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四章
真相を求めて①
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―――翌日の昼休み。
俺はいつものように旧校舎の図書室へと足を向けていた。しかしその足取りはいつもよりも重たいものだった。
ガラリと扉を開け薄暗い室内に入ると、俺は彼女の姿を探す。だが探すまでもなかった。彼女はいつもの席で、静かに分厚い本に目を落としていた。
小さなため息が漏れる。
俺はすぐには彼女の元には向かわずに、入口の所で一度小さく深呼吸をした。
そして、逃げ出しそうになる足を引きずりながら、俺は彼女の座っている席へと近づいていった。
「今日も勉強熱心だな、さよ」
できるだけ平静を装って声を掛けた。しかし気が張っていたのか、少しだけその声が上擦ってしまう。
さよがおもむろに顔を上げた。
「……何か用ですか、時坂優」
感情の宿らない、端正な顔がそこにはあった。いつもの彼女だ。
俺は内心ほっと胸を撫で下ろした。
「その、昨日のことなんだけど……」
「…………」
だが俺がそう切り出すと、さよの顔が少しだけ曇った。
「昨日は、その、悪かった。あの時はちょっと気が立ってたっていうか、平静じゃなかったっていうか……だから、あれは本心なんかじゃなくて……」
喉にボールが詰まったみたいに上手く話すことができない。頭が混乱する。俺は思いつく限りの謝罪の言葉を述べた。
「とにかくごめん。本当に悪かったと思ってる。あんなこと言うなんて最低だ。最低の男だ。本当にごめん!」
腰を九十度に曲げて頭を下げた。
周囲の生徒たちからの視線を感じる。だが今だけは、そんなことはどうでもいいと思った。
カーペットの染みを見つめながら、俺は彼女からの言葉を待つ。
と、
「頭を上げてください、時坂優」
落ち着いた彼女の声が聞こえた。俺はゆっくりと頭を上げる。
彼女と目が合った。黒い大きな瞳が、俺の目をじっと見つめていた。
「昨日のことなら、別に私は気にしていません」
「………」
「むしろ当然の反応です。大切な幼馴染さんのことを、疑われたのですから」
「でも、さすがに言い過ぎたよ。悪かった」
もう一度、小さく頭を下げる。
「もういいです。昨日のことはお互い水に流しましょう」
そう言い、彼女はこほんと一つ咳払いをすると、
「それよりも、昨日はあれからみらいさんに訊いてみましたか? 例のキーホルダの件について……」
話を変えてきた。
「ああ、うん、それが……」
俺は彼女の後ろを回って、隣の席へと腰を下ろす。
そして昨夜のみらいとのやり取りを彼女に話した。
キーホルダは彼女の物で間違いなかったこと。何か隠し事があるのかと訊いた時の、彼女の様子が少し妙だったこと。全てを打ち明けた。
もしかすると、俺は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。不安に苛まれるこの胸の内を、誰かに曝け出したかったのかもしれない。
全てを話し終えたとき、俺の心は少しだけ軽くなっていた。
話の一部始終を、さよは黙って聞いていた。しかしやがて、俺の言葉が途切れると身体をこちらに向けて、
「話してくれてありがとうございます。それと、あなたには辛い役回りをさせてしまいました。申し訳ありません」
彼女は小さく頭を下げてきた。
「いや、それは別に……」
「あまり重く受け止めないでください。あのキーホルダ一つで彼女が犯人だと決めつけることはできません」
「……ああ」
「昨日は私もどうかしていました。不用意にあなたの大切な人を疑ってしまったこと、申し訳ありませんでした」
彼女が再び小さく頭を下げる。
「…………」
「ですが、みらいさんが何らかの形で一連の事件に関わっているかもしれないという可能性も捨てきれません。念のためですが、それは頭の片隅に置いておいてくださいね」
俺の目を真っ直ぐに見つめながら、真剣な口調で彼女はそう告げてきた。
「ああ……わかってる」
抑揚のない口調で俺は答えた。
