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24〈佐々木〉と〈ショウ〉呼びかけ
しおりを挟む八重山ショウの言うこのままではヤバい、とはこう言う事だった。
怪物たちはこの世界で経験値を得ている。
人間を殺し、あるいは同族や他の怪物を殺しどんどん強くなっている。
逆に人間側は数を減らし、本の出演者も何人も死んでしまっているだろう。ブックキャストを倒した怪物はより多くの経験値を得ているかも知れない。
このままの状態が続くとやがて怪物の中にブックキャストでは倒せないレベルの者が現れ、時間を経る毎にその数は増えていく。
そうなればついに人間の勝ち目は完全に無くなる。
「この世の終わりか」佐々木は唸るように呟いた。
「だからキャストを集めて強い怪物は片っ端から叩かないといけないんですよ、そしてそのパーティでは絶対誰も死んじゃダメなんす」
「パーティ?」佐々木が不思議そうに尋ねる。
「あー、もう、パーティってのはまあ小隊の事です」ショウが呆れた顔で答える。
〈じゃあ小隊って言えよ〉心の中で佐々木はムッとするがショウの話を聞いている。
「特にね、報道されてた白い鎧の男居るじゃないですか、あれは本当にマズいですよ」
「渋谷の後もあちらこちらで殺戮を繰り返しているのが報告されている。移動速度が速すぎて自衛隊や警察の特殊部隊が現着した時にはもう、とっくに居ないらしい」
勇者パロミデスは既にその名が知れ渡り、Webやラジオでは度々その殺戮の模様が報じられていた。
「キャストも何人もやられてるらしいですからね」渋面を作ってショウが言う。
「……個人的な恨みもありますけど」ショウが《ボソリ》と呟いた。
「恨み?その男に誰か殺されたのか」聞きにくい事をハッキリ聞けるのは佐々木の性格だった。
「…あー、なんスかね?どう云う関係だったか記憶がハッキリしないんスけどね。ある物凄く大切な人を殺されたんですよ、それだけは覚えてるんです」視線を地面に落とし、ショウは少し言い淀んだ。
「それにアイツがもしも、万が一にも奴がレベル64の域に達したら……」
「達したら?」
「一年経たずに日本人は居なくなるでしょうね、民族の絶滅です」
佐々木はその言葉に恐怖を超えた大きな怒りが湧くのを感じた。国民とこの国を護ると誓いを立てた誇り高き自衛官だ。彼の中で自分が殺される恐怖よりも国民を護れない事への怒りが勝った。
「ラジオアプリにな、防災専用チャンネルがある。それを使って日本中のキャストに呼び掛ける事ができるぞ、使えるだろう」佐々木がショウに提案する。
「ええ、ただ、パロミデスに挑むには最低レベル62は必要だと思われます。俺と同じレベル63のキャストとなると日本に数える程しか居ません。彼らが聴いててくれるといいんですけどね」
「ネクロス」
ショウにそう呼ばれたのは最近この基地に辿り着いた死霊騎士のブックキャスト、冥界魔槍ネクロス。身長2m、巨大な長五角形のタワーシールドを携え背中に奇妙な形の槍を背負い、青黒くグロテスクなレリーフが刻まれた全身鎧で身を固めている。鈍重だが高い防御力と攻撃力を併せ持つ。
「あい」見た目にそぐわない高い声でネクロスが応える。
「俺はこれからパロミデスが居ると思われる都心部に向かう、仲間を募りながらな」
「あい」
「ここを任せられるか?」
ショウはこの大男が本当は16歳の少年だと云う事を知っていた。最も本人は其れをもう忘れてしまっているのだが。
「メカニックも居るし、大丈夫、心配すんなし」ネクロスは軽い調子で答えた。
メカニックとはネクロスと一緒にこの習志野駐屯地に来た&ミスティ・カーンスと云う名の少女の事だった。機械技師の職能を持つ彼女は自衛隊基地内の装備品全ての整備から弾薬の製造まで一手に引き受ける凄腕として今やこの駐屯地に無くてはならない存在だった。又、其れだけで無く彼女は自衛隊の標準火器自体の性能アップも手掛けており、隊員の対モンスター戦闘力を飛躍的に底上げしていた。
「佐々木さん、ラジオ放送はここから出来るんですか?」
✣ ✣ ✣
翌日の午後三時少し前、隊員達がラジオ機材を調整しテストを繰り返していた。端末の向こうに小さくジリジリとノイズが走る。この時間にこの基地から臨時放送をする事は佐々木が前日の内に根回してあった。
「佐々木一佐、準備完了しました」樫井曹長が佐々木の執務室に報告に来た。
佐々木は《ギッ》と音を立てて椅子から立ち上がり、傍らのソファで横になっているショウの腕を軽く蹴った。
「行くぞ」
「放送一分前」緊急放送用に充てられた天幕の中に隊員の声が響く。
出番を待つ佐々木の額には脂汗が滲んでいた。
「臨時放送 77・1MHz、78・8MHz 準備ヨシ」
『こちらは日本国政府臨時放送です。こちらは日本国政府臨時放送です』隊員がマイクに向かって話し、佐々木に向かってハンドサインを出す。佐々木は《フゥ》と一つ息を吐いた。『こちら陸上自衛隊習志野駐屯地、第一空挺団の佐々木一佐です。本日は国民の中でブックキャストと呼ばれる皆さんにお願いがあり、放送しています』
《ン゙ンッ》と一つ喉を鳴らし佐々木が続ける。
