太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

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Day‘s Eye 花嫁になったデイジー

愛情表現のかたち (※R18)

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「ただいまー」

 スキップしてきそうな声音で帰りを告げたテオが料理中の私の背中に抱きついてきた。夕飯のスープをかき混ぜていた私は眉間にシワを寄せる。

「料理中は危ないから抱きつかないでって言ってるでしょ」

 前に回ってきた腕をぱしっと叩いて離せと促してみるが、私を抱き込む腕に更に力がこもる。テオは私の項に口づけるとスンスンと匂いを嗅いでいた。
 私はやめろと注意しているんだが、テオの耳には届いてないようだ。

「後ろ姿がめちゃくちゃそそる」

 すーりすりと身体を擦り付けて愛情表現してくるテオ。服の上から人の乳を揉んでくる不埒な手はギュッとつねっておく。

「いてぇ」
「すぐにご飯にするから、手洗ってきて」

 私が手洗い命令を下すと、テオはご機嫌にしっぽを振って洗面所へと駆け込んでいた。
 基本的に平日夜は私が夕飯を作ることが多い。食卓に並ぶ料理を見ては毎回毎回目を輝かせるテオを見るのが私の密かな楽しみだったりする。

「ん! これうまいな!」
「そう? 初めて作ったから自信なかったけど良かった」

 テオはめちゃくちゃ私の料理を褒めてくれる。
 正直最初は味も安定しないしレパートリーも少なくて満足行く料理は作れなかったけど、テオは毎回毎回大げさに感激して気持ちいい食べっぷりを見せてくれた。美味しいものは素直に美味しいと言ってくれるので、こちらとしても作るのが楽しくなった。
 なのでテオが食事を作ってくれた時、私も同じように良いところを褒めるのを実践している。料理を褒めると彼も喜ぶので、きっと私と同じ気持ちになってるんだろうなってわかる。
 私は愛されてるし、きっとテオも私の気持ちを理解している。そんな気分になるんだ。




 ──ろうそく明かりだけが頼りの真夜中近く。
 私はベッド脇に跪き、腰掛けたテオの股ぐらに顔を埋めていた。テオにお願いされて口で愛撫してあげているのだ。口の中に収めると大分苦しいけど、テオが喜ぶので頑張る。
 私の頭を撫でているテオが息を詰めて低く唸る。気持ちいいのかな。テオが感じているとわかるとますます頑張りたくなる。

「も、もういい…イッちまいそうだから…」

 せっかくだから最後までしてあげようと思ったのに中断させられた。私は少しがっかりする。
 テオに両腕を引っ張られた私はそのままベッドに乗り上がる。そのまま彼の身体を跨ぐと、私の唾液まみれになった昂りに手を添える。
 先程まで入念に愛撫された私の身体はもう既に受け入れ体制に入っていた。入り口にその切っ先をつけるとそのまま腰を沈める。

「あぁ…」

 張り詰めた鉄杭が膣の中いっぱいに収まる。熱い。それに苦しい。だけどたまらなく幸せだ。
 圧迫感をなんとか逃がそうと浅く息をしているとテオが手を伸ばして私の下唇を親指でそっと撫でてきた。私はその指を口に含んで吸い付く。さっきテオにしてあげたように見せつけるようにしゃぶるとテオが小さく息を呑んだ気配がした。
 テオの指から口を離したついでに舌で親指の腹をなぞる。──薄暗くてもわかる。テオの目の色が変わったって。

 彼の胸に手を置くとゆっくり腰を動かした。だけどテオみたいに動くのは難しい。どうしても拙く鈍い動きになってしまう。テオは私の腰を支えるように手で支えながら、こちらをじっと見つめていた。
 まるで狼が獲物を狙っているかのように鋭く餓えた瞳だったもので、私はゾクリとした。

 だけどそれは恐怖からじゃない。愉悦、歓喜に似た震えだった。
 テオは私に夢中だ。私を欲しがっている。その事実に私は優越感を覚えるのだ。

「すげぇエロい…見晴らし最高」

 うっとりとした顔と声で言われた言葉に私は動くのをやめた。
 …こいつは一体何を言っているのか。
 つい先日、捕縛術を使ってテオの上に乗って好き勝手したときは半泣きで「動きたい、許してもう無理」と騒いでいたのに、今日はやけに余裕じゃないか。

