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35 東京へ
しおりを挟む『パロミデスは依然、都内各地にて殺戮の限りを尽くしております』
ラジオの緊急チャンネルでは毎日勇者パロミデスの事を報じていた。ノルとししゃも・エンデバーはここ数日、ある事を話し合っていた。
「村上さん」
ノルが松本エスケープキャンプに居るブックキャストの取りまとめ役の男に声を掛ける。彼のキャストネームは天帝村上斬鉄剣、レベル59の超能力者の初老の男で髪はグレーの長髪をセンター分けにしている。デニムのジャンパーの下に黒いスウェットを着て、下もデニムのダメージパンツを履いている。靴は黒い皮靴で手には同じく黒い革の指ぬきグローブを嵌めていた。
「パロミデスの事か」村上が察した様に切り出す。
「早く手を打たないと、もうどうしようも無くなるよ」ノルが答える。
「ノル君みたいな高レベルの人にはここに居て欲しいんだけどな…」
「このままパロミデスがレベルを上げ続けたら、ブックキャストでも倒せなくなる、そうなる前に何とかしないと。ラジオで八重山ショウって人が言ってたのは聞いたよね?」
ノルとししゃも・エンデバーは自分達がこの松本エスケープキャンプを出て八重山ショウと合流しパロミデスを倒す事を考えていた。ラジオでは自衛隊の攻撃部隊が何度も全滅させられた事、一緒に作戦に参加したブックキャストですら何人も殺害されている事を伝えていた。
「レベル40代、50代では太刀打ち出来なくなってる、彼はもうレベル60を超えているよ、きっと」
「私達で倒せる内に倒さないと、もう人類終わるよ」
「それだけはイカン!」村上が気色ばむ。
「しかし...ブックキャストを連れて行くのはここの安全がな…」
松本エスケープキャンプのブックキャストの一部には天帝村上斬鉄剣を中心とした妙な結束があり、ある種の派閥を形成している。そして彼らはある偏った考えの下に行動していた。
「なあ、ノル君、ここのブックキャストは君とししゃも君以外レベル60に到達していないんだ、正直俺達ではな」村上の言う事も一理ある。ノルにもユイを探す、と云う大切な目的があるがそれでも今パロミデスをこれ以上放って置くことは出来なかった。
「私達は行くよ」ノルはそう言い残して村上の元を立ち去った。
二日後、旅支度を整えたノルとししゃも・エンデバーは富田のテントに居た。
「ダイキとユウキは任せといて、ししゃも君」富田真由子がししゃも・エンデバーに言う。
「ああ、富田も頼むぜ」
ししゃも・エンデバーは富田の肩に手を置いた。
「紬もよろしくな」
この数日、富田の娘の紬はダイキとユウキの面倒をよく見てくれていた。紬は黙って握り拳を突き出し、ししゃも・エンデバーも腕を伸ばして拳を合わせた。ダイキとユウキの面倒を見てくれるだけでなく紬とは妙に気が合い話も弾み、二人はとても仲良くなっていた。
「ノルちゃん、本当に色々ありがとね」鼻声で富田が言う。
「こっちこそね、富田も気を付けるんだよ、守ってあげる私は居ないんだからね」
ノルの言葉を聞いて富田は《オウェエッ》と嗚咽しながら鼻水と涙を流した。
「ししゃもさん」
不安気なダイキとユウキがししゃも・エンデバーを見上げていた。
「ダイキ、俺はこれからパロミデスを殺す、意味は分かるな」
ダイキは拳を握りしめて答える。
「パパを殺した奴だよ、ししゃもさん」
「ああそうだな、でも心配するな、俺は強いしノルも強い」
「帰って来る?」ユウキが小さな声で聞く。
「例え体を失っても必ず戻る」ししゃも・エンデバーは二人の頭に手を置いて、そう強く言い切った。
キャンプのゲートの側にはマスケット銃を背負った若い女性が一人、旅立つ二人を待ち構えて居た。彼女は人目を憚るようにノルにそっと近付き
「一緒に行けなくてゴメン、ほんとに気を付けて」と手を握った。
「ダルタにゃん、ありがとね」
このキャンプに滞在中、唯一ノル達に気さくに話しかけてくれたブックキャストはダルタにゃんと云う名の彼女だけだった。
ダルタにゃんは正銃士レベル58、一緒に来てとはノルには言えない。パロミデスと対峙すればきっと彼女のレベルでは死んでしまうだろう。それに彼女はこのキャンプの妙な派閥ヒエラルキーに束縛されている様だった。
「ししゃも君も頑張って」
「アンタもな、ここは色々面倒だろう」
ししゃも・エンデバーが拳でダルタにゃんの左肩を小突いて言った。
「さあ、まずはラジオで呼びかけてた八重山ショウって人を探そっか」
ゲートを出たノルが《ピィイイイイッ》と馬笛を吹くと彼女の愛馬「メイドバイチップ」が《カカカカッ》と軽快な足音を立てて何処とも無く現れた。愛馬と言ってもそれは生身の肉体を持った馬でも無ければ、ペガサスやケルピーの様な幻想生物でも無く、生命を持った木挽き台の馬つまりは木馬だった。サラブレッドの様な馬に比べてずっと小さく、丁度中型の自動二輪程のサイズで太い二本の自然木の丸太で胴と首に当たる部分が構成されていて馬っぽく見える。お尻の部分には枝が数本伸びていて葉が幾つか残っているのがまるで尻尾の様だ。胴にはしっかりとした革製の鞍が付いていて手綱には金の金具が光っている。そしてこの馬が何より他の馬と違うのは人語を話す事だった。
「お呼びですかね」馬が喋った。
「来てくれて嬉しいよメイドバイチップ」
「そりゃあ呼ばれれば来ますよ、ここいらは見た事の無い場所ですがね」
「それに乗って行くのか」ししゃも・エンデバーは呻く様に露骨に嫌そうな声を出した。
「俺のチャレンジャーじゃダメ?」
「あの白い馬?遅いじゃん、この子の速さは知ってるでしょ」ノルは当然の様な顔をした。
この木挽き台の馬は最大速度時速250㎞を超えて走る事が可能な上に、自我を持った存在なので自律走行も出来る。一般的な馬の最大速度が時速70㎞程度であることに比べるとその速度は圧倒的だった。そして何より生身でないメイドバイチップは疲れると云う事が無く、永遠に走り続ける事が出来る。
「速すぎて怖いんだよ、そいつは…」乗り気じゃないししゃも・エンデバーに《フン》と鼻を鳴らし
「機械の旦那に乗って貰わなくてもワタシは一向に構いませんがね」
と木馬は機嫌を損ねた。
「まあ乗せてあげてよ」
愛馬のお尻を撫でながら頼むノルの言葉にメイドバイチップは《ブルルッ》と首を振ってから
「姐様がおっしゃるなら、どうぞ」
と後ろ脚を折り曲げ、乗りやすい姿勢を取った。
前にノルが、ノルの腰をしっかり掴んでししゃも・エンデバーがその後ろに跨るのを確認した木馬が
「それで、どちらまで?」と聞く。
「東京方面に向かって欲しいんだけど」ノルが言うと
「トウキョウ…聞いた事がないですけど…何でしょうね、何となく分かります、不思議だな」声がした瞬間に木馬は駆け出し、その脚に付けられた金色に煌めくチタン製の蹄鉄がアスファルトに火花を散らしてあっと云う間に二人と一頭の姿は消えていた。
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