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第一部
29:緊急訪問
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リエルと共に魔物討伐に出掛けた翌日。シノは、ティエラの魔法道具店を訪れていた。
別に何か買うわけではないのだが、特に用がなくても来てしまうのはいつものことだ。それに対して特に何も言わない店主の彼女はもはや慣れっこといったところか。
「初対面だと普通のお嬢さんにしか見えませんでしたが……持っている力が普通じゃありませんでしたね」
「それ、ティエラが言ってもあまり説得力がないよ? 未だに小さな子と間違えられるんだし……」
「そ、それとこれとは話が別ですよっ」
今日はまだ特にお客がいない店内に二人の和やかな話し声だけが響いていた。そして話題は、ティエラが前回の行商へ行っていた王都方面の事へと移る。
「そういえば、王都へ行っていた時に変な話を聞いたのですが」
「変な話って?」
「シノは、精霊の祭壇については知っていますよね?」
もちろんと言わんばかりにシノが頷く。
精霊の祭壇とはシノ達が住んでいるこの国――――――グランディア王国の王都方面。そこに広がる深い森林地帯にある遺跡のようなもので、その名の通り精霊に関係がある神聖な場所ともいわれている。
「ここ一か月ほどの間、夜になると祭壇の近辺が光っているのが、冒険者に目撃されているとか」
「祭壇が光ってるって……何かの予兆だったり?」
「それは私には分かりませんが……。大精霊が降臨するだの厄災の予兆だの、色々な噂が飛び交っているらしいですよ」
しかしながら、光っていることが何を表しているのかまでは不明だ。その辺りの情報は設定集にさえ載っていなかったため、作者ですらわからないトップシークレット的なものなのかもしれない。
「厄災とかだったら穏やかじゃないけど、大精霊っていうのは信憑性がありそうだね」
「実際そのような場所ですからね。遠い昔に何があったかまでは情報が古すぎて残っていませんけど」
「こう長く生きてても知らないことがまだまだあるから、世界って広いよねー」
「今更な感想ですよそれは。そのために冒険者なんて職業があるんですから」
「私はこの村を定点とした冒険者だから、ある意味冒険してない気はするけどね」
シノはそう言うと可笑しそうに笑う。冒険者主体で生活をしていた頃もそこまで村を留守にしていたわけではなかったので、結局此処に留まるのが落ち着くのだろう。
住み始めた当初に言われていた「村に住んでいる唯一の冒険者」という意味では理に適っているのだろうけど。
「まぁ、こちらでもまた情報を集めてみますよ。あまり期待はしないでくださいね」
「うん、わかった。いざとなれば私が直接現地へ出向くっていう手もあるしね」
「そもそもあなただって冒険者なのですから、それが当然なんですけどね」
話していると他の客が入ってきてしまったので邪魔になっては駄目だと思い、シノは店を後にする。今日はリエルが一人で依頼に出向いてることだし、あとは森の訪れで帰りを待つことにしよう。
ティエラに手を振って踵を返すと、彼女は店の方へ向けて歩き出した。
◇
それから更に二週間ほど経った頃。
リエルはだいぶ村の環境に慣れてきたようで、シノと二人で依頼や討伐に出掛ける際も中々の成果を残すようになってきていた。
子ども達からは「リエルお姉ちゃん」と呼ばれるようになり、すっかり仲良しになったようだ。そんな中シノは「自分のこともお姉ちゃんとか呼んでくれないかなぁ」などとぼやいたりしているのだがそれはそれとして。
彼女にはローザという妹|(仮)がいるのだからそれで我慢しておくべきだ。
「はー……静かな午後は癒されるねー……」
「そうですねー……たまにはこういうのも悪くないです」
そして当の二人はというと、今は家で思いっきりのんびりしていた。
今日は学校がお休みかつ、特に依頼も舞い込んでいないので存分に休日を満喫している。
シノはともかくとして、リエルの修行にも休みぐらいはさすがに必要だ。彼女の行動を見ていると、どうにも頑張りすぎてしまう傾向があったのでちょっと心配になる。
「働いた分だけちゃんと休む! これは健康の基本だよ、リエル」
「働く、という意味では私よりもシノさんの方が多いような気はしますけどね」
最近はまた教師仕事に比重を置きがちで、そこまで討伐依頼などをこなしているわけではない気もするがそれはそれとして。
暇がある時はローザに新しい料理を教えてもらっていたりするので、働くというよりも学習している時間の方が多いかもしれない。
今日はローザもそれなりに暇していそうだから、後でまた遊びに行ってみようかな? なんてことを考えていると――――――
――――――コンコンコンッ!
