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34 松本エスケープキャンプ
しおりを挟む松本エスケープキャンプはかなり大規模な避難所だった。
ししゃも・エンデバーの見た目のせいで入るのに一悶着あったが、連れている子供たちの存在に加えてキャンプを守っているブックキャストの一人が
「心配要らない、そいつは一応、人間だ」
と保証してくれたお陰で三人は無事にキャンプに迎え入れられた。
松本エスケープキャンプでは自衛隊駐屯地が近いことや、この周辺が比較的怪物や魔物の発生が少ない事から二千人以上がここで避難生活を営み、炊き出しや生活用品の配布など必要な物は一通り揃っているようだった。
「ダイキ、ユウキ、ここなら安心できそうだぞ」ししゃも・エンデバーはそう言いながら二人の頭を撫でる。
「おう、ここに居たか」
大きな声に振り向くと、先程キャンプに入るのを助けてくれたブックキャストの大男が立っていた。その男は身長190㎝、全身にゴリラの様に筋肉が付き、上半身は裸だがトライバルのタトゥーが満遍なく彫り込まれている。髪は左半分がそっくり無く、右半分は濡れたようなウェーブの黒髪の長髪で前髪の隙間から覗く右目の瞳が炎の様な揺らめきを放っている。下半身にはピッタリとしたオレンジ色のレギンスに白いレスリングシューズを履いていた。
「よく子供を守ってここまで来たな」男が言う。
「まあ、運が良かったぜ」
「しかし、キャストでもロボットになっちまってる奴には初めて会ったぞ」
ししゃも・エンデバーの機械の身体をマジマジと観察しながらその大男は言った。
「あんたは人間のままか、幸運だな」
「ああ、人間である事は最高だ」大男が笑う。
「ここは随分安全みたいだな」
周りの人々の安心した様子を見てししゃも・エンデバーが尋ねる。
ダイキとユウキも久々の沢山の人間に少々戸惑っているようだ。
「ここにはな、ブックキャストが20人近く居るんだ、自衛隊の部隊も駐屯してる」
大男が両腕を広げて言う。
「20人!凄いな」
それだけ居ればかなり強力な怪物、魔物でも倒せるだろう。
「三日位前にも一人、ブックキャストが来たしな」
連れ立って歩く四人の道の先に派手な服装の女性が立っていた。一目でキャストと分かる現実離れした露出度の高い派手な服装、傍らの連れと思しき薄汚い男と話し込んでいる。
「ああ、噂をすれば、彼女だ」大男がその女性に声を掛けた。
「おぉいアンタ!コイツらにここの案内してくれねぇかぁ」
声を掛けられた女性はこちらを振り向くと、一瞬〈ハッ〉と動きを止めた後、一目散に駆けてきた。
《タッタッタッ!》
「ししゃもぉ!」近づいて来た相手はそう呼んでししゃも・エンデバーに抱きついた。
走ってきたのはダーク・シーでししゃも・エンデバーと顔馴染の魔女のノルだった。
「えっ、ノルか!?」
「ししゃもっ!良かったぁ、生きてたんだね」ノルは目に涙を浮かべながら言う。
「ノルちゃん、知り合いかい」
側に立っていた薄汚い男が尋ねる。
「仲間なんだ、初めて仲間に会えたよぉ」
「ふむ、知り合いならあんたら同じテント使ってくれるか」二人の様子を見ていた大男が言う。
「女性一人だがロボットと子供だからいいだろ、頼むぜ」そう言って大男は去って行った。
「俺の事は眼中に無いみたいな」ノルの連れの薄汚い男、富田がそう言って苦笑いした。
「ししゃも、その子達は?」
ノルが子供たちに気付いた。ダイキとユウキは余りに露出過多な若い女性に恥ずかしがってししゃも・エンデバーの後ろに隠れていた。ししゃも・エンデバーは二人を引っ張り出すと
「お姉さんに挨拶しな、このお姉さんはノル、とっても強い魔女さんだぞ」と頭を撫でる。
「こ、こんにちは」とユウキ。
「…ども」兄のダイキの方が恥ずかしがっている様だ。
「こんにちは、私はノル、ししゃものお友達だよ」ノルが子供たちの目線の高さに合わせるように屈んで声を掛ける。