心は少し軽くなったが、昨夜から時間を掛けて胸の内に広がった不安の染みは払拭できそうになかった。
「……時坂優。今日の放課後、少し時間ありますか」
話題を変えるように、さよが突然そんなことを言ってきた。
「……放課後……? 特に何もないけど……」
「実は今日の放課後、隣の中学校まで行ってみようと思っているんです。よければあなたも付いてきますか?」
「中学校に……? 何しに行くんだ?」
脈絡が感じられない彼女の話に俺は首をひねった。
彼女の言う〝隣の中学校〟とは、恐らく俺たちの母校である中学校のことだろう。
〝隣の〟と彼女は形容したがぴったりと隣接しているわけではない。通り二つを挟んで、俺たちのいるこの高校よりも、北側に位置しているのだ。元々俺たちの暮らすこの町には中学高校ともそれぞれ一校ずつしか存在しない。そのため転校や特殊な事情でもない限り、この高校に通う生徒の母校は必然的に通りを挟んだあの中学校ということになるのだ。
しかしその中学校に、俺はあまりいい印象は抱いていなかった。別に自分の学校生活が楽しくなかったからとか、そんな幼稚な理由ではない。
初音のことがあったからだ。初音があの中学に入学して早々、あんな事件が起こってしまった。その記憶があまりにも強すぎて、俺はあの中学校にあまりいいイメージを持っていなかった。あの場所には初音の未練のようなものが漂っているような気がする。
「わかっているとは思いますが、一連の放火事件と原因不明の生徒の死亡事故は間違いなく繋がっています」
そうだろうなと俺は心の中で頷く。ここまできて、それを否定するつもりはなかった。
「しかし、なぜ彼女たちが亡くなり、彼女たちの家が燃やされたのか、その理由がわかりません。そこで今朝職員室を訪ねて、何人かの先生に亡くなられた彼女たちのことについて訊いてきたんです」
「……訊いてきたって、何を……?」
「彼女たちの交友関係、学校生活、今までに何か問題を起こしたことはあるか、などなどです」
「そんなことまで……」
まさか俺の知らないところでそんな調査をしていたとは……。見た目に反し、彼女は意外と行動派らしい。というか先生たちもよく教えてくれたな。個人情報に触れない程度なら大丈夫だということだろうか。
「……それで?」
さよが静かに頭を振る。
「特に有益な情報は得られませんでした。二人の仲が良かった以外、特に共通点らしきものは見つかりませんでした」
「………」
「ですので今度は中学時代にまで遡って二人のことを調べてみようと思います。幸いにして、彼女たちの担任を務めていた先生が、まだあの学校に在職しているそうなんです」
「……そこまでして何かわかるのか?」
「それは行って調べてみないことには何とも言えません」
さよが首を振る。
その時、俺はふとあることを疑問に思った。それは彼女と行動を共にし始めて以来、初めて浮かんできた疑問だった。
「なあ、さよ。一つ訊いていいか」
「……? なんですか?」
「どうしてお前は、そこまでしてこの事件に固執するんだ?」
「………どういう意味ですか?」
さよが眉を顰める。
「俺がこの事件に首を突っ込んでるのは、正直言ってほとんど成り行きだ」
「………」
「だけど、さよはどうしてこの事件について調べてるんだ? 何か特別な理由でもあるのか?」
大した覚悟もなく、何かに引かれるようにして、俺は彼女と共に今回の事件のことを嗅ぎ回り始めた。その結果、昨日は最悪な疑念が浮上することになってしまったわけだが……。
しかし、彼女の方はどうなのだろうか。何故この事件のことを調べているのだろうか。彼女が事件に固執する理由とは一体何なのか。
あの日―――一件目の火事の現場で、彼女と出会って以来、彼女が事件の真相を追い求める姿はごく自然な姿として映っていた。しかしよくよく考えてみると少し妙だ。いくら摩訶不思議な力を持つ彼女といえど、一高校生が興味本位で、あんな物騒な事件に関わりたいとは思わないだろう。
それこそ、相応な事情でもない限り―――
「……別に、大した理由はありませんよ」
ふいと、彼女が斜め下に視線を落とす。
