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Day‘s Eye 魔術師になったデイジー
自己否定
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目覚めると、懐かしい村の自室の天井が見えた。私は身体に残る倦怠感でぼんやりしつつ、何が起きたのかを思い出していた。
斜め上を見たら、学校で使われたことのある医療機器があった。これで栄養を体内に流されていたのだろう。
更に首を動かすと驚いた。辺境伯夫人が私の枕元に伏せて寝入っていたのだ。彼女の目元は濃い隈が残っており、いつもキレイにしているその姿は少しくたびれて髪型も崩れていた。眠る彼女の体には毛布がかけられている。
……何故ここにいるんだろうか。
不思議に思っていると、外側から扉が開かれた。
扉が開く音に反応して視線を向けると、お母さんがハッとした顔をしていた。予言を受け取ってから久々に帰ってきて早々に避難指示したので、彼女の顔をまともに見たのは本当に数ヶ月ぶりだ。
「デイジー! 良かった、あんた目覚めたんだね!」
お母さんは泣きそうな顔で、横になったままの私に抱きついてきた。私は声を出そうとしたけど、喉がカラカラで出てこなかった。なのでなんとか持ち上げられた腕をお母さんの背中に回す。
あたたかくて懐かしい腕の温もりに、心の奥底に押し込んでいた里心が溢れ出してきた。
「……アステリア! 目が覚めたのね!」
お母さんの喜ぶ声に反応して目が覚めた様子の夫人はガバッと体を起こした拍子に身体にかけられていた毛布を床に落としていた。
彼女は腕を伸ばしてきて、私の頬を手でそっと撫でると「心配したのよ」と掠れた声でつぶやき、静かに涙を流していた。
「…すみません…」
その涙にギクリとした私はただ一言、謝罪の言葉しか吐き出せなかった。
私の声は枯れており、カッサカサの声しか出てこない。それに気づいた夫人は目元をそっと拭いながら笑顔を浮かべる。
「なにか喉を潤せるものをもらってくるわね」
そう言って一旦彼女は部屋から出ていった。部屋にはお母さんと私だけが残される。
「……マルガレーテ様は徹夜で看病してくださったんだよ」
そう教えてもらった私はなんだか申し訳なくもあり、気まずい気持ちになった。
今や私はシュバルツ王国の貴族。そんな人間が隣国の村に強引に飛んでいって、敵兵と戦ったのだもの。
身勝手なことをしたということで叱られても仕方のないことである。
「あんたの友達のマーシアちゃんがすぐに治癒魔法を使ってくれたお陰で命が助かったから良かったけど、そうでなければ……。本当に、肝を冷やさせないどくれ」
あんたはいつもひとりで突っ走ろうとするんだから。とお母さんに頭を撫でられる。
「父さんも兄さんたちも、それにテオも心配していたのよ。…あんたはもう少し周りを見なさい。ひとりで生きているんじゃないんだからね」
優しく諭された言葉。
耳が痛い気持ちもあったけど、心に引っかかることが多すぎて、お母さんの言葉は私の耳を通ってどこかへと飛んでいってしまった。
私はここに何しに来たんだろう。
守ってみせると決めたのに自分ひとりじゃ何も出来なかった。
私は少々自己評価が高かったみたいだ。高等魔術師なのに経験の浅い役立たずだ。私は勉強ばかりできる、未熟者なんだと実感した。
致命傷だった矢傷はすっかりきれいに治ったらしい。
後は貧血と魔力切れを回復させるために静養するようにと言明された。2人の母親たちに世話を焼かれながら静養していると、マーシアさんがひょっこりお見舞いに来てくれた。
彼女は「ゆっくりおしゃべりしたいけど、時間が押しているから挨拶だけになる」と申し訳無さそうな顔をしていた。
「私はそろそろ戻らなきゃいけないけど…無茶は禁物だよ?」
