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4日目
兆候と希望01
しおりを挟む~~~翌日・4日目~~~
「すう…………すう…………」
窓から差し込む朝日に照らされて穏やかな寝息を立てる明菜。その横顔を、俺はソファに寄り掛かりながら眺めていた。
住吉氏と別れた後、俺たちは近場で動く車を見つけて高速を飛ばした。お陰で かなりの距離を稼ぐことが出来て、目的地である西の街まで辿り着く目処が立ってきた。
ここまで来れば、余計な邪魔さえ入らない限り1日もあれば辿り着くことができる。目的地に何が待っているか分からないが、その答えは決して遠いものではない。
「う……ううん……」
何かのポジションでも悪かったのか、明菜が軽く眉を寄せながら寝返りを打つ。その動きにパサっと掛けていた毛布がズレ落ちてしまった。
(仕方ねえな……)
言葉とは正反対に、俺は穏やかな笑みを浮かべながらズレた毛布を掛け直してやる。自身を包む温もりに心地よさを感じたのか、明菜は微笑みを浮かべて肩に置いた俺の手を握ってきた。
「相変わらず甘えたがりだな」
からかうような口調で言いながら、空いた手で明菜の頬を撫でてやる。それは普段から行なっている軽いスキンシップのはずだった。
だが、次の瞬間―――
『―――――――――ッ!!』
ドクンッ―――と、左胸の中で小爆発が起こったような音を立てて心臓が脈打つ。
(なん……だ……?)
ドクドクと心拍数が上がっていき、血管を通る血液が速度を上げていく。それと同時に、俺の中で言い様のない衝動が加速度的に高まっていった。
(馬鹿な……どうして……?)
自分で自分が信じられない。
だが、これは紛れもない現実。
隠しきれない欲望だった。
満たされない渇き。
癒されない疼き。
それらの全てが、目の前の欲求に従うだけで取り払うことが出来るのだ。
だから、俺は明菜を見つめる。
今の俺を救えるのは彼女しかいないからだ。
親愛の情を込めて彼女の頬に触れる。
込み上げる恍惚とした気分のまま、俺は心中で呟いた。
(ああ、明菜……お前は どうして……)
―――そんなに美味そうなんだ―――
俺の手を掴む細い指。
白く柔らかそうな頬。
薄紅色に輝く唇。
その全てを貪り尽くしたくて仕方ない。
お前の肉は どんな味がする?
お前の血は どのように俺の喉を潤す?
ああ……想像するだけで堪らなくなってくる!
「明菜…………ッ!!」
膨れ上がる欲望のまま、俺は明菜に覆い被さる。
そして、細く新雪のように白い喉元へと大きく口を開いて近付いた。
「―――――――――」
「……………………ッ!!」
それは ただの寝言。
何気なく呟かれた俺の名前。
だが、それだけで俺の意識は一気に覚醒した。
「クソッ…………!!」
俺を飲み込もうとする強大な欲望を無理矢理に抑え込むと、俺は細身のナイフを取り出して自らの腕に刺した。
二の腕に走る鋭角な痛み。
それが正常な俺を取り戻してくれる。
(畜生……何なんだ、今のは……!?)
不意に湧き上がった衝動。
それは余りに甘美で、抑え難いものだった。
(もしかして、これもウィルスの……)
常の俺と違う点と言えば、ウィルスに感染している事だけだ。ならば、今の衝動はゾンビ化の兆候に他ならない。
人を襲い喰らう―――それがゾンビの最たる特徴であるならば、俺は既に人間とは違う生き物になりつつあるという事か。
(フザけんじゃねえぞ……!)
今までにも、俺が感染者であるという事実が不利に働くことがあった。だが、それでも俺と明菜が生きていられるならば何も問題はなかったのだ。
だが、俺が明菜を傷つける可能性が出てきてしまうならば話は別だ。守れる守れないの次元ではなく、俺が明菜を害してしまうかもしれないのだから。
(こんな……俺はどうすれば……)
困惑と焦燥が俺の胸中を満たす。
ゾンビになりつつある―――その事実よりも、明菜を傷つけてしまうことの方が恐ろしかった。
(クソッ……ダメだ、考えがまとまらない……)
思考がグルグルと堂々巡りを始めて混乱しそうになる。俺は気分を落ち着けるために、明菜が熟睡しているのを確認してから外へと出た―――
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