「呪力を用いた放火事件。それを解決することが、私の使命であるように思えただけです」
床に敷かれた薄汚れたカーペットを見ながらの言葉だった。その声は先ほどよりも少し小さい。
「本当にそれだけか……?」
何となく、俺は彼女が嘘をついているのではないかと思った。
さよが怪訝そうな顔で俺を見る。
「どういう意味ですか?」
「あ、いや、別に深い意味はないんだけど……」
聞き返されて口ごもる。自分でも、何故彼女を疑うようなことを言ってしまったのか、よくわからなかった。
さよがため息を吐く。
「……特別な理由などありません。呪力を行使した事件を止めたい、ただそれだけです」
平坦な口調だった。いつもの彼女だ。何も変わらない。
「そっか……そうだよな」
だから俺も、それ以上は詮索しなかった。昨日のことで、彼女に対する後ろめたさがまだ少し残っていたのかもしれない。彼女を問いただすような行為は気が引けた。
「私が事件の真相を追いかけていることが、何か不服ですか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど」
「私のことを気にするより前に、みらいさんのことを考えるべきでしょう」
「そ、そうだよな。悪い」
反射的に謝ってしまう。
「それで、行きますか? 行きませんか?」
少し苛々した様子を見せながら彼女が言った。
「……いくよ」
しばしの熟考の末、俺は首を縦に振った。
事件の真相を知りたいという気持ちは彼女と同じだった。それにいつまでも、みらいに中途半端な嫌疑を掛けてはいたくない。何でもいい。彼女がこの事件とは無関係であるという確証が、早く欲しかった。
「そうですか」
「また昨日みたいに、校門前で待ち合わせするか?」
「……ええ、そうですね」
さよは頷いた。そして、読みかけだった本を開く。
……静寂が降りた。
「……じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」
読みたいような本もなく、どことなく居心地の悪さを感じた俺は、今日は早々に蒸し暑い教室に引き返すことにした。
「また放課後な」
「はい」
そっけない返事だった。
俺はいつものように旧校舎の図書室へと足を向けていた。しかしその足取りはいつもよりも重たいものだった。
ガラリと扉を開け薄暗い室内に入ると、俺は彼女の姿を探す。だが探すまでもなかった。彼女はいつもの席で、静かに分厚い本に目を落としていた。
小さなため息が漏れる。
俺はすぐには彼女の元には向かわずに、入口の所で一度小さく深呼吸をした。
そして、逃げ出しそうになる足を引きずりながら、俺は彼女の座っている席へと近づいていった。
「今日も勉強熱心だな、さよ」
できるだけ平静を装って声を掛けた。しかし気が張っていたのか、少しだけその声が上擦ってしまう。
さよがおもむろに顔を上げた。
「……何か用ですか、時坂優」
感情の宿らない、端正な顔がそこにはあった。いつもの彼女だ。
俺は内心ほっと胸を撫で下ろした。
「その、昨日のことなんだけど……」
「…………」
だが俺がそう切り出すと、さよの顔が少しだけ曇った。
「昨日は、その、悪かった。あの時はちょっと気が立ってたっていうか、平静じゃなかったっていうか……だから、あれは本心なんかじゃなくて……」
喉にボールが詰まったみたいに上手く話すことができない。頭が混乱する。俺は思いつく限りの謝罪の言葉を述べた。
「とにかくごめん。本当に悪かったと思ってる。あんなこと言うなんて最低だ。最低の男だ。本当にごめん!」
腰を九十度に曲げて頭を下げた。
周囲の生徒たちからの視線を感じる。だが今だけは、そんなことはどうでもいいと思った。
カーペットの染みを見つめながら、俺は彼女からの言葉を待つ。
と、
「頭を上げてください、時坂優」
落ち着いた彼女の声が聞こえた。俺はゆっくりと頭を上げる。
彼女と目が合った。黒い大きな瞳が、俺の目をじっと見つめていた。
「昨日のことなら、別に私は気にしていません」
「………」
「むしろ当然の反応です。大切な幼馴染さんのことを、疑われたのですから」
「でも、さすがに言い過ぎたよ。悪かった」