「でもやっぱり」

 この間みたいにもっと感じて乱れてくれなきゃ面白くないなぁと思っていたら、テオの腕が私の身体を引っ張り込んできた。ベッドの上をゴロンと転がった私とテオは攻守逆転していた。
 テオに見下される形になった私は目を丸くして固まる。

「…上に乗って欲しいって言ったのはテオなのに」

 捕縛術使われたときは服を着ていたし、首を動かせなくて私の痴態が見れなかったから今日は拘束無しでしてほしいとお願いしてきたのはあんただろう。
 せっかく頑張ったのに、これではいつもどおりじゃないか。

「うん、上で必死に腰振ってるデイジーも可愛かったけど、やっぱこっちのほうがいいな」

 そう言ってテオは両手で乳房を持ち上げるようにして揉み上げてきた。胸の感触を手のひらで楽しみながら、私の身体をまじまじと観察していた。

「…俺のをしゃぶってる姿もやべぇけど、上に乗ってる姿もやべぇ。なんなの俺の嫁さん。エロい、エロすぎる」

 独り言みたいにぶつくさ言ったかと思えば、テオは大きく腰を打ち付けた。ビリッと襲い来る強い快感に私は口を半開きにして、声なく喘ぐ。

「ここか? 今めっちゃ締まったな」
「あ…っ! そこだめぇ」

 テオは私の反応を面白がって私を貪る。強すぎる快感にのけぞって空気を欲しがる魚のように口をパクパクさせている私の喉笛にテオが軽く噛み付いて舌を這わせる。そのままテオの舌が私の鎖骨を撫で、胸元にたどり着く。
 ツンと尖って刺激を欲しがる私の胸の尖りに強く吸い付きながら、つながっている部分をぐりぐりと押し込んでくる。決して乱暴じゃない、私の快感の度合いを探りながら絶妙な力加減で私の体の奥まで愛撫してくるのだ。

「もうっ! ぐりぐりしないで…!」
「なんで? そんな溶けそうな顔してるくせに」

 ニヤニヤと意地悪く笑うその面は幼い頃のいじめっ子の顔とそっくりそのままだ。

「こ、このいじめっ子…!」

 私は手を伸ばして奴の獣耳を掴んでワシャワシャしてやる。

「く、くすぐってぇ、やめろ!」
「お返しだバカッ」

 獣人の獣耳が性感帯なの知ってるんだから! だから通常は配偶者の耳しか触んないんだよね!
 テオは私からのえげつない攻撃に屈服してへろへろと脱力すると私の体の上にのしかかって来た。
 私が勝利した瞬間である!

「この、お前もこうしてやる!」
「痛いってば」

 私は耳を触られてもほんの少しくすぐったいだけで、性感帯というわけじゃない。とりあえず噛み付くのやめろ。
 夫婦の睦み事をしていたはずなのに私達は子どものようにちょっかいを掛け合っていた。笑い合ってじゃれ合って、絡み合ったまま私達は見つめ合っていた。
 テオが私の瞳を覗き込み、囁くように言った。

「デイジー、愛してる」

 私はくすぐったい気持ちに襲われたけど、彼の首に抱きついて返事をした。

「うん、私もテオを愛してる」

 私が愛を返すと、テオはとろけそうなほど甘い瞳で私に微笑みかけ、唇を奪ってきた。


 正直こっ恥ずかしいから愛を語り合うのは苦手なんだけど、褥の場では語る。
 こんなの、この場にテオしかいないから言えることだ。

 ……だけど私のそれは獣人の常識からしたら愛が足りていないと思われやすいみたいだ。

 獣人はとにかく伴侶へ愛を囁く。
 それはフォルクヴァルツでしばらく生活して村へ舞い戻ってから強く実感した。以前はそれが普通だったけど、外に出てみたら、獣人のそれらは異常すぎる熱量なんだなと。
 元々政略結婚だった実両親と、ほぼ恋愛結婚である獣人らを一緒にしてはいけないんだろうが、熱量の差が半端なかった。育ての両親も兄夫妻もまぁ伴侶に愛をぶつける。戻ってきてしばらくはそれらを見慣れるのに少々時間がかかった。