マーシアさんもカンナと同じだった。以前と変わらない態度で私に接してくれる。
たまたまかもしれないけど、現場に彼女が加勢に来てくれて本当に良かった。本当に助かった。
……マーシアさんなら、互角に戦えたのだろうな。マーシアさんみたいに戦闘スキルがあれば、仇は取れたかもしれないのに。
私は珍しく人に嫉妬していた。そして自分の力不足に嘆きつつもそれを覆い隠して、笑顔を作った。
貴族になってから私は笑顔を作るのが上手になったのだ。
「ありがとう、マーシアさん」
なのに、マーシアさんは変な顔をして首を傾げていた。
──私は、上手に笑えていなかったのだろうか。
■□■
暫く寝たきりになっていたため、全身の筋肉がカチコチになってしまった。なので身体をほぐす目的で散歩に出ると、すれ違う村の人達みんなに声をかけられた。会う人皆がみんな、私を心配して、お礼を言ってくるのだ。
私はそれを受け取るたびに謎の息苦しさに襲われた。感謝されることはいいことだ。喜べばいいだけなのに何故か素直に喜べなかった。
「デイジー」
キラキラと太陽の光で金色の髪が輝く。つい最近、別の村の猫獣人の男性の求婚を受け入れたという婚約中のミアが、一緒にいた男性から離れて私のもとに駆け寄ってきた。
ミアと一緒にいるのが婚約者になった男性か。グレーの毛色が太陽の光でキラキラ光って灰銀色に見える……気のせいかもしれないが、色合いがアイツに似て…いやなんでも無い。
「身体、もう大丈夫なの?」
ミアは深刻そうな表情で問いかけてきた。
同じ言葉をここへ来るまで、色んな人から何回も受け取ってきた。その度に笑顔を作ってもう大丈夫だと返してきた。
「助けてくれてありがとう。最後まで命かけて戦ってくれたって聞いたよ。……お貴族様になってもデイジーはこの村に心傾けてくれるんだね」
私の手をそっと取って、ミアは涙を浮かべた瞳でこちらを見下ろしてくる。彼女の純粋でキラキラした瞳が今の私には眩しすぎた。
私の腹の奥底のどろどろした感情がゴプッと音を立てて吹き出してきたようだった。
「お礼を言われる筋合いはないよ」
私の口から飛び出してきたのは突き放すような言葉であった。
ミアは目を丸くして固まっている。なのだが、私の中の複雑な気持ちは一度吐き出すと留まるところを知らないとばかりに口から次々に溢れ出した。
「私は結局何も出来なかった。皆に助けられただけだった…ひとりじゃ何も出来ない役立たずだった」
ミアに掴まれた手をそっと解くと、私は胸元に輝く、エスメラルダ王国の高等魔術師の証であるペンダントを握りしめた。
これを手に入れるために学生時代は一心不乱に努力し続けた。
だけど、それだけじゃ駄目だった。私は自惚れていた。
──本当の私はきっと。
「貴族であっても、魔術師の資格を持っていても、私は全然」
こんなもの持っていたって、意味がない。努力して得たものは、戦いの前ではただのガラクタだ。結果を出せなければ意味がないのだ。
戦いの最中で無様に膝をついた自分のことを思い出した。
放つ攻撃すべて避けられ、背中を矢で射たれ、無様な姿を晒した。最後まで戦えなかったのが悔しい。
……みすみす仇を逃してしまった。
「私は、無力だった」
敵を捕まえられなかった。
私一人であのまま戦っていたらきっとこの村は消滅していた。
私は自分ひとりで強くなったつもりだけど、全然だ。どんなに努力しても、私はまだまだ力不足の役立たずなのだ。
それが悔しくて情けなくて仕方がなかった。
──ロジーナさんの最期の姿を思い出す。
フェアラートに対する殺意が蘇える。怒りの感情に飲み込まれ、無意識のうちに自分の体に宿った魔力を外へ向かってブワッと放出してしまった。
それを野生の勘で察知したミアが耳と尻尾の毛を逆立て、ピンッと立たせて驚いていた。彼女の様子に私は我に返り、すぐに魔力を抑え込むと、バツの悪い表情を浮かべた。