もう一度、小さく頭を下げる。
「もういいです。昨日のことはお互い水に流しましょう」
そう言い、彼女はこほんと一つ咳払いをすると、
「それよりも、昨日はあれからみらいさんに訊いてみましたか? 例のキーホルダの件について……」
話を変えてきた。
「ああ、うん、それが……」
俺は彼女の後ろを回って、隣の席へと腰を下ろす。
そして昨夜のみらいとのやり取りを彼女に話した。
キーホルダは彼女の物で間違いなかったこと。何か隠し事があるのかと訊いた時の、彼女の様子が少し妙だったこと。全てを打ち明けた。
もしかすると、俺は誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。不安に苛まれるこの胸の内を、誰かに曝け出したかったのかもしれない。
全てを話し終えたとき、俺の心は少しだけ軽くなっていた。
話の一部始終を、さよは黙って聞いていた。しかしやがて、俺の言葉が途切れると身体をこちらに向けて、
「話してくれてありがとうございます。それと、あなたには辛い役回りをさせてしまいました。申し訳ありません」
彼女は小さく頭を下げてきた。
「いや、それは別に……」
「あまり重く受け止めないでください。あのキーホルダ一つで彼女が犯人だと決めつけることはできません」
「……ああ」
「昨日は私もどうかしていました。不用意にあなたの大切な人を疑ってしまったこと、申し訳ありませんでした」
彼女が再び小さく頭を下げる。
「…………」
「ですが、みらいさんが何らかの形で一連の事件に関わっているかもしれないという可能性も捨てきれません。念のためですが、それは頭の片隅に置いておいてくださいね」
俺の目を真っ直ぐに見つめながら、真剣な口調で彼女はそう告げてきた。
「ああ……わかってる」
抑揚のない口調で俺は答えた。
心は少し軽くなったが、昨夜から時間を掛けて胸の内に広がった不安の染みは払拭できそうになかった。
「……時坂優。今日の放課後、少し時間ありますか」
話題を変えるように、さよが突然そんなことを言ってきた。
「……放課後……? 特に何もないけど……」
「実は今日の放課後、隣の中学校まで行ってみようと思っているんです。よければあなたも付いてきますか?」
「中学校に……? 何しに行くんだ?」
脈絡が感じられない彼女の話に俺は首をひねった。
彼女の言う〝隣の中学校〟とは、恐らく俺たちの母校である中学校のことだろう。
〝隣の〟と彼女は形容したがぴったりと隣接しているわけではない。通り二つを挟んで、俺たちのいるこの高校よりも、北側に位置しているのだ。元々俺たちの暮らすこの町には中学高校ともそれぞれ一校ずつしか存在しない。そのため転校や特殊な事情でもない限り、この高校に通う生徒の母校は必然的に通りを挟んだあの中学校ということになるのだ。
しかしその中学校に、俺はあまりいい印象は抱いていなかった。別に自分の学校生活が楽しくなかったからとか、そんな幼稚な理由ではない。
初音のことがあったからだ。初音があの中学に入学して早々、あんな事件が起こってしまった。その記憶があまりにも強すぎて、俺はあの中学校にあまりいいイメージを持っていなかった。あの場所には初音の未練のようなものが漂っているような気がする。
「わかっているとは思いますが、一連の放火事件と原因不明の生徒の死亡事故は間違いなく繋がっています」
そうだろうなと俺は心の中で頷く。ここまできて、それを否定するつもりはなかった。
「しかし、なぜ彼女たちが亡くなり、彼女たちの家が燃やされたのか、その理由がわかりません。そこで今朝職員室を訪ねて、何人かの先生に亡くなられた彼女たちのことについて訊いてきたんです」
「……訊いてきたって、何を……?」
「彼女たちの交友関係、学校生活、今までに何か問題を起こしたことはあるか、などなどです」
「そんなことまで……」
まさか俺の知らないところでそんな調査をしていたとは……。見た目に反し、彼女は意外と行動派らしい。というか先生たちもよく教えてくれたな。個人情報に触れない程度なら大丈夫だということだろうか。
