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17.異端の者

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ディアナが断固拒否の視線を送ると、ダニエルは目を丸くして彼女を見つめた。
その視線の奥には、断られることなど予想していなかったというような感情が明け透けに感じ取れる。

「……お前、何を言っているのが自分で理解しているのか?」

「ダニエル様こそ、ご自分のした事をきちんとよくお考えくださいませ」

ディアナは怯んではならないと考え、強気な姿勢で物申す。既に、王子の申し出を全力で断ってしまったのだ。これからは、なるようにしかならない。
ともなれば、自分がすべきことは内心を曝け出し、すっきりしてしまうことの他ないのだ。

(国外追放とかになったら万々歳だけれど、もし処刑だなんて言われたら最悪ね)

追放されるのならば、ディアナはある意味自分の望みを叶えることが出来る。旅に出て、運命の人を探すことだってできるのだ。

だが、処刑となると話しは別だ。ディアナだけが反逆罪で捕らえられるのみならまだしも、ナインを巻き込んでしまうのは心底困るのだ。彼は、未来有望な若者なのだから。

(まあ、周りが王子に呆れていなければの話だけれど)

ダニエルの素行については、王も頭を抱えている問題だった。自分の気に入らぬ人間を身勝手に処刑したり、国民の見本とならなければいけないはずであるのに女を側に侍らせたり。
そして今回。王族ともそこそこ懇意な伯爵家の令嬢を公衆の面前で貶めた。王位継承権を奪われるだけならまだしも、王族を追い出される可能性だって考えられる。

ーー目の前の男はそれを分かっているのだろうか。

「俺は王子だぞ!王族に使えるものが、逆らうだなんて反逆罪もいいところだ」

「……ええ、反逆罪でも結構です。あなたと結婚することに比べたら、処刑された方が100倍もマシでしょうから」

ディアナが嫌味を込めた口調で口走ると、ダニエルの顔色はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。

「この恩知らずが!  俺がどれだけお前を目にかけてやったと思ってる!!」

「恩知らず?  目にかける?  あなたは一体何を仰っているのでしょうか?  私が与えられたものといえば、心の傷と家の名誉に泥を塗られたこと。それ以外にございますの?」

その言葉に、ダニエルはさらに怒り心頭となった。

(子供の頃に第二王子に嫌味を言われたとき、凄く嫌がっていたものね。ほんと、ざまあみろって感じだわ)

玩具のように扱っていた女に貶され、貶められることは彼にとって耐え難い事だったらしい。目の前の男は鼻息を荒くし、目を細めた。
だがその後、なにか思いついたように顔を歪めると、ダニエルは口を開いた。



「………………異端の者のくせに」



その一言に、ディアナの心臓は凍りついた。二人の間を沈黙が流れる。

(異端の…………もの)

恐らくダニエルは、ディアナの顔立ちのことを言っているのだろう。母は外国人で、その娘の自分は当然のようにその血が混ざっている。それはキツめの顔立ちにはよく現れており、この国の人間とはまた違った人種のように見られるのだ。

ディアナは容姿に対し、差別を受けることをひどく嫌っていた。幼い頃から苦労したことでもあるし、一人だけこの国で仲間はずれのように思ってしまうからだ。

ダニエルは分かっていて傷を抉るような言葉でディアナを傷つけてきた。彼は常に罵詈雑言を並べ立てていたが、いまだ一度もディアナの血について言及することはなかった。

だが、今はそれをわざわざ選んで口にしたのだ。

「………………っ失礼します」

ディアナは逃げるようにして王子の自室を出た。ーー動揺を悟られないようにして。
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