馬鹿だ、私は。
無関係のミアに八つ当たりのような発言して、怯えさせて。
「…ごめん、もういくね」
ひとりになりたい。
人のいないところに行きたい。
「デイジー!」
ミアが呼び止めてきたが何も聞こえないふりをした。人の視線に耐えきれなくなった私は転送術を使って移動した。
誰にも会いたくない。誰にも話しかけられたくない。何も聞きたくない。
自分の中の嫉妬と憎悪と向き合うのが怖い。この醜い感情に飲み込まれて、自分が自分じゃなくなってしまいそうだったから。
自分がこんなに弱く無力だって知りたくなかった。
自惚れたままでいたかったのに。
斜め上を見たら、学校で使われたことのある医療機器があった。これで栄養を体内に流されていたのだろう。
更に首を動かすと驚いた。辺境伯夫人が私の枕元に伏せて寝入っていたのだ。彼女の目元は濃い隈が残っており、いつもキレイにしているその姿は少しくたびれて髪型も崩れていた。眠る彼女の体には毛布がかけられている。
……何故ここにいるんだろうか。
不思議に思っていると、外側から扉が開かれた。
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「デイジー! 良かった、あんた目覚めたんだね!」
お母さんは泣きそうな顔で、横になったままの私に抱きついてきた。私は声を出そうとしたけど、喉がカラカラで出てこなかった。なのでなんとか持ち上げられた腕をお母さんの背中に回す。
あたたかくて懐かしい腕の温もりに、心の奥底に押し込んでいた里心が溢れ出してきた。
「……アステリア! 目が覚めたのね!」
お母さんの喜ぶ声に反応して目が覚めた様子の夫人はガバッと体を起こした拍子に身体にかけられていた毛布を床に落としていた。
彼女は腕を伸ばしてきて、私の頬を手でそっと撫でると「心配したのよ」と掠れた声でつぶやき、静かに涙を流していた。
「…すみません…」
その涙にギクリとした私はただ一言、謝罪の言葉しか吐き出せなかった。
私の声は枯れており、カッサカサの声しか出てこない。それに気づいた夫人は目元をそっと拭いながら笑顔を浮かべる。
「なにか喉を潤せるものをもらってくるわね」
そう言って一旦彼女は部屋から出ていった。部屋にはお母さんと私だけが残される。
「……マルガレーテ様は徹夜で看病してくださったんだよ」
そう教えてもらった私はなんだか申し訳なくもあり、気まずい気持ちになった。
今や私はシュバルツ王国の貴族。そんな人間が隣国の村に強引に飛んでいって、敵兵と戦ったのだもの。
身勝手なことをしたということで叱られても仕方のないことである。
「あんたの友達のマーシアちゃんがすぐに治癒魔法を使ってくれたお陰で命が助かったから良かったけど、そうでなければ……。本当に、肝を冷やさせないどくれ」
あんたはいつもひとりで突っ走ろうとするんだから。とお母さんに頭を撫でられる。
「父さんも兄さんたちも、それにテオも心配していたのよ。…あんたはもう少し周りを見なさい。ひとりで生きているんじゃないんだからね」
優しく諭された言葉。
耳が痛い気持ちもあったけど、心に引っかかることが多すぎて、お母さんの言葉は私の耳を通ってどこかへと飛んでいってしまった。
私はここに何しに来たんだろう。
守ってみせると決めたのに自分ひとりじゃ何も出来なかった。
私は少々自己評価が高かったみたいだ。高等魔術師なのに経験の浅い役立たずだ。私は勉強ばかりできる、未熟者なんだと実感した。
致命傷だった矢傷はすっかりきれいに治ったらしい。
後は貧血と魔力切れを回復させるために静養するようにと言明された。2人の母親たちに世話を焼かれながら静養していると、マーシアさんがひょっこりお見舞いに来てくれた。
