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二章
奇妙な少女②
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「それは―――……言えません」
「……は、はあ? なんだよそれ」
俺は思わず裏返ったような声を上げた。
「そこまで思わせぶりな言い方しておいて、それはないだろ」
語気が少し荒くなってしまう。
根拠や理由があるのなら聞かせて欲しかった。一体どんな理由があって、彼女は放火だと断言しているのか―――
しかし彼女は、
「言えません」
頑なにその理由を言おうとはしなかった。
「言っても、あなたはどうせ信じませんから」
そして今度は少し寂しそうに、また視線を地面に落としてしまった。
「信じないって……それは俺が決めることだろ」
「………」
「いいから言ってみろって。もしかしたら割と簡単に信じられるかもしれないぞ」
放火だと言い張る彼女の根拠を聞いてみたかったし、何より信じないと言うからには、一体どんなぶっ飛んだ理屈が彼女の口から飛び出してくるのか興味が湧いていた。
……しかし、次に彼女が放った言葉は、俺の予想を完全に超越したものだった。
「……あなた、霊を信じますか?」
静かに彼女が口を開いた。
「……えっ?」
その意味がわからず、俺はつい反応が遅れてしまう。
れい……? 例……? 鈴……? れいって……もしかして―――
「もしかして、幽霊のことを言ってるのか?」
「……はい」
彼女が控えめに頷く。
「……ん?」
俺は困惑を隠しきれなかった。
何を言っているんだこいつは? どうしていきなり幽霊の話が出てくるんだ―――?
すると彼女は、はあとため息を吐いて、
「だから言ったでしょう。信じないと。もういいので帰ってください」
ひらひらと片手を振った。
「い、いやいや、ちょっと待てよ! 信じるも信じないも、霊って何の話だよ」
「ですから……そのままの意味ですよ」
平坦な口調で彼女は言う。
「そのままって……」
俺は言葉を詰まらせた。
彼女の意図がわからなかった。俺たちは確か火事のことについて話をしていたはずだ。それが何故いきなり、霊がどうこうという話に発展していくのか。
彼女の思考について行けず、俺が困惑していると、
「霊とはもちろん、霊体のことを指します。強い未練などによって意識や思考のみがこの世に残留したモノのことを指します。見たことありませんか?」
「いや……ないけど……」
「そうなんですか?」
彼女が少し意外そうな顔をする。
「そりゃそうだろ。俺には霊感もないし、幽霊なんて見えるはずがねえよ」
当たり前だというように言った。
しかし、
「それは違いますよ」
彼女はそれをばっさりと否定する。
「えっ……?」
「勘違いをしているようですが、幽霊が見える見えないに霊感はあまり関係ありません」
「えっ、そうなのか?」
初耳だった。どういう意味だろうか。
「もちろん霊感―――つまりは、自分が保有する霊力がどれほどあるかにも大きく左右されますが―――」
〝霊力〟―――また訳のわからない単語が彼女の口から飛び出してきた。
「それよりも、その霊と自分の波長がどれくらい一致するかに強く依存します」
「波長……?」
俺は首を傾げる。
「そうです。よく言いませんか? あの人とは波長が合う。あの人とは波長が合わない、とか」
「ああ……確かに言うかも、な」
「それと同じことです。幽霊にも我々と同様、個々に波長があるんです。その波長が私たちとどの程度合致するかによって、その霊が自分にとって見える存在か否かが決まってきます」
「そう……なのか」
淡々とされる説明に俺は頷くしかなかった。俺の中の常識では追い付けなかった。
「なのであなたの周りにもいるかもしれませんよ。あなたが気付いていないだけで、毎朝の通学途中などに死んだ人間があなたのすぐ横を通り過ぎているかもしれません」
一瞬、目の前の彼女が不気味な笑みを浮かべたような気がした。
ごくりと俺は唾を飲み込む。そんな馬鹿な話があるかと笑い飛ばしたかったが、何故だかそうできない自分がいた。彼女の話には、妙な説得力があった。
この少女は一体―――
「なあ、お前さ……」
「何ですか?」
「一体何なんだ?」
「……はい?」
「この火事は放火だとか、次は霊がどうとか……何が言いたいんだよ? 俺をからかってるのか?」
「……別に、からかってなどはいません」
「じゃあなんでいきなり霊の話なんかしたんだよ。この火事と霊は何の関係もないだろ。一体どういうつもりなんだ」
俺はまくしたてるように言った。
しかし、彼女はそんな俺を、
「関係なくないですよ」
きっぱりと否定した。
「……は?」
「関係なくなどありません。私は関係ないことを無駄に話したりなどはしません」
彼女の目がしっかりと俺を射抜いている。
「それって、どういう……」
俺が訊くと、彼女は小さく息を吐いた。
「……それを調べてたんですよ」
「……調べてた?」
「この土地には、何者かによって作用された霊的な力が染み込んでいます」
「霊的な……力?」
「そうです。ですがここでは呪いの力、すなわち―――呪力(じゅりょく)と言った方が的確かもしれません」
ドクンッ―――!
