ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第二部

63:鋼の災厄

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 王宮を訪れていたシノの耳に飛び込んできたのは、まさに平穏を引き裂くような伝令の大声。鋼の災厄が現れたとの報せは、その場にいた全員が驚きに固まるには十分過ぎるほどであった。

「なんと……それは真であるか!?」

「北の山岳方面で巡回任務中の小隊が遭遇したとのこと! かの言い伝えと見た目に違いはなく、間違い御座いません……」

「来るべき時が来た、ということか……こうしてはおれぬ! ただちに騎士団を招集せよ! 各所にも伝令を飛ばし、民衆の避難を開始するのだ!」

「ははっ!!!」

 謁見の間からそのような会話が聞こえた後、国王やその家臣たちを含む全員が即座に動き出し、王宮内はこれまでにない緊迫感に包まれた。
 あまりに突然の事態だったため、シノがどうしようかと思っていると、


「先生、第一級の緊急事態宣言だ! 俺はこれから騎士団を招集しなければならん!」


 先ほどの伝令を聞いていたのか、グレンが大急ぎで兵舎の方から戻ってくる。他の者と同様にその顔は緊張そのものであり、こんな様子を見たのは彼女も初めてだ。

「うん。鋼の災厄が再び姿を現したって……!」

「王都周辺で流れてた噂は真実だったってことか……」

「私は急いでギルドに戻るよ!」

「……! そうか……俺としては避難する側に回って欲しかったんだが」

「……ごめんね。王都の為でもあるけれど、一人の冒険者として見過ごしておけないよ!」

 騎士団の一員である彼にとってはシノも守るべき民衆であることには変わりないのだが、当のシノはそう考えてはいないようだ。ただ助けられるだけで何もしないというのは、彼女自身が許さないのだろう。昔からそのことをよく知っているグレンは思わず苦笑を浮かべる。

「……分かった。だが、本当に危なくなったら必ず逃げろ。絶対に無茶はするんじゃないぞ、先生!!!」

「それはお互い様だよグレン。生きて帰ってこないと、久々のお説教だからね!」

「ははは、それは楽しみだ! 俺はすぐに現地の前線に向かう。あっちでまた会おう!」

 互いに生きて戻ると約束して固く握手を交わした二人は、それぞれ別方向へ走り去っていく。
 その間に周囲の緊迫感も更に強まっており、兵器などを運び出す音があちらこちらから聞こえ始める。シノはすぐさま王宮を後にすると、冒険者ギルドのある中央区へ向かっていったのであった。


 ◇


 非常時とあってか鉄道は大混雑だったが、なんとか冒険者ギルドへと帰ってきたシノ。
 ここにも伝令は届いているようで、冒険者達がいつもよりざわついているのが目に見えてわかる。

「シノさん! よかった……戻ってこられたんですね!」

「ちょっと、なんだかとんでもないことになってるわよ!」

 リエルとセリアも此処に戻ってきていたようで、無事の再会を共に喜んだ。先ほどから十分ほどしか経っていないが、既に王都全域に情報は届いているらしい。さすがは王都の情報伝達網だ。
 そして恐らくここに集っているのは、皆が王都を守らんとする歴戦の冒険者達だろう。数百名に及ぶ彼ら彼女らの中央では、ギルド長と思われる初老の男性が指示を行っている。

「どうやら直接の討伐に向かう冒険者は百名ほどで、他は王都周辺での防衛や市民の避難誘導を担当するようですね」

「ま、たとえ一万人居たとしても烏合の衆じゃ意味がないものね。相手からすればいい的だし」

「本当なら、先に私は市民の人達を先に逃がす方に加わりたいところだけど……」

「その持て余してる力、今使わずにどこで使うってのよ?」

 セリアの言う通り、この期に及んで使い渋っていれば本当に後悔することになるかもしれない。そのことを誰よりもよく分かっているシノは、当然ながら討伐組に加わることにした。
 追加の伝令も届いたようで、目標が王都に到達するまで長くてあと半日ほどしか時間が残されていないという。手をこまねいていては、王都に接近された状態で迎撃をしなければならない。それでは二次被害が出てしまうため絶対に避けるべきだ。
 既に何人かのチームを組んだ冒険者達は出発し始めており、シノ達もそれに続こうとするが、まだ出発していない冒険者の中にある人物を見つけた彼女は思わずその名を呼んだ。


「――――――ステラさんっ!!!」


 やはりステラも情報を聞いて冒険者ギルドにきていたようで、呼びかけに気付くとこちらを向く。すぐさま走り寄ってくると、仮面の上からでもわかるほどの安堵した表情を浮かべた。