「それで、こっちは富田」
「富田さんはキャストの人?」ししゃも・エンデバーが尋ねる。
「俺は一般人よ、しかしアンタ、ロボットか、普通サイズも居るんだね」
「普通サイズ?」
「富田は前に機動要塞と会ったんだって」ノルが説明する。
「ノルちゃん、その人達は?」側のテントから出てきたのは富田の嫁、真由子だった。
「私の友達のししゃもとその友達」
「あらあら、よく無事で来たね、歓迎するよ」
真由子は髪を後ろにお団子に纏めて、上は白い大きめのスウェットに下はベージュのロングスカート、VANSの青いスリッポンを履いている。富田には勿体ない化粧っ気の無いさっぱりした美人だった。
「三人とも、お風呂には入った?」
「今来たとこみたい、これから案内しようと思って」ノルが答える。
「鉄平さん、お風呂に案内してあげたら?」
真由子の言葉にノルも同意し
「ついでに一緒に入ってきたら?富田、ちょっと匂うよ」と言った。
浴場への道すがら、ししゃも・エンデバーと富田はそれぞれの今までの話をしていた。
「アンタ鉄平って言うのか、渋いな」
「ノルちゃんは富田って呼ぶけどね、随分助けられたよ。振り回される事もあるけどね」と富田は苦笑いした。自衛隊の設営した浴場施設入口には『松本之湯』と手書きされた暖簾が掛けられ、銭湯の様な雰囲気が演出されている。それを見たししゃも・エンデバーが
「風呂は久しぶりだなぁ」と陽気に言うと
「大丈夫?」とユウキが心配そうにししゃも・エンデバーを覗き込んだ。
「えっ?何だ、大丈夫ってどう云う事だ?」
それを見ていた富田が
「この子はきっとお湯に浸かったらアンタが壊れるんじゃ無いかって心配してるんだと思うよ。何て言ったってアンタは機械だからね」と言う。
「ししゃもさん、お風呂に入った事あるの?」ダイキも不信感を表情に浮かべている。
「え、おい、風呂に入った事の無い人間が居るか?」
ちょっとムッとしたししゃも・エンデバーだが
「機械になってから、って事だよ」とダイキに言われ
「いや、そうか、うん、まあ、それは無いわ」と答えるしか無かった。そう言われれば機械になってからは風呂に入る必要を全く感じていなかった。表面を水拭きすれば気分的には充分に綺麗になった気でいた。
「あの~、さ、言いにくいんだけどさ」富田が遠慮がちに言う。
「何だ」
「あの~、もしもさ、万が一があるからさ、浴槽には入らない方が良いんじゃないかね」
ししゃも・エンデバーはダーク・シーで何度も水中に潜る事を経験している。海水に浸かっても壊れたりはしない事を伝えると
「そうじゃなくてさ、その、言いにくいんだけどね」
どうも富田はハッキリしない。
「何だよ、ハッキリ言ってみろよ」
「お湯にさ、油が浮いたりしたらどうにも具合が悪いと思うんだよね」
〈うぐっ〉ショックだった。確かに皆が使う浴場のお湯に機械油の油膜が虹色に光っていたりしたら誰だって気分が悪いだろう。自分の体に機械油は使われていないつもりだが、富田の言う通り万が一、と云う事もある。
「あ、ああ、分かってる、湯に浸かるつもりはねぇよ」
ししゃも・エンデバーはやっとそれだけ絞り出した。
「ふひひひひっ、何それ」
風呂から戻った四人を見てノルが吹き出した。
「何だ」ししゃも・エンデバーが問うと
「何で…それ、ふひひっ」とししゃも・エンデバーを指差して笑っている。ししゃも・エンデバーはタオルをターバン状に頭に巻いていた。
「やっぱ変だよねぇ、言えなかったけどさ」ダイキも言う。
「髪の毛無いよね?ロボットだよね」真由子も呆れて見ている。
「クソっ、何なんだ」ムッとしながらししゃも・エンデバーは自分の頭のタオルをむしり取った。
「でもお母さんもいつもそうしてたよ」ししゃも・エンデバーを庇うようにユウキが言った。
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