心臓が大きく跳ねた。
〝呪い〟―――その単語に何故か俺の身体が敏感に反応していた。じわり、と背中から汗が噴き出してくる。シャツがべったりと身体に張り付いていくのがわかった。
「呪いの力って……何だよ」
声が少し震えていた。
「霊の次は呪いか? まさかその呪いの力だとかで、この家を放火したとか言うんじゃないだろうな?」
さすがに馬鹿げた発想だと思った。またさっきみたいに、すぐに否定されると思った。
しかし今度は、
「そうですよ」
あっさりと、彼女は俺の言葉を肯定した。
「……何?」
「何を驚いているんですか? 自分で言ったんですよ。呪いの力で放火したのではないか、と」
「いや……確かにそうだけど意味がわからない。呪いで放火? そんなことできるわけないだろ」
「……できますよ」
彼女が冷たい声で断定してきた。感情の宿らない、冷淡な声だった。
「呪い―――その力の源は霊力です。怒りや悲しみ、嫉妬や憎悪、それら負の感情によって自分の中の霊力が引き出されたとき、その力は呪いの力―――つまり呪力へと変化します。呪力は外界へと大きな影響を及ぼします。今回のような放火や、時には人を殺めたり、本当に様々です」
途中から俺は理解することを諦めていた。
その説明を聞きながら、俺はダメだと思った。とてもじゃないが今の俺では、目の前の彼女の話にはついて行けないと思った。
そもそも訳のわからない単語が多すぎる。意味不明だ。きっと彼女は、俺とは住む世界が違うのだろう。
そう思った。
だが、それでも俺は、
「つまりお前は、今回の火事は放火で、しかもその放火は誰かが呪いの力を利用して引き起こした、って言いたいのか?」
必死に今までの彼女の話を整理しようとした。理解しようとしている自分がいた。
「……その通りです」
こくり、と彼女が頷く。
俺は軽い眩暈に襲われて眉間を指で抑えた。
「お前さ、自分が言ってることわかってるのか……?」
彼女のことが理解できない。表情も動かないし、思考も読めない。一体どういう思考回路になればそんな結論が導き出せるのだろうか。
呪い? 霊力? そんなオカルトチックな単語を真面目に語る女子高生が、この世に何人存在するだろうか。
それもこれも、
―――彼女は重度の中二病だ。
そう結論付けてしまえば全てが解決する。話が早い。
しかし、安易にそう決めつけられないような空気が、彼女の周りには漂っていた。
目の前の少女は、恐らく俺たちとはかなりズレた存在だ。
この時、俺はそう確信した。
「……だから最初に言ったのです。どうせ信じないと」
彼女の冷めた眼差しが俺に注がれる。
「いや、こんな話、信じる信じないもないだろ。霊的な力? 呪い? あんた一体何者なんだ? 今の話が本当だっていうんなら、証拠の一つでも見せてくれよ」
無理だろうと思った。自分は中二病だとさっさと認めてくれと思った。
しかし、目の前の彼女は、
「証拠、ですか」
少し考えるような仕草を見せた後、
「わかりました」
と頷き、おもむろに自分の右腕を前に出した。
そして、掌を空へ向けると、
ヒュンッ―――!
