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Chapter 5
5-1
しおりを挟む「……っ…」
苦しそうな呻き声。
辺りに広がっている静寂にすら負けてしまいそうなそれを、蒐は過敏に聞き取った。閉じていた瞳を虚ろに開くと煩わしさを舌打ちで表し、部屋の隅に横たわる少女のもとまでのそのそと歩いていく。
ギッ、と床板が軋み消え入りそうな吐息を掻き消す。
二人はもう使われていない廃屋同然の小屋にいた。三日前、重度の貧血で気を失った莎夜をここに運び込み、今に至る。あの日からまだ一度も意識を取り戻してはいない莎夜は、時折、先程のような苦しそうな声を漏らしその度に蒐は何故だか容態が気になり確認をしてしまう。
心の底からムカつく少女だが──こうなったのには少なからず自分にも原因があるということは非常に不本意ながらも理解していた。それに、更に腹立たしい事実として、莎夜の命が尽きれば自らも死ぬ。それだけでも気に掛けなければいけない理由に充分に値するのだから放っておくわけにもいかない。
もう何十回目となるその行為を、蒐はまた繰り返すように隣にしゃがみ込んだ。額に手をあてる。これも、もう何回とやってきたもの。
まだ、氷のように冷たいままだ。
「……チッ」
不愉快そうに己の手以上に冷たい温度を振り払うと座っていた位置には戻らず、戸口に向かう。
ボロボロのノブを回すその瞳は金色がかっていた。
──酷い、喉の渇き。
もう何年も感じていなかったほどの激しい渇きだったが、ここ数日で失った血の量を考えればそれほど不思議では無かった。莎夜が血を分け与えたことを考慮しても、体が限界を訴えていてもおかしくない。
「………ぁ…」
これまでとはどこか違うはっきりとした声に、蒐は戸を開きかけた手を止める。
「……あか、ね……?」
意識を取り戻したか、と、うわごとのように名を呼ぶ少女に静かに近寄る。同時にフラフラと無理やり体を起こした莎夜が見上げ、それを無表情に見下ろした赤い視線がぶつかった。
「血…?」
その一言から莎夜の言いたいことを蒐は大体把握した。
つまりは、血が欲しいなら莎夜が自らくれてやるということ。
(クッソ面倒臭ぇ)
これなら昨日のうちにさっさと獲物を探してくるんだった、と半ば八つ当たり気味の感情と悪態を飲み込みながら蒐は厳しい表情を作ると、
「テメェのは頼まれたって飲まねぇよ」
冷たく言い放つ。
「心中でもしてぇのか?テメェの体調くらい分かってんだろうが」
拒否されることを予め予想していたのか、莎夜は静かに目を伏せる。ふ、と溜息にも似た息を吐く。
「……うん、」
そしてまたフラフラとよろけながら堅い床へ横になった。両脚を抱え、胎児のように丸く蹲る。すぐに聞こえてくる寝息。
どうやら今の短い会話で回復したばかりのなけなしの体力を使い切ったようだ。
「…………」
その様子を冷ややかに眺めてから、フン、と鼻を鳴らすと蒐は再び戸を開け、小屋を後にした。
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