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新日本計画編

No.13Black&White

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「多田未来君…先日まで埼玉の入間基地で航空自衛隊隊員として働いてくれた。今日から君たちの仲間になる」
厳しい目つきのまま、彼らを見つめていた。
しばらくの間、部屋の中では沈黙が流れた。
「えーっと、みちゆき君だっけ?」内田が口を開いた。「じゃあ、ミッチーだ。よろし…」
「勝手にそうやってあだ名を決めないで欲しいな」未来は鋭い目つきをしながら言った。「こんなことをするために来たんじゃない」
「あ…すみませんでした…」
内田がしょぼんと肩を落とすと、未来は黙ってどこかへと消えてしまった。未来がいなくなった途端、空気が変わった。あいつは絡みにくい奴だったと。皆口を揃えて言った。その時、浩彦は未来が何かを落としたのを見ていた。浩彦は急いでそれを拾い、届けていった。

廊下に出ると未来がポケットに中を必死で探していた。意外とうっかりさんなのかもしれない。浩彦はそう思った。
「探し物はこれかい?」
浩彦は未来に落し物を差し出した。
「ありがとうございます!一体、どこでこれを…」
「あ、ごめんね。確認するために中身見ちゃって…」
浩彦の顔を見るなり未来は駆け足でその場を離れた。
「待って!」浩彦は叫んだ。「どうして名前を隠していたの?別にぼく、それを利用したいなんて思ってないよ。ただ単になんで偽名を使ったのか気になって…」
それを聞いた未来は照れた。
「だって、恥ずかしいじゃん。男の名前で『みらい』って…」
「…」
「ゴメン!もう行くね!!」
「あっ…」浩彦は呟いた。「行っちゃった…」

「ふーん。そういうことか…」
「うん。だからどうしようかなって思ってさ…」
あの出来事が終わってすぐに皆に報告をした。それを聞いて一部の者は彼に対しての印象は良くなったものの、やはり大半の者は彼に対しての印象は変わらなかった。
「じゃあ、お前自身はどうしたいんだ?」
アサミが浩彦に投げかけた。
「いや、どうしたいって言われても…」
「これはきっとお前に対して少なくとも好意を持っているんじゃないのか?だったら浩彦の好きにするといい。な?」
半ば強引で答えにはなっていなかったが、浩彦はそれを聞いて答えた。
「…分かった。頑張ってみる」

あくる日の夕方、浩彦は緒川に頼み未来を呼び寄せた。相変わらず、未来の目つきは鋭い。浩彦は彼を見つけるなりニッコリと笑った。
「こんにちは。今日はありがとうね来てくれて」
終始無言。浩彦は構わず続けた。
「そんな顔しないでよ。ぼく、きみと仲良くなりたいんだ」
「何?それだけのことでここまでこさせたの?」
未来は浩彦を睨みつけた。警戒している。そう浩彦は思った。
「なんかね、君を見ていると少し前のぼくに似てるなって思ってさ…」
「少し前の君に?」
未来の顔つきが変わった。浩彦に興味を持ったらしい。しめた。今のうちに…
「うん。最初は本当にみんなのことを疑ってたし面倒だと思ってた。けど、みんなに会って色々と考えが変わったよ。こんなぼくでもここにいていいんだって」
「…」
「最初から信じろとは言わないよ」浩彦は未来に近づいた。「けど、みんないい人だから困ったときは助けるよって伝えたかったんだ」
未来の顔から、警戒の色が消えた。浩彦に安心したらしい。
「あ、そうそう。未来っていい名前だね。だから将来ぼくに子供ができたらさ名前もらっていいかな?未来って…」
しばらくの間、二人の間に不思議な時が流れた。
「ありがとう浩彦くん。そう言ってくれたのは君が初めてだよ」
その言葉に浩彦は驚いた。「えっ…いまなんて…」
「詳しい説明は後で。それよりも…」

浩彦に招集された皆は、いつもの公園に集まった。公園は普段に比べ静かだった。
「あ、来たよ。浩彦とミッ…じゃなくて多田くん」
「ミッチーでいいよ。うっちー」
それを聞いて皆驚いた。「何でおれの…」
「教えてもらったんだ。みんなゴメンね。あんな風にして…ちょっとみんなのことを試したかったんだ。改めて…防衛省の多田未来です。宜しくお願い致します」
そう言い、未来は頭を下げた。
「じゃあ、早速だけど…これを見て欲しいんだ」
未来はiPadを取り出し何やら操作をし始めた。
「はい」
それを見た皆は再び驚いた。「えっ、何これ?」
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