突然玄関のドアを叩く音が聞こえ、音に驚いたシノがソファから転がり落ちる。
慌ててリエルが駆け寄ろうとするが、彼女はなんてことないと首を振ってみせると、音が聞こえた玄関のほうへ急いで駆けていった。
なんだか急ぎの用時っぽい叩き方だったけれども、誰が来たのだろうと思いつつドアを開けると、
「あっ! よ、よかった……ご在宅でしたかシノさん……!」
なんと玄関先に立っていたのは灰色スーツに銀髪の女性――――――医学者ローレルの助手、ファルマであった。
まさか彼女が家に尋ねてくるとは思っておらず驚いたシノだったが、なんだか様子がおかしいことに気づく。
初対面では冷静沈着なイメージを受けたものの、目の前にいる彼女はどう見ても慌てている感じだ。
「ど、どうしたんですかファルマさん!?」
シノはファルマを落ち着かせようとするが、彼女は居ても立ってもいられないように思える。
そして次にシノ宅の玄関に響き渡ったのは――――――
「――――先生が……先生が、大変なんです!!!」
――――――医学者ローレル。彼の危機を伝えるファルマの言葉であった。
別に何か買うわけではないのだが、特に用がなくても来てしまうのはいつものことだ。それに対して特に何も言わない店主の彼女はもはや慣れっこといったところか。
「初対面だと普通のお嬢さんにしか見えませんでしたが……持っている力が普通じゃありませんでしたね」
「それ、ティエラが言ってもあまり説得力がないよ? 未だに小さな子と間違えられるんだし……」
「そ、それとこれとは話が別ですよっ」
今日はまだ特にお客がいない店内に二人の和やかな話し声だけが響いていた。そして話題は、ティエラが前回の行商へ行っていた王都方面の事へと移る。
「そういえば、王都へ行っていた時に変な話を聞いたのですが」
「変な話って?」
「シノは、精霊の祭壇については知っていますよね?」
もちろんと言わんばかりにシノが頷く。
精霊の祭壇とはシノ達が住んでいるこの国――――――グランディア王国の王都方面。そこに広がる深い森林地帯にある遺跡のようなもので、その名の通り精霊に関係がある神聖な場所ともいわれている。
「ここ一か月ほどの間、夜になると祭壇の近辺が光っているのが、冒険者に目撃されているとか」
「祭壇が光ってるって……何かの予兆だったり?」
「それは私には分かりませんが……。大精霊が降臨するだの厄災の予兆だの、色々な噂が飛び交っているらしいですよ」
しかしながら、光っていることが何を表しているのかまでは不明だ。その辺りの情報は設定集にさえ載っていなかったため、作者ですらわからないトップシークレット的なものなのかもしれない。
「厄災とかだったら穏やかじゃないけど、大精霊っていうのは信憑性がありそうだね」
「実際そのような場所ですからね。遠い昔に何があったかまでは情報が古すぎて残っていませんけど」
「こう長く生きてても知らないことがまだまだあるから、世界って広いよねー」
「今更な感想ですよそれは。そのために冒険者なんて職業があるんですから」
「私はこの村を定点とした冒険者だから、ある意味冒険してない気はするけどね」
シノはそう言うと可笑しそうに笑う。冒険者主体で生活をしていた頃もそこまで村を留守にしていたわけではなかったので、結局此処に留まるのが落ち着くのだろう。
住み始めた当初に言われていた「村に住んでいる唯一の冒険者」という意味では理に適っているのだろうけど。
「まぁ、こちらでもまた情報を集めてみますよ。あまり期待はしないでくださいね」
「うん、わかった。いざとなれば私が直接現地へ出向くっていう手もあるしね」
「そもそもあなただって冒険者なのですから、それが当然なんですけどね」
話していると他の客が入ってきてしまったので邪魔になっては駄目だと思い、シノは店を後にする。今日はリエルが一人で依頼に出向いてることだし、あとは森の訪れで帰りを待つことにしよう。
ティエラに手を振って踵を返すと、彼女は店の方へ向けて歩き出した。
◇
それから更に二週間ほど経った頃。
リエルはだいぶ村の環境に慣れてきたようで、シノと二人で依頼や討伐に出掛ける際も中々の成果を残すようになってきていた。
子ども達からは「リエルお姉ちゃん」と呼ばれるようになり、すっかり仲良しになったようだ。そんな中シノは「自分のこともお姉ちゃんとか呼んでくれないかなぁ」などとぼやいたりしているのだがそれはそれとして。
彼女にはローザという妹|(仮)がいるのだからそれで我慢しておくべきだ。
「はー……静かな午後は癒されるねー……」
「そうですねー……たまにはこういうのも悪くないです」
そして当の二人はというと、今は家で思いっきりのんびりしていた。
今日は学校がお休みかつ、特に依頼も舞い込んでいないので存分に休日を満喫している。
シノはともかくとして、リエルの修行にも休みぐらいはさすがに必要だ。彼女の行動を見ていると、どうにも頑張りすぎてしまう傾向があったのでちょっと心配になる。
「働いた分だけちゃんと休む! これは健康の基本だよ、リエル」
「働く、という意味では私よりもシノさんの方が多いような気はしますけどね」
最近はまた教師仕事に比重を置きがちで、そこまで討伐依頼などをこなしているわけではない気もするがそれはそれとして。
暇がある時はローザに新しい料理を教えてもらっていたりするので、働くというよりも学習している時間の方が多いかもしれない。
今日はローザもそれなりに暇していそうだから、後でまた遊びに行ってみようかな? なんてことを考えていると――――――
――――――コンコンコンッ!
突然玄関のドアを叩く音が聞こえ、音に驚いたシノがソファから転がり落ちる。
慌ててリエルが駆け寄ろうとするが、彼女はなんてことないと首を振ってみせると、音が聞こえた玄関のほうへ急いで駆けていった。
なんだか急ぎの用時っぽい叩き方だったけれども、誰が来たのだろうと思いつつドアを開けると、
「あっ! よ、よかった……ご在宅でしたかシノさん……!」
なんと玄関先に立っていたのは灰色スーツに銀髪の女性――――――医学者ローレルの助手、ファルマであった。
まさか彼女が家に尋ねてくるとは思っておらず驚いたシノだったが、なんだか様子がおかしいことに気づく。
初対面では冷静沈着なイメージを受けたものの、目の前にいる彼女はどう見ても慌てている感じだ。
「ど、どうしたんですかファルマさん!?」
シノはファルマを落ち着かせようとするが、彼女は居ても立ってもいられないように思える。
そして次にシノ宅の玄関に響き渡ったのは――――――
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――――――医学者ローレル。彼の危機を伝えるファルマの言葉であった。
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