彼女は「ゆっくりおしゃべりしたいけど、時間が押しているから挨拶だけになる」と申し訳無さそうな顔をしていた。
「私はそろそろ戻らなきゃいけないけど…無茶は禁物だよ?」
マーシアさんもカンナと同じだった。以前と変わらない態度で私に接してくれる。
たまたまかもしれないけど、現場に彼女が加勢に来てくれて本当に良かった。本当に助かった。
……マーシアさんなら、互角に戦えたのだろうな。マーシアさんみたいに戦闘スキルがあれば、仇は取れたかもしれないのに。
私は珍しく人に嫉妬していた。そして自分の力不足に嘆きつつもそれを覆い隠して、笑顔を作った。
貴族になってから私は笑顔を作るのが上手になったのだ。
「ありがとう、マーシアさん」
なのに、マーシアさんは変な顔をして首を傾げていた。
──私は、上手に笑えていなかったのだろうか。
■□■
暫く寝たきりになっていたため、全身の筋肉がカチコチになってしまった。なので身体をほぐす目的で散歩に出ると、すれ違う村の人達みんなに声をかけられた。会う人皆がみんな、私を心配して、お礼を言ってくるのだ。
私はそれを受け取るたびに謎の息苦しさに襲われた。感謝されることはいいことだ。喜べばいいだけなのに何故か素直に喜べなかった。
「デイジー」
キラキラと太陽の光で金色の髪が輝く。つい最近、別の村の猫獣人の男性の求婚を受け入れたという婚約中のミアが、一緒にいた男性から離れて私のもとに駆け寄ってきた。
ミアと一緒にいるのが婚約者になった男性か。グレーの毛色が太陽の光でキラキラ光って灰銀色に見える……気のせいかもしれないが、色合いがアイツに似て…いやなんでも無い。
「身体、もう大丈夫なの?」
ミアは深刻そうな表情で問いかけてきた。
同じ言葉をここへ来るまで、色んな人から何回も受け取ってきた。その度に笑顔を作ってもう大丈夫だと返してきた。
「助けてくれてありがとう。最後まで命かけて戦ってくれたって聞いたよ。……お貴族様になってもデイジーはこの村に心傾けてくれるんだね」
私の手をそっと取って、ミアは涙を浮かべた瞳でこちらを見下ろしてくる。彼女の純粋でキラキラした瞳が今の私には眩しすぎた。
私の腹の奥底のどろどろした感情がゴプッと音を立てて吹き出してきたようだった。
「お礼を言われる筋合いはないよ」
私の口から飛び出してきたのは突き放すような言葉であった。
ミアは目を丸くして固まっている。なのだが、私の中の複雑な気持ちは一度吐き出すと留まるところを知らないとばかりに口から次々に溢れ出した。
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私は自分ひとりで強くなったつもりだけど、全然だ。どんなに努力しても、私はまだまだ力不足の役立たずなのだ。
それが悔しくて情けなくて仕方がなかった。
──ロジーナさんの最期の姿を思い出す。
フェアラートに対する殺意が蘇える。怒りの感情に飲み込まれ、無意識のうちに自分の体に宿った魔力を外へ向かってブワッと放出してしまった。
それを野生の勘で察知したミアが耳と尻尾の毛を逆立て、ピンッと立たせて驚いていた。彼女の様子に私は我に返り、すぐに魔力を抑え込むと、バツの悪い表情を浮かべた。
馬鹿だ、私は。
無関係のミアに八つ当たりのような発言して、怯えさせて。
「…ごめん、もういくね」
ひとりになりたい。
人のいないところに行きたい。
「デイジー!」
ミアが呼び止めてきたが何も聞こえないふりをした。人の視線に耐えきれなくなった私は転送術を使って移動した。
誰にも会いたくない。誰にも話しかけられたくない。何も聞きたくない。
自分の中の嫉妬と憎悪と向き合うのが怖い。この醜い感情に飲み込まれて、自分が自分じゃなくなってしまいそうだったから。
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