太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

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Day‘s Eye デイジーの花が開くとき

見た目は幼女、中身は十八歳

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 手配中の薬草の到着を待っている間、私はメイド達の着飾りたいという欲望から逃げながら、城の中で自由に過ごさせてもらっていた。
 その間にも父上が怒れる抗議文をエスメラルダ王国に送りつけており、私はヒヤヒヤしながらそれを見守っていた。一応穏便にとは言ったけど、そうは行かないらしい。
 なんだろう、ハルベリオン相手に長年ピリピリしていたフォルクヴァルツの人間は好戦的なのかな。迎え撃ってやるという気概を感じる。

 正直、嫌がらせしてきた魔法庁の役人がどうなろうと知ったこっちゃないのだが、それによって無関係な人が被害被るのが困るのだ。
 例えば国同士仲が悪くなって戦になったり、経済制裁になったり…庶民が泣きを見るのだけは避けてほしいのだ。


□■□


 空いた時間を利用して、以前失敗に終った若返り薬に再挑戦していた。
 どうしても諦めきれなかったのだ。寄る年波には勝てないとはいうが、仕事が力仕事のため無理をせざるを得ないお父さんを見ているとどうにかしてやりたい気持ちでいっぱいになる。
 手元には還らずの森で採取した希少薬草がある。これを使って若返り薬を成功させてみせる…!
 私が部屋に籠もりきりで頭をひねっていると、訪ねてきた母上が助け舟を出してくれた。実は彼女も薬学に精通していらっしゃるのだ。

 モクモクと煙を上げる薬剤。私はそれを覗き込みながらメモを取っていた。
 母上は手慣れた様子で薬を作っていく。

「薬の素地が出来上がったら、ここに度数の高いお酒を垂らします」
「お酒を入れるんですね…」

 まさかの酒。アルコールで成分を変異させるのか?
 私は持っていた薬辞典の若返り薬ページを隅から隅まで見直してみたが、酒なんて単語、一個も載ってないぞ。
 
「お酒のことは薬辞典には書かれてないです…」
「その本に書かれているのは物理的な若返り薬のレシピなのでしょうね」

 それならそうとレシピの隅っこにでも書いておいてほしい。たしかにあの時私は若返り薬で見事若返ったが、記憶まで退化してあちこちに多大な迷惑をおかけしたんだぞ。

 そんなこんなで出来上がった若返り薬を早速自分の口の中に垂らした。まずは自分で実験である。あまり若返っても困るので飲むのは3滴だけだ。

 飲んでからすぐに効果は現れた。
 ズズズ…と身体の細胞が圧縮されていくような変な感覚に襲われたが、今回は自分の意識を保ったまま若返りに成功した。
 私は部屋にある姿見を覗き込んで、自分の姿を確認する。

「3、4歳って所かな…」

 1滴で約5歳の若返り効果があるのか。危ない、4滴飲んだら赤子通り越して消え去っていたかもしれない。身体が縮んで身体に合わなくなったドレスが動作の邪魔をする。事前に用意していた自分の子ども時代の服を着ようとドレスを引きずっていたのだが、後ろから伸びてきた腕によって足止めを食らう。

「なんて愛らしいの!」
「!?」

 誰って、母上だ。彼女はその目で見ることのなかった私の幼少期の姿に興奮した様子で頬ずりしてきたではないか。私はびっくりして固まっていた。
 しかし彼女はお構いなしに目を輝かすと、「あなたの幼少期用のお洋服があるのよ!」と言って、そのまま私を抱き上げたままどこかへと連れ去っていった。


 ──それから小一時間後、私は幼い子ども用のドレスを着せられていた。これからパーティにでも行くのかって位華やかな……子ども用ドレス。
 母上は15年も前の流行だから…とは言っていたが十分です。

 こころなしか目の色が変わっているメイドたちから髪を巻かれ、軽く化粧され…父上と兄上にお披露目された私は死んだ目になっていた。
 反応が激しかったのは母上だけじゃない。父上もである。あろうことか彼は私を抱き上げて高い高いをし始めたではないか。兄上はそんな私を温かい眼差しで見守っているだけで助けてはくれなかった。

「あの、私の意識は18歳のままなので」

 いたたまれないのでやめていただきたい。
 なのだが、両親にとっては飛び上がるほど嬉しい状況だったのだろう。私は子ども扱いされて存分に甘やかされた。
 メイドに捕まって着せ替えされまくり、その度に抱っこされ、高い高いされる。寝る前には両親揃って絵本を読もうとしたり、子守唄を唄いに来る。画家を呼んで絵を描かれたと思えば、昔描かせたという家族絵に幼い私を付け加えた絵を作らせていた。
 その上、領地視察に父上が私を連れていくと言って、行く先々で見世物にされていた。
 父は私を自慢して見せびらかしたいみたいであるが、私は恥ずかしくてたまらなかった。ていうか3・4歳の姿の子どもが大人みたいに喋ってる光景とか不気味で仕方ないと思うんだけど…
 そうこうしているうちに注文していた薬草がすべて届いたとの報告を受けた。


