお呼びしました」
「まぁ、若いお嬢さんなのね…あぁ、こんな情けない姿をお見せすることになるなんて…」
ひと目でわかった。
彼女を蝕むは体に広がる黒いアザだ。これだけなら、なにか怪しい伝染病を疑うことだろうが、彼女のは違う。
シャウマン伯爵夫人の身体の周りには禍々しい黒いモヤが囲んでいた。そりゃあ、どんな高名な医者が手を施しても治るはずがない。彼女のは病気じゃないもの。
「──黒呪術です」
禁忌とされる黒呪術で命を吸い取られているのだ。
「…え?」
耳慣れない単語だったのだろう。エドヴァルド氏が間の抜けた声を出していた。
「お母様は病気ではなく、呪いで命を吸い取られ衰弱しているのです」
「……呪い…? 黒、呪術」
そうなると魔法が使える人間の仕業である。私は犯人探しに来たわけじゃないので、その辺はどうでもいいのだが……
「すまない、私に魔力がないばかりに気づけず…」
エドヴァルド氏は自分の不甲斐なさに落ち込んでいる。
「お気になさらず。呪いに関しては魔力を持っていても気づけない人も大勢いますんで」
私がたまたま、人一倍黒呪術に敏感な体質みたいなんだ。他の人はそうでもないらしいのでエドヴァルド氏の責任ではない。
しかしこのまま呪いを放置しておくわけにも行くまい。
「あまりよろしくない状態なので、なるべく早く解呪したいのですが、私一人では失敗した時困るので、他の魔術師に協力を仰ぎます」
そこは魔術師協会を使って、こちらで呼ぶから心配しないで欲しい。
私達魔術師には独自の魔術師協会というものがあって、シュバルツとエスメラルダ、グラナーダの3国は協定を結んでおり、国をまたいで魔術師同士の連携を図っているのだ。こんな風に困った時、名簿に名前を登録している魔術師に協力を仰ぐことが出来る。
伝書鳩でシュバルツの魔術師協会に向けて黒呪術の案件として連絡した。直ぐに返事は来るだろう。
衰弱している夫人には栄養剤を飲ませて一旦睡眠を取らせると、私はそっと退室した。部屋の外では難しい表情を浮かべたエドヴァルド氏が待機していた。
「…母上に黒呪術とは…一体誰が…」
「…呪い返しすれば、誰か分かるでしょう」
夫人に死んで欲しい、消えて欲しい、苦しんで欲しいと願う誰かが掛けたものに違いない。しかし、黒呪術は禁術。その相手は報いを受けなくてはならない。
エドヴァルド氏はなにか言いたそうにして口を噤んでいた。誰か、思い当たる人物がいるのだろうか。だけどまだ確定した訳じゃない。だから口に出せないのであろう。
「坊っちゃま、マック様」
黙り込んでしまった私達の沈黙を破るように執事が声を掛けてきた。
「魔術師協会から魔術師様方がお見えでございます」
先程伝書鳩を送ったばかりなのに、動きが早いな。助かる。
私は早速同業者の協力を仰ぐため、彼らをおまたせしているという談話室に案内してもらったのである。
協会からやってきたのは上級魔術師の男性2名だった。その人達とは初対面だったが、私を一人の魔術師として尊重して話を聞いてくれた。私が在学中に遭遇したリリス・グリーン事件を耳にしていたから話が早かったのかもしれない。
「…これが呪いとは」
「伝染病の1つに似ていますから気づかないのも無理もありません」
死の病に似た衰弱の仕方である。病気と疑うのが普通だ。
そもそも黒呪術を使ったら問答無用に死罪である。使おうとする人間はそこまで多くないのでお目にかかることもない。呪いに気づかないのも無理はない。
彼らに簡単に説明した後に打ち合わせをする。2人で解呪して、残された1人はもしもの時のために待機する感じである。方法は呪い返し一択だ。返した呪いは術者に還る。見つけ次第そのまましょっ引く流れである。
