呪縛 ~呪われた過去、消せない想い~

ひろ

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四章

真相を求めて②

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 ホームルームが終わると、俺は隣の教室前でみらいが出てくるのを待った。
 そして昨日と同じく、先に帰ってて欲しい旨を彼女に伝えたのだが、
「ユウ君、昨日もそう言って帰りが遅かったじゃない。今日は一体何の用事なの?」
 腰に手を当て、みらいは訝しそうな視線を俺に向けてきた。
「いや、別に大した用事じゃないんだけど……」
 何と答えたものかと俺は言葉に詰まる。
 隣の中学まで行くから、なんて言えば、彼女は絶対にその理由を訊ねてくるだろう。しかしこちらとしては本当のことを教えるわけにはいかない。万が一、億が一にでも彼女が事件に関わっていた場合、事態を悪い方向に転がせてしまう可能性があるからだ。
 俺は、何とか誤魔化そうと考え、
「実はさ、今日は友達と待ち合わせしてるんだよ。たまには一緒に帰らないかって誘われてさ」
 はは、とぎこちない笑みを浮かべながら言った。
 嘘は吐いていない。一緒に帰るという部分は少し語弊があるかもしれないが間違いではない。友達という部分も……まあここではそういうことにしておこう。大丈夫。疚しいところなんてない。
 しかし、彼女は、
「ふーん、友達ねえ……。ユウ君は私と帰るより、その友達と帰る方が楽しいんだ」
 と、どういう訳か更に不機嫌な様子になってしまった。
「い、いや、そういうことじゃないんだって。ただの友達だから。どっちが楽しいとか、そんな優劣ないから」
 慌てて弁明するが、みらいはじとーっと半眼で俺のことを睨んだままだ。
 俺はもっと何か上手い言い訳はないだろうかと模索する。しかし、これといって適切な言葉は浮かび上がってこない。
 あんまり遅くなると、またさよから小言を言われてしまう。恐らく既に校門で俺を待っている頃だろう。
 ……仕方ない。
 俺は腹をくくった。
「じゃ、じゃあなみらい。気をつけて帰れよ。晩御飯までには戻るから」
 言うが早いか、俺はその場から駆け出した。
「え、あっ、ちょっとユウ君!」
 不意を突かれたみらいが慌てて呼び止めてきたが、俺は振り返らなかった。
 すまんと、心の中で彼女に詫びる。
「ユウ君のアホ! 帰ってきても夕飯抜きだからねっ!」
 彼女の罵声を背中に浴びながら、俺は校門へと急いだ。
 息を切らせながら校門へ着くと、予想通りと言うべきか、先に待っていたさよからじろっと不機嫌そうな目を向けられた。
「あなたという人は……わざとやっているんですか」
「しょ、しょうがないだろ。みらいに捕まっちまったんだから」
 両膝に手を付き、俺は肩を上下させる。
「……みらいさんに?」
「ああ、この頃俺の帰りが遅いって、心配しててさ」
「……そうでしたか。それならまあ、仕方ありませんね」
 さよが眉を下げる。意外にもあっさりと彼女は引き下がってくれた。
「それより、行って本当に何かわかるのか?」
「ですから、それは行ってみない事にはわかりません」
 冷たく突き放される。
「さあ、呆けてないで行きますよ」
 ようやく息を整えたばかりの俺を尻目に、彼女は足早に歩き始めた。


 目的の中学校へは十分程度で到着した。久しぶりに目にする校舎の外観は俺の記憶にあるものと少しも変わらない。大した思い出こそなかったが、ここで楽しい学校生活を過ごすはずだった初音のことを想うと、胸がきりりと痛んだ。
 職員室を訪れて事情を説明すると、俺たちは年配の男性教諭に応接室へと案内され、ここで待っているようにと告げられた。
 部屋は思ったよりも広く、そして薄暗かった。中央には黒皮の立派な椅子が四つ、足の低いミーティングテーブルを挟むようにして二つずつ置かれている。そのうちの二つに、俺とさよは隣り合って腰掛けた。
 しばらくすると部屋の扉が開き、丸いお盆に湯呑を乗せた年配の女性が顔を見せた。その顔に、俺は見覚えがあった。担任を持ってもらったことはないが、英語の授業でお世話になったのを覚えている。
 年は五十代半ばほど。小柄な体型で、化粧っ気のない顔には丸眼鏡を掛けていた。
「お久しぶりです先生。卒業生の時坂です」
 立ち上がり、軽く頭を下げる。
「ええ、久しぶり……元気だった?」
「ええ、まあ……」
「そう。よかった。えっと、そちらの方は……」
「三年の神崎です」
 さよも立ち上がり、小さく頭を下げた。
「神崎……さん。ごめんなさい。初めて聞く名前だわ。あなたもここの生徒さんだったのよね?」
 お茶の入った湯呑をテーブルに置きながら、先生が訊ねた。
「はい。ですが、授業も担任も持ってもらったことがないので、覚えていなくても仕方がないと思います」
 淡々とした口調でそう説明した。
「そう……なんだかごめんなさいね」
「いえ」
「……まあ立ち話もなんだし、どうぞ座って」
 彼女はそう促すと、俺たちの向かいの椅子に腰を下ろした。
 俺は先生の出してくれた湯呑に口をつける。冷たい液体が喉を通過し、胃の中へと落ちていった。
「それで、今日は改まって何の御用かしら?」
 膝の上で手を重ね、彼女は柔らかい口調でそう訊ねてきた。
 すると、
「唐突で申し訳ないのですが、この間うちの高校で亡くなった二人の生徒さんのことをご存じですか?」
 いきなり、さよが本題を切り出してきた。
 俺は思わず、飲んでいたお茶を吹き出しそうになってしまう。
「……ええ、聞いています。元担任だっただけにとても残念だわ」
 浮かべていた笑みを引っ込めて、先生は神妙な顔で頷いた。
「彼女たちのことを、少しでいいので教えて頂けないでしょうか」
 さよがそう訊ねると、先生は静かに目を伏せた。
「……二人のことは、知っています。不幸な事故だったとか。他の先生たちの間でも色々と話題に上がっているわ」
 彼女は言葉を継ぎ、
「でも、どうしてあなたたちは、二人のことを調べているの? 何か気になることでもあるの?」
 と言ってきた。
 痛いところを突かれ、俺は思わず息を呑んだが、
「実は先日亡くなられたお二人は、ただの事故死ではないという可能性が出てきたのです」
 さよは何でもない事のように、さらりとそう言った。
 ぎょっとして俺は彼女を見る。しかし彼女はそんな俺には目もくれず、代わりに先生の目を真っ直ぐに見つめていた。
「事故じゃない? 一体どういうこと?」
 先生が僅かに眉を顰める。
「すみません。これはあくまで私の推察です。あまり真に受けないでください」
「あ、ああ……そうなのね」
「ですが、この一週間ほどで二人の生徒が立て続けに原因不明の事故死。少し奇妙だとは思いませんか?」
「それは……確かに変だとは思うけれど……」
「私は、二人が何者かに殺害されたのではないかと考えています」
「さ、殺害⁉」
 その言葉に、先生が声を上げた。
「二人が殺害されたって、どういうこと?」
 机に両手を付き、先生がさよに詰め寄る。
 そんな彼女に、さよは少し身を引きながら、
「……あくまでも可能性の話ですよ?」
 と、落ち着いた声で宥めた。
 すると先生は、はっと我に返ったように目を見開き、
「そ、そうよね……可能性……よね」
 慌てて居住まいを正した。
 気のせいだろうか。先生の顔が少し青ざめているように見えた。
「……ですが、可能性があることには変わりませんので、お二人のことについて教えて頂きたいのです」
「……それは構わないけど、私が知っていることなんて、そんなにないわよ?」
「……構いません」
 先生は困ったように息を吐いた。
「二人は……普通に仲は良かったわ。まあ友達というよりは、仲間という表現の方が適切かもしれないけど」
「といいますと……?」
「彼女たち、部活が同じだったのよ。だから、部活仲間のような感じでよく一緒にいるところを見かけたわ」
「部活は何を?」
「陸上部よ」
「……そうですか。では―――」
 その後も、さよの質問は続いた。二人の趣味は、習い事は、成績は、在学中に何か問題を起こさなかったか、などなど。さまざまな質問を先生に浴びせかけた。
 しばらくは、まるで立場が逆転した面接のような質疑応答が続いた。
 しかし最後に、
「長々と申し訳ありません。次が最後の質問ですので、どうかもう少しだけお付き合いください」
「ええ、大丈夫よ」
 先生は、安堵と疲労が混ざったような息を吐いた。
「では最後に―――」
「ええ……」
 さよが息を吸う。
「あなたが今、必死に隠そうとしていることについて教えてください」
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