『現在、国民の皆さんが御存知の通り我が国は未曾有の災害に遭遇しています。しかし我々自衛隊や各都道府県の警察関係各所も現在の状況に必死に対応しております。まずは重ねてのお願いになりますが兼ねてからのご案内通り、各避難所への速やかな避難をお願い致します』
そこまで言って佐々木はショウをチラリと見た。ショウは佐々木に軽く頷く。
『また、今回はブックキャストと呼ばれる皆さんにお願いがあります。まずは各避難所やそれぞれの場所でブックキャストの皆さんが現在我が国を蹂躙している有害敵性生物に命を懸けて対抗して下さっている事、誠に感謝いたします。日本国国民を守る立場である我々自衛隊の力及ばぬ処で国民をお守りくださり、感謝の念に耐えません』
『本来、一国民であるブックキャストの皆様にお願いする様な事ではありませんが、この未曾有の大災害にあたり、現在は非常時下であるとの判断の元、非常識ではありますがお願い致します』
其処まで言うと佐々木はショウにマイクを譲った。
『キャストのみんな、ブックキャストの八重山ショウだ』
『レベル63キャストの俺のことは知ってる人も多いだろ、今回の放送は俺から佐々木一佐に頼み込んでお願いしてる』ショウは淡々と続ける。
『各地でダーク・シーの魔物と戦っているみんな、お疲れさま。俺も今習志野駐屯地で戦ってる、これからも頑張ろう。それと戦ってないみんな、分かるよ、これは物語じゃないもんな。誰も責めやしない』
少し間を置いてショウが続ける。
『話はパロミデスの事だ、13巻で初登場する勇者だ。大抵のみんなは知ってるよな、ダーク・シーで世話になったよな』
ショウの口調はあくまで淡々と冷静さを失わない。
『Webやラジオで知ってると思うがアイツはトチ狂っちまった。人間でもキャストでも魔物でも見境無く殺しまくってる』
『アイツがレベル幾つでこっちに来たか分からないが、このままでは間違いなくマズイ。アイツが俺達キャストのレベルを超えたら日本は……嫌、人類全部殺すだろう』其処まで言ったショウが佐々木の方をチラリと見た。
『自衛隊や警察の特殊部隊の皆さんがパロミデスを倒そうとしているが、ハッキリ言ってもう無理だろう、死ぬだけだ』
ショウの言葉に佐々木は一瞬《カッ》となるのを感じる。然し実際そうなのだろう、佐々木はこの若者の力と知識を既に充分見てきていた。
『だからお願いだ、レベル60以上のキャスト、力を貸してくれ。俺はパロミデスを殺す。力を貸してくれ』ショウの言葉に熱が籠もるのを佐々木は感じていた。
其の時、佐々木とショウの背後から《ズゥン、ズゥン》と地面が振動する音がした。ショウが振り返ると、冥界魔槍ネクロスがすぐ後ろまで迫っている。ネクロスは《ドォオン!》と音を立てて巨大なタワーシールドを地面に突き刺すと
『言っとくけど、弱いやつはショウさんの邪魔すんなし!』マイクに向かって叫んだ。
「馬鹿野郎!」と佐々木がネクロスの胴を殴り付け、鋼の鎧が《ゴォん》と音を立てる。
『申し訳ない、今のはここを守ってるキャストの一人だ』慌ててショウが弁明した。
『だが、今のキャストもパロミデスとの戦いには連れて行かない、弱いからだ。みんなにも死んで欲しいとは思っていない。今のヤツの言い方は乱暴だったが、パロミデスとの戦いで死ぬ可能性があるキャストは引き続き自分の場所で自分の戦いを続けて欲しい』
『パロミデス戦は厳しい戦いになる可能性が高い、それでもやらなければこの国が、もしかしたら人類が終わる』ショウは何時の間にか必死だった。
『俺はこれから都心部に向かう、集合場所として魔物の出現が少ないと報告されている世田谷区の東松原で待機する積りだ』
慌てて天幕に飛び込んできた&ミスティ・カーンスと自衛隊員の何人かに抱えられて冥界魔槍ネクロスはズルズルと外に引き摺り出されて行った。
『来れるヤツだけでいい、誰にも強制は出来ない。もしもコレを聞いてて知り合いのキャストが行かないと言っても誰も責めないでくれ、誰もこの戦いを強制できない』
『でも頼む、お願いする、来れるヤツ、来てくれ。俺と組もう。人類存亡の危機に立ち向かおう!これは俺達のダーク・シーなんだ、俺達ブックキャストが、物語のケリを付けよう!』ショウの拳は《ギリギリ》と音を立てる程強く握られていた。
佐々木がそんなショウの肩を叩き、マイクを握った。
『以上が今回の臨時放送の要旨となります。ブックキャストの皆様、陸上自衛隊の佐々木よりも重ねてお願い致します。どうか我が日本国の危機をお救い下さい。一国民であるブックキャストの皆様にこの様なお願い、本末転倒である事は重々承知しております。その上で重ねてお願い致します。どうかお助け下さい』そう言って佐々木は隊員に合図を出し
『以上で日本国政府臨時放送を終了します』隊員がマイクに向かって放送を終了し、佐々木とショウは深く息を吐いた。
二人が天幕を出ると、何時の間にか傾いた陽の光が基地で働く隊員達を赤く照らしている。
「直きに夜になるな」佐々木が呟き、ショウは小さく頷いた。
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