 ひとつだけ前置きすれば、フォルクヴァルツの実両親はお互いを尊敬しあい、信頼しあっている。政略結婚と言う割には仲がいい印象だ。
 獣人の夫婦はそれらと違って、本能からくる執着に加えて深い愛情が全面に押し出されているように感じる。

 テオも例に及ばず、獣人らしく私にバカでかい愛をぶつけてくる。私はそれに押しつぶされそうになりながらも、新婚生活を送っていた。
 ──時折思うのだ。愛してくれるのはいいが、もう少し落ち着いてくれないかなぁと。受け止めるのも大変なんだよ。


□■□


「デイジーって昔から口数少なかったけど、その調子じゃテオにも愛の言葉をまともに伝えてなさそうだよね」

 そう呼び止めてきたのは初等学校時代の同級生だった子である。森での薬草採集帰りの私は、薬草が詰まった籠を持ち替えて彼女と向き合った。
 その子には以前までは一方的にテオを巡って敵対視されていたが、今では態度も軟化した。理由は結婚して自分を愛してくれる伴侶を手に入れたかららしいが、私はその変化に戸惑うだけだ。

「…今更だと思うんだけど」

 そんな事言われてもこれはテオと私の問題なので他人には口出しされたくないな。
 そもそも人族は獣人ほどあけっぴろげではないんだ。無理を言ってくれるな。根本的に違うものをどうこう言われても困るんだが。

「あのね、いくら獣人が番を大切にする生き物って言ってもね、関係が崩れるときはあるんだよ。今でもテオはものすごい人気なんだから! なんたって獣人の中でも群を抜いて一途な狼獣人だもの! 奥さんがいてもいいって女は腐るほど居るんだからね!」
「そう…」

 熱弁されて私は頷くほかなかった。
 心変わり云々はそれは人族の結婚にも言えることだ。むしろ人族のほうがハードル低いから結婚してもすぐに不貞される話なんて腐るほどある。
 あとテオがモテるのは昔からなので今更なような気もする。人のもの欲しがる人がいるのも知ってるよ。貴族生活の時に流れ込んできたスキャンダルな話題で聞き飽きましたとも。
 彼女は私の薄い反応に呆れたという態度を隠さず、大きなため息を吐き出した。

「ホント淡々としてるよねぇ。テオはデイジーのどこが良かったんだろう…」

 さり気なく貶されたぞ。
 どこが良かったかとか私が知りたい。本人に聞いてもいい匂いがするからって返事が返ってきそうだが。

「容姿ならミアも負けてないし、運命の番だったあの人もきれいな人だった。あの2人のほうがテオに従順だったろうに……なんで反抗的なデイジーなんだろう…」

 私が反抗的なのは元いじめっ子が悪いんです。文句ならテオに言ってください。
 …散々な言われようだが、私だって夫になった相手に愛の言葉のひとつくらいは言うぞ。主に寝室の中でだけど。

「だって甘い言葉のひとつをかけたら最後、寝かせてもらえなくなるもん。外でそんなこと言ったら、あいつ人前で盛っちゃうでしょ」

 私は人前で盛るのは恥ずかしいから止めてほしいのだ。獣人ってその辺の恥じらいの概念がないのか、発情すると一直線なところあるよね。私は外野にそういうのを悟られるのが苦手なんだ。

「愛の言葉なんて本人に伝わればいい。それを外野に聞かせる必要なんてないよ」

 それを見せつける必要はないだろう。想いは本人にしっかり伝わればいいだけのこと。私はそう思うのだ。
 私の発言に彼女は目をまんまるにして固まった。

「…デイジーの口から惚気話を聞かされる日が来るとは思わなかった」
「…惚気のつもりはまったくないけど」

 私に嫌味でも言いたいのか、それとも新婚の先輩としてありがたいお話でもしていただけるのか。どっちにしても私には必要のなさそうな話のようなので、私はこれにて失礼する。

「あっちょっとまってよ」
「…まだなにか用あるの?」

 再度引き止められた私は迷惑そうな態度を隠さなかった。
 彼女は私の胡乱な瞳にぐっと口ごもるが、私の腕にあるカゴの中の薬草を見て、そして言った。

「あの、私にもあの美容クリームを売って欲しいの」

 ……あんたもか。
 それを言うために人を引き止めて、嫌味言ってきたんか。私の目はますます面倒くさいものを見る目になっていたのである。
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