「よかった、あなた達も来ていたのね。話は聞いているでしょう?」

「はい! 私達もこれから、鋼の災厄の迎撃に向かうところです」

「それなら……私も一緒に行っていいかしら?」

 ステラが来てくれるのであればこれ以上心強いことなどない。断る理由もなかったので、すぐに三人は承諾した。
 ペリアエルフが二人に精霊が二人。世界のどこを探しても、これ以上に強力な冒険者パーティはいないといえるだろう。やる気十分な一同は冒険者ギルドを出ると王都の西門へと急いで向かった。

「こちらの魔動車は返却のことは考えずにお使いください。どうかご武運を!」

 西門で役員からそう告げられた後、シノ達は四人乗りの魔動車へと乗り込むと即座に発進させる。目的地は鋼の災厄が目撃されたという北の山岳方面だ。周囲には十数台の魔動車が同じ方角へ向けて走っており、それ以外には王立騎士団の姿も大勢見える。
 その中から一体どれだけ犠牲になってしまうのだろうという考えがシノの頭をよぎったが、相手はかつての王都を壊滅させた災厄だ。全員が無事だなんてまず不可能だろう。
 それでも、少しでも生き残ってくれることを願いながらシノは車両を北へと走らせ続ける。


「――――――心が前を向く限り、己の使命と向き合いなさい」

「えっ……?」


 すると、後ろの座席に乗っていたステラが唐突にそんな事を言い、思わずシノは素っとん狂な声をあげてしまった。何か意味ありげな言い方に聞こえたが、どうしたというのだろうか。

「私が昔、ある人から言われた言葉よ。今の状況でやるべきこと――――――使命は決まっているでしょう?」

「は、はい! 鋼の災厄を止めて王都を救う……ですよね?」

「ええ、そうね。でも当然ながら犠牲は避けることができない。どんなに優秀な冒険者であっても、たとえ伝説の勇者であってもね」

「ただの一人も傷付けずに世界を救ったヤツがいるのなら、私だって見てみたいわよ」

「だからこそ、心だけは前を向いていなければ何も出来はしないわ。犠牲を振り返るな、と言うつもりはないけれどもね」

 まさに今から鋼の災厄の討伐に向かおうとしている自分達がしっかりしなければ、その過程で犠牲になった人達に顔向けできないだろう。ならばせめて、それに報いなければならない。当たり前だが、忘れてはならない大事なことだ。

「ありがとう御座います、ステラさん。私は……しっかりと前を向こうと思います」

 ステラの言葉によって決意を新たにしたシノは礼を言っておく。それに対して彼女は笑顔で返した。
 気付けば車両は王都からかなり離れた場所まで来ており、過ぎた時間は一時間程度といったところか。小さな山林や丘が点在する地帯にやってきた一同は、前方に集団を視認すると魔動車を一旦停めた。

「……どうやらこの辺りが最前線みたいだね。ここまであからさまな戦場の空気なんて初めてだよ」

「迎撃用の兵器も数多く運び込まれているみたい。まさに総力戦って感じね」

 周囲には既に一万を超える騎士団が陣を展開しており、転移魔法によって王都から運び込まれているであろう砲台などの兵器が各所に設置されている。精鋭の冒険者達も続々と到着し始め、小チームが広範囲に散らばって迎撃の準備をしているのが見えた。
 丘に、山林に、平原に。これから相まみえるであろう存在に対してそれぞれが待機している。

「ここまで来たら、もう後戻りは出来ないよ。準備はいい?」

「……はい! 絶対に勝って、王都を守りましょう!」

「私の輝かしい武勲の一部にしてやるわ。やってやろうじゃないの!」

「三百年前が撃退止まりならば……今度こそ、完全に倒し切りましょう」

 シノの確認に対して三人はそれぞれ頷き、あとはその時を待つのみとなった。
 元はといえば、設定を考えた自分自身が鋼の災厄という存在を作り出したようなものだ。その責任を取るとまで大袈裟なことは言わないのだが、せめてこの手で終わらせなければならない。三百年前の悲劇を繰り返さないためにも。
 やがて最前線に到着してから更に三十分ほど時間が過ぎたその時、



「……っ! 北の空が、急に暗く……!?」



 先ほどまでは確かに晴れ渡っていた北の空に突然暗雲が出現し、不穏な空気を漂わせ始めた。それが合図であったかのように周囲にざわめきが生まれ、いよいよかと各人が動き始める。
 その間にも暗さは段々と増していき、距離も確実に近づいてきているのがわかった。そして――――――



「――――――鋼の災厄の出現を確認!!! 総員、迎撃用意!!!」



 纏った暗雲を吹き飛ばすようにして空から現れた災厄と、一同は初めて対峙するのであった。
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