婚約破棄されたので運命の人募集中です

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13.微笑みを向ける【ナインside】

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『第三王子ダニエル様との婚約が決定したの』


3年前のあの日、僕は義姉の口から一番聞きたくない言葉を聞いた。

(姉様があの最低王子と結婚……)

言葉の意味は理解できているのにも関わらず、冷静に納得することは困難だった。目の前の姉は好きな男と婚約出来たのにも関わらず、幸福とは真逆の表情をしていた。

(なんとかしてやりたい。いや、俺がなんとかしなければいけないんだ!)

姉への恋情に蓋をした代わりに、彼女を世界で一番幸せにしてやることが僕の義務だと思っていた。恋心を押しとめる堤防は今にも溢れそうではあるが、この義務が念頭にあるうちは大丈夫だ。そう自分に言い聞かせ続けていたのだ。

だが目の前の姉は幸せとは程遠く、青ざめた生気のない表情をしていた。
そのとき、僕は初めて人に対し強く根深い憎しみを覚えた。そう、姉を不幸に至らしめる憎き王子に。

しかし相手は王族だ。たかだか伯爵家の嫡男が太刀打ちできる相手ではない。さらに僕はまだ子供だ。何もかもが足らないクソみたいな状況に、苛立ちが募った。



それから3年間、僕はその苛立ちを忘れようと今まで以上に勉学に熱を向けた。姉への恋慕も振り切ってしまいたいと言わんばかりに、血反吐を吐くほど熱心に剣術にも励んだ。
姉に対しては、自分がよき弟であるかのよう努力して演じてきた。

姉様と馬鹿王子が結婚してしまうことは、しょうがないことなのだと諦める。これが自分ができる最善の手だと思っていたのだ。現実からの逃避であることは、さらさら承知済みだ。だが!



姉様は婚約を破棄された。



思ってもみなかった自体に、僕の胸は歓喜に打ち震えた。傷つく姉様を見るのは辛かったが、幸いな事に彼女は事態を承知済みのようだった。恐らくこうなることは分かっていたのだろう。

ーーそして僕の胸中にある恋情の堤防は、この出来事をきっかけに意味をなさないものになった。

これまで堰き止め続けていた思いが反動となり、大きく氾濫していった。


僕にもチャンスが出来たのではないか?

姉様、いやディアナを世界で一番幸せになるしてやれるのは、世界で一番彼女を愛している自分なのではないか?


十代の若さで輝く心は、既に自らの手でコントロールすることは不可能となっていた。
側から見れば一方的な思いなのだと感じられるのかもしれない。だが、俺はどうしても姉様を自分の手で幸せにしてやりたかった。

だが、義姉は旅に出たいなどという言葉で俺を翻弄する。僕は絶対に離れたくないのに!………………もう、一人ぼっちになるのだけは嫌、だ。

(そうだ……姉様を閉じ込めてしまえば)

切羽詰まった心に悪魔の声が囁いた。
そうだ。二人で一生を過ごせば、いつかは俺のことを愛してくれるようになるかもしれないのだ。
さらに言えば、結婚をしてしまえば虫が寄り付かなくて済む。義姉の周りを飛び交う羽虫は、全て排除するには数が多すぎて面倒だ。

しかし、姉様は行動を制限することを嫌うだろう。なにせ、彼女は歳の割にお転婆なのだから。貴族令嬢とは思えぬ程に。

姉様を幸せにしてやりたい僕は、正直嫌がる事をするということには気が引ける。ただ、そうしなければ自分から姉様が離れてしまう場合は別だ。



ーーなにしろ、僕にはもう姉様しかいないのだから。



姉への恋情を含む内心を打ち明けた時の姉様の動揺っぷりといったら、可愛いものだった。

正直に言えば、俺はあの時非常に緊張していた。なにせ、一世一代の告白だ。もしかしたら軽いものに思われていたのかもしれない。だが、僕は本気中の本気だった。
緊張を悟られないよう澄ました顔で言葉を紡いでいたが、好きな女を目の前にしているというだけで高鳴る鼓動を抑えきれないのだ。当然とも言える。

だが結果的に、色仕掛けによって籠絡されてしまい、作戦は失敗。

(でも僕は諦めない。何度だって告白してやる!!そして姉様と……)

自分の中に眠る狂気を知りながらも、僕はそれに向かって微笑みを向けるんだ。

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