空気を切るような音とともに、彼女の足元の地面から何かが飛び出してきた。
それは縦長の紙切れのように見えた。
その紙切れはくるくると彼女の周りを二、三周ほどするとふわりと彼女の掌へ舞い降りた。
「これでどうですか」
その紙切れを制服の胸ポケットにしまいながら、平然とした様子で彼女が言った。
「な、何だよ今の」
俺は狼狽を隠しきれなかった。
「手品か何かか? どうやったんだよ?」
「手品などではありませんよ。これは霊符です」
「れいふ……?」
「私の霊力を込めた特殊な札のことです。この土地に掛けられた呪いを調べるために使用していました」
「何?」
「それよりどうですか? 少しは信じて頂けましたか?」
「え、いや……」
「そうですか。それはよかったです。では」
俺はまだ納得していなかったが、彼女は強引に話を切り上げるとその場から立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待てよ」
反射的に俺は彼女を呼び止めていた。
彼女が振り返る。白いリボンが揺れた。
「まだ、何か用ですか?」
「お前さ、本当に何者なんだ? 少なくとも普通の女子高生じゃないだろ」
「さあ……どうですかね」
彼女が言葉を濁す。
「ここまできてはぐらかす気か。答えろよ」
「すべての質問に答えが返ってくると思わないでください。そうですね……これは次に会う時までの宿題としましょう」
「次に会う時……? どういう意味だ」
だが、彼女はその問いには答えず、
「私は、カンザキサヨです。覚えておいてください」
と、彼女はいつ取り出したのか、うちの高校の生徒手帳の表紙裏をこちらに見せながらおもむろに言った。
俺は彼女の方に少し近づいて行き、それをまじまじと見つめる。
神崎さよ―――どうやらそれが彼女の名前らしかった。なるほど、確かに三年生のようだ。
「あなたは、トキサカ……?」
俺のカバンを見ながら、彼女が訊いてくる。
仕方なしに、
「……時坂優」
と、カバンに付けていたネームホルダを見せながら答えた。
「時坂優、ですか。わかりました。それではまた」
それだけ言うと、彼女は踵を返して再び歩き始める。
「お、おい! 待てよ!」
だが今度は立ち止まってくれなかった。
彼女の姿はみるみる内に小さくなっていき、やがて濃い闇の中へ溶け込むようにして消えていった。
取り残された俺は、しばらくその場に佇んでいた。
いつの間にか日はとっぷりと暮れており、チカチカと明滅を繰り返す街灯だけが、夜の住宅地を不気味に照らしていた。
「……は、はあ? なんだよそれ」
俺は思わず裏返ったような声を上げた。
「そこまで思わせぶりな言い方しておいて、それはないだろ」
語気が少し荒くなってしまう。
根拠や理由があるのなら聞かせて欲しかった。一体どんな理由があって、彼女は放火だと断言しているのか―――
しかし彼女は、
「言えません」
頑なにその理由を言おうとはしなかった。
「言っても、あなたはどうせ信じませんから」
そして今度は少し寂しそうに、また視線を地面に落としてしまった。
「信じないって……それは俺が決めることだろ」
「………」
「いいから言ってみろって。もしかしたら割と簡単に信じられるかもしれないぞ」
放火だと言い張る彼女の根拠を聞いてみたかったし、何より信じないと言うからには、一体どんなぶっ飛んだ理屈が彼女の口から飛び出してくるのか興味が湧いていた。
……しかし、次に彼女が放った言葉は、俺の予想を完全に超越したものだった。
「……あなた、霊を信じますか?」
静かに彼女が口を開いた。
「……えっ?」
その意味がわからず、俺はつい反応が遅れてしまう。
れい……? 例……? 鈴……? れいって……もしかして―――
「もしかして、幽霊のことを言ってるのか?」
「……はい」
彼女が控えめに頷く。
「……ん?」
俺は困惑を隠しきれなかった。
何を言っているんだこいつは? どうしていきなり幽霊の話が出てくるんだ―――?