「では、始めます」
「よろしくおねがいします」
私と一緒に呪い返しをする魔術師が夫人の体に触れる。呪文のタイミングは別に合わせずともいい、同じ白呪術の呪い返しを行うだけだから。
「我に従う光の元素たちよ──……」
私ともう片方の魔術師が呪文を唱えると、開け放った窓からファッと元素達が押し寄せてくる気配がした。
光の元素たちは夫人の中に蝕む黒呪術の元を押し出そうと彼女の身体に入り込み、光り輝いた。──目の錯覚かもしれない、光に負けた黒い影が霧散して消え去っていったように見えたのは。
「……顔色が、戻ってきましたね」
少し離れて待機していた魔術師が夫人の顔を覗き込んでつぶやく。彼女の体に残っていた痣が消え去り、青白さは残っているものの、元の肌の色を取り戻していた。依然として衰弱したままだが、それは加療すれば…
「…後は衰弱した身体を治療するだけですかね…はぁ……」
一緒に呪い返しをした魔術師は力が切れたのかヘナヘナとベッドの向こう側でへたり込んでいた。
呪い返しきついよね、私もさすがに疲れた。代償にごっそり魔力抜き取られちゃうもん…
「じゃあ僕は報告してきますんで」
「よろしくおねがいします」
私は備え付きの椅子に腰掛けて息を吐き出す。
難しい病気じゃなくてよかったが、この案件なら請求金額が更に釣り上がるなぁ。魔術師2人へ協力金支払わなきゃならんし……あとでエドヴァルド氏と話しなきゃ。
呪い返ししたのでそう時間を置かずに術者にすべて跳ね返っているだろう。
……誰だろうね、夫人に死にゆく呪いを掛けたのは…
■□■
「エドヴァルド!」
「…父上?」
その人物が押しかけてきたのは夕飯時だった。
「影でコソコソしていると思えば、何している! 誰だコイツらは!」
「……母上のお見舞いにこられた、って訳じゃなさそうですね」
私達はエドヴァルド氏と使用人におもてなしされ、おいしい食事に舌鼓を打っていた。和やかな雰囲気で食事をしていたのだ。
そんな私達の目の前に彼らは現れた。エドヴァルド氏が父と呼んだその人は見事な餌を吊り下げてやってきた。
「わたくしの美しい顔がこんな風になってしまったのよ! あのすかした女がやったに違いないわ!!」
宝石や派手なドレスで豪勢に飾られたその餌は、見覚えのある黒い痣をこさえていたのである。その痣は顔だけでなく首やデコルテまで広がっており、見た目は痛々しい。
同席していた私並びに魔術師2名は食事を中断すると、黙って席を立ち上がった。
彼らとは黒呪術を放った術者を探さなきゃなぁとは話していたんだけど、犯人からやってきてくれたお陰で捜索する必要はなくなった。
「黒呪術行使、及びシャウマン伯爵夫人殺害未遂容疑にて、魔術師権限であなたを捕縛させていただきます」
私が声を上げると、その人は大きな目をこれでもかってくらいに見開いていた。血走ってギョロギョロした目が私を睨みつけてくる。その恐ろしい形相にちょっと腰が引けそうである。
「はぁ!? この小娘、何の権限があって…わたくしを誰だと思ってるの!?」
知らんけど。他国の貴族の愛人の名前まで分かるわけ無いでしょうが。
「私はエスメラルダ王国の魔術師ですからね、あなたのお名前は存じ上げません」
女の意識が私に向いている隙に他の魔術師達があっさり捕縛呪文を掛けて拘束していた。
「お前っ何をする!」
「……シャウマン伯爵、あなたにも事情をお聞かせ願いたく」
「魔術師風情が私に楯突けるとでも!?」
参考人として同行してもらおうと伯爵の方も拘束されていた。協力者かどうかは知らないけど、これから事情聴取で明かされるであろう。