「村に帰ります」

 目的の薬草は手に入ったし、このままここにいると私の矜持がズタズタになってしまう……ダメ人間になってしまう……

「危険だよ、そんな可憐な姿で。それにまだあちらでの問題は」
「いえ、村のお父さんにこの薬を差し入れしてあげたいですし、注文の薬を待っているお客さんもたくさんいますから……」

 私の矜持のことは置いといて、注文の薬を納品しなきゃいけないのだ。もともとこっちに長居する気はなかったんだ……
 ちなみにこっちには1週間以上滞在していたが、薬の効果は未だ持続中だ。母上から教えられたレシピだと、経口投与で大体一ヶ月くらいの効果期間があると教えられた。これはきっとお父さん喜ぶぞ。

「ならばわたくしがついて参ります。せめてアステリアが元の年齢に戻るまでは。幼い姿では色々不便でしょうし、魔法庁の人間が来た時が心配です」

 そんなわけで母上同伴の上、珍しく馬車で帰宅することになった。私は帰りもルルに乗るつもりだったが、ルルがちっこくて危ないからと止めてきた為である。
 子どもに戻ったせいか腕力もだけど、体力も落ちてしまった。確かにこれでは危険だと判断した私はおとなしく馬車に乗った。


 馬車の旅を終えて村に帰り着く頃には夕方になっていた。
 ぎぃ、と音を立ててマック家の前に停まった馬車。扉が開いたので降りようとしたら、従者によって恭しく抱き上げて降ろされた。城の人全員私を幼児扱いしてくるんだがどうにかならないかな。確かに馬車は大きな段差があるけども。

 お礼もそこそこに私は家の扉を開けると「ただいまー」と声を掛けた。
 出迎えたお母さんは私の姿を見てぎょっとしていた。

「で、デイジー?」
「試薬でこうなっただけだから気にしないで。一月くらいこんな感じだけど」

 お姫様ドレスとか巻かれた髪には何も突っ込んでくれるな。脱ごうとすると母上がしょぼんとするから我慢して着ているだけだ。

「ごきげんよう」
「マルガレーテ様…?」

 私が母上と一緒に帰ってきたもんだからお母さんが目を丸くしていた。

「…ちょっと御相談がありまして…ご主人も同席していただきたいのだけれど…」

 その後、マック家の両親と母上と私の4人で、私の現在の状況を話し合われた。両親にはそれとなく、魔法庁に目をつけられた事を話していたので、彼らはすぐに理解を示す。母上が私の年齢が元に戻るまで、魔法庁関係者から守るためにこの村に滞在したいのだと説明すればすぐに受け入れてくれた。
 両親が狭いところだけど…と言って、兄さんたちが昔使っていた部屋を提供すると、母上はなんだか嬉しそうであった。そんなわけで、しばらく母上がマック家に滞在することと相成ったのである。


■□■


 母上に手伝ってもらって出来上がった若返り薬をお父さんに差し出すと、お父さんは躊躇わずに飲んでいた。1滴で約5歳若返ると説明したら4滴ほど飲んでいた。

「すごいな、身体が軽い!」

 お父さんは若返り、兄さんたちの少し上くらいの年齢に変わった。彼は嬉しそうに腕を回し、張り切って仕事に出かけて行った。喜んでくれてよかった。

 私はといえば、幼児の体のままで注文分の薬を母上に手伝ってもらいながら制作していた。テスト試薬だったとはいえ、先に注文分の薬を作ってしまってから若返り薬の試薬すれば良かった。
 なんせナイフを持つのも、火を扱うのも危ないからと言われて、ほぼ母上に作らせてしまったような……手間賃として売上金を渡してもいいが、彼女にとっては端金のような気がするしどうしたものか…。


「…ねぇテオ」
「どうした?」

 私が声をかけると、奴はぴょこりと耳を動かして反応した。

「私歩けるんだけど。もしくはロバに乗るけど」
「駄目だ。危ない。怪我をするかもしれないし、誘拐されるかもしれない」

 そんなバカな。
 町に配達にいくのも最初は母上が護衛と一緒についてきてくれるとのことだったのだが、そこに私の帰りを待ち構えていたテオがやって来て同行すると言い出した。テオが私の恋人であると知っている母上は気を遣ってくれて、2人でいってらっしゃいと見送ってくれた。
 ……だけどさ、気を遣われても今の私、身体が幼児なので流石に恋人らしいことはなにもないと思うんだけど。

 いざ出発だと歩こうとしたら当然のように幼児抱きされ、ロバの手綱を手に取ったテオ。あまりにも自然な仕草に私はしばらく思考停止していたが、テオは嬉しそうに尻尾ブンブン振っている。

「あんたロリコンに間違われるよ?」
「お前と俺は同い年だろ」

 そう言って私の頭に顔を近づけて匂いを吸ってくる姿はどう見てもロリコンだと思う。
 やめて、恋人がロリコンだと誤解されるの私が嫌なんだけど……

 私は麻薬か何かなのか。テオは幸せそうに私の匂いを嗅いでいる。何がどうしてそんなにも私の匂いが好きなのだろうか。
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