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しおりを挟む「あれでアイツを庇ったつもりか」
無言で廊下を歩く二人、先に口を開いたのは男の方だった。自身よりもはるか下にある瞳を見下ろしながら、鋭い眼光を飛ばす。
「姉弟愛なぞ、くだらんものだ。その心の隙が──」
「分かってるわ」
お説教に突入する雰囲気に、莎夜はうんざりした様子を隠そうともせずわざとらしく溜息を吐いた。
「死神として仕事を請け負っておる以上、そう言った感情は付け込まれるだけ。プロなら誰に対しても非情に徹しろ。……たとえ身内であっても、──そうでしょ、お父様」
「そう呼ぶなと言っただろう」
「…………はい、総帥」
馬鹿馬鹿しい。喉元まで出かかった悪態を長い長い息に変えて吐き出す。
お父様と呼ばれたこの男は、莎夜と紫苑の実の父であり、莎夜が所属させられている殺しの請負組織のトップでもある。それまで個々で活動していた死神達を集め誰かの死を願う者と繋ぐことで、死神は命の糧を、依頼者は自らの手を汚すことなく望み通りの結果を得られる状況を作り出した彼の手腕はかなりのものだ。直接見たことはないが、戦闘技術もかなりのものだと言う噂だ。
だからこそこの男を畏れる死神も少なくはないし、信者などと名乗り崇拝する者もいる。
しかし、莎夜はその様な感情も気持ちも全く抱いていない。どちらかと言えば否定的な印象しか無いがそれを口にすれば最後、内乱を企む危険人物と見做され、この組織から追放されいずれは標的のリストに載ることだろう。
姉弟愛を否定する父親は、もちろん家族愛も認めない。莎夜も紫苑も、父親としての愛情はおろかこの男に育ててもらったと思った瞬間など欠片もない。少なくとも、記憶があるうちは。
「私は、紫苑を庇ったわけじゃない」
まだ疑念が晴れていないらしい。そう言う性格だと知っていても、疑われる煩わしさは拭えない。
「実践を積めば積むほど強くなれる。紫苑がああして駄々をこねている間に私は経験も戦術も身に付けて早く一人前になってみせる。ライバルは蹴落とせ──そう言ったのは、貴方よ」
だから、と。隣を歩いていた男の前に出てくるりと振り返る。目を細めた、卑しげな笑みを張り付けて微笑みを歪ませて囀る。
「紫苑にあげる仕事があるなら、全部私に回して。ね?」
「──とんだタヌキだな。…まあ、良いだろう」
男の表情は仮面のようにつまらなさそうな、怒ったような厳つい面持ちを貼り付けたまま、声だけが微かに愉快さを滲ませていた。
タヌキでも何でもいい。何を言われようと、どう思われようと、莎夜は任される仕事をひたすらに引き受けてこなすだけ。
失敗は許されない。見限られて任せてもらえなくなるか──最悪の場合、死が待っている。そうなれば必然的に紫苑にも任務が回ってきてしまう。
紫苑には渡さない。
(あの子に、させるわけにはいかない)
握った手に自然と力が篭る。
そうして話しているうちに着いたのは、男の部屋。微かに震える腕を隠すように後ろで組んで、莎夜は彼に続いて中へ入っていった。
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