「仕事なので」
慇懃無礼に返した彼らは伯爵と愛人を拘束してひとまとめにすると、連行用の馬車を手配していた。
伯爵とその愛人には魔封じの首輪と自害防止に猿ぐつわを噛ませている。往生際悪く「むぐー! んー!」となにか喚いているその横で、神経図太い魔術師たちはごちそうをこれでもかってくらいに口に詰めているではないか。彼らいわく、これから仕事が待っているのでごちそう食いだめだという。
「せっかくのおもてなしですからね」
「もったいないですからね」
しっかりデザートまで召し上がった彼らは動いた。今回露見した件はシュバルツ国内の犯罪なので、シュバルツの魔術師である彼らに一旦おまかせすることにする。
その後伯爵邸前にやって来た馬車に乗せられて彼らは運ばれていった。伯爵の身柄は表向きは参考人としてだが、実際には容疑者として連行されていく。そんな父親をエドヴァルド氏は微妙な顔で見送っていた。
これにて一件落着なのであろうが、お家騒動にまで発展してしまった。
まぁ黒呪術を解くに当たってこうなることは必至だったのだろう。
私は悪くないぞ。
「お早かったですね…」
「はい。お先にお茶とお菓子を頂いてました。おいしかったです。…それで、早速患者を診たいのですが」
依頼主が戻るまでは診察はしないほうがいいかなと思って待っていたんだ。私の言葉にエドヴァルド氏は旅疲れもあるだろうに、すぐに案内してくれた。
このお屋敷は本邸と別邸に別れていて、この本邸にはエドヴァルド氏とお母さん、そして使用人が住んでいるそうだ。別邸に、父と愛人とその息子が住んでいて、滅多な事とがなければこちらには寄り付いてこないそう。
奥まった場所にある部屋の扉を使用人がそっと開くと、そこは真っ暗だった。カーテンはきっちり閉められ、明かりもつけずに空気もこもっている。患者にとって最悪の環境である。こんな場所じゃ病気になっても仕方ないぞ。
「──母上、魔術師様をお連れしました」
エドヴァルド氏の優しい声に、ベッドの上の住人が身じろぎする物音が聞こえた。シャウマン伯爵夫人であるその女性は頑張って起き上がろうとしているが、衰弱しきってその力すら出せないようである。
暗くて見えないので許可をとってカーテンを開けてもらうと、その姿が外から漏れ入る光でその姿は晒された。
エドヴァルド氏がそっと背中に腕を差し入れて起こした女性は老婆のようにやせ細っていた。
「隣国エスメラルダの高等魔術師のお嬢さんですよ。とても優秀な方との評判を聞いてお呼びしました」
「まぁ、若いお嬢さんなのね…あぁ、こんな情けない姿をお見せすることになるなんて…」
ひと目でわかった。
彼女を蝕むは体に広がる黒いアザだ。これだけなら、なにか怪しい伝染病を疑うことだろうが、彼女のは違う。
シャウマン伯爵夫人の身体の周りには禍々しい黒いモヤが囲んでいた。そりゃあ、どんな高名な医者が手を施しても治るはずがない。彼女のは病気じゃないもの。
「──黒呪術です」
禁忌とされる黒呪術で命を吸い取られているのだ。
「…え?」
耳慣れない単語だったのだろう。エドヴァルド氏が間の抜けた声を出していた。
「お母様は病気ではなく、呪いで命を吸い取られ衰弱しているのです」
「……呪い…? 黒、呪術」
そうなると魔法が使える人間の仕業である。私は犯人探しに来たわけじゃないので、その辺はどうでもいいのだが……
「すまない、私に魔力がないばかりに気づけず…」
エドヴァルド氏は自分の不甲斐なさに落ち込んでいる。
「お気になさらず。呪いに関しては魔力を持っていても気づけない人も大勢いますんで」