「……それで?」
さよが静かに頭を振る。
「特に有益な情報は得られませんでした。二人の仲が良かった以外、特に共通点らしきものは見つかりませんでした」
「………」
「ですので今度は中学時代にまで遡って二人のことを調べてみようと思います。幸いにして、彼女たちの担任を務めていた先生が、まだあの学校に在職しているそうなんです」
「……そこまでして何かわかるのか?」
「それは行って調べてみないことには何とも言えません」
さよが首を振る。
その時、俺はふとあることを疑問に思った。それは彼女と行動を共にし始めて以来、初めて浮かんできた疑問だった。
「なあ、さよ。一つ訊いていいか」
「……? なんですか?」
「どうしてお前は、そこまでしてこの事件に固執するんだ?」
「………どういう意味ですか?」
さよが眉を顰める。
「俺がこの事件に首を突っ込んでるのは、正直言ってほとんど成り行きだ」
「………」
「だけど、さよはどうしてこの事件について調べてるんだ? 何か特別な理由でもあるのか?」
大した覚悟もなく、何かに引かれるようにして、俺は彼女と共に今回の事件のことを嗅ぎ回り始めた。その結果、昨日は最悪な疑念が浮上することになってしまったわけだが……。
しかし、彼女の方はどうなのだろうか。何故この事件のことを調べているのだろうか。彼女が事件に固執する理由とは一体何なのか。
あの日―――一件目の火事の現場で、彼女と出会って以来、彼女が事件の真相を追い求める姿はごく自然な姿として映っていた。しかしよくよく考えてみると少し妙だ。いくら摩訶不思議な力を持つ彼女といえど、一高校生が興味本位で、あんな物騒な事件に関わりたいとは思わないだろう。
それこそ、相応な事情でもない限り―――
「……別に、大した理由はありませんよ」
ふいと、彼女が斜め下に視線を落とす。
「呪力を用いた放火事件。それを解決することが、私の使命であるように思えただけです」
床に敷かれた薄汚れたカーペットを見ながらの言葉だった。その声は先ほどよりも少し小さい。
「本当にそれだけか……?」
何となく、俺は彼女が嘘をついているのではないかと思った。
さよが怪訝そうな顔で俺を見る。
「どういう意味ですか?」
「あ、いや、別に深い意味はないんだけど……」
聞き返されて口ごもる。自分でも、何故彼女を疑うようなことを言ってしまったのか、よくわからなかった。
さよがため息を吐く。
「……特別な理由などありません。呪力を行使した事件を止めたい、ただそれだけです」
平坦な口調だった。いつもの彼女だ。何も変わらない。
「そっか……そうだよな」
だから俺も、それ以上は詮索しなかった。昨日のことで、彼女に対する後ろめたさがまだ少し残っていたのかもしれない。彼女を問いただすような行為は気が引けた。
「私が事件の真相を追いかけていることが、何か不服ですか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど」
「私のことを気にするより前に、みらいさんのことを考えるべきでしょう」
「そ、そうだよな。悪い」
反射的に謝ってしまう。
「それで、行きますか? 行きませんか?」
少し苛々した様子を見せながら彼女が言った。
「……いくよ」
しばしの熟考の末、俺は首を縦に振った。
事件の真相を知りたいという気持ちは彼女と同じだった。それにいつまでも、みらいに中途半端な嫌疑を掛けてはいたくない。何でもいい。彼女がこの事件とは無関係であるという確証が、早く欲しかった。
「そうですか」
「また昨日みたいに、校門前で待ち合わせするか?」
「……ええ、そうですね」
さよは頷いた。そして、読みかけだった本を開く。
……静寂が降りた。
「……じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」
読みたいような本もなく、どことなく居心地の悪さを感じた俺は、今日は早々に蒸し暑い教室に引き返すことにした。
「また放課後な」
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