タイムリミット ~ゾンビになるまで~

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4日目

兆候と希望02

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「はあ…………どうなっちまうんだ……?」

  深い溜息と共に呟く。
  ゾンビになる覚悟は決めていたし、実際に迷いも恐れもないが、こんな形で自分の思いが揺らぐとは思わなかった。

  いや、本当は心の何処かで気付いていたのだ、この事態を。だが、明菜を傷付けるという可能性から目を背けたくて、今まで見えない振りをしていただけなのだろう。

「結局は俺もビビってたって事か……」

  認めたくはなかった事実。
  しかし、こうも目の前に突き付けられると、怯えを抱いていたという事実からは逃れようがなかった。

「一体、どうすれば…………」

  再び、口を吐いて出る溜息。
  だが、その瞬間―――

「ああ、良かった……やっと人に会えた……」

  そんな声と共に、横合いに何者かの気配を感じた。
  俺は僅かに身を強張らせながらも、反射的な動きで後ろ腰から銃を抜き取り立ち上がった。

「ああ、落ち着いてください。私は敵じゃありません」

  穏やかな口調。
  しかし、その姿は反比例して凄惨なものだった。

  胸元が真っ赤に染まった白いシャツ。
  それは明らかに血で染まったものであり、事実、赤色の根源を辿れば首元に派手な傷があった。

「その怪我は…………」
「ははは……お恥ずかしながら、そこで噛まれてしまいまして」

  苦笑を浮かべがなら照れたように頭を掻く。
  その外見と不釣り合いな態度に毒気を抜かれ、俺は気が付けば銃を下ろしていた。

「…………どうなさるんですか?」

  核心を突きつつ、大事な部分は濁した問い。
  それに対して、男は僅かに表情を引き締めて口を開いた。

「それなのですが……よろしければ撃ってくれませんか?」

  まるでヒッチハイクでもするかのような声色。
  あまりにも軽く言われたため、俺は思わず頷きそうになった。

「他に お仲間は……?」
「先程まではいました。ですが、私が噛まれたと知るや逃げてしまいましたよ」

  どこでも似たような反応か。
  やはり、この世界で感染者というのは排すべき存在なのかもしれない。

「自分でやるべきなのですが……生憎と武器を失くしてしまいまして」

  言われて見てみれば、確かに男は空手だった。
  確かに、それでは どうすることも出来ないだろう。

「武器と車でもあれば、研究所にでも向かうんですけどね……」
「研究所…………?」

  男の落胆したような呟きに含まれていたワードが、俺の興味を引き寄せた。何故か、そこに光明が見えたように思えたのだ。

「ええ、ここから南下した町にある大学で、抗ウィルス薬が開発されているって噂があるんです」

  抗ウイルス薬―――その言葉が衝撃となって俺の胸元を突き抜ける。

「まあ、話自体が眉唾だし、誰一人として帰ってきた人間がいないんで、ほとんどの生存者が信じちゃいませんけどね」

  そう言って男は苦笑を浮かべた。
  実際、こんな状況だから その手の噂は各所から出てくる。そのため、男も本気で口にしたわけではないのだろう。

  だが、例え信憑性の無い噂であっても、俺のところまで消えることなく伝わってきたことに一縷の望みが感じられた。ただの現実逃避かもしれないが、俺の耳に届いたのは必然のように感じられたのだ。

「その大学の名前は?」
「水沢医科大学……だったと思います」

  深く自分の脳に記憶する。
  もしかしたら、俺の運命を左右するかもしれない場所だ。

「車と武器があったら、アナタも行きますか?」
「いえ、行きませんね。どうにも信じられませんし、そこに行くまでの気力も―――」


『―――――――――ッ!!』


  男が全てを言い切る前に、銃弾が眉間を貫く。
  これで、情報を与えてくれた恩は返せただろう。

「水沢医科大学…………」

  記憶した名称を誰に言うともなく呟く。
  だが、そこへ―――

「…………行くの?」

  いきなり後ろから声を掛けられる。
  驚きながらも振り返れば、そこには明菜が常と変わらぬ穏やかな表情を浮かべて立っていた。

「聞いてたのか?」
「最後の方だけね……一応、いつでも撃てるようにはしといた」

  胸を張りながら、ハンドガンを誇らしげに掲げる明菜。正直、彼女の腕前では俺の方が撃ち抜かれそうだが、その心遣いに自然と温かな気持ちが溢れてきた。

「それで……どうする?」

  重ねての問い。
  だが、俺は即答することが出来なかった。

  先程のことを考えれば行くべきだ。
  しかし、場所が場所だけに西の街へと向かうには遠回りになってしまう。それに、俺に残された時間も決して余裕があるとは言えない。もし、ただの噂でしかなかったら取り返しのつかないことになる。

「…………行こうよ」
「えっ…………?」

  俺の内心を読んだかのように、明菜が決意を口にする。その力強さに、俺の方が戸惑ってしまったぐらいだ。

「貴方が助かるかもしれないなら、どんなに低い可能性でも賭けてみる価値があるもの……私にとってはね」

  俺のためではなく、自分のために行く―――そう言わんばかりの口調に、俺は思わず目頭が熱くなった。俺の望みを自分の望みと出来る彼女は、まさに最高のパートナーと言えるだろう。

「じゃあ、一緒に行ってくれるか?」
「もちろん!」

  満面の笑みと共に頷く明菜。
  そんな彼女に、俺も微笑みを浮かべる。

  目指すべき大学に現状を打開する手段が実在するかは分からない。それでも、向かわなければ俺の未来は変わらないのだ。明菜の賛同が得られたのなら、迷うことはないだろう。

「よし……行こう!」

  努めて明るく言うと、俺は車に乗り込んだ。
  このドライブの果てに、俺の中に闇が晴れることを信じて―――
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