すると彼女は、はあとため息を吐いて、
「だから言ったでしょう。信じないと。もういいので帰ってください」
ひらひらと片手を振った。
「い、いやいや、ちょっと待てよ! 信じるも信じないも、霊って何の話だよ」
「ですから……そのままの意味ですよ」
平坦な口調で彼女は言う。
「そのままって……」
俺は言葉を詰まらせた。
彼女の意図がわからなかった。俺たちは確か火事のことについて話をしていたはずだ。それが何故いきなり、霊がどうこうという話に発展していくのか。
彼女の思考について行けず、俺が困惑していると、
「霊とはもちろん、霊体のことを指します。強い未練などによって意識や思考のみがこの世に残留したモノのことを指します。見たことありませんか?」
「いや……ないけど……」
「そうなんですか?」
彼女が少し意外そうな顔をする。
「そりゃそうだろ。俺には霊感もないし、幽霊なんて見えるはずがねえよ」
当たり前だというように言った。
しかし、
「それは違いますよ」
彼女はそれをばっさりと否定する。
「えっ……?」
「勘違いをしているようですが、幽霊が見える見えないに霊感はあまり関係ありません」
「えっ、そうなのか?」
初耳だった。どういう意味だろうか。
「もちろん霊感―――つまりは、自分が保有する霊力がどれほどあるかにも大きく左右されますが―――」
〝霊力〟―――また訳のわからない単語が彼女の口から飛び出してきた。
「それよりも、その霊と自分の波長がどれくらい一致するかに強く依存します」
「波長……?」
俺は首を傾げる。
「そうです。よく言いませんか? あの人とは波長が合う。あの人とは波長が合わない、とか」
「ああ……確かに言うかも、な」
「それと同じことです。幽霊にも我々と同様、個々に波長があるんです。その波長が私たちとどの程度合致するかによって、その霊が自分にとって見える存在か否かが決まってきます」
「そう……なのか」
淡々とされる説明に俺は頷くしかなかった。俺の中の常識では追い付けなかった。
「なのであなたの周りにもいるかもしれませんよ。あなたが気付いていないだけで、毎朝の通学途中などに死んだ人間があなたのすぐ横を通り過ぎているかもしれません」
一瞬、目の前の彼女が不気味な笑みを浮かべたような気がした。
ごくりと俺は唾を飲み込む。そんな馬鹿な話があるかと笑い飛ばしたかったが、何故だかそうできない自分がいた。彼女の話には、妙な説得力があった。
この少女は一体―――
「なあ、お前さ……」
「何ですか?」
「一体何なんだ?」
「……はい?」
「この火事は放火だとか、次は霊がどうとか……何が言いたいんだよ? 俺をからかってるのか?」
「……別に、からかってなどはいません」
「じゃあなんでいきなり霊の話なんかしたんだよ。この火事と霊は何の関係もないだろ。一体どういうつもりなんだ」
俺はまくしたてるように言った。
しかし、彼女はそんな俺を、
「関係なくないですよ」
きっぱりと否定した。
「……は?」
「関係なくなどありません。私は関係ないことを無駄に話したりなどはしません」
彼女の目がしっかりと俺を射抜いている。
「それって、どういう……」
俺が訊くと、彼女は小さく息を吐いた。
「……それを調べてたんですよ」
「……調べてた?」
「この土地には、何者かによって作用された霊的な力が染み込んでいます」
「霊的な……力?」
「そうです。ですがここでは呪いの力、すなわち―――呪力(じゅりょく)と言った方が的確かもしれません」
ドクンッ―――!
心臓が大きく跳ねた。
〝呪い〟―――その単語に何故か俺の身体が敏感に反応していた。じわり、と背中から汗が噴き出してくる。シャツがべったりと身体に張り付いていくのがわかった。
「呪いの力って……何だよ」
声が少し震えていた。
「霊の次は呪いか? まさかその呪いの力だとかで、この家を放火したとか言うんじゃないだろうな?」
さすがに馬鹿げた発想だと思った。またさっきみたいに、すぐに否定されると思った。
しかし今度は、
「そうですよ」
あっさりと、彼女は俺の言葉を肯定した。
「……何?」
「何を驚いているんですか? 自分で言ったんですよ。呪いの力で放火したのではないか、と」
「いや……確かにそうだけど意味がわからない。呪いで放火? そんなことできるわけないだろ」
「……できますよ」
彼女が冷たい声で断定してきた。感情の宿らない、冷淡な声だった。
「呪い―――その力の源は霊力です。怒りや悲しみ、嫉妬や憎悪、それら負の感情によって自分の中の霊力が引き出されたとき、その力は呪いの力―――つまり呪力へと変化します。呪力は外界へと大きな影響を及ぼします。今回のような放火や、時には人を殺めたり、本当に様々です」
