Eclipsera Now エクリプセラ・ナウ

池ヶ谷 夏艸

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13〈由依〉ユイと勇者

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TVでは1000人以上が虐殺されたハロウィンフェスの話題で持ちきりだった。
スマホでWebを見ると『モザ無し、虐殺王〈38万再生〉』と付けられた動画が上がっている。この動画以外にも似た物が『閲覧注意!グロあり〈10万再生〉』など続々と上がっていた。
血の海に佇むフルプレートアーマーの青年がハロウィンの仮装をした人の脳天に剣を突き刺した後、警官の包囲束縛を振り切って建物の屋上に跳躍して消えて行く様子が一部始終映っていた。
「ヤバい、色々ヤバい」
由依は部屋に鍵を掛けてスマホの動画に釘付けになっている。こいつってゲームブックの物語上のキャラクターだ。ダーク・シー第16巻「憂鬱王の秘宝」で出てきた時の勇者パロミデスだ。鎧で分かる。プレイヤーを助けてアースゴーレムを倒すヒントをくれるキャラクター。第16巻第2章「月光聖女ルルマサンクタの呪い」にプレイヤーが到達するのはおよそレベル50前後で、パロミデスはそれより少し強かったはず。あの時あんなに頼りになった勇者が一体なんで……?
由依は自分が月光聖女ルルマサンクタの呪いに挑んだときの事を思い出していた。

   ✣ ✣ ✣

目的地の無人島があるメレブの海は透明度が高いすごくキレイな浅い海で馬でも渡れたんだけど徘徊する怪物のレベルが高くて、普通の馬では襲われて死んでしまう。ビーチまでは私の白馬にノルを乗せてタンデムで行けたけどその先はみんなで歩いて行く事にしたら魔女のノルは美しい金細工のサンダルが汚れる事にずっとブツブツ文句を言ってた。
「中身オジサンなのに何言ってんの?」
と言ってやりたくなったけど仲間の中にはノルのプレイヤーが男である事を知らない人もいたから黙ってた。

その頃ノルはレベル50を超えて魔女ウィチモから高位魔女アルタウィチモ昇格プロモーションし、次空魔術をいくつか習得してた。魔術を専門的に操る職業では上位職に昇格すると一般魔術の習得は終わったものとして其々それぞれが専門的な魔術研究に進む道が選べるそうだ。ただそのルートは難しく、魔術研究の道を選ぶ人は少ないらしい。そんな中でノルはレベル50になった後しばらくして王都バレーフィオンに引越し、そこの王立魔術大学で次空魔術の研究を始めてた。次空魔術の他にも方向量魔術とか熱量魔術とか誘導係数魔術とか専門魔術は色々あるらしい。何でそんな面倒くさい職を…と思ったけど、ノルが最初に習得した瞬間移動魔法を見た時は正直すごいうらやましかった。

メレブの海でのキツい戦いを抜け、アースゴーレムの墓所にたどり着いた私たちを勇者パロミデスが迎えてくれた。黒いインナーの上に白いフルプレートメイルを着たカラーリングがスペースシャトルみたいで良いじゃんって思った。海での戦いで大分消耗してしまい、墓所に挑むのは無理じゃない?と仲間で話していたのだけど パロミデスに話しかけると体力も魔法力も全回復してくれた。それからアースゴーレムと戦う上での注意点、狙うべき弱点などを細かく教えてくれたのだ。仲間のN75号さんが
「200年眠るゴーレムの弱点を知ってるなんて不思議な奴だ」と言ったけど勇者には聞こえていないようだった。

そしてアースゴーレムとの戦い。
刺突攻撃はほとんど通じないから刺突持ちは後衛を護ることに徹しろとあらかじめ言われてたのに、負けん気の強い私は隙をみては槍でチクチクとゴーレムを刺していた。アースゴーレムに最大に通用しているのはノルの遠距離からの水魔法で呪文詠唱中のノルは四秒ほどその場を動けなかった。
「このまま押しきれそうだな」と
槍の秘技の予備動作に入った時、アースゴーレムが左半身を後ろに引き 右拳を突き出すのが見えた。
「防御姿勢!」勇者パロミデスが叫ぶ。
墓所に入る前に勇者に言われたアースゴーレム最大のインパクトアタック。岩石でできた右拳はそれだけで直径にして2メルテぐらいある。その固く握り込んだ拳から光の棘が無数に伸び明けの明星モーニングスターのようになる。そしてその拳の先はアースゴーレムから20メルテほど離れたノルに向いていた。
「やっば!」
ノルを護るのは私の役目なのに自分の攻撃がほとんど有効打になってない事に焦って無駄な攻撃ばかりしていた。背中に冷たい汗が流れる。今、呪文詠唱中のノルを守る者はいない。
「ノルさんを!」
アースゴーレムを挟んでノルと反対位置で魔法弓を撃つネヒトナハトさんが叫ぶけど、とてもそこまで戻れない。前衛攻撃役のN75号さんも私の横でゴーレムを殴打している。次の瞬間、アースゴーレムの右手首が爆発し腕から発射された巨大な拳が魔女ノル目がけ一直線に襲い掛かった。ミサイルのようなスピードで巨大な拳が呪文詠唱中の無防備なノルに直撃し《ゴォオイィイイン!》と鐘のような大きな音がフロア中に響き渡る。
しかしその音のすぐ後、アースゴーレムを強烈な水圧の塊が襲い、アースゴーレムは《グラリ》と体を歪ませた。勇者パロミデスが魔女ノルの前に立ちはだかり、聖盾クロスフルでアースゴーレムの巨大な拳を完全に受け止め切っていた。

「やば、カッコいい」由依は思わず呟いたのを覚えている。
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