私がたまたま、人一倍黒呪術に敏感な体質みたいなんだ。他の人はそうでもないらしいのでエドヴァルド氏の責任ではない。
しかしこのまま呪いを放置しておくわけにも行くまい。
「あまりよろしくない状態なので、なるべく早く解呪したいのですが、私一人では失敗した時困るので、他の魔術師に協力を仰ぎます」
そこは魔術師協会を使って、こちらで呼ぶから心配しないで欲しい。
私達魔術師には独自の魔術師協会というものがあって、シュバルツとエスメラルダ、グラナーダの3国は協定を結んでおり、国をまたいで魔術師同士の連携を図っているのだ。こんな風に困った時、名簿に名前を登録している魔術師に協力を仰ぐことが出来る。
伝書鳩でシュバルツの魔術師協会に向けて黒呪術の案件として連絡した。直ぐに返事は来るだろう。
衰弱している夫人には栄養剤を飲ませて一旦睡眠を取らせると、私はそっと退室した。部屋の外では難しい表情を浮かべたエドヴァルド氏が待機していた。
「…母上に黒呪術とは…一体誰が…」
「…呪い返しすれば、誰か分かるでしょう」
夫人に死んで欲しい、消えて欲しい、苦しんで欲しいと願う誰かが掛けたものに違いない。しかし、黒呪術は禁術。その相手は報いを受けなくてはならない。
エドヴァルド氏はなにか言いたそうにして口を噤んでいた。誰か、思い当たる人物がいるのだろうか。だけどまだ確定した訳じゃない。だから口に出せないのであろう。
「坊っちゃま、マック様」
黙り込んでしまった私達の沈黙を破るように執事が声を掛けてきた。
「魔術師協会から魔術師様方がお見えでございます」
先程伝書鳩を送ったばかりなのに、動きが早いな。助かる。
私は早速同業者の協力を仰ぐため、彼らをおまたせしているという談話室に案内してもらったのである。
協会からやってきたのは上級魔術師の男性2名だった。その人達とは初対面だったが、私を一人の魔術師として尊重して話を聞いてくれた。私が在学中に遭遇したリリス・グリーン事件を耳にしていたから話が早かったのかもしれない。
「…これが呪いとは」
「伝染病の1つに似ていますから気づかないのも無理もありません」
死の病に似た衰弱の仕方である。病気と疑うのが普通だ。
そもそも黒呪術を使ったら問答無用に死罪である。使おうとする人間はそこまで多くないのでお目にかかることもない。呪いに気づかないのも無理はない。
彼らに簡単に説明した後に打ち合わせをする。2人で解呪して、残された1人はもしもの時のために待機する感じである。方法は呪い返し一択だ。返した呪いは術者に還る。見つけ次第そのまましょっ引く流れである。
「では、始めます」
「よろしくおねがいします」
私と一緒に呪い返しをする魔術師が夫人の体に触れる。呪文のタイミングは別に合わせずともいい、同じ白呪術の呪い返しを行うだけだから。
「我に従う光の元素たちよ──……」
私ともう片方の魔術師が呪文を唱えると、開け放った窓からファッと元素達が押し寄せてくる気配がした。
光の元素たちは夫人の中に蝕む黒呪術の元を押し出そうと彼女の身体に入り込み、光り輝いた。──目の錯覚かもしれない、光に負けた黒い影が霧散して消え去っていったように見えたのは。
「……顔色が、戻ってきましたね」
少し離れて待機していた魔術師が夫人の顔を覗き込んでつぶやく。彼女の体に残っていた痣が消え去り、青白さは残っているものの、元の肌の色を取り戻していた。依然として衰弱したままだが、それは加療すれば…
「…後は衰弱した身体を治療するだけですかね…はぁ……」
一緒に呪い返しをした魔術師は力が切れたのかヘナヘナとベッドの向こう側でへたり込んでいた。
呪い返しきついよね、私もさすがに疲れた。代償にごっそり魔力抜き取られちゃうもん…
「じゃあ僕は報告してきますんで」
「よろしくおねがいします」
私は備え付きの椅子に腰掛けて息を吐き出す。
難しい病気じゃなくてよかったが、この案件なら請求金額が更に釣り上がるなぁ。魔術師2人へ協力金支払わなきゃならんし……あとでエドヴァルド氏と話しなきゃ。
呪い返ししたのでそう時間を置かずに術者にすべて跳ね返っているだろう。
……誰だろうね、夫人に死にゆく呪いを掛けたのは…
■□■
「エドヴァルド!」
「…父上?」
その人物が押しかけてきたのは夕飯時だった。
「影でコソコソしていると思えば、何している! 誰だコイツらは!」
「……母上のお見舞いにこられた、って訳じゃなさそうですね」
私達はエドヴァルド氏と使用人におもてなしされ、おいしい食事に舌鼓を打っていた。和やかな雰囲気で食事をしていたのだ。
そんな私達の目の前に彼らは現れた。エドヴァルド氏が父と呼んだその人は見事な餌を吊り下げてやってきた。
「わたくしの美しい顔がこんな風になってしまったのよ! あのすかした女がやったに違いないわ!!」
宝石や派手なドレスで豪勢に飾られたその餌は、見覚えのある黒い痣をこさえていたのである。その痣は顔だけでなく首やデコルテまで広がっており、見た目は痛々しい。
同席していた私並びに魔術師2名は食事を中断すると、黙って席を立ち上がった。
彼らとは黒呪術を放った術者を探さなきゃなぁとは話していたんだけど、犯人からやってきてくれたお陰で捜索する必要はなくなった。
「黒呪術行使、及びシャウマン伯爵夫人殺害未遂容疑にて、魔術師権限であなたを捕縛させていただきます」
私が声を上げると、その人は大きな目をこれでもかってくらいに見開いていた。血走ってギョロギョロした目が私を睨みつけてくる。その恐ろしい形相にちょっと腰が引けそうである。
「はぁ!? この小娘、何の権限があって…わたくしを誰だと思ってるの!?」
知らんけど。他国の貴族の愛人の名前まで分かるわけ無いでしょうが。
「私はエスメラルダ王国の魔術師ですからね、あなたのお名前は存じ上げません」
女の意識が私に向いている隙に他の魔術師達があっさり捕縛呪文を掛けて拘束していた。
「お前っ何をする!」
「……シャウマン伯爵、あなたにも事情をお聞かせ願いたく」
「魔術師風情が私に楯突けるとでも!?」
参考人として同行してもらおうと伯爵の方も拘束されていた。協力者かどうかは知らないけど、これから事情聴取で明かされるであろう。
「仕事なので」
慇懃無礼に返した彼らは伯爵と愛人を拘束してひとまとめにすると、連行用の馬車を手配していた。
伯爵とその愛人には魔封じの首輪と自害防止に猿ぐつわを噛ませている。往生際悪く「むぐー! んー!」となにか喚いているその横で、神経図太い魔術師たちはごちそうをこれでもかってくらいに口に詰めているではないか。彼らいわく、これから仕事が待っているのでごちそう食いだめだという。
「せっかくのおもてなしですからね」
「もったいないですからね」
しっかりデザートまで召し上がった彼らは動いた。今回露見した件はシュバルツ国内の犯罪なので、シュバルツの魔術師である彼らに一旦おまかせすることにする。
その後伯爵邸前にやって来た馬車に乗せられて彼らは運ばれていった。伯爵の身柄は表向きは参考人としてだが、実際には容疑者として連行されていく。そんな父親をエドヴァルド氏は微妙な顔で見送っていた。
これにて一件落着なのであろうが、お家騒動にまで発展してしまった。
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