途中から俺は理解することを諦めていた。
その説明を聞きながら、俺はダメだと思った。とてもじゃないが今の俺では、目の前の彼女の話にはついて行けないと思った。
そもそも訳のわからない単語が多すぎる。意味不明だ。きっと彼女は、俺とは住む世界が違うのだろう。
そう思った。
だが、それでも俺は、
「つまりお前は、今回の火事は放火で、しかもその放火は誰かが呪いの力を利用して引き起こした、って言いたいのか?」
必死に今までの彼女の話を整理しようとした。理解しようとしている自分がいた。
「……その通りです」
こくり、と彼女が頷く。
俺は軽い眩暈に襲われて眉間を指で抑えた。
「お前さ、自分が言ってることわかってるのか……?」
彼女のことが理解できない。表情も動かないし、思考も読めない。一体どういう思考回路になればそんな結論が導き出せるのだろうか。
呪い? 霊力? そんなオカルトチックな単語を真面目に語る女子高生が、この世に何人存在するだろうか。
それもこれも、
―――彼女は重度の中二病だ。
そう結論付けてしまえば全てが解決する。話が早い。
しかし、安易にそう決めつけられないような空気が、彼女の周りには漂っていた。
目の前の少女は、恐らく俺たちとはかなりズレた存在だ。
この時、俺はそう確信した。
「……だから最初に言ったのです。どうせ信じないと」
彼女の冷めた眼差しが俺に注がれる。
「いや、こんな話、信じる信じないもないだろ。霊的な力? 呪い? あんた一体何者なんだ? 今の話が本当だっていうんなら、証拠の一つでも見せてくれよ」
無理だろうと思った。自分は中二病だとさっさと認めてくれと思った。
しかし、目の前の彼女は、
「証拠、ですか」
少し考えるような仕草を見せた後、
「わかりました」
と頷き、おもむろに自分の右腕を前に出した。
そして、掌を空へ向けると、
ヒュンッ―――!
空気を切るような音とともに、彼女の足元の地面から何かが飛び出してきた。
それは縦長の紙切れのように見えた。
その紙切れはくるくると彼女の周りを二、三周ほどするとふわりと彼女の掌へ舞い降りた。
「これでどうですか」
その紙切れを制服の胸ポケットにしまいながら、平然とした様子で彼女が言った。
「な、何だよ今の」
俺は狼狽を隠しきれなかった。
「手品か何かか? どうやったんだよ?」
「手品などではありませんよ。これは霊符です」
「れいふ……?」
「私の霊力を込めた特殊な札のことです。この土地に掛けられた呪いを調べるために使用していました」
「何?」
「それよりどうですか? 少しは信じて頂けましたか?」
「え、いや……」
「そうですか。それはよかったです。では」
俺はまだ納得していなかったが、彼女は強引に話を切り上げるとその場から立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待てよ」
反射的に俺は彼女を呼び止めていた。
彼女が振り返る。白いリボンが揺れた。
「まだ、何か用ですか?」
「お前さ、本当に何者なんだ? 少なくとも普通の女子高生じゃないだろ」
「さあ……どうですかね」
彼女が言葉を濁す。
「ここまできてはぐらかす気か。答えろよ」
「すべての質問に答えが返ってくると思わないでください。そうですね……これは次に会う時までの宿題としましょう」
「次に会う時……? どういう意味だ」
だが、彼女はその問いには答えず、
「私は、カンザキサヨです。覚えておいてください」
と、彼女はいつ取り出したのか、うちの高校の生徒手帳の表紙裏をこちらに見せながらおもむろに言った。
俺は彼女の方に少し近づいて行き、それをまじまじと見つめる。
神崎さよ―――どうやらそれが彼女の名前らしかった。なるほど、確かに三年生のようだ。
「あなたは、トキサカ……?」
俺のカバンを見ながら、彼女が訊いてくる。
仕方なしに、
「……時坂優」
と、カバンに付けていたネームホルダを見せながら答えた。
「時坂優、ですか。わかりました。それではまた」
それだけ言うと、彼女は踵を返して再び歩き始める。
「お、おい! 待てよ!」
だが今度は立ち止まってくれなかった。
彼女の姿はみるみる内に小さくなっていき、やがて濃い闇の中へ溶け込むようにして消えていった。
取り残された俺は、しばらくその場に佇んでいた。
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