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6.婚約破棄した男【ダニエルside】
俺、ダニエル・フォン・ド・アルバドールは今夜、伯爵令嬢で幼馴染のディアナとの婚約破棄を発表した。国の第三王子という立場から、俺に対し文句を言う貴族はいない。父や兄達は厄介とも言えるが、面倒なだけでどうにでも出来る。
俺が彼女との婚約を破棄した理由。それはたった一つだった。
ーーディアナを傷付けたい。
それは愛ゆえとも言えるし、憎しみゆえとも言える。愛と憎しみは表裏一体で、切り離せやしないのだ。
彼女は、俺が何をしても黙って微笑み返してくれる。慈愛を持って、許しを与えてくれるのだ。何故なら、彼女は俺のことを愛しているのだから。
それに気がついたのは、ずいぶん昔のことだった。この頃の俺は純粋無垢で、ディアナが好意を寄せてくれることが生きがいとも言えた。それが生の中での最上級の幸せだと感じていたのだ。
だがある日をもって、その気持ちは転換を迎える。
俺は自分のプライドを守るために、ディアナを傷つける発言をしたのだ。
彼女は傷ついた心を隠そうと、必死になって明るさを装っていた。だが、はたから見ても悲しみや苦しみは一目瞭然だった。
普段、喜怒哀楽に彩られている彼女はその日初めて、俺に本心を隠した。
本来の俺ならば、傷付くディアナを見て自分自身も心の苦しみを感じていただろう。だが取り繕う笑顔のディアナを見て、己の本心を自覚してしまったのだ。
(傷つくディアナは美しい。もっと、傷ついた彼女を見たい)
その日から、俺はディアナを虐げる事に喜びを見出していった。罵詈雑言を浴びせることによって、悲しみに囚われる彼女を見るたびに興奮で血が騒いだ。
本で調べれば、それは加虐趣味という嗜好らしい。他人の肉体や精神に負荷をかけることに興奮を覚える。性的嗜好の一つといったところか。
しかし俺は精神的にディアナを追い詰めることが好きなわけで、肉体的に虐めることにはさして興味はない。
そんな俺でも、彼女は愛してくれる。なぜなら傷付けても離れていかないのだから。つまりはそういう事だろう。
俺はディアナをこの世で一番愛している。だからこそ、傷付けたくなってしまうのだ。
そしてディアナも俺を愛してくれている。ゆえに、この関係に問題はないのだ。二人の間に障壁はない!
近いうちに、婚約破棄の破棄を申し出る予定だ。彼女もそれを待っているのだから。
きっと彼女は泣いて喜ぶだろう。
そのことを想像して、俺はくすりと笑った。
「ダニエル様ぁ。一体何を笑ってるんですかぁ」
「ああ、愛する人のことを思い浮かべていたんだよ」
腰に巻きつく女に優しく微笑む。すると女は頬を赤らめ、さらに強く腰にしがみついてきた。女はおそらく、自分の事を言っているのだろうと誤解しているに違いない。だが、俺にはそんなことはどうでも良かった。
「ねぇ、お願いしますぅ!愛してるって言ってぇ」
婚約破棄の際に連れ添ったこの女は、最近お気に入りの遊び相手だった。俺の加虐愛を満たすことは出来ないが、それ以外は概ね満足している。
俺は、腰に巻きつく女の要求に応えるよう愛を囁く。それはそれは甘く、蕩けるような声で。
「愛してるよ」
